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邂逅直前




 30番シェルターに1泊した俺達は、南の遺跡群を目指してハンキーを走らせる。

 とは言っても時速50km程度、のんびりとしたスピードだ。


「お爺ちゃん、喜んでくれて良かったわね、ニーニャちゃん」

「うん。ロボットさんいっぱいで、楽しかったねー!」

「それに、あんないい部屋を用意してくれるなんてね。もうあそこに住もうかと思ったよ、あたしは」


 ニーニャの改造のおかげで、走行中の会話に支障はない。無音ではないが、このくらいなら遠くの敵も、簡単には赤マーカーにはならないだろう。

 2時間ほどで、山頂から見えた遺跡群に到着した。


「こっからは徒歩だ。ニーニャはたーくんの背中な」

「はぁい」

「では、ハンキーを収納しますね」


 瓦礫も見慣れてくると、その土地ごとに特徴が見えてくる。


「モダンな瓦礫だな」

「なんですか、その感想は」

「洒落た感じじゃねえか、この遺跡群は」

「・・・違いがわかりません」

「あたしもだ」

「ニーニャも!」


 違いがわかるのは男だけ。それは、こちらの世界でも同じらしい。


「そうかい。ウイ、遺跡を効率良くナビしてくれ」

「了解。左前方。リカーショップからです」

「聞いただけで、胸が熱くなる響きだな」

「ヒヤマだけです。マーカー、オールグリーン。行きましょう」


 なんか冷てえな。ああ、ご無沙汰だから溜まってんのか。

 ギロリと睨まれた。ニーニャがいるので言葉こそないが、目は口ほどに物を言う。


「正直すまんかった。開けるぞ?」

「どうぞ」


 しゃがんでドアを押した瞬間、目の前に出た黄マーカーが赤に変わる。何かを考える前に、左手のコルトをぶっ放した。


「直撃。赤マーカー、沈黙。これは・・・」

「ヤモリか?」

「家トカゲ。ヘビよりはマシですが、気味が悪いですね。HPが15もない割に、経験値が20というのも妙です」

「精力剤になるから、高く買い取るよー!」


 俺のアイテムボックスに入れとくかな・・・


「では回収します。ヒヤマ、なにか不満でも?」

「んなもんはねえって。他にマーカーは、大丈夫だな」

「【罠感知】・・・ありますね。奥へのドア前に手榴弾トラップ。まず処理をしましょうか」

「頼む。発見者数は?」

「0です。仕掛けた者は、とうに死んでいるのでしょう」


 厄介だな。この遺跡群が以前は街として使われ、罠だらけなら探索に時間がかかる。


「解除完了。開けますよ?」


 慌ててショットガンを出し、ポンプを操作してドアの前で仁王立ちして構える。散弾のシェルが飛んで、自動でアイテムボックスに収納された。


「いいぞ」

「黄マーカー、簡易罠はなし。ですが、【罠感知】のリキャストまで待ってください。残り1分」


 小心者なので、くわえタバコで待つなんて出来やしない。ただただ、じっと待った。


「【罠感知】・・・大丈夫ですね。壁際の骸骨さんが、トラップを作成したのでしょう」

「酒瓶に囲まれてくたばってやがる。本望だろうな」

「わからない感覚ですね。アサルトライフルと32口径拳銃ですか」

「『デルタスペシャル』だって。拳銃は、よくあるリボルバーだねっ」

「おお。名前聞いたら、俺にも見えたぞ」

「かなりの大型ですね。ギリギリ機関銃の手前じゃないですか。ヒヤマにしか使えなさそうです」

「要求筋力60だもん」

「なら、俺が持っておくか。いつの間にか、筋力が90越えてら。つかこれ、軽機関銃だな。マガジンが弁当箱だぞ」

「お兄ちゃん、凄い。ガトリングガンも使えるね!」


 そう言われればそうか。ブロックタウンに帰ったら、レニーと腕相撲だな。

 軽機関銃を持ち上げる。かなりの重さだ。装弾数100。【チェインヒット】と【ワンマガジンタイムストップ】を重ねがけすれば、切り札になり得る。

 そういえば、しばらく対物ライフルを撃ってないが、まだ射撃の度にHPが減るのだろうか。いつか、この対物ライフルに認められたい。オーガロードを倒した日に、強くそう思ったのを覚えている。


