荒野のドライブイン
「マンホールの中に赤マーカー」
「セーフティー解除。いつでも撃てます」
「あたしもだ」
「ゲロッコだとは思う。動きは鈍かったが、油断すんなよ」
ルーデルと別れて2時間、はじめて出会う赤マーカーだ。
のっそりとマンホールから出てきたゲロッコに、ウイとミツカの銃弾が浴びせられる。
「1発5ダメージ!?」
「【挑発】。【範囲挑発】。前に出る、援護を!」
幸いにも数は1。銃弾の効きが悪くても、単体なら俺が引き付けている間に倒せるだろう。
コルトを撃つ。ゲロッコが吹っ飛んだ。ダメージは2。笑えるじゃねえか。
平然と立ち上がるゲロッコ。俺に向かって凄まじいスピードで伸びた、槍のような舌を紙一重で避ける。
「お兄ちゃん! このっ、死んじゃえっ!」
ニーニャが『サバイバーのレーザーライフル』を撃った。命中させるのか。やるな、ニーニャ。ダメージは、50だと!?
「ニーニャ、後4射だ!」
「うんっ!」
レーザーライフルの連射を受けて、ゲロッコはあっさりと肉の塊になった。
「ありがとうな、ニーニャ。あのままじゃ、かなりの弾を消費した」
「えへへ。役に立てて嬉しいよう」
「銃弾に耐性があり、レーザーが弱点なのでしょうか」
「たぶん、そうだろうな」
「マズイね。あたし達には、レーザーライフルが1丁しかない」
「つうか、あっても使えんのか? ニーニャのライフルを手に入れた時、俺達にはアイテム名すら見えなかったぞ。使い方もさっぱりだった」
「そういえばそうでしたね」
3人で頭を抱える。まさかニーニャ1人に、ここからすべてのゲロッコを任せる訳にもいかない。
「お兄ちゃんお姉ちゃんは、ちゃんとエネルギー武器系のスキルを持ってる?」
「そんなスキルがあるのか。当然ねえや」
「ないなら使えないよう。ニーニャは職業が修理屋だから、なくても使えるけど」
「スキルポイントはある。戻ってレーザーライフル買ってから来るか」
「すみません、ヒヤマ。怒らないで欲しいのですが、さっきのグールソルジャー達は、レーザーライフルを持っていました。パッと見は普通のアサルトライフルでしたが、アイテム名が見えなかったので間違いないかと」
ルーデルの仲間の銃を使うのか。気は進まないが、今はレーザーライフルが必要だ。いつか会えたら、謝ろう。
「・・・ルーデルなら許してくれる。戻って借りるとしようか。いつか会えたら、返すとするさ」
「すみません。友人の戦友から剥ぎ取りをさせるような事を」
「こっちのセリフだ。いつも通りに拾ってりゃ、手間はなかった。気を使わせたんだろ。ごめんな。地雷でマンホールを囲んでから戻るぞ」
「了解。10もあればいいでしょう」
すれ違っただけのルーデルを、ウイは俺の友だと言う。俺も、そう思っていた。それをわかってくれたのが嬉しい。
また2時間かけて、砲塔の折れた榴弾砲の下に戻った。
ゲロッコは回収してある。グールソルジャーの死体と銃は、そのままの場所にあった。
死体を並べ、手を合わせる。
「お兄ちゃんは、これを使って」
「なにか違うのか?」
「ん。エネルギー系のスキルを取得したらわかるよ」
「もうすぐ日が落ちます。あのクルマの残骸の所にキャンプを張りましょう。スキル取得はそこでですね」
道路を逸れた先に、横転したトラックの残骸がある。レーザーライフルを持ったまま、そこへ向かった。
「では、準備をします。ヒヤマとミツカは、エネルギー系スキルでも見ててください。ニーニャちゃん、2人にいろいろ教えてあげてね」
「はぁい」
とりあえずスキル一覧を開き、検索欄にエネルギー系と念じた。
