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高級マンション訪問




 朝食のステーキを食べた僕達は、崩れかけたビルの探索を決行する事にした。

 昨日見張った限りでは何者も出入りしていないし、この世界で生きるなら危険はどこにでも潜んでいる。銃で倒せない相手がいたら、全力で逃げる予定だ。


「瓦礫が凄いね」

「高層ビルが崩れたみたいですね。浮気男のナニのようにぽっきりなのです」


 これは、浮気したら折るぞって事なのかな。こんなかわいい彼女がいて、浮気なんてするわけないじゃん。


「マーカーはないけど、準備だけはしとこっか」

「了解なのです」


 抜いたサブマシンガンを右肩近くに立てて、瓦礫の間を縫うように進む。


「入口発見。自動ドアのガラスは粉々なのです」

「マーカーもない。1階は安全って事かな」

「そのようですね。では、踏み込むのです」


 砂利みたいになったガラスが、軍用ブーツに踏まれて鳴る。本当に、人の出入りはないみたいだ。僕達が踏んだガラスと、同じ大きさのものはほとんどない。

 郵便受け。枯れた鉢植え。管理人室だろうか、小部屋のガラスは割れていない。正面にエレベーターが2つ。


「まずは管理人室からなのです。むっ。施錠されてるのです」

「スキルがあるんだよね?」

「【鍵開け】の出番なのです。たらららったたーん、『開錠ピック』ー!」


 突っ込んだ方がいいのかな。いや、やめとこう。


「ちょっと待ってなお嬢さん、なのです」


 そう言うとウイは、3本のピックを器用に使って鍵穴を弄りだした。

 スキルのない僕にできるのは、せいぜい周囲の監視くらいのものだ。サブマシンガンを片手に、あちらこちらに視線を走らせる。

 パッパラー!


「うひゃあっ!」

「なんて声を出すですか、マスター。開錠完了、ついでにレベルアップなのです」


 ビックリした。本当にビックリしたんだって。


「なんでレベルアップ?」

「【鍵開け】や【罠解除】でも経験値は入るのです。そして、手強い鍵や罠は経験値も良いのです。それより、中も期待できます。30も経験値が入る鍵なら、貴重品があるはずなのです」

「じゃあ、銃を構えて。よし、開けるよ。3、2、1」


 姿勢を低くして、ドアを押し開けた。すぐに手を引っ込める。


「【罠感知】発動。・・・問題ないのです」

「リキャストタイムは?」

「3分なのです」

「なら大丈夫だね。行こう」


 小部屋に入ると、ガラスの内側が机になっていた。椅子もある。ただ、骸骨もあるのはいただけない。どこの幽霊屋敷ですか。


「おおっ。32口径ゲットなのです。マスター、さっそくホルスターごと装備するですよ」


 嬉しそうに言うけど、配置的にこれで頭を撃ち抜いたんじゃないのこの人。ラッチを押してシリンダーを出す。ほら、一発だけ叩かれた痕がある。でも、使える武器は使わないとね。


「ウイは使わないの?」

「無限弾薬の銃があるのに、そんなの使う訳がねえです」

「はっきりと言うねえ。じゃあ、僕が貰うよ。ん。鍵束がある」

「この金属ロッカーの鍵かもなのです」


 言い切らないうちに鍵束をひったくられた。いいけどね。

 ウイがロッカーに合う鍵を探しているので、僕はホルスターを身につけて銃を点検した。白い死神の知識は本当にありがたい。これとウイがいなければ僕は、異世界初日にネズミに食べられてゲームオーバーだったかも。

 銃をいったん机に置いて、骸骨に手を合わせてから警備員っぽい服のポケットを漁る。すぐに、骨が崩れた。ごめんなさい、でもこれも生きるためなんです。

 出てきたのは、封を切ってないタバコの箱とライターだけだった。残念ながら、銃弾はないらしい。


「マスター、合いそうな鍵は発見したけど、レベル上げに解錠したいのです」

「うん。それがいいと思うよ」

「ではお待ちくださいなのです」


 椅子を動かして勧めたけど、高さが合わなくて返された。入り口を塞ぐ場所にそれを運んで座る。

 サブマシンガンはホルスターに戻して、リボルバーを片手にタバコをくわえる。ガスにしろオイルにしろ、ライターは使えないだろう。そんな気でヤスリを回したら、1発で着火した。なんでと思う前に、タバコに火をつけて吸い込む。丸1日ぶりのタバコ、美味しくないはずがない。タバコとライターを、大事に胸ポケットに入れた。

 それにしても、何年前のタバコかわからないけど普通に吸えるのは凄い。日本のタバコなら、何年かしたら乾燥しきって吸えないはずなのに。


「むっ。いい機会だから禁煙させようと思ってたのに、なにしてやがるですか」

「精神安定剤だよ。気にしないで」

「まったく。お、ビンゴ。開いたのですよー」

「お疲れ様。おっ、経験値30。あと10でレベル来るね。そしたらスキルポイント3だから、新規スキルも取れる」

「そしてお宝とご対面なのです!」

「どれどれ。おわっ、ショットガンだ。弾もある?」

「あるです。マスター、このロッカーの中の物をすべてアイテムボックスに収納と念じるのです」


 言われた通りにして、アイテムボックスの一覧を開く。

 『警備用ライアットガン』。『32口径拳銃』。散弾50発。拳銃弾120発。


「凄いね。ホントにお宝だ。ショットガンはウイが使って」

「いらねえのですよ?」

「白い死神の知識だと、ショットガンは出会い頭に強みがあるんだって。ウイは先頭を歩きたがるから使ってよ」

「ウイのアサルトライフルは、ハンドガードにショットガンかグレネードを装着できるのですよ。もちろん、弾も無限なのです。えっへん」


 開いた口が塞がらない。この世界の神様はウイに優しすぎる。言っときますけど、ウイは渡しませんよ神様!


