新スキル
ゾンビドックとゾンビキャットを倒した時点でのレベルは4。その後のゾンビの集団を倒したらレベル7。どれだけ倒したのか数はわからない。ただ、新規スキルを2つも取得できるのは大歓迎だ。
「缶詰温めました、なのですー」
「ありがとう。じゃ、食べよっか」
窓にシャッターが下りた薄暗い部屋。僕とウイは靴のままソファーに座り、キッチンで見つけた昼食を食べはじめた。
すべて缶詰。コンソメ野菜スープ。牛肉と豆の煮込み。ソーセージの盛り合わせ。ミートパイ。ロールパン。お皿に分けられたそれらの湯気が食欲をそそる。
「本格的な探索は明日でいい?」
「そうしましょうなのです。1部屋ずつ漁るなら、かなり時間もかかるです。せっかく施錠可能なきれいな部屋を発見したのですから、今日くらいはゆっくり休むです」
「骸骨のない部屋は嬉しいよねえ。缶詰もいっぱいあったし。おお、このソーセージうまっ。パリッていったよ。パンもフワッフワ」
「ベッドとお風呂も嬉しいのです。滅菌ドームが展開されたままで、電源が死んでるのに効果は持続中。ドームは手動で畳めましたし、水は無限水筒で溜めるのです。お湯を沸かせないのが、唯一の不満なのです」
「まだ夏だから、水風呂でいいじゃん。2人で浸かったら、すぐぬるくなるよ。むふっ」
「エロ猿が発情すんじゃねえのです。まあ、ウイだけじゃ水が冷たいので、仕方なく一緒に入ってやるです」
「ごちそうさまでしたっ。スキルも決めないとなあ。ゾンビの群れが迫ってきた時は、スキルポイント使ってないの本気で後悔したよ」
「ごちそうさまでしたなのです。ウイは3ポイントで【遺跡発見】を取って、【罠解除】のツリーを3段階上げて【簡易罠の視覚化】まで取るです」
「僕は攻撃寄りかなあ。なんか取って欲しいスキルない?」
考えるウイを見ながら、食後の一服を楽しむ。灰皿は準備してある。この部屋の元住人も愛煙家だったようで、僕のアイテムボックスには未開封のタバコが5カートンも入れてある。
「うーん。生存率を上げるスキルを推奨したいところではあるですが、【スプリットブレット】のツリーを伸ばせば、最上スキルまであと2つなのです」
【ファーストヒット】の1番上ってなんだっけ。網膜ディスプレイにスキルツリーを表示させる。
「【ワンマガジンタイムストップ】!?」
「ワンマガジン撃ち切るまでか1分経過するまで、時間を止めるスキルなのです。最上スキルはほとんどがぶっ壊れ性能なので、早めの取得が望ましいのです」
「壊れすぎでしょ・・・」
「そうでもないのです。3段階目からは地味なスキルが多くなるですから、2段階目までを多く取って戦闘の手数や行動の選択肢を増やす人がほとんどらしいのです」
「ちょっと待って。僕達みたいな人間が、他にもいるっての?」
「たまに違う世界の祈りを拾って、こちらに招いてるそうなのですよ。数は少ないし、地域も離してあるから心配はいらないのです。それに、クズはこちらに売るほどいるから、善人しか招かれてないのです」
「なら安心かなあ。よし、6ポイント振った」
【ファーストヒット】→【スプリットブレット】→【マガジン弾数1アップ】→【マガジンリロード高速化】→【マガジン弾数表示】→【対応弾薬マガジン自動装填】→【パラライズマガジン】→【チェインヒット】。
「【パラライズマガジン】と【チェインヒット】は助かるなあ」
「1発10パーセントの確率で敵を麻痺と、単体に連続ヒットでダメージ上昇。どちらもワンマガジンのみの効果でリキャストタイムも10分と長めですが、かなり使えるスキルなのです」
「銃声に反応するクリーチャーはもう残ってないなら、出番はこのマンションを出た後かな」
「油断はできませんなのです。コーヒーでもどうですか?」
「僕はこれ。いただきまーす」
缶ビールのプルタブを開けると、プシュっといい音がして泡がこぼれた。ビールやウイスキーもたっぷりアイテムボックスに入れてある。安全な場所でなら、いい気晴らしになると思う。
「今日は酔っ払って誰に乗っかるつもりか言ってみやがれです」
「一目惚れした初恋の女の子。今じゃ僕の大切な彼女だよ。ほら、ウイも飲んでみなよ?」
ちょっと迷ったウイが缶ビールに口をつけたのを見て、アイテムボックスから新しいビールを何本か出してテーブルに置いた。
「ぬるくて苦いのです・・・」
「それは仕方ないよ。僕は酔っ払って昼寝するつもりだから、良かったら付き合って」
「なら飲んでやるから、ありがたく思いやがれなのです」
グイッとビールを飲んだウイが、顔を赤くして僕にすり寄って来た。酔うの早くない?
