取らぬ狸の? キン◯マ袋!(実話)
ハルトマンの改造を終え、2日をニーニャの休養に充てた。
すると、暇だからどこかに行きたいと、朝の食堂で当の本人が騒ぎ出している。
「なら、フロートヴィレッジ行くか?」
「行きたいっ!」
「いいねえ。なんでもヒヤマが買ってくれるんだろ」
「湖上の街なら、リゾート気分ですね」
「おや、フロートヴィレッジに行くのかい。金は払うから、魚を少し買ってきておくれ」
魚を買うなら、釣りをしてもいいかもしれない。海釣りしか経験はないが、何日か釣り糸を垂らせば、まったくのボウズって事もないだろう。
(死神、ちょっといいか?)
「運び屋から無線だ。リゾートはなしかもな」
「話の内容次第では、血と硝煙のリゾートですか」
(ああ。どうした?)
(航空機がシティーに接近中。偵察だと思われるが、可能なら撃墜したい)
(すぐに船で向かう)
立ち上がると、全員の視線が集中した。
「シティーに航空機が接近中。婆さんもシティーに避難だ。すぐに荷物をまとめて戸締まりを」
素早い動きで、全員が散った。
思わず動きを止めてしまったが、俺も部屋に戻る。
「ヒヤマ、この部屋はもう大丈夫です。私はお婆さんの荷物をあずかりに行きますから、ミツカと食堂にいてください」
そう言ってウイが走り去ったので、ミツカと食堂で待つ事にする。
「お兄ちゃん、船の準備を手伝って!」
「了解。ミツカは食堂でウイと婆さんを待て」
「わかった。気をつけて」
外に出て、船をロープで引き寄せる。
たーくんが固定した船に、ニーニャと乗り込んだ。
「ウサギロボットはどうした?」
「疲れたからって、休眠中。今は、ウイお姉ちゃんのアイテムボックスだよ。ニーニャは、エンジンをかけてくるねっ」
動けないたーくんの代わりに、操舵室の階段の前で護衛をする。
10分も待たずに、婆さん達が乗り込んできた。
「すぐに船を出すよ!」
「船首から、航空機を狙撃していいか?」
「好きにしな!」
「ウイ、運び屋に無線。俺に状況を伝えろと言ってくれ」
「了解」
船首に立ち、対物ライフルを出して待つ。
(今、見張り台の上だ。ルーデルもいる)
(航空機の方向は?)
(海だ。数十キロ先で旋回中)
(なら、撃ち落とすのは無理か)
(ルーデルと話してたんだが、俺達が沈めた揚陸艇を捜索してるのかも知れん)
となると、シティーの偵察は任務じゃない可能性もある。
(船で向かって、落とすか?)
(ちょっと待て。相談する)
怖いのは、船を沈められる事だ。
俺の対物ライフルが弾かれれば、この船はいい的だろう。
(待たせた。相手はレシプロっぽい小型機だが、船じゃただの的だ。ドックに入れて、死神は見張り台に来てほしい)
(了解。ジュモとシェパードは、ウイ達と合流しねえか? まとまってりゃ安心だろ)
(そりゃありがてえ。ルーデルにも伝える)
甲板はたーくんに任せ、キャビンに下りてタバコを吸う。
ニーニャは操舵室らしい。
(とりあえず、船はシティーのドックにと婆さんに伝えてくれ)
(わかったよー)
(戦闘には、ならなそうなのですか?)
(まだ、な。シティーに着いたら、ジュモとシェパードと一緒にいてくれるか? 俺達は、見張り台かジャスティスマンの部屋だ)
(わかりました。私達に出来る事があれば、いつでも言ってください)
初めて入るシティーのドックは、警備ロボットの修理室も兼ねているらしい。
ニーニャが手伝うらしいので、ジュモとシェパードを呼ぶようだ。
婆さんとぼーちゃんはカチューシャ商店に、俺は見張り台へ向かう。
運び屋のナビで、はじめて見る階段を上る。
しばらく上ると外へのドアがあり、そこからは鉄の非常階段だ。
「よう。来たな、死神」
「わざわざすまない、ヒヤマ」
「待たせた。こりゃ、見張り台じゃなくて、工場の屋根じゃねえか」
「テントも簡易トイレもある。時間になりゃメシも届くから、快適そのものだぜ」
対物ライフルを出して2人が体を向けている方向を見るが、雲1つすらない空しかなかった。
「引きあげたのか?」
「ああ。ついさっきな」
「方向は?」
「・・・海だ」
「最悪、相手は空母か」
「十中八九の間違いだろ。どれだけの艦載機があるかで、勝敗は決まるな」
対空砲があるならば、ここに配置してあるだろう。
俺の対物ライフルだけで、どれほどの飛行機を落とせるのだろうか。
「ヒヤマ。偵察機が来たら、どうにか敵パイロットだけ撃ち殺せないか?」
「眼球を撃ち抜く自信はある。ただ、防弾ガラスを貫通できるかどうかだ」
「大丈夫だとは思う。12ミリも貫通した。俺はジャスティスマンと無線で話す。航空機を手に入れたいが、それがシティーに突っ込んでくる可能性もあるからな」
「ニーニャに、修理可能か聞くか?」
「必要ない。飛行機の修理や整備なら、本職だからな」
ホントに飛行機乗りだったのか。
低い笑い声が聞こえる。運び屋も、同じ事を考えていたようだ。
「死神。複座なら、後席にはおまえが乗れよ?」
「俺を殺す気かって。とても付き合いきれねえっての」
「おいおい、人を疫病神みたいに言うな。それに、ヒヤマは航法なんて知らないだろ。ジュモに乗ってもらうさ」
