ニーニャの最上スキル
「【ワンミニッツタレット】!」
戦闘開始を告げたのは、ミツカの声だった。
狙撃で減らせた数はわずかで、30ほどのオークが俺達に殺到する。
サブマシンガンを抜きながら、【スプリットブリット】と念じる。左のコルトには、【パラライズマガジン】だ。瓦礫の山の上に身を晒し、ヘイトを稼ぐ。
「【挑発】!」
ウイ達に向かったオークの先頭に【挑発】を掛けた。俺にターゲットを変えたオークに、後続のオークが突っ込む。慌てる集団に、サブマシンガンを浴びせる。
3発残してリロード。マガジンは地面に落ちる前に、アイテムボックスに収納される。マガジン取り出しはしっかりイメージをすれば、その場所に出てくれる。あとは左の腕を使って押し込むだけだ。
「【インターセプト】!」
タァン。タァン。タァン。
ミツカの銃撃で動きを止めたオークを、俺のサブマシンガンとウイのアサルトライフルが蜂の巣にする。
「させるかっ!」
【パラライズマガジン】を掛けたコルト。突破を図ったオークがぶっ飛んだ。すぐに、ウイの追撃で事切れる。
今は我慢だと自分に言い聞かせ、瓦礫の山から銃弾の雨を降らせる事に集中。
タレットが消えると、オーク達の圧力が増す。戦いは数だと言ったのは、どこの軍人だっただろう。まさにそうだな、あんたは正しい。
【挑発】のリキャストタイムは終わった。どいつに掛ける。おまえだ、豚野郎。ウイを狙ってんじゃねえ。
「【挑発】!」
コルトでぶっ飛ばし、別のオークに当ててダメージ増加を狙う。
「お兄ちゃん、修理完了。起動するよ?」
「やってくれ!」
ニーニャの顔も見ずに叫ぶ。ギャルッ、ガッガッと音が聞こえた。
「ギャルがどうしたって! 死ね、豚野郎!」
走り込んでくる5匹のオーク。撃ち漏らした1匹のオークを、レーザーが撃ち抜いた。ショッキングピンクの何かが、オークの群れにえらいスピードで迫る。なんだありゃ。
「いっけー! たくてぃちゃん!」
名前言いづらっ。
「うっはー。オークが逃げていくぞ。ニーニャちゃん。でかした!」
「ホントに逃げてますね」
「なくなったと思ってた越えられない壁が、いきなり動き出したんだ。慌てもするだろ。ニーニャ、お疲れさん。ありがとうな、助かったよ」
「遅くなってごめんね。それに修理してただけなのに、レベルも上がっちゃった」
オークのHPは100。経験値は20だ。ざっと見ても20匹以上のオークが倒れているから、いいレベル上げになっただろう。
「俺とウイはレベル22んなった。ミツカは?」
「20。ポイント悩むなあ」
「ニーニャは13になった」
「みんなおめでとう。じゃ、オークを回収するか」
「回収は任せてください。それより、そろそろ日没です。ヒヤマは野営か夜間行軍かを決めてください」
そう言ってウイは行ってしまった。
野営かなあ。ニーニャを疲れさせたくねえし。
「野営でいいか?」
「ああ。ニーニャちゃんのためにも、その方がいいだろうね」
「野営って冒険者みたい。やってみたい!」
「ならそうすっか。ミツカ、ウイが回収終わったら、【危険物探査】を使ってくれ」
「構わないが、なんでだ?」
「ブロックタウンを追い出される程度の人間が、このロボットが守る地点を抜けて行ったとは思えねえ。それなら、このロボットをここに連れてきたのは誰か。武器の1つでもあれば、その人間がどうしたかわかるだろ」
「わかった。でもシティーに行った時みたいなロボットじゃないのか?」
「あれは商店街のマスコット警備ロボットだよ。可愛かったでしょ。たくてぃちゃんはエレガントな迎撃ロボット。この辺を守るプログラムの前に違うプログラムがあったから、どこかに何かがあるはずだよ」
エレガント、なのか・・・
「回収完了。35ありました。私達で倒したのは28ですね」
「お疲れさん。武器も回収したか?」
「ええ。鈍器ばかりですが、売れたら売ろうと思います」
「ならミツカ、頼む」
「わかった。【危険物探査】発動。・・・あるね。こっちだ」
ミツカの後に、たくてぃちゃんが続く。パーティーメンバーなのか?
