ロボット王国
「歓迎の印に、缶詰や物資は気にせず持って行ってくれ。我らには必要ないものじゃ」
「ありがたいがいいのか? 返す気だったんだが」
(言い切ったよ、ヒヤマ!)
(さすがの鬼畜っぷりですね。嘘に迷いがありません)
(お兄ちゃんが騎士。ほわぁ・・・)
「それが仕事なのだろう。だが、居住区は勘弁してくれぬか。ロボット達の主の遺品であったりするのだ」
「もちろんだ。土産までくれた友人の家から、泥棒なんてしねえ」
「ありがたい。礼になるかはわからんが、上で話していた『ソルジャー・オベェマ第1巻』を進呈しよう。共有スペースにあったものだから、気にせずに持って行くといい」
「ありがとう。仲間が喜ぶ。ミツカ、礼を言いな」
ミツカは口をパクパク閉じたり開いたりで忙しいらしい。そこまで驚く事かあ?
(聞かれて見られてか。変な事しなくてよかったな)
(ですね。ほらミツカ、ちゃんとお爺ちゃんにありがとうしなさい)
「あ、ありがとう。ずっと、ずっと夢だったんだ。いつか冒険者になって、ソルジャー・オベェマの始まりの物語に出会う事が!」
「そ、そうか。喜んでもらえて何よりじゃ」
凄いな。ロボットをドン引きさせるなんて。さすがミツカ。
「頑張って、全巻コンプリートしような?」
「なんだって!? そうか。そうだな。それが新しい夢だ!」
「そんじゃどうすっか。ニーニャ、ロボットの修理するか?」
「んっとね、そこのロボットさんが修理ロボットさんなの。だからここと上の子は大丈夫。それより、お爺ちゃんは痛いとこない?」
「ワシか、ワシはもう年ですからのう。あちこちガタが来ておりますよ」
「ニーニャね、【ロボット技師の夢】を取ってるの。お爺ちゃんに使ってもいい?」
今度は、爺さんが驚く番のようだ。ブラウン管に映る顔が、驚愕に彩られている。
「・・・いや、すまぬ。その若さで完全修理スキルを持つとは驚いた。じゃが、リキャストまで36時間もかかるじゃろう。良いのですかな、姫よ」
「もっちろん。完全修理だけにするね。【ロボット技師の夢】発動!」
「おおっ、おおっ。電力が、電力が漲って来たのじゃ!」
力イコール電力なのか。さすがロボット。
暗くはないが、明るいとは言えなかったこの部屋に、煌々とした明かりが灯った。
「異常はない、お爺ちゃん?」
「うむ。まるで工場を出た時のようですぞ。これなら、シェルターの再建も夢ではありませぬ」
「お。必要な物資があれば持ってくるぞ、爺さん」
「なんですと、騎士殿。なれば『超エネルギーバッテリー』は手に入りませぬか。バッテリーさえあれば、動く機材やロボットが増えるのです」
「おう。ウイ、ある分を出してやってくれ。ミツカの分は俺が買うから許せな」
「なに言ってんだ。お爺ちゃんが困ってるんだから、あたしだって普通に出すぞ」
「そうですよ。ここに出しますね。15個ありますよ」
「ニーニャも3個だけだけど残ってるの。はいっ!」
テレビの爺さんが、目を閉じて拝むような仕草を見せた。上げた顔に、涙が光っている。モノクロのテレビでも、はっきりとわかった。
「いやはや、お恥ずかしい。年を取った証拠ですかな。ありがとうございます。これがあれば、多くのロボット達が動けるようになります」
「爺さんが言った通り、俺達は遺跡を漁るのが仕事でな。10以上のバッテリーが貯まったら、また持って来るよ」
「ありがたい。外でまだ硬貨が使われておるのなら、対価としてお渡しします」
「今回はいい。手土産だ。ニーニャ、バッテリーの相場は?」
「最大で500かな。バッテリーチェッカーのパーセンテージで、0から500まで変動だよ」
「それほどに安価なのですか。ならば、かなり上乗せしてお支払いしますので、どうかお願いいたします。今、このバッテリーの分をお持ちしますじゃ」
「だからいらねえって。それに、仲間の友達に上乗せなんてさせねえよ。相場でいい。それが嫌なら、もう顔も見せねえ」
うわ。ロボットに苦笑された。くしょー!
(0点です。オヤジ臭いのでやめてください)
(だから、心を読むな。そしていちいち点数つけんな)
(なんの点数なんだ?)
(オヤジギャグですよ。ちなみに今回は、ロボットに苦笑された。くしょー!)
(ぶははははは。ヒヤマ、そんな面白い事は【パーティー無線】で言え。ぶはは。苦笑されて、くしょー!って)
(センスがあるなあ、ミツカ。今晩たっぷりかわいがってやっからな。期待しとけ)
(ニ、ニーニャは今日、早く寝るね・・・)
ニーニャいるの忘れてた。顔が真っ赤だ。
ウイとミツカが鬼の形相になってる。助けろ、爺さん!