灰皿とアイスコーヒーを3つ出して、運び屋とルーデルに放る。
「なんだ、ビールじゃねえのか」
「見張り中はマズイだろ。3交代にして寝るなら、酒を出すぞ」
「それもいいな。長丁場になりそうだ」
「8時間交代か。時間があまらないか?」
「たしかにそうか。なら、誰かが8時間寝たら起こして、次の誰かが寝るのはどうだ?」
「常時2人の見張りか。それでいいんじゃないか?」
それではとアイテムボックスから酒を出すと、運び屋が嬉しそうに選びはじめる。
酒の量と、ツマミの量が吊り合っていない。根っからの飲兵衛のようだ。
「ジャスティスマンの返事は?」
「落とす前に伝えればいいとの事だ。ブロックごとに、シェルターへの道を整備したらしい」
「スラム街に落ちなきゃいいが・・・」
「避難を呼びかけはしたんだそうだが、逃げた人間は少ないらしい」
「おい、死神。あれは、おまえんトコのロボットだろ?」
振り返ると、たーくんがこちらに歩いてきた。
「どした、たーくん?」
「ロボットの修理を終え、女性陣は合流してニーニャの家に到着したので、ラジオを流しに来ました」
「おお。喋れたのか、おまえ」
「あ、はい。最近、喋れるようになりました」
言ったたーくんがラジオを流す。今日は、ジャズっぽい曲だ。
「いいな。酒が進むぜ」
「夏空の下でジャズって、なんか不思議な感じだな」
「そうか? ニューオリンズっぽくていいじゃねえか」
「海外か。行ってみたかったなあ・・・」
「日本が1番だぞ?」
「そんなもんかね」
「そうさ。国はともかく、風土は愛していた」
「顔の感じが似ていると思ってたが、同郷なのか?」
「ああ。時代もそんなに離れてねえはずだ。お互いに、聞きはしねえがよ」
たしかに、聞かれても話されても、迷惑だとしか思わないだろう。
こちらに来た、その理由もだ。
「そういや、あのハルトマンはどうした?」
「完成したよ。俺は満足してる」
「へえ。顔とか取り付けてねえだろうな?」
「・・・黙秘する」
運び屋が、呆れたとでも言いそうな目で、俺を見ている。
「異世界にまで来て、何をやってんだっての」
「ほっとけ。弾がありゃ、ハルトマン用のスナイパーライフルも作れるんだがなあ」
「砲弾か。ありゃ銃弾と違って、アイテムボックスの容量を圧迫すっからな。ちょっと待ってろ。相棒に聞いてみる」
「まさか、無限アイテムボックスか?」
「まあな。あるってよ。ニーニャ嬢ちゃんに、作業場に案内をしてくれと伝えてくれ」
「わかった。すぐ伝える」
これは、勝ち目が出てきたか。
艦載機が空から押し寄せても、それを落とせる武器さえあれば、地上には運び屋とルーデルがいる。
狙撃で落とした航空機が使えるなら、さらに勝率は上がるだろう。
(こちらヒヤマ。ニーニャ、シェパードがアイテムボックスに砲弾を持ってるそうだ。広い場所でそれを確認して、ハルトマン用のスナイパーライフルに使えるか見てくれねえか?)
(わんちゃん凄い! すぐに確認するっ!)
「すぐに案内するってよ。数はどのくらいあるんだ?」
「1000はあるらしいぞ。よくもまあ、使うあてのねえ砲弾をそんなに持ってたもんだよな」
「有り金を渡す。足りねえ分はローンだ。譲ってくれ」
胡座のまま、手をついて頭を下げる。深々と、気持ちを込めてだ。
「そうだなあ。条件次第だ。まず、俺の前でキスはやめてくれ」
「気をつける!」
「気をつけろってんじゃねえ。すんなっつってんだ」
「わ、わかった」
「なんで不満そうなんだよ。それと、俺が老いぼれてブロックタウンで本屋をやる時、相棒をもらってくれ。パーティーに入れて、ウイ嬢ちゃん達と分け隔てなく接するんだ。出来るか?」
「俺は嬉しいが、運び屋も相棒も寂しいんじゃねえか?」
「大丈夫だっての。後家の姉ちゃんとも、仲良くなったしな」
まさか、武器屋の姐さんか。
「巨乳の店主か?」
「おう。なかなかの女だぜ。戦う男の扱いを心得てる」
「美人だしなあ。じゃ、それと有り金でいいか?」
「金はいらねえ。本屋に商品を持ち込んでくれりゃいいさ」
「それじゃ申し訳ねえって」
「金は腐るほどあるんだっての。いいからそれで納得しとけ」
「そうだぞ。ヒヤマはもう少し、人に甘える事を覚えるべきだ。信用していい人間は、嗅ぎ分けられるだろ?」
「そりゃそうだけどよ・・・」
昔から、他人に甘えるのは苦手だった。
欲しい物は、自分が損をして手に入れる。それが習い性となっているのだ。
「わかった。ありがとう」
「おう。気にすんな」
「お義父さんとでも呼ぶか?」
「テメエ、散弾を顔にぶち込むぞ! 見ろ、この鳥肌!」
毛だらけの汚い腕から視線を逸らすと、弾んだ声のニーニャから報告が来た。
「出来たってよ、スナイパーライフル。全員でここ来るらしい」
「早えな。これで、艦載機の脅威は減るか。ルーデル、偵察機は落とすとして、爆撃機や戦闘機はいらねえのか?」
「そりゃ、あれば使い分けが効くが、無理にとは言わんよ」
「ハルトマンで撃つ前に、生身で撃つよ。ブロックタウンの農地にでもハンガー建てて、滑走路は道を使えばいい」
「職業持ち9人に、装甲車とバギー。バイクが2台。それにハルトマンか。もう軍事基地じゃねえか、ブロックタウン」