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再会の砂浜




「待ってくださいと言ったでしょう!」


 振り上げられたウイの手が唸る。


「・・・痛え」

「自業自得だ!」

「そうだよ、お兄ちゃん! 心配したんだからねっ!」

「だからって、『ドクターX』の針で攻撃すっかよ?」

「攻撃ではありません。治療です。それに銛が刺さったままで、まだHPは減り続けています。『ドクターX』を使いながら抜きますから、とりあえず座ってください。ミツカ、周囲の警戒をお願いします」

「了解。見てるだけで痛そうだね。あまり心配させるんじゃないよ、ヒヤマ?」

「・・・すまん」


 アザラシ兵の死体を引きずったまま、川から少し離れて倒れ込む。体の左に銛が刺さっているので、右半身を下にしてだ。ヘルメットを取り出して、死体ごと放った。


「ニーニャ、治療したら死体を処理すっから、今は見ないようにしとけ」

「ううん。慣れてるから大丈夫だよ。ウイお姉ちゃん、左足の付け根に止血帯を巻いたよ」

「ありがとう。太股の銛を抜いたら、すぐに『ドクターX』を注射してくれる?」

「うん。取り出し完了。いつでもいいよ」

「まったく。3本も銛をもらうなんて。返しが付いてますから、どちらから抜いても、かなりの激痛ですよ?」

「覚悟の上だ。やってくれ」


 荒っぽく銛が抜かれた。一気にだ。

 あまりの痛さに叫びそうになったが、唇を噛んでこらえた。


「『ドクターX』注入。痛そうだよう・・・」

「声も上げませんか。強情ですね。まあいいでしょう、次はお腹です。どこまで我慢できるか、楽しみですね?」

「ま、待て。こりゃ治療だよな? 拷問じゃねえよな!?」

「・・・当たり前じゃないですか。さあ、お楽しみはまだ残ってますよ」

「その間はなんだ!?」


 ミツカほどじゃないがMだろ、ウイは!

 心を読んだのか、ウイがいい笑顔で首を横に振った。

 左の脇腹。そこに刺さった銛が、ジワジワ抜かれる。

 いってえっ!

 声を出したら負けだと思い定め、全身に力を入れて歯を食いしばる。

 ニーニャが、『ドクターX』をすぐに使ってくれなかったらヤバかった。


「『ドクターX』注入。お、お姉ちゃん?」

「くっ。まだ耐える。バケモノですか・・・」

「・・・ど、どうした、腹の銛だろ? 早く抜いてくれよ?」

「最後の銛は、肩をナイフで捌いてから抜きましょうか」


 ヤバイ。目がマジだ。誰か助けろ!


「ウイ、なんて高度なプ・・・治療をしてるんだ! いくらヒヤマでも、それ以上はマズイって!」

「ちっ。仕方ないですね。人に心配と何かをかけるしか能のないロクデナシですが、それでも最愛の男です。このくらいにしておくのです」


 愛されてんなあ、俺。愛されて、るよな?