「じゃあ、拳銃だけでも持っておいてよ。役に立つ場面があるかもしれない。それに、僕とおそろいだし」


 机に拳銃と拳銃弾60発を置くと、嬉しそうに装備してくれた。僕も狙撃銃をアイテムボックスに入れ、ショットガンに弾を装填して背負う。ズボンのポケットがふくらまないくらいに、弾を入れる。右が拳銃弾、左が散弾だ。


「じゃあ、2階に向かおうか」

「今度は食べ物に期待なのです」


 警備員室を出て非常階段を探すと、それはすぐに見つかった。ショットガンを構えながら、慎重に階段を昇る。


「マーカー、赤3つ。僕が先行する。先に敵を片付けよう」

「赤という事は、聴覚か嗅覚がハンパない相手なのです」


 小声のウイに、頷きを返した。僕の彼女だ。守ってみせる。

 そっと扉を少しだけ開けて、中を覗く。高級感はあるけど、普通のマンションに見える。廊下の左右に部屋のドア。敵は見えない。

 30秒ほど様子を見て、廊下に出た。素早く見えていなかった左を確認。壁だ。つまり、敵は右方向にいる。あれか。1部屋だけ、扉が開いたまま固定されていた。

 頷き合い、そのドアに向かう。歩くたびに、赤いマーカーも動く。間違いない、敵はあの部屋だ。

 どんなクリーチャーが来てもショットガンをいつでも打てるように、心の準備をする。

 部屋まで、10歩。マーカーの1つが、弾かれたように動いた。来る!

 ドアから飛び出したクリーチャーが、4本足を踏みしめて僕を睨んだ。発砲。ぶっ飛んだクリーチャーのHPは0。ポンプを引いて次弾を装填する。死体の上には、ゾンビドックとある。


「2体来る。先が僕。次任せた!」

「はいです!」


 僕は廊下の右に寄る。ウイは少し後ろの左だ。

 影が飛び出した瞬間、ためらわずに撃つ。さっきのより小さいゾンビドック。やはり1発でHPがなくなった。

 パッパラー。お、レベル来たや。

 次のクリーチャーは猫だった。ゾンビキャット。アサルトライフルの連射を受けてあっさりと息絶える。


「お疲れ様。意外と余裕だったね」

「そうですね。それより、この部屋から探索しましょうなのです」

「クリーチャーもアイテムボックスに収納?」

「いいえ。ゾンビ系は食用じゃないのです。【罠感知】発動。・・・おーけー。罠はないのです」

「待って。なんか来た。戦闘準備!」

「はいですっ!」


 急いでショットガンに弾を補充する。8発。これで足りないなら、サブマシンガンを使うしかない。

 階段に、赤いマーカーが蠢く。数を数えるのも馬鹿らしいくらいだ。

 バリケードでも作れないか。

 急いで空いている部屋に入り、何かないか探す。ダイニングテーブル。まずはこれだ。引きずり出して、盾になるように廊下に転がす。

 もっとないか。なんでもいい。少しでも時間が稼げれば、それだけ有利に戦える。


「階段のドアが開くですっ!」

「発砲準備っ!」


 ドアが開けば、廊下がクリーチャーで埋まるまで一瞬だった。ゾンビ。その名前が無数に溢れる。


「撃てっ!」


 僕がショットガンを撃った瞬間、ウイのアサルトライフルから煙の尾を引いて、何かがゾンビの集団に発射された。


「伏せるですっ!」


 とっさにテーブルの陰に飛び込む。ウイがテーブルを押さえている。それに加わったと同時に、爆発音が響いてテーブルが押された。押さえ込む。焦げ臭い。思いながら立った。

 まだゾンビは残っている。


「【ファーストヒット】ッ!」


 ショットガンを撃つ。7まで数えて、ショットガンを捨てる。サブマシンガン。スキルポイントを使っていない事を後悔した。


「【スプリットブレット】」


 心の中で落ち着けと自分に言い聞かせながら、祈るような気持ちでトリガーを引いた。フルオート。跳ね上がる銃を捻じ伏せる。ワンマガジン、撃ち切った。あっという間だ。


「リロード」

「はいです!」


 アサルトライフルを連射するウイが、叫ぶように返事をした。

 空のマガジンを捨て、腰の後ろのホルスターに付いているマガジン入れから新しいマガジンを出す。叩き込む。コッキング。


「替わるよっ」


 ゾンビの残りはもう少ない。セミオートで正確に頭部を狙う。


「ようやく終わるですか」

「レベルアップの音を聞き飽きるとか、序盤の展開じゃないよねえ」

「ゾンビは実入りがないのに、派手に銃弾を消費したです。レベルくらい来ないと、やってらんねえのです」


 話しながらも射撃はやめず、最後の1体を倒し終わった。


「疲れたねえ」

「とりあえず、きれいな部屋を探すのです。休むのはそれからなのです」


 ぐったりした気持ちで、鍵のかかってない部屋を探しに向かった。




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