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半装軌車ハンキーちゃん




 2輪のタイヤが付いた荷車に乗っているダンボールを照らすと、超エネルギーバッテリー150と手書きされていた。

 これは大事だと、急いで外に向かう。


「ニーニャ、喜べ。超エネルギーバッテリーが150もあったぞ」

「うっひゃー! ルーデルさん、お兄ちゃんの次に好きだよう!」

「良かったわね、ニーニャちゃん。他には何もありませんでしたか?」

「変なのがあったぞ。荷車を引く不思議な乗り物。後ろはキャタピラなのに、前の部分がバイクなんだ」

「ひょえっ。お、お兄ちゃん、それって半装軌車っ!?」


 知らんがな。


「えーっと、まず半装軌車が何かってのがわからん」

「履帯が付いてる乗り物の、前輪がタイヤになってるのだよう!」

「履帯はキャタピラだよな。そうだぞ。前輪が直角になって停めてあったから、でっかい箱に見えた」

「はわわ。どうしよう。どうしよ。と、とりあえず見に行っていい?」


 無駄に手を上下させながら左右を見渡して、ニーニャがパニクっている。

 とりあえず落ち着け。


「運び出すにも、どうすりゃいいかわからんしなあ。崩落も怖い。どうすっか」

「まず動きそうなのですか? そして大きさはどのくらいですか?」

「道路の残骸みてえに錆はなかったな。パンクもしてねえ。大きさは、日本で言う軽自動車よりちょっと小せえかな」

「なら、私のアイテムボックスに入るかもしれません。ニーニャちゃん、ミツカとテントに戻っていてください。修理可能なら、修理したいでしょう?」

「うんっ! お兄ちゃん、ウイお姉ちゃん、ハンキーちゃんをお願いねっ。行こっ、ミツカお姉ちゃん!」

「あ、ああ。ヒヤマもウイも、気をつけてなって。引っ張るんじゃない、ニーニャちゃん。危ないからっ」


 ニーニャに手を引かれるミツカを見送り、1度は消したフラッシュライトを点灯させる。


「行こうか」

「ええ。大声を出さず、素早く回収しましょう」


 2人で穴に入った。靴音にまで気を使って歩く。

 ウイが半装軌車の前に立つと、荷車と荷物ごとそれが消える。頷き合い、外に向かった。


「やったな」

「ええ。ニーニャちゃんが喜びますね」

「ハンキーちゃん、だっけか」

「ふふっ。かわいい名前ですね」


 残念なネーミングセンスだと思ってるのは、もしかして俺だけなのか。

 テントが見えてくると、ニーニャが走りだそうとしてミツカに脇を持たれた。気がついてないのか、必死で手足を動かしている。ニーニャを持ち上げているミツカは爆笑だ。


「ただいま、ニーニャちゃん」

「おかえりなさいっ。ハンキーちゃんは、ハンキーちゃんはどこっ!?」

「ここに出しますよ。危ないから下がっててね」

「はいっ!」


 ミツカに持ち上げられたままでの挙手付きの良い返事を聞いて、ウイがテントの前に半装軌車を出した。荷車もあるが、荷物はない。30番シェルターの爺さん、喜ぶだろうな。


「お兄ちゃん、車両修理の最上スキル取るよ! いいよね、いいって言って!」

「おう、いいぞ」

「ありがとうっ! 取得! 取得! 取得! 取得! 取得! 取得! 取得! 取得! 取得うううっ! 【プリーズメカニック】発動ううううっ! いえーい!」

「ぶっ飛んでんなあ・・・」

「別人のテンションです」

「とりあえず下ろすね。よいしょっと」


 ロボットの時と同じように光り輝き、それが収まっていくらかキレイになった半装軌車。走り寄ったニーニャが、キャタピラに頬ずりしている。大丈夫だろうか、この子。


「どうでもいいが、アイテム名は見えるか?」

「いいえ。見えませんよ」

「あたしもだ」

「ニーニャ、これを運転すんのに、スキルは必要ないのか?」

「ハンキーちゃん、砂漠仕様の素敵なボディだね。ハアハア。えっ。もちろん必要だよう。ハンキーちゃんなら、【第一種軍事車両免許】で大丈夫。ニーニャが取っていい?」

「足が届くのか?」


 ガーン。そんな音が聞こえた気がする。

 額に汗を浮かべ、生唾を飲み込んで、ニーニャが運転席に乗り込んだ。

 プルプル震えたニーニャがうつむく。


「あー。でっかくなったら、レベルも上がってっからスキル取ればいいさ。な?」

「・・・要求筋力があるなんて、聞いてないよう」

「要求筋力が設定されてんのか。じゃあとりあえず俺が取って、スキルポイントに余裕が出来たらウイかミツカも取るか。疲労時の交代に負傷時、不在時のためにな。筋力が足りる歳になったら、ニーニャ専用にしてもいいぞ」


 うつむいたままニーニャが、そっと半装軌車のハンドルを撫でた。


「ニーニャ、明日からミツカお姉ちゃんみたいにでっかくなる!」

「そ、そうか。頑張れ」


 拳を握りしめて宣言したニーニャを励まし、【第一種軍事車両免許】を取得すると、ハンキーちゃんの上にHPバーとアイテム名が現れた。『キャタピラバイク・ハンキー』。HP3000。要求筋力50。所有者なし。


