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準備はしっかり




 ブロックタウンに帰ると、門付近が人で賑わっていた。

 俺も身長はそんなにないので、何があるのかはわからない。ピョンピョン跳ねて、人垣の向こうを何とか見ようとしているニーニャを肩車する。


「見えるか?」

「うんっ。お店屋さん!」

「こんなトコに店?」

「あっ。マリーさんだ! やっほー!」

「マリーって、黄金の稲穂亭の用心棒のか?」


 あのマリーならブロックタウンに来ててもおかしくはないが、なんだってこんな場所で店なんか。


「うん。あ、手を振ってくれたよ」

「よう、ヒヤマ。ニーニャを連れて狩りの帰りか。仲が良いな」

「レニー、こりゃ何の騒ぎだ?」

「黄金の稲穂亭、露店としてブロックタウンに初お目見えだ。エロい下着からミサイルまである。贔屓にしてくれ」


 なるほど。ウイが女に必要な物が欲しいなら行商人を呼べと言っていたが、自分達がその商売をはじめたのか。


「すいたら寄らせてもらう。まあ、明日にはシティーに出かけるけどな」

「忙しいんだな。暇になったら、家にも顔を出せよ?」

「気が向いたらな」

「あまり焦らすと、アリシアに路上で襲われるぞ?」

「ニーニャの前で、んな話をすんじゃねえっての。それも、気が向いたらだ」


 そのまま家に向かおうとしたら、肩に乗っているニーニャに止められた。


「どした、ニーニャ?」

「ほっくんを仕事に出してあげないと。ミツカお姉ちゃん、犯罪行為は即射殺に設定してあるの。街を巡回、広場で待機。それを繰り返すけどいい?」

「おう。ありがたいぞ。でも、ほっくんが怪我したりしないか?」

「大丈夫だよ。ほっくん達ホワイトボールは、冬戦争の英雄だから。犯罪者なんて余裕!」

「ぶはっ」

「どしたの、お兄ちゃん?」

「な、なんでもねえ。ほっくん、悪いけどブロックタウンを頼むな」

「ピッ!」


 そう返事をして、ほっくんは飛び去った。ちなみにラジオはかけっぱなしだ。娯楽の少ないこの世界、ブロックタウンの住人のいい暇つぶしになるだろう。


「ただいまあー。たーくん、帰ったよ!」

「ピョロピー!」

「ニーニャね、【ロボット技師の夢】まで取ったの。リキャストタイムが3日だから、使えるようになったら使うね。それと【ロボットプログラミングマスタリー】に【ロボットレストアマスタリー】。【ロボット自由塗装】に【ロボット武器改造】。【ロボット改造マスタリー】も。だからいっぱい・・・」

「ニーニャちゃん。とりあえずお風呂を済ませて、ゆっくりたーくんとお話しましょう。玄関でする話じゃないわよ?」

「はーい。おっ風呂ー!」


 走りながら脱ぐんじゃない。恥じらいを持ちなさい。


「ラッキーだな、ヒヤマ」

「5年後ならな。クマさんパンツじゃ無理があるだろ」

「さあ、今日はゆっくり休みましょう。明日にはまた出発ですよ」

「ニーニャをシティーまで送ったら、銃弾を多めに買っとこう。東でどれだけ消費するかわかんねえんだ」

「地雷や爆薬も買い込みましょう」

「ミサイルランチャーも欲しいな。あたしに撃てるのかわからないけど」


 リビングでたーくんに魔改造を施すニーニャを見ながら酒を飲み、だいぶ早い時間に眠った。


「婆ちゃん、たっだいまー!」

「おや、おかえり。もう帰ったのかい」


 ハンターズネストへの道中は、この頃ではすっかり平和になってしまった。俺達に花園、護衛を雇った行商人まで行き来しているからか、サハギンすら出なかった。


「婆ちゃん、この子はぼーちゃん。婆ちゃんの護衛をするようにプログラムしてあるから、可愛がってあげてね」

「なんだって。ホワイトボールをプログラムって、スキルを取ったのかい?」

「うん。【ロボット技師の夢】まで取ったよ。後はまだ考え中なの」

「最上スキルだって!? レベルはいくつ上がったんだい?」

「13になったよー」

「なんてこった。年齢をレベルが超えるなんて、まるで1流冒険者じゃないか!」

「えへへ。ニーニャもセミー姉ちゃんみたいになれるかなあ?」

「頼むから、ああはならないでおくれ。お願いだから」


 どんな長女やねん。勝手知ったるハンターズネスト。大テーブルに腰を下ろすと、ウイが人数分の飲み物を出した。俺にはビールか。飲んでもいいが、酔うまでは飲むな。ビールを出されたら、そう言われていると思う事にしている。


「ヒヤマ、礼を言うよ。1度の泊りで、5レベルも上げるとは。さすが3強の1角だねえ」

「3強ってのは?」

「シティーに顔を出す冒険者の頂点。百合の花園、死神ハーレム、孤高の剣聖。それが3強さね」

「死神ハーレムって何だよ。俺が性欲で動く男みてえじゃんか。それに俺達は、そんなに顔が売れてるはずねえぞ?」

「剣聖が飲み屋で言い回ってるのさ」

「あの野郎。今度会ったら、鉛の弾をくれてやる」

「今日は泊まり客もいない。これを飲んだら、シティーに行くかね。今回の獲物はなんだい?」

「オークです。成体が34」

「ほう。オークの相場は300。稼いだもんだねえ」

「2匹は、カチューシャ家への土産な」

「おや、ありがたいねえ。あれの焼き肉は絶品なんだ」


 キラービーとオークを1匹は、町長夫妻への土産。しきりに遠慮されたが、惚れた女の親への土産だからと押し付けた。ミツカは顔を真っ赤にしていたが、否定はしなかったので信じてくれてると思いたい。