ズラリと並ぶスキル名。こんなにあるのか。
「ニーニャ、エネルギー系スキルで検索したんだが、鬼のようにスキルあんのな。どれ取ってもいいのか?」
「うん。検索したなら大丈夫だと思うよー」
「悩むな。ミツカは何にすんだ?」
「これかなあ。【サディスティックエナジー】パッシブ。エネルギー系が弱点の敵に、1.1倍ダメージ」
「悪くねえな。お、俺はこれにすっかな。【未来のアクションヒーロー】パッシブ。エネルギー系武器を装備時は、敏捷力20アップ」
取得する前にウイの意見を聞こうとすると、ちょうどテントを張り終わったところらしい。
「お疲れ、ありがとな」
「すぐ夕食にしますね。それにしても、2人ともパッシブスキルですか」
「聞こえてたんだな。アクティブスキルで、手数を増やした方がいいか?」
「いいえ。メインアームはこれまで通りです。パッシブでも構いませんよ。私もエネルギー系武器を装備時に腕力と体力10アップのパッシブスキル、【エナジーマッスル】を取得しますし」
「ニーニャはどう思う?」
「いいと思うよー。これ、エネルギーカートリッジね。3人分」
「悪いな。これでどのくらい撃てるんだ?」
「チャージのないレーザーライフルだから、1000発くらいかなあ」
「それが5つか。シティーに帰るまでは余裕で保つな」
「あ、でもあまり連射をするとオーバーヒートするから、それだけは気をつけてね。オーバーヒートゲージは、網膜ディスプレイに出るの。戦闘中は気をつけないと、オーバーヒートしてしばらく撃てなくなっちゃうよ」
便利なだけじゃねえって事か。早めに慣れておきたいもんだ。
「わかった。ありがとうな。取得っと」
その瞬間、【マガジン弾数表示】で表示される弾数の上に、OHという文字と白枠のバーが出た。これが振り切れれば、オーバーヒートでしばらく発砲不可能になるのだろう。
「このOHというのがオーバーヒートゲージなの、ニーニャちゃん?」
「うん。赤いから見やすいよ」
俺が手にしているレーザーライフルを見つめる。名は、『ルーデル大佐のレーザーライフル』。1度握り直してから、エネルギーカートリッジを交換した。
ウイとミツカのは、『第87特殊部隊のレーザーライフル』だ。2人も、エネルギーカートリッジを入れている。
「そろそろ、夕食にしましょうか。ヒヤマ、今夜は飲んでくださいね。ルーデルさんに渡したお酒を出します」
「気を使うなっての」
「いいえ。妬けるくらい、瞬時に認め合っていたでしょう。ルーデルさんが女性なら、迷わず撃ってましたよ」
「ウイもかあ。あたしも嫉妬したよ」
「んー。でもニーニャは、あんなお兄ちゃんも好きー。なんかルーデルさんを見る目が優しかったの」
「ニーニャちゃんは優しいから。でもね、ヒヤマみたいな人を選んだなら、まず自分がお腹いっぱいになる分を確保するのよ? それから余った分を、ニーニャちゃんが好きな人にお裾分けするの」
俺は晩メシのおかずかよ。心の中で文句を言いながらタバコに火を点けると、バーボンをビンで渡された。見た事もない太った鳥のラベル。確かに、これは好きだ。
ビンに口をつけて呷る。1番星が見えた。ルーデルも、どこかでこれを飲んでいるのだろうか。
「ソーダも出したので飲んでくださいね。それに、お酒だけじゃなくて缶詰も食べるんですよ?」
「はい。お兄ちゃん、あーん!」
「いただきますっ!」
「あ、ミツカお姉ちゃんが食べちゃダメなのー!」
騒がしい声を聞きながら飲み、久しぶりに酔って眠った。