「ついに車両を手に入れたか。感無量だな」

「これ、3人乗りじゃないか?」

「しかも2人は、後ろ向きに乗るようですね」

「エンジンの上に、座席を取り付けるね。サイズ的に、ニーニャはそこかなあ。たーくんはトレーラーでいい?」

「ピンポーン!」

「ありがとう。じゃあ、はじめるね。ボロ布や鉄クズを集めてて良かったあ。【車両大部品製作】」


 少し離れて座り、タバコを吸いながら嬉しそうに作業するニーニャを見守る。


「アイスコーヒーをどうぞ」

「ありがとう。嬉しそうだなあ、ニーニャ」

「手伝うミツカもですね。嬉々として、立派な座席を取り付けています」

「おーい、ニーニャ。エンジンの上って、熱くならねえんか?」

「大丈夫だよう。よーし。幌を取ったから、日除けもつけちゃうよ!」

「お手柔らかにな。頑丈さがなくちゃ困るぞ」

「はぁい」


 ウイが隣に座る。アイスコーヒーの缶を1口飲んで渡すと、少し恥ずかしそうに飲んだ。

 ハンキーちゃんの車体に、鉄パイプが取り付けられていく。

 ニーニャがスキルで作成し、ミツカが持ち上げたのは屋根だろうか。結構な高さの鉄パイプにそれを載せ、脚立に乗ったニーニャが電動ドライバーで取り付けた。


「器用なもんだなあ」

「ええ、本当に。ところで、操縦スキルは取得したのですか?」

「取ったよ。いつでも動かせる。日本のバイクとは、だいぶ違うな」

「乗った事があるんですか?」

「父さんがバイク好きでね。16になったらすぐ取らされた。学校でも、免許取得は禁止されてなかったし」

「家族や友人は、心配してるでしょうね・・・」

「そうでもないさ。変わった両親だったし、友人は少なかった。お、終わったらしい。全員で試乗会やろうぜ」


 立ち上がり、ウイに手を差し出す。


「試乗するぞー」

「はぁい。ドキドキするっ!」

「ヒヤマ、頼むから壊すなよ?」

「振り落とすぞ、ミツカ。あれ、背もたれとシートベルトなんてあったか?」

「ニーニャが作ったんだよー。質の良い鉄がたくさん手に入ったら、ターボとか付けるからね」

「キャタピラにターボかよ。どっこらしょ」


 シートに座ると網膜ディスプレイに、この半装軌車を乗機に設定しますか、の文字が浮かんだ。迷わずイエスを選択。

 乗機1、半装軌車ハンキー。乗機2と3は未設定とある。OKを選択すると、その画面は消えた。


「乗機設定なんてのがあるんだな」

「いいなあ。お兄ちゃん、乗機持ちになったんだ。乗り物への理解が深まったでしょ?」

「いや、そんな感じはねえよ」

「またまたー。じゃあ、エンジンかけてみて」


 そう言われても、本当にこれと言って変化はないんだが。

 とりあえずエンジンをかけてみようかと思うと、手が自然とシフトレバーがニュートラルにあるか確認して、それからセルスイッチに伸びた。


「静かなエンジンだ。あれ、シフトの確認は基本といえば基本だが、自然と手が動いたな」

