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南国レベリングツアー開始




 ハンターズネストに船を着けると、飛び出したニーニャがハンキーを出してくれとウイにねだった。

 メシを食ってからにしろと言うと、涙ぐんでプルプル震えている。


「どうしろってんだ・・・」

「やらせてあげればいいじゃないですか。食事や飲み物は運びますし、明るいうちに終わらせてくれたら安心です」

「仕方ねえ。俺とたーくんが護衛につく。好きにしな、ニーニャ」

「ありがとっ!」

「ピンポーン」


 パラソル付きのサンテーブルセットに腰掛け、ニーニャの作業を見守る。

 すぐにそのテーブルに、昼メシが運ばれてきた。


「片手で食べられるように、簡単な物を用意しました。ビールも出しますか?」

「最近、飲み過ぎだからな。今はいい。ウイとミツカも、ここで食うんだろ。話がある」

「ええ。ちょっと待ってくださいね。ニーニャちゃん、ご飯よ。続きは食べてから」

「はぁい。いただきまーす!」

「ニーニャちゃん、飲み物はこれな」

「ありがとっ。ミツカお姉ちゃん」


 エンジンをバラしていたニーニャが、手袋を取ってホットドッグに齧りつく。瞬く間に平らげ、ミツカに渡されたペットボトルをがぶ飲みだ。

 そんなにハンキーをイジりたいんか、お前さん。


「ごちそうさまっ!」

「お粗末さま。食休みは?」

「いいのいいの。手しか動かさないから!」

「無理はしないでね。・・・って聞いてない。ヒヤマ、お待たせしました」

「あたしは食べながら聞くよ」

「ああ。大した話じゃねえ。どっちかに、【第一種軍事車両免許】を取得して欲しいんだよ」


 ウイとミツカが顔を見合わせる。

 もしかして、嫌なのだろうか。


「ああ、嫌なら無理しなくていいぞ。スキルポイントは、好きにしていいんだ」

「いいえ。嫌ではないのですが、運転なんて私に出来るのかと」

「あたしもだ。自分が運転してるトコなんて、想像も出来ない」

「じゃ、やめとくか」

「そもそも、なぜ今それを?」

「婆さんの話だと、ニーニャはハンキーを小型の装甲車に改造するだろうって話でな。今は少しでも経験値を稼ぎてえから、屋根で狙撃しながら進みてえなと」


 ホットドッグを片手に、ウイとミツカは考え込んでいる。


「私の残ポイントは7」

「あたしは9ある。ウイ、譲ってくれるかい?」

「そうですね。体格的にも、ミツカの方が運転しやすいでしょう。お願いします」

「了解。これだね。取得っと」


 これで移動中も、経験値稼ぎが可能になった。

 スナイパーライフルの弾は、カチューシャ商会にあっただけ買い込んである。サハギンだろうがビッグラットだろうが、経験値が1でもあれば、ためらわずに撃ち抜いてやればいい。


「ありがとな」

「いいえ。ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。取ったら取ったで、早く運転してみたいな。ってなんだ、あの箱は!」

「ハンキーだよ」

「知ってるから。でもあれじゃもう、前にニーニャちゃんに見せられた雑誌の、戦車ってやつみたいだぞ」


 確かに、前輪のフェンダーまで装甲板で覆われたハンキーは、半装軌車と言うよりも装甲車か戦車にしか見えない。


「おいおい、銃座じゃねえんかい」

「どう見ても砲塔ですね」

「あ、あれはミサイルランチャー!?」

「ガトリングガンの反対側が、ミサイルランチャーの発射口か。銃撃されたら、誘爆しねえんかな」

「言ったら引っ込みましたね。跳ね板式ですか」

「聞こえてんのかな、うちのかわいいかわいいお姫様には」


 言った途端、内部で何かが装甲板を叩く大きな音が聞こえた。


「聞こえているようですが、怪我はしてないでしょうね」

(あ、頭をぶつけただけだよう・・・)

(気をつけろよ。怪我なんかしたら、もう改造禁止だ)

(大丈夫っ。もうちょっとで終わりー)


 ハンキーは横幅も、かなり広くなっている。居住性を高めるにしても、運転席と後部座席の間に凹凸の多い車体なので意味はなさそうだが、どうなのだろうか。

 日暮れが近くなるまで3人で雑談しているうちに、ウイは【砲手の連撃】を。ミツカは【轢殺ライダー】を取得した。俺はスキルポイントが2しかないので、指を咥えて見ていただけだ。

 砲塔のだいぶ後方、ハッチが音を立てて開いた。重そうな鉄のフタが、装甲板を叩いて鳴る。


「終わったようー!」

「お疲れさん。かなりの魔改造だな」

「エンジンをボアアップしてターボ追加。それで増した積載量ギリギリで設計したのっ。ニーニャの1番の自信作!」

「そうか。ありがとな。ミツカ、試運転だ。行くぞ」

「ボアなんとかもターボもなにか知らないが、あたしで大丈夫かな?」

「慣れりゃいいだけだ。ほら」


 ウイを先頭にハンキーに向かう。

 後部に小さなハシゴが付いていて、それで上るようだ。

 まず、運転するミツカから乗り込む。

 ちらっと見た感じでは、中はそれなりに広い。


「こ、これは凄いなっ」

「なにがだー?」

「早く来いって、凄いぞヒヤマ」


 何が凄いか言えっつーの。

 ここで話していても意味はないので中に入ると、立てはしないが座っていれば苦にはならない高さの車内だった。

 後部座席というより、運転席の後ろから天上の低いトラックの荷台のようになっている。壁にはバーが取り付けられ、いたる所に跳ね板式の銃眼があった。銃眼には、鍵まで付いているようだ。