負けてはいられないと、僕も1本目を飲み干す。ウイはビールを飲んでは、僕のはだけている戦闘服の胸に顔をうずめて、クンクン匂いを嗅いでいる。犬か君は。
「マスターの匂いなのです・・・」
「やめなよ。汗臭いでしょ」
「それがいいのです。キュンキュンするです」
これはもう完全に酔っ払ってる。弱すぎでしょ。でもラッキー。
「もうちょっとしたら、お風呂に入ろうね」
「マスターはウイが全部洗うのですっ」
「はいはい。僕もウイを洗うよ」
「全部ですかっ」
「そう全部。隅から隅まで。でもまだ痛かったら、無理はしないでね」
「傷の治りが早くなってるので平気なのですっ」
「そうなの? なんだ、遠慮して損した」
抱きしめて、長いキスをする。ウイはまだ恥ずかしいのか、舌の動きがぎこちない。
「今日は、たくさんキスしようね?」
「勝手にしやがれなのです」
「いろんなとこにするからね?」
「わざわざ言うななのですっ」
「ウイがかわいすぎるからだよ」
「またそんな、あっ。んっ・・・」
網膜ディスプレイの時計は、朝の6時と表示されている。
あれからイチャイチャしてビールを飲んで水風呂に入り、昼寝と称したお楽しみを夜まで続けた。晩ご飯の時も僕はビールを飲んで、その後は酔っ払った勢いでいろいろ楽しんだ。
しかし妊娠はウイが任意で選択できるからといって、あんなに頑張るか僕は。
「ん。おはようなのです、マスター」
「おはよう、ウイ。今日もよろしくね」
挨拶の後、裸のままのウイにキスをする。
ウイは寝ぼけているのか、そのまま僕に抱きついてきた。身長差があるので、唇が僕の胸に当たる。
ナニかに気づいたウイが僕から離れた。
「昨日あんなにしたのに、まだおっ立てやがるですか」
「てへっ。元気になっちゃった」
せっかくだからウイを抱き寄せてキスをする。なし崩しにはじめてしまおうと細い首に唇を落とすと、コメカミに硬い物が当てられる感触がした。
「頭をぶち抜かれるか、夜まで我慢するか。3秒以内に選びやがれなのです、変態マスター」
「我慢します。はい」
「ウイは先にお風呂を使うです。マスターはこの部屋の欲しい物を、アイテムボックスに入れておくです」
「了解ー。いってらっしゃい」
「覗いたら股間に鉛の弾をくれてやるです」
「へいへい」
僕もお風呂は使いたい。下着が汚れるのは嫌なので、全裸のまま細々とした物を探す。
タンスを開けると、背広が何着も入っていた。とりあえず回収する。お、未開封の下着発見。やっぱり男の1人暮らしだったのかな。結構な数の買い置きだ。遠慮なくいただく。
机の中には、英語に似た文字の書類。白い死神の知識なのか、僕にも読める。うわ、養育費の請求書じゃないか。こんなのいらないって、縁起の悪い。
こ、これは・・・
すごく進んだ文明なのにエロ本!
よし、まだウイはお風呂だ。素早く回収。イェーイ!
「お風呂が空いたのです」
「お、おかえり。新品の下着も見つけたし、行ってくるよ」
元から全裸なので、お風呂場に直行する。この浴槽を使うのもこれで最後だ。そのまま浴槽に入って、念入りに手で汚れを落とす。カピカピになったものが落ちると、なんとなく寂しい気がした。
タオルで体を拭いて、アイテムボックスからギリースーツを出す。足元にだ。勝手に服を着せられるあの感覚は、どうにも好きになれない。
下着だけをアイテムボックスに戻して、服を着ていく。軍用ブーツの紐を結んだら、次は銃だ。
拳銃、サブマシンガン、ショットガンを弾と安全装置の確認をしてから装備する。
「ウイー、準備終わったよ」
「朝食の準備もちょうど終わったのです」
「おお。美味しそうだね。オープンサンドって言うんだっけ、これ」
「たぶんそうなのです。野菜の缶詰がなかったので、それだけは不満なのです」
「コーヒーもいい匂い。いただこうか」
香ばしく焼き上げたスパム、マヨネーズで和えたコンビーフ、辛めのチリビーンズが切れ目に盛られたロールパン。
「いただきます」
「召し上がれなのです」
まずはスパム。うんまーい。コーヒーで舌を洗って、また1口。焦げ目のつけ具合が僕の好みにピッタリだ。それを告げると、ウイは花がほころぶように微笑んでくれた。
あっという間に、僕達は朝食を平らげた。
「ごちそうさまでした。美味しかったあ」
「お粗末さまでしたなのです。量は足りますか? 足りなかったらまだあるのです」
「大丈夫。そんなに食べる方じゃないからね。それより、今日から他の部屋を漁るの?」
「もちろんなのです。食料は2人で食べるし、金目の物は町で換金して銃弾を買うです」
「町があって、銃弾まで売ってるんだね。お金を貯めたら、拠点が欲しいねえ」
「この部屋だけで硬貨100枚あったので、マンションすべて回ればそれくらいは買えるかもしれないのです」
「硬貨?」
「前文明はアイテムボックスが普及していたので、単一硬貨を使っていたのです。今の人類は貨幣なんて生み出せないので、それを流用しているのです」
「今の人類にアイテムボックスはないの?」
「あるのは神に愛されている者のみなのです。そんな奴がいたら、とりあえずにこやかに接するのです」
打算的だなあ。それにしても、物価はどうなっているんだろ。
「銃弾は誰かが作ってるのかな?」
「スキル持ちがいれば可能なのです。それに、数は少ないけど町から町へ渡る商人や、遺跡を漁るハンターもいるにはいるのです。たいていすぐに死んじゃうのですが、そんな奴が持ち込む物もあるはずなのです」
「なるほどねえ。ならここの探索が終わったら、町を探しに出ようか。買い物もしたいし、町の雰囲気がいいなら拠点を確保したいね」
「では行きましょうなのです」