「それが乗機持ちだよっ。次は動かしてみて」

「クラッチはペダル。3段変速か。行くぞ?」

「うん。ゴーだよっ!」


 自動車と同じ左足でのクラッチ操作。はじめてなのに、エンストもせずハンキーは動いた。


「動いたっ!」

「おお、やるな。ヒヤマ!」


 2人の声とエンジン音が、キャタピラの音に消されている。それでも、振動の変化で2速に上げるべきだとわかった。


(なるほどな。理解が深まるってのはこういう事か)

(ひどい騒音ですね。これでは、敵に狙ってくれと言っているようなものです)

(これからキャタピラを改造して音を抑えるけど、無音は無理だよう)

(ニーニャちゃん、何でも手伝うよ)


 道路の土嚢の手前で曲がり、テントの前に戻る。ブレーキペダルが2つあり、片方を踏めばその方向のキャタピラにブレーキがかかって曲がる。バイクと同じアクセルには、ブレーキレバーがない。

 エンジンを切ると、なにか物足りない気分だった。もっと動かしたい。そんな気持ちがあるらしい。お前は子供かと、自分を笑った。


「いいな。気に入った。よろしくな、ハンキー」

「屋根のパイプが邪魔になったりしないかな、お兄ちゃん、お姉ちゃん?」

「視界は良好。左手で銃も振り回せるから、俺は大丈夫だぞ」

「後部座席も、アサルトライフルの取り回しには不自由はないですね」

「ニーニャの座席と後部座席を、防弾板で覆うってのはどうだ?」


 そうすれば、3人が狙撃される危険は減る。さっきの運転感覚からすると、ハンキーはそんなにスピードが出せない。敵に追われるにしても、そうしてあれば少しは安心だ。


「装甲車に改造かあ。鉄骨はこの基地にいくらでもあるけど、エンジンに組み込むくらい質のいい鉄はないから無理かな。ごめんなさい、お兄ちゃん」

「ただの思いつきだ、気にすんな。じゃあ悪いけど、キャタピラの改造を頼めるか?」

「うん。晩ご飯までには終わるよっ」

「ウイ、ミツカ、ニーニャを頼むな」

「トイレか、ヒヤマ?」

「帰りの道を作りながら、遮蔽物の陰とか、塹壕の中の物を漁ってくる」


 気をつけろと念を押され、道路の遮蔽物をどかしに向かう。ハンキーの車幅はなぜかわかる。通り道を確保しながら、細々した軍事品を集めた。

 サングラス、手榴弾、5.56ミリ弾、チューインガム。

 ろくなもんがねえなと呟いた塹壕で、使い捨ての対戦車ロケット弾を見つけた。

 すべての塹壕を登り降りしてそれに避妊具と水筒を加えたところで、1人だけでの探索を切り上げてテントに向かう。


「もう終わったんか?」

「おかえり、ヒヤマ。かなり音は抑えたらしいよ」

「じゃあ明日の朝に、30番シェルターに向かうか」

「お爺ちゃん、喜ぶかなあ」

「きっと喜ぶわよ。さあ、晩ご飯にしましょ」



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