「もうすぐ昨日のマンホールですね。ヒヤマ、ゲロッコはいますか?」
「2匹が地雷にかかってら。マンホールを見張る。無事な地雷とゲロッコを収納してくれ」
「了解」
マーカーが出たらいつでも撃てる構えで、ゆっくりと接近した。
ニーニャもいるのに、マンホールから奇襲なんてさせやしない。回収が終わるまで、ひと時も目を離さなかった。
油断せずに歩き続ける。昼食も、簡単な物で我慢してもらう。そのぶん休憩はこまめにだ。
「あれは、遺跡ですね。発見者数1。ドライブイン的なお店でしょうか」
発見者1なら、それはルーデルだろう。アイテムボックスもあるだろうが、ウイのように無限容量である可能性は低い。なら、それなりに何かがあるかも知れない。
「寄って行こう。探索を終える時間次第では、今日はあそこでキャンプだ」
「マグナムメガストア。・・・何屋さんなんでしょうか?」
「この世界のセンスはわかんね。どっかのヒーローとかな」
「なんだ、ヒヤマ。オベェマに文句があるなら、あたしが聞こうじゃないか」
「オベェマはカッコイイよ!」
ニーニャを誑かしやがったな、ミツカ。
レーザーライフルを持って、駐車場を見回す。マーカーは俺達の分しかないが、用心は必要だ。
「ウイ、鍵を」
「施錠されてませんね。開けますよ?」
「了解。いいぞ」
しゃがんだウイがドアを押す。
「マーカーなし。オールグリーン」
食堂と商店が合体したような店らしい。
壁際に自動販売機。大きなテーブルと椅子。レジ。商品棚にはなにもない。厨房はここから見えないが、冷蔵庫が可動品なら儲け物だ。
「【罠探知】発動。・・・大丈夫ですね」
「テーブルに灰皿。床に泥。ルーデル達の休憩場だったんか」
「ホコリが積もってますね」
「仲間が、言葉も忘れたとか言ってたからな。ずいぶん使ってねえんだろ」
「自動販売機は、このまま使えるよっ」
「ありがてえ。ウイ、頼む。ニーニャ、お兄ちゃんと厨房の冷蔵庫も見てくれ」
「はぁい」
自動販売機1。業務用冷蔵庫2。業務用冷凍庫1。業務用掃除機1。超エネルギーバッテリー5。無数の食器と調理道具。硬貨68枚。もろもろの生活雑貨。それがマグナムメガストアの戦利品だ。
「悪くねえ稼ぎだったな」
「ええ。キャンプついでにあれだけのアイテムを回収です。大儲けですよ」
「今日もあのくらいの遺跡があって、安心して寝られたらいいね。出来れば風呂付きで」
「でもミツカお姉ちゃん。お店を出て3時間になるけど、見えるのは地平線だけだよ」
ニーニャの言う通り、見渡す限りの荒野だ。それを貫いて、俺達の歩く道がある。
その道を4日間も歩き続けると、ようやく瓦礫の目立つ景色になった。
「なんだありゃ。ゾンビがウジャウジャいるな」
「いいじゃないか。この4日、ゲロッコすら倒してないんだ。あたしは戦闘大歓迎だよ」
「この土嚢といい、ゾンビがたくさんいる非常線といい、この街に何があったんでしょうね」
「ってゆーか、なんでゾンビさん達は検問車両のそばにいるの?」
「あっこでゾンビになったんじゃねえのか」
検問を行っていたと思われる非常線まで800メートル。土嚢を積んだ遮蔽物に隠れた俺達に、ゾンビ達はまだ感づいていない。
「とりあえず進まねえとな。地雷敷いて、狙撃でおびき出すか」
「ウジャウジャとは言っても100はいないから、地雷じゃなくて【ワンミニッツタレット】と通常射撃でいいんじゃないか?」
「なるほど。なら節約すっか。戦闘準備だ。スコープで見た限りじゃ、敵はゾンビだけだ。銃は使ってこねえとは思うが、土嚢からあまり体を出すなよ?」