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バイクでエスカレーターを下りてはいけません




 鷲が泣いている。

 こんな不思議な話もないだろう。


(生きねば、ならぬか・・・)

「こんな世界で、こんな商売してんだ。この先、俺に何があるかわからん。ニーニャが辛くて辛くて仕方ない時、アンタがいてくれたらなとは思う」

(簡単にくたばりそうな顔はしておらぬ。まあ、我も後100年ほどなら、耐えられるかな)

「そばにいて、死にたくねえと思えばいいさ」

(何かあれば駆けつけるが、共に行動したりはせぬよ)

「そうか。良い教師になってくれると、期待したんだがな」

(それをするには、もう老いすぎた。我は行く。ローザを頼む。さらば)


 割れたガラス窓から、鷲は飛び立った。

 鷲はいつも、1羽で飛ぶんだ。そう教えてくれた父さんを、少しだけ思い出した。


「視界にマーカーありません。安全になりましたが、ものすごい数の遺品ですね」


 鷲に言われて止めたレコーダーを、再生してみる。

 さっき聞こえた笑い声の後に、咳き込む音が入っていた。


「ゴホッ。ハァイ、見た事もない誰かさん。アタシが死んだら、ここにアイテムボックスの中身がぶち撒けられると思う。食べ物はうちの子達が食べちゃうと思うけど、武器や防具は好きにしていいわ。ただ、バイクと強化外骨格パワードスーツは、出来たら大事にして欲しい。うちの子達に認められたあなたなら、いつか使えるようになるでしょ。重装装備スキルの1段目から装備可能な、パワードスーツもあるからね。ローザより、見た事もない誰かさんへ。さよなら・・・」


 最後の力で録音して、それを騎士達が守っていたらしい。

 埋葬して墓を建てようと思ったが、死体も遺骨も見当たらない。

 鷲が持っているのだろうか。

 錆の浮いた強化外骨格パワードスーツは何も言わず、疲れ果てた兵士のように、片膝を立てて俯いている。


「重装スキル、全員で取るか」

「1段階目があれば装備可能なパワードスーツが、5つもありますものね」

「武器は近接兵器ばかりか?」

「ええ。地雷や手榴弾はありますが、純粋な飛び道具はありませんね」


 【重装防具装備】を取得すると、パワードスーツのアイテム名が見えた。『T型パワードスーツ』アイテム名が見えるそれをアイテムボックスに収納して、装備するイメージで取り出す。


「意外と動きやすいな」

「声が聞こえづらいです」

「おお。ヘルメットを取るよ。これでダメージ30パーセントカットなら、いつも装備してた方が良さそうだ。ニーニャは無理か?」

「ううん。サイズは自動調節だよ。それよりお兄ちゃん、防具修理スキルの最上スキルまで取っていい? このままじゃ、パワードスーツちゃんがかわいそう」

「いいぞ。ただ、重装スキルも取るんだぞ」

「はぁい」

「私も重装スキルと【衛星無線】を取りますね」

「あたしは重装と、【轢殺ライダー】を最上スキルまでだ」


 どうやら、パーティーでスキルポイントの大量消費タイムらしい。

 少し動いてみるが、音もなく滑らかに動く。重さなどほとんど感じず、逆にほんの少しだけ動きやすくなっている気がするほどだ。


「腕力、体力、敏捷力に補正まであんのかよ」

「5ずつだけでも、ありがたいですね」

「よっし、最上スキル取ったよー! えいっ、【防具マイスターの誠心】!」


 もはやお馴染みのスキルの光が収まると、強化外骨格パワードスーツは新品同然に見えた。俺が装備したパワードスーツが中世騎士の全身鎧なら、それはもう未来の重機かロボットにしか見えない。


「凄いもんだな。いつか使えるんだろうか」

「それまでには、隙間なく装甲を張っておくね。それより、今のパワードスーツの色はどうするの?」

「銀のままでいいんじゃねえか。ルーデルもそうだし、変に塗装して戦争相手に同じ色のパワードスーツがいたら、誤射されるぞ」

「えーっ。ピンクに塗っちゃダメ?」


 ピンクって、目立つなんてもんじゃねえぞ。


「あたしは赤がいいな」

「私は白ですかねえ」

「マジかよ。オシャレ要素のあるパワードスーツとか、意味なくね?」

「意味はありますよ。いつも着る制服みたいなものなんですから、かわいい方がいいに決まってます」


 しまった!