「明るいな。換気は?」

「車内灯は超エネルギーバッテリーで、オンオフスイッチもあるよ。換気もファンでバッチリ」

「ミツカ、運転席はどうだ?」

「いい感じだ。穴が開いてて、そこに足を入れて運転するんだな」

「視界の事だぞ?」

「ああ、そっちか。ガラスに曇りもないし、良好だ」

「ニーニャ、ありゃ防弾だよな?」

「もっちろん。ミサイルランチャーの直撃にも耐えるよー!」


 材料を揃えただけで、ここまで改造できるもんなのか。ニーニャ以外の修理屋なんて会った事もないが、もしかしたら天才ってやつじゃねえだろうか。


「居住性は最高だな。テントいらずだろ、これ」

「【静穏なるセーフハウス】も効果的なようです。くっ。ガトリングガンを撃つのに身長が・・・」

「ウイお姉ちゃん、どのくらい高くなれば平気?」

「15センチあれば、助かります」

「はーい。【車両小部品製作】! これでどう?」

「見えます。砲塔の回転は、こうですね」

「わあ、上手っ」

「スキルを取ったんですよ。ヒヤマ、試運転するんですよね」

「ああ。後部ハッチも閉めた。ミツカ、スキルで運転方法はわかるな?」

「バッチリだ。行くよっ!」


 エンジンがかかる。騒音は抑えられてはいるが、昨日までのハンキーとは段違いだ。ケツから感じる振動で、それくらいはわかる。


「凄えな。いかにも走りそうな、じゃじゃ馬だ」

「えへへっ。これだけ防弾板を積んでも、加速も最高速度も上がってるよ」


 ハンターズネスト前の広場から道路まで出て、ハンキーは戻る。

 ニーニャも満足気だし、ミツカはもっと運転したいとまで言った。明日から運転は任せると言ってなだめ、ハンターズネストに入る。もう、夕暮れもいい所だ。


「おや、終わったのかい」

「うんっ。ハンキーちゃん、かっこかわいくなったよ!」

「そうかい。明日の見送りが楽しみだねえ。ちょっと早いが、夕食にするかい?」

「ああ。明日は早めに出る。寝るのも早くしないとな」


 和やかな夕食を終えてすぐに、いつもの部屋で就寝した。

 翌日の起床時間は、午前5時。

 寝ぼけ眼のウイに起こされたが、いいから寝ようぜと言いそうになる。それじゃいつまでも運び屋とルーデルに追いつけねえぞと自分に言い聞かせ、立ち上がってテーブルの水に手を伸ばした。


「やっと目が覚めた。おはよう、ウイ」

「私もちょっと辛かったです。ミツカ、朝ですよ。ミツカ!」

「うーん。もうちょっとダメかなあ」

「ダメに決まってるでしょう。どうしても寝たいなら、留守番してなさい」

「それは嫌だっ!」

「はい、起きましたね。顔を洗いに行きますよ」

「は、謀ったなウイ!」


 朝からうるさいミツカが洗面所に向かったので、朝のタバコを楽しむ。最初の1本を吸い終えてから、着替えをはじめた。


「おはよう、婆さん、ニーニャ」

「お兄ちゃん、おはようなのっ!」

「早いねえ、ヒヤマ。おはようさん」

「ピンポーン!」

「おう。たーくんもおはよう。今日からはハンキーの中に入れるから、ニーニャをよろしく頼むな?」

「ピンポーン!」

「お兄ちゃんが屋根で狙撃するなら、たーくんも屋根でラジオでも流しててあげてー」

「ピンポーン!」


 ラジオはありがたいな。四六時中、【パーティー無線】を使うのもどうかと思ってたんだ。


「助かるが、いいのか?」

「ピンポーン!」

「喜んで、だって。たーくん、お兄ちゃん好きだもんねっ」


 その言葉に小さな音のピンポーンが鳴ったので、たーくんがかわいくて仕方ない。撫で回しているとウイとミツカもテーブルについて、朝食になった。

 ハンターズネストを出て、ウイがハンキーを出す。


「なんとまあ。我が孫ながら、ここまでやるかねえ・・・」

「もう、小型の装甲車だよな」

「砲塔まであるとはね。気をつけていくんだよ」

「ああ。婆さんも気をつけてな。どこから敵が来て、戦争になるかもわかんねえんだ」

「なあに、これでも職業持ちだ。逃げるだけなら、なんとでもなるさね」


 ニーニャ達が挨拶を済ませ、ハンキーに乗り込む。

 俺とたーくんは砲塔に寄りかかって座り、策敵しながらの道行きになる。

 ラジオが流すのは、レゲエのような陽気なリズム。


「歌詞はエグいな。奴隷の哀しみかよ」

「ピンポーン」


 どこか切なそうなピンポンを聞いて、スナイパーライフルを出した。


(ここから、敵がいれば狙撃する。ミツカ、目的地は覚えてるな?)

(もちろんだ。敵が来るようなら教えてくれ)

(ヒヤマ、水分補給はこまめにですよ)

(たーくん、お兄ちゃんをお願いねっ)

(ピンポーン!)

(たーくん、【パーティー無線】使えたのかよ)

(もうちょっと良いCPUが手に入ったら、たーくんも喋れるんだけどなあ)


 なんでやねん。

 ハンキーの屋根はそれなりの高さがあるので、対岸の河原まで見渡せる。こちら側のサハギンは全滅してしまったようだが、向こうには5匹ほどのサハギンがいた。


(狙撃を開始する)


 膝撃ち。

 銃声が響き、薬莢が宙を舞った。

 それが防弾板に落ちる音はない。

 レゲエギターが、切なげに夏空を掻きむしった。



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