「ニーニャ、ガトリングガンをブロックタウンの見張り台に取り付け可能か?」

「ちょっと待ってね。・・・ハンキーちゃんに付けたニーニャのシートを、回転銃座に改造すれば流用OKみたい。銃座なら、要求筋力は半分だって。帰ったら作るね」

「ニーニャちゃん、それを私とミツカでも使えるようにして、ハンキーちゃんに取り付けられる?」

「余裕だよー。重量的にも問題なし」

「ならお願いしようかしら。いい?」

「まーかせてっ!」

「銃座を回す度に、俺の頭に当たんねえだろな?」

「面白そうじゃないか、それ。ついでに【危険物探査】発動っと」

「ちゃんと調整するよう」


 安全なのがわかったので、ガマンしていたタバコに火を点ける。


「そこのテーブルの下に反応多数。弾薬箱だね」

「手榴弾もたくさんあります。みんなで分けましょう。ヒヤマ、軽機関銃の弾は持っていてくださいね」

「おう」


 タバコを踏み消して、5.56ミリ弾をアイテムボックスに入れておく。マガジンが5つもあった。

 手榴弾を15受け取ると、アイテムボックスの容量はギリギリ。ミツカとニーニャは、まだ余裕があるらしいのにだ。まあ、そりゃそうか。


「どうでもいいが、武器を持ちすぎだよなあ俺」

「足りなくて死ぬよりはいいでしょう。金庫もありませんし、お酒をいただいて次に行きましょうか」


 そこから、肉屋、本屋、雑貨屋と巡って何もかもをいただいた。罠も赤マーカーもなく、怖くなるほどの稼ぎだ。


「稼ぎましたねえ」

「どのくらいになるのか、あたしには想像もつかないぞ」

「後でニーニャに合計いくらになるか見てもらって、それから山分けしような」

「30番シェルターから買った缶詰はどうしましょう」

「現物を山分けでいいんじゃねえか?」

「ヒヤマは、なにか考えがありそうでしたよね」


 確かにあるが、リスクもある計画だ。まだ実行するには早いだろう。いや、ここで話して、全員で計画を立てるべきか。


「ハンキーで移動しながら話す」


 ウイが出したハンキーに乗り込む。

 ブロックタウンに向けて走りながら、ポツポツと話しだした。自分でも考えがまとまっていないので、どうしても遠回りな話になる。


「なるほど。買い付ける度に4人で山分け。ニーニャちゃんの分はカチューシャ商店に流して、後ろ盾の体力底上げ。私の分は日常的に4人で消費。残り2人分を、花園のブロックタウン支店で特産品化ですか」

「ああ。花園には、転売禁止で小出しにして売る。そのままの販売も禁止。客の転売を防ぐ意味でな。調理加工した缶詰料理の販売価格の上限は、俺達からの仕入れの2倍。その条件で、問題点を指摘してくれ」


 3速のままで軽快にハンキーを走らせ、後ろも見ずに言う。

 やはり車両はいい。日本にいた頃から、エンジンの付いた乗り物が好きだった。親父は、それでこそ男の子だと喜んでいたっけな。

 くわえていたタバコを、ニーニャが何も言わずに取り付けてくれた灰皿で消す。


「カチューシャ家は商人の家系ですからまだ安全ですが、花園はかなりの危険をこうむりますよ。誰だって格安缶詰のルートがあれば、殺してでも奪うでしょう」

「ブロックタウンもだ。下手をすれば、スラムの全住民に襲撃を受けるぞ。そしたら、あたし達と花園は1日だって、ブロックタウンを空けられやしない」

「だねー。ニーニャはカチューシャ家に流すのも反対。お父さんやお母さん、叔父さんが欲に狂ってニーニャに詰め寄ったりしたら、どうしたら良いかわかんない。ふえぇ・・・」