 いつもパワードスーツだと、パンツが見えないじゃないか・・・


「破棄すっか!」

「冗談でもやめてください。身の安全を犠牲に、サービスなんてしてられませんよ」

「ちっ。とっととアイテム集めて、下まで回収して歩くぞ」


 子供かと言われながら、バイクに乗ってタンクを撫でる。

 今日からよろしく、ローザ。

 初乗りだ。セルスイッチもあるが、キックでエンジンを始動する。日本の時から続けている、儀式のようなものだ。


「わあっ、1発始動。ローザちゃんも喜んでるねー!」

「そうなら嬉しいな。ニーニャ、ケツ乗るか?」

「乗るっ!」


 ウイが回収を終えたのを確認して、ローでゆっくりと走り出す。

 そのままエスカレーターを下りると、ウイにしこたま叱られた。バイクは外まで預かると、アイテムボックスに入れられてしまう。


「仕方ねえ、歩くか。ニーニャはたーくんに乗るか?」

「ううん。このままでいいっ」


 ニーニャと手を繋ぎながら、2階の商品を回収して回る。

 とはいっても婦人服フロアなので、俺には何の楽しみもない。

 タバコをしっかり踏み消していると、ミツカが走ってきて何かを広げた。


「ヒヤマ、これなんてどうだ?」

「なにかと思ったら、パンツかよ。それ、隠す気ねえだろ」

「こういうのが好きだと思って、全部回収しておいたよ」

「ありがとうって言えばいいんか、これは」

「そのくらいにしてください。ニーニャちゃんが茹でたタコみたいになってますよ」


 見ると俺と手を繋いだニーニャが、パンツを凝視して真っ赤になっている。耳まで赤くしてるな。


「あー。ミツカ、次だ。手早く済ませようぜ。2階で1泊して、明日の午前は1階の探索だ」

「わかった。ここを出たら、どうするんだ?」

「今夜もルーデルから無線が来るだろう。シティーに変化がなければ、敵を探して歩く」


 2階の服やアクセサリーを回収してハンキーに乗り込むと、運転席に追いやられて振り向くなと厳命された。


「ああ。回収した服を、着てみたいのか」

「そうです。お湯で体を流して、ニーニャちゃんの下着まで替えますから、絶対に振り向いてはいけませんよ?」

「俺もお湯を使わせてくれるなら、約束しよう」

「いいでしょう。セーフティーは解除してあります。重ねて言いますが、絶対に振り向かないでください」


 キャイキャイはしゃぐ3人の声を聞きながら、雑誌を読んで時間を潰す。

 水音と一緒に、胸がどうだの尻がどうだの聞こえてくるが、振り向いたら命がないのだ。ウイはやると言ったら殺る女だ。我慢するしかない。


「うわっ。お姉ちゃん達の下着、すっごい過激っ!」

「ふふっ。ニーニャちゃんの下着もかわいいですよ」

「そうだな。ロリヤマに見られたら、貞操が危ないくらいだ」


 誰がロリヤマやねん。


「ニーニャちゃんは、まずこれを着ようか。きっと似合うよ」

「ふわぁ。ヒラヒラいっぱい」

「ちょっと待て。寝る準備じゃねえのかよ?」

「1通り着替えを楽しんでからに、決まってるじゃないですか」


 予想される待ち時間の長さにゲンナリしていると、ルーデルから無線が入った。これは、いい暇つぶしになるだろう。


「ルーデルから無線だ。なんか聞きたい事のある奴いるか?」

「特にありませんが、ジュモに洋服のお土産があるから楽しみにしててくださいと伝えてください」

「了解」


 オートマタが洋服を喜ぶのだろうか。まあ、俺には関係ないか。


(お待たせだ。シティーの様子はどうだ?)

(元気そうだな。安心したよ。こっちはなにもないな。連日ロボットが塹壕を掘ったり土嚢を積んだりと作業しているが、逃げ出す住民もいないようだ。そっちはどうなんだ?)

(今日はショッピングセンターを探索して、だいぶレベルも上がった。ジュモに服の土産があると、ウイ達が言ってるぞ)


 タバコを吸いながら話していると、日本で携帯でも持って部屋にいる気分になる。


(伝えたら、ジュモがえらい喜びようだ。良くお礼を言っといてくれ)

(了解。それと、俺や運び屋みたいな女の遺品をUIに貰ったんだ。ニーニャを乗せられそうな鷲を見ても、殺すなって運び屋に伝えて欲しい)

(稀人の遺品か。興味深いな)

(こっちにもマレビトなんて言葉があるんだな。強化外骨格パワードスーツと、可動品のバイクだよ。重装スキルの最上スキルがあるなら、ルーデルが使うか?)

(スキルもないし、UIに託された物を他人に使わせたらダメだ)

(ルーデルなら、あの鷲も納得するさ)

(そういう問題じゃない)


 説教もされたが男同士の会話を楽しみ、無線を終えて伸びをする。


「もう振り向いていいのか?」

「ええ。大丈夫ですよ」


 天井が低いので這うようにして運転席を離れると、着飾った3人がこちらを見ていた。

 化けたもんだなあ。化粧までしてやがる。

 水色のドレスを着たウイは清楚な令嬢にしか見えない。このまま富豪のパーティー会場に放り込んでも、違和感なく口説かれるだろう。

 ミツカは、真っ赤なドレスだ。さあ凝視しろとでも言わんとばかりに、胸元が広く開いている。エロ過ぎて、パーティー会場の華と言うよりは、富豪の寝室で待つ愛人だ。

 そしてニーニャは、ショーウインドウに飾ってあった純白のドレスだ。ヒラヒラがかわいい。思った通り、似合ってるな。


「感想はないのですか?」

「いや、褒め言葉が追いつかない。みんな綺麗でかわいいな」

「こっちも見る?」


 膝立ちになったミツカが、ゆっくりとスカートを持ち上げる。赤のドレスなら、下着も赤か。いや、赤と黒の相性の良さは、万人が知る真理だ。まてよ、このドレスなのに白ってのもなかなか・・・


「ニーニャちゃんの前で、それ以上はやめなさい、ミツカ」

「冗談だよ。褒め言葉がありきたりだったから、見えそうで見えない所でやめるつもりだったんだ」


 くそう。Mのくせに、ドMのくせにっ!


「お、お兄ちゃん?」

「何でもねえって。それより、早く着替えちまいな。皺になるぞ」

「では、また運転席にお願いします」

「風呂はよ!?」

「着替えが終わってからです。さあ、お行きなさい」

「はぁ、またガラスとにらめっこかよ・・・」



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