「心配してたなら、口でそう言ってくれ。素直に謝っから」

「ならいいでしょう。ニーニャちゃん、最後の銛を抜きますね」

「うん。準備はおっけー!」


 激痛も、これが最後だと思えば耐えられる。

 抜かれた銛が捨てられ、砂利に落ちて鳴った。


「『ドクターX』ちゅうにゅ、うえ。お兄ちゃん、ビクンビクンってしてる!」

「慣れておきなさい。ヒヤマはいつもこうです」

「ああ、またか。この好き者が。感知力がありすぎて、敏感なんだよね」

「・・・もうちょっと言い方を考えろ。にしても、心配させて悪かった。ごめんな」

「今回だけは許しましょう」

「だね。もう無茶するんじゃないよ」

「心配したんだからねっ!」


 砂利に寝転がったまま、アイテムボックスから新しいタバコを出して火を点ける。

 さすがに疲れた。

 ああ。死体を捨てないと。ザックだっけか。


「どっこらせ。死体は布でもかぶせて、河原に放置すっか。下手に流して、本隊に発見されても困る」

「本隊は海でしょうか?」

「たぶんな。まさか潜水艦で川を進んだりはしねえだろ。それより、特殊部隊が単独行動ってのはあり得ねえ。近くに後続がいるかもな」

「不思議な装備ですよね、この死体」


 青い全身鎧はよく見ると、背中に酸素ボンベを収納する膨らみがあった。その形はまるで餃子。アザラシ兵とは、よく言ったものだ。


「『アザラシ部隊の戦闘用潜水パワードスーツ』に『アザラシ部隊の水中銃』。『アザラシ部隊の水陸両用拳銃』、『軍用プラスチック爆薬』が3キロ。それと信管がたくさんあるよー」

「ハンターズネストに戻って、婆さんになるべく船は使うなって言いに行くか?」


 誰かが何かを言い出す前に、何の悩みもなさそうな声が聞こえた。


「【パーティー無線】みてえな声が聞こえる。運び屋らしい。休憩しててくれ」

「了解しました。いい知らせであればいいのですが」

(聞こえてんのか、ムッツリ坊や!)

(誰がムッツリだ。聞こえてんよ)

(あー。まず何から話すか。おまえ、隻脚の撃破王って覚えてっか?)


 忘れる訳がない。今さっき、アイツのレーザライフルに命を救われたばかりだ。

 運び屋と会ったのか。喧嘩してなきゃいいが・・・


(ルーデルだろ。ダチだよ。会ったのか?)

(ああ。一緒にいる。声は聞かせられねえがな)

(テメエ、殺したんじゃねえだろうな?)


 自分でも驚くほど、声に殺気が滲んでいた。


(おっかねえ声を出してんじゃねえよ。ピンピンしてるっての。【衛星無線】じゃ、俺の声しか聞かせらんねえって意味だよ。少女趣味が気になるが、大した男だ。なんか伝言でもあるか?)


 少女趣味? あのルーデルが? ウイが渡した荷物にキャラクター物の服でも入ってて、それを着てるとかだろうか。


(レーザライフルを預かってて、使わせてもらったと伝えてくれ。今、それに命を救われた。水中で使える銃がなくてな)

(ありゃ。やっぱもう終わってたか。・・・ルーデルに伝言完了。良かったらそのまま使ってくれとさ)

(今から返しに行くって伝えてくれ。アザラシ兵、知ってんのか?)

(ああ。揚陸艇が砂浜にあって、パワードスーツを着込んだ野郎達がバーベキューしてビール飲んでやがってな。攻撃してくっから、ルーデルと俺で皆殺しにしたんだ。1人だけ残して拷問したら、フロッグマンを単身シティーに向かわせたって言うからよ。始末しときてえなら、好きにしろって言うつもりだった)


 いい知らせだ。アザラシ兵は単身で川を逆上っていたらしい。


(今、えーっとな。シティーを過ぎて約2時間。ボウリング場らしき廃墟の辺りだ。そっちまで、どのくらいかかる?)

(ああ。あのでっけえボーリングのピンか。そうだなあ。ケッテンクラートの足でも、夜には俺達のいる砂浜に着くぞ)

(そりゃ良かった。なるべく急いで向かう。揚陸艇は格安で修理してもらうから、楽しみにしとけ)

(・・・ニーニャの嬢ちゃん、完全修理まで取得済みかよ。マズったな。残念だが、揚陸艇はスクラップ判定だ)

(はぁ!? 何をどうしたら、揚陸艇がスクラップになるってんだよ!?)

(大人にはいろんなスキルがあんだよ。あんまルーデルを責めんじゃねえぞ?)