「うおっ。ニーニャ、妄想で泣くんじゃない。とりあえず、缶詰はウイに保管しといてもらう。いい案が浮かぶまでだ。だから泣くな。な?」

「ありがと、お兄ちゃん。ぐすっ・・・」


 やはり無理か。今は、小出しにして売るしかないらしい。

 気分を変えようと、ラジオを流す。超エネルギーバッテリー1つで100万時間の連続放送が可能だという話で、爺さんは午前9時から午後9時までの放送を約束してくれた。

 古臭いロック。エンジン音が小さいのは物足りないが、その代わりにキャタピラの駆動音が大きなハンキーにピッタリだ。


「もう、ハンキーなしの生活は考えらんねえな」

「帰ったら銃座を付けるから期待しててねっ」

「おう。ありがとな。ブロックタウンでしばらく休んだら、次はどこ行く?」

「シティーの川をずっと下れば、海に行き着くんじゃありませんか?」


 そういえば、ウイは海に行きたがっていた。小さな頃から入院生活。海は憧れなのだろう。どれだけ望んでも手に入らなかった普通の日常生活の、象徴と言うべきものなのかもしれない。


「ミツカとニーニャは、海を見た事あるか?」

「あるはずないじゃないか」

「ニーニャもないや。どんなのかなあ、海って」

「決まりだな。休息を取ってやるべき事を終わらせたら、海に向かうぞ」

「やったー!」

「夢のようだな」

「今から楽しみです」


 海水浴の話まで出ている3人の声とラジオを半分ずつ聞きながら、ハンキーを走らせる。ニーニャの改造で振動も抑えられているので、休憩の時間を取る事もなくブロックタウンが見えてきた。

 鷹の目で見るブロックタウンの門に違和感がある。なんだ、あれは。即座にハンキーを停めて、エンジンも切る。


「どうしました?」


 対物ライフルで確認する。間違いない。


「ブロックタウンの門前に車両」

「なっ・・・」

「攻撃されてるのかっ!?」

「いや。のんびりダンさんと世間話かなんかだ。なっ!」

「どうしたんだ、ヒヤマ!」


 冷たい汗が背中を伝った。俺じゃ、アイツに敵わない。それが、はっきりとわかった。


「肉眼で俺達を見た。ニヤリと笑って、2本指で敬礼まで飛ばしやがった」

「そんな事が・・・」

「バカな。どんなスキルだと言うんだ」

「お兄ちゃん、敵さんなの?」

「犯罪者じゃねえらしい。手招きまでしてやがる。荒野の運び屋、これはおっさんだ。横にいる犬が、世紀末の天使」

「まさか・・・」

「ご同輩に間違いねえだろうな」


 ウイの話では、この世界に招かれるのは善人ばかりらしい。それを信じるなら、気楽に構えるべきだとは思う。だが男のまとう空気が、俺にそれを許さないようだ。


「ど、どうするんだヒヤマ?」

「どうもこうも、ばっちり見られてんだ。行くしかねえ」

「対策はどうしますか?」

「敵対する可能性は低いが、そうなれば対物ライフルか軽機関銃の【ワンマガジンタイムストップ】を使う。後は野となれ山となれだな。ミツカ、ニーニャ、ありゃバケモンだが、善人ではある。敵対しそうな言動は控えろ。ただ、媚を売る必要はねえ。お前らは俺の女だ。何があっても守る。俺を信じてくれ」

「当然だ。何かされたら、舌を噛みちぎってやる」

「ニーニャも!」

「だから相手はたぶん善人だっての。それと、死ぬのは禁止だ。何があってもな。・・・行こうか。ホンモノの死神が待ってやがる」



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