「弾と武器もたっぷり買い込む。本番は次の納品だな」

「群れかい。アンタ達なら大丈夫だとは思うが、支配階級には用心するんだよ?」

「ああ。ってそういえば、オーガロードとオーガ兵は売ってねえんじゃね」

「そうですよ。オーガロードと、オーガが15あります」

「呆れたもんだねえ。オーガロードには、値段なんて付けられないよ。競りにかけるから、テンパーバックでいいなら置いていけばいいさ」

「ありがてえ。俺は狙撃銃とサブマシンガンが欲しいんだよなあ」

「地雷と爆薬もです。それと弾薬をたっぷり」

「ミサイルランチャーもだ!」

「売るのも買うのも規格外だねえ。じゃあ、とっとと行くかい」


 つかの間のクルージングを楽しみ、2度目のシティーへ。

 クリーチャーを売って武器や弾薬を目一杯買い込むと、すっかり夜も更けていた。


「今日はシティーに泊まるかい?」

「婆さんの都合に合わせるさ」

「普段なら、ハンターズネストに戻ってから寝るね」

「なら行こう。夜も遅いが、もう少しだけ頑張ってくれ」

「はい」

「ああ」

「うんっ!」


 どうしよう 返事が1つ 予想外。ヒヤマ、心の俳句。


「えーっと。ニーニャはまたお泊りしに来るんか?」

「ダ、ダメなのっ!?」

「婆さん、イワンさん。今回はオークの群れが相手だ。怪我すらさせねえと、カッコの良い事は言えねえぞ?」


 婆さんは表情も変えないが、イワンさんは腕組みして悩んでいる。そりゃそうだ。我が子が可愛ければ、ここはなんとしても止める場面。たとえ職業持ちが3人一緒でもだ。


「お父さん、お願い。たーくんも改造して連れて行けるし、お兄ちゃんもお姉ちゃん達もすっごく強いんだから!」

「だが、オークの群れを狩りに行くんだからなあ・・・」

「わかった。じゃあ、家出してカケオチしてチジョーノモツレで結婚する!」

「何だとっ!」


 いや、それっぽく言ってるけど、使い方間違ってるから。なんでそれに反応するかな、イワンさん。

 ああだこうだと2人の言い合いが続いたが、ついにイワンさんが折れた。


「ニーニャ。店のありったけ、レーザーライフルのエネルギーカートリッジだ。持って行け」

「ありがとう、お父さん。ニーニャは幸せになるよ!」

「婿殿、娘を頼む」

「ああ。そりゃいいが、まだ嫁入りした訳じゃねえんですよ?」

「わかっている。ただ、親より先に死んでほしかねえんだ」

「そりゃそうでしょう。努力しますよ」

「ほら、話が終わったんなら行くよ。時間も時間なんだ」


 婆さんに急かされ乗船。

 俺達は船のキャビンでひと休みする。ニーニャと婆さんは操縦席、たーくんは甲板で警備だ。


「ふふっ。痴情のもつれで結婚は良かったですね」

「笑い事じゃねえって。東に着いてくる気らしいんだぞ?」

「たーくんをずいぶん改造して、防弾板で箱を作って取り付けてたから大丈夫だろう」

「まあ、あれなら移動はいい。ただ戦場に子連れってのはなあ」

「レベルも来ますし、ロボットに出会える確率も上がります。私達がしっかり守れば、良い事だらけですよ」

「まさか、ロボットに出会えるから着いてくるんじゃねえだろうな」

「ニーニャちゃんならありそうだな。でも、冒険者は子供の憧れ。シティーで退屈に暮らすより、探索や戦闘が楽しいんだろう」


 そんなもんなのかねえ。俺があのくらいの頃は、サッカーしてるかゲームしてるかだったな。それがニーニャはロボット連れてレーザーライフルを片手に、オークの群れを狩って遺跡探し。これが文化の違いか。


「着いたよー!」

「おう、ありがとな」


 ハンターズネストの1番上等な部屋には、キングサイズのベッドがある。

 ウイのキャンプスキル【静穏なるセーフハウス】はパッシブスキルで、夜間の就寝場所が個室であれば敵に発見されず内部から音が漏れない。


「何だ。まさか朝になってんのか?」

「んう。おはようございます、ヒヤマ。あらあら、3人共いつの間にか寝てしまったんですね」

「朝だぞ、ミツカ。うつ伏せで寝たら、いろいろ痛いだろうに。大丈夫かよ?」

「そんな嘘じゃ、あたしは喜ばないぞ。どうせならもっと意地悪を、あれ。朝だな。おはよう」


 身支度を整え、広間に向かう。

 今日は1日歩き続け、別荘で就寝になるだろう。ニーニャはあの別荘が楽しみで仕方がないらしい。4人で寝るのが嬉しいそうだ。

 なら毎日一緒に寝るかと聞いたら、邪魔になるからいいと顔を赤くしながら断られた。その性教育の早さに、さすが初潮と同時に結婚が許される世界だと感心してしまった。



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