 やったのルーデルかよ。只者じゃねえのは知ってるつもりだったが、ハンパじゃねえな。


(なら許す! じゃあ、今から向かうぞ。ルーデルを引き止めとけよ。結構な相談事がある)

(わあったよ。酒でも食らって、日光浴と洒落込むさ。またな)


 3人に事のあらましを説明すると、すぐに海へ向かうべきだと言ってくれた。シティー防衛の件を、ルーデルと運び屋に相談するつもりだと言ったからだろう。

 後部座席から、水着がどうとか聞こえた気がするが、気のせいだと自分に言い聞かせる。

 時折来る運び屋の【衛星無線】にナビされて、日暮れには砂浜にハンキーを乗り入れた。


「・・・元気そうだな、ルーデル」

「あ、ああ。ヒヤマもな」

「これ、ルーデルのレーザライフルな。命を助けられた。ありがとう」

「気にするな。ヒヤマに使ってほしいんだがな」

「使わなくても、持っておくべきさ」

「そうか。そうだな。俺があの部隊にいた証だ・・・」

「それでその、あれだ。・・・な、何がどうして、そうなってんだ?」


 ルーデルが苦虫を噛み潰したような雰囲気を見せる。

 背中に抱きついた少女はそれを気にした風もなく、ルーデルの耳に息を吹きかけたり、赤い舌をチラリと出して舐めたりしている。

 ニーニャより少しだけ年上に見える少女は、ルーデル以外を見ようともしない。


「こ、これはその。ロボット、ロボットなんだ! 手違いで起動させて、インプリンティングがミステイクなんだ!」

「ノン。ジュモはオートマタ。ルーデルの性奴隷で護衛なのデス」


 言いようのない気まずさが、夜の砂浜に漂っている。


「くっくっくっ。いいじゃねえか、若い愛人の1人や2人。いてっ。足を咬むな。そして嬉しそうに死神に近寄るんじゃない!」


 シェパードを撫で回しながら、なんと声をかけるべきか考える。

 思いつかないので援護をもらおうとすると、うちの3人はバーベキューセットに流木を入れて火を熾していた。


「・・・なにしてんだ、おまえら」

「見ての通り、夕食の準備ですよ。ヒヤマ達もお酒を飲むでしょう?」

「飲むけどよ」

「オーガにオーク。サハギンもありますよ。すぐ焼きますから、ビールでも飲んでてください」


 トコトコと、缶ビールを3つ持ったニーニャが走ってくる。


「出来た嫁だなあ。おお、ニーニャ嬢ちゃん、ありがとな」

「ルーデルさんもビール、はいっ!」

「ありがとう。ニーニャ、だったな。俺が怖くないのか?」

「うんっ。お兄ちゃんの次に好きだよっ!」

「ムッ。ライバル?」


 言いながら少女、オートマタはルーデルの首筋を舐め上げた。

 真っ赤になったニーニャが視線をそらし、すぐに盗み見る。それが面白いのか、オートマタはさらに舌を伸ばした。


「いい加減にしろ、ジュモ。ところで、相談があると聞いたが?」

「ああ。知恵を、可能なら力も貸してほしい」


 運び屋はタバコをやらないらしい。ルーデルと煙を燻らせながら、シティーの予兆と今日のアザラシ兵の話を聞かせた。ジャスティスマンとどう交渉するべきかも、素直に相談する。


「いい機会じゃねえか、ルーデル。冒険者としてブロックタウンに来て、家を持てよ。若い愛人ができたんだ。旅暮らしじゃ、オートマタの嬢ちゃんが可哀想だぜ?」

「無茶を言うな、運び屋。こんな姿で街になんて入れるか」

「そこはこれの出番だよ。ほれ」


 ルーデルの前に現れたのは、白銀の全身鎧だ。

 アザラシ兵の鎧に似ているが、こちらはなんというか、気品がある。


「わあっ。『英雄のパワードスーツ』だって。耐久値も満タン。運び屋のおじさん、防具の完全修理スキルがあるのっ?」

「ニコイチ修理の低レベルだけさ、ニーニャ嬢ちゃん。だからたくさんあったパワードスーツが、これ1つになっちまった。どうだ、ルーデル。いい案だろ?」


 ルーデルがブロックタウンに。そう思うと、妙に嬉しくなった。

 後はなんとか、ルーデルを頷かせればいい。きっと、楽しくなる。



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