「色々と考えてみましたが、姫と騎士殿達がこの近隣におられる限り、食料生産プラントを稼働させるのはどうでしょうか? バッテリー1個あれば、約1万食の缶詰を生産可能です。輸送費代わりとして、バッテリーをお持ちいただいた際に、それを無償でお渡ししましょう」
「当時の缶詰の価格は?」
「安価な物で1枚。高くても、10枚はしませんな」
「その値段で買わせてくれ。そしたらそれで爺さんがバッテリーを買い、俺達は外に安価な缶詰を供給可能になる」
「新たな経済活動が発生しますな。そしてこのシェルターには、すでに充分な資金がある」
さすがロボット。話が早い。
「戦闘用の野良ロボットを倒したら、ついでに持って来る。それを買って、戦力を充実させるといい。爺さんがどんな襲撃も跳ね返せると判断したら、商人を紹介してもいいぞ」
「姫がお顔を見せてくださる限りは、他の商人は必要ありませんな。メガネの騎士殿は、無限アイテムボックスをお持ちでしょう」
「ええ。なので輸送費は必要ないのですよ」
「他には何かないか。知ってる事は答えるぞ」
「外はどのような状況なのでしょうか?」
「このオークみてえなクリーチャーが人を襲い、文明の残骸に縋って、なんとか人が生きてる」
「・・・人とは儚きものですな。たまに山頂のアンテナからラジオを流しておりますが、意味のない事でしたか」
「あのピアノは、残り少ないバッテリーを使ってまで流してたのか。あれには慰められた。礼を言うよ。帰りに入り口は埋めていくが、何かあったらラジオで呼んでくれ。駆けつける」
「それはありがたい。この、オーク、ですか。これは焼却処分で良いのですか?」
「焼くなら持って帰って売るぞ。外じゃ貴重なタンパク源だ」
爺さんが、絶句している。そりゃそうだ。元が人なら、共食いになるのだ。
「警備室で見たとは思いますが・・・」
「ああ。だが、外では人が人を喰うと、名前が変化するんだ。神様的には、これは共食いじゃねえらしいぞ?」
「人が人を!」
「そのくらいギリギリの生活なんだよ。で、そっちが使わねえなら、持って帰っていいのか?」
「構いませんが、姫には・・・」
「オーク、美味しいよ?」
テレビの中の爺さんが、orzの姿勢になった。落ち込んだ感じの効果線まで出ている。芸が細かいな。
「まあ、俺達といる間は、ほとんど缶詰だ。それで勘弁してくれ」
「おお。それでこそ騎士の鑑!」
「では、収納しますね。あら、ミツカ。お待ちかねのコミックよ」
「おおっ、これが!」
ロボットが持ってきた雑誌を受け取ったミツカが、クルクル回って踊りだした。正直、恥ずかしいからやめて欲しい。
「喜んでもらえて、我らも嬉しい。そなたら2人と姫にも、なにかお渡ししたいものだが。ううむ」
「遊びに来ていいって言ってもらえたら、ニーニャなんにもいらないよう」
「私も特には。ああ、ラジオを楽しみにしていますね」
「俺もねえや。回収も終わったし、そろそろおいとますっか」
「ですね。東に少しでも距離を稼がないと」
「東に向かわれるか。あちらには、軍事基地があったはず。軍事用ロボットに、軍人のなれの果てまでおるやも知れぬ。気をつけておゆきなされ」
「ありがとよ。じゃあ、失礼する。戦果次第だが、帰りにも寄るよ」
「失礼しますね。ニーニャちゃんはお任せください」
「この恩は、ソルジャー・オベェマの恩は忘れない!」
「お爺ちゃん、また会いに来るから、元気でね」
「次においでになるまでに、部屋を用意しておきますぞ。30番シェルターは、姫一行をいつでも歓迎いたします。是非、泊まって疲れを癒してくだされ」
爺さんに礼を言って、下りてきた道を戻る。
外に出てまずやらされたのは、穴掘りだった。
屋外用パテーションで隠したその穴に、ニーニャから入っていく。
「なんだ、便所か」
「花を摘んでいるのです。勘違いはよしてください」
「わかったからアサルトライフルを向けんな。俺はシェルターの入り口を埋めるぞ」
「お願いしますね」
シェルターの入り口を埋めると、ミツカにスコップを引ったくられた。
「わざわざ埋めなくても、誰も見ねえっての」
「用心のためだ。一応、な」
「なんの用心だか。中でマンガ読むんじゃねえぞ?」
「・・・考えておこう」
トイレを済ませたニーニャを、たーくんの箱に乗せる。ズレた帽子を直してやると、元気な声で礼を言われた。ニーニャの服は、ドイツ国防軍の将校のような軍服だ。帽子がちょこんと乗った頭を撫でる。
「身だしなみはきちんとな、ニーニャ姫?」
「はぁい。でもね、ほっぺが熱くなるから、姫って言うのは禁止っ!」
「御心のままに」
タバコに火を点けて、空を見上げる。晴れ渡った空だ。悪い予感の、欠片もない。
「お待たせしました。行きましょうか」
「ああ。山を登って、周囲を見渡すか?」
「それも手ですね。標高はそんなでもないので、登りましょうか」
時間もないので、頂上に向かって登りはじめる。
乾いた土と岩しかない山。障害はないに等しい。日が落ちてすぐに、なんとか頂上に辿り着いた。
缶詰の夕食を終えたら、体を濡らしたタオルで拭いて寝るだけだ。
「たーくん、ラジオ起動。じゃあ、ニーニャ寝るね。おやすみなさい!」
テントに入ったニーニャの第一声はそれだった。固く目を閉じている。
呆れてあれは冗談だと言うためにそばに寄ったら、薄目を開けてこっちを見ていた。
覗く気まんまんじゃねえか。
「ニーニャ、あれは冗談だ。寝るにはまだ早いから、お話でもしようぜ」
「そうだぞ。ほら、あたしと一緒にソルジャー・オベェマを読もう」
「ラジオも楽しみましょう。あら。愛する姫と彼女を守る騎士達へ、だって。素敵な曲ね」
「冗談だったんだね。なーんだ・・・」
なんで残念そうなんだ。まだまだニーニャには早すぎるっての。