「ここだな」
「ホワイトボール! しかも2体も!」
「骸骨は1人分ですね」
「ミツカ、武器は?」
「32口径が1。弾は31。スコップが1。これだけだ」
「まあ、ニーニャが喜んでるからいいか。ウイ、ここでキャンプでいいか?」
「はい。準備しますね」
「任せた。俺は骸骨を埋葬してくる」
ありふれた服で骨を包み、キャンプから離れて穴を掘る。服のポケットには、手帳が入っていた。
「ただいま。ポケットに手帳があった」
「お兄ちゃん、バックに『超エネルギーバッテリー』が20もあったの」
「そうか。4分の1はニーニャの取り分だ。好きに使え」
「ありがとう。やったー!」
焚き火の明かりでは、細かい字は読みづらい。太陽はすでに顔を隠した時間だ。だが、【夜鷹】の目の効果ではっきりと字を読める。
「なるほどね」
「何がわかったんだ?」
「ロボットを護衛にして、東から来たようだ。途中で何度もクリーチャーに負傷させられて、『ドクターX』が尽きた。で、ここで亡くなったらしい」
「東にも、人はいるんだなあ」
「集落が全滅して、新天地を探しに来たらしい。東には軍事基地があるという伝説があるから、腕の立つ人間を探して戻りたいとあるな」
「お宝の匂いだな」
「ああ。装甲車、マジであるかもな」
「捕らぬ狸のなんとやらですよ。晩ご飯をいただきましょう」
「はいよ」
皆で晩メシを食いはじめるが、ニーニャはチラチラと奇妙な形のロボットを見るので、なかなか食べ進まない。丸いボールにモノアイが1つのロボット。これでどうやって移動するのか。転がって進んだら、すぐ汚れちまうぞ。
「ニーニャ。誰もロボット取らないから、メシを食っちまえ。そしたら直したらいいさ」
「うん。ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ。なんでも言っていいんだぞ」
「レベルが上って、スキルポイントが7あるの。【ロボット修理】の最上スキル、取ったらダメかなあ?」
「いいぞ。スキルは、ニーニャが好きなのを取っていい」
「ありがとう。お兄ちゃん、大好き!」
「じゃあ、ご飯を食べてしまいましょうね」
「うんっ」
そこからは、早かった。食事を終えたニーニャはスキルを取得し、嬉しそうに笑う。
「最上スキル、楽しみだな」
「ですね。ニーニャちゃん嬉しそう」
「披露してくれ、ニーニャちゃん」
「うん。いっきまーす。【ロボット技師の夢】、発動!」
2体のボールが光に包まれる。3秒ほどで光が消えると、モノアイが点灯してキョロッと動いた。音もなく2体のロボットが宙に浮いて、絡み合うように舞う。
「うんうん。久しぶりに会えて嬉しいんだね。ほっくんにぼーちゃん」
「呼びやすくて何よりだ。ロボットを一瞬で直すスキルなのか?」
「完全修理、思い通りにプログラミング、音声認識機能付与だよ。ここからブロックタウンまではニーニャ達の護衛で、ブロックタウンに着いたらほっくんはブロックタウンの警備。ぼーちゃんはハンターズネストね」
色は純白のまま。ただし、たーくんに乗っていた目の飛び出したフィギュアの顔がペイントされている。青がほっくん、ピンクがぼーちゃんだろう。
「いいのか、ブロックタウンにまで?」
「ミツカお姉ちゃんの町だもの。ほっくんにしっかり守ってほしいんだ。ダメ?」
「ダメなはずがないだろ、ありがとう。今夜はミツカお姉ちゃんと寝ような。うりうり」
「くすぐったいよう!」
「よいではないか、よいではないか。ハアハア」
「そこまで。そろそろ寝ますよ。明日は夜明けから、ブロックタウンに移動です」
「えっ! たくてぃちゃんの『超エネルギーバッテリー』交換と、【プログラミングマスタリー】来たからプログラムも組み直したいの!」
「うーん。時間はかかるの?」
「すぐ終わらせる!」
「ならやってから寝ましょうか。はじめていいわよ」
「ありがとう。あ、ほっくん、ラジオ起動。適当に電波を拾って」
ピッ。そしてノイズ音。くわえたタバコに火を点ける前に、どこかで聞いたようなピアノソロ。
「放送してる奴がいるんだな」
「これはいいな。まるで、焚き火の明かりが増したようだ」
「音楽があると、野営も楽しくなりますね」
音楽で気を良くしたのか、ウイが『ウイスキーの小瓶』とソーダを出してくれた。飲み過ぎなければいいかと、舐めるように飲む。
「胃に悪いので、ソーダも飲んでくださいね。これ、ジャーキーです」
「サンキュ。ミツカもやれよ。ほら」
「ありがとう。はあーっ。かっらあ。ソーダくれ!」
「まったく。ミツカはビールにしなさい。生でウイスキーなんて、アル中さんの飲み物ですよ」
「酷え言われようだ」
ピアノを聞きながら、静かな酒宴が進んでいった。
「終わったよ。今夜はここで護衛して、明日からは元いた付近でオークの迎撃ってプログラミングしたの」
「お疲れさん。たまには様子を見に来よう。ほら、ウイにジュースでももらいな」
「うんっ」
ジュースを飲むニーニャを見ながら、考えていた事を口に出す。
「ウイ、【地獄の壁】の上の【防御力20アップ】と、【挑発】の上の【範囲挑発】を取ってもいいか?」
「うーん。【防御力20アップ】は賛成ですが、【範囲挑発】は必要ですか?」
「ニーニャもいるんだ。敵を俺に向ければ、それだけ安全になる。残り1は溜めて、3になったら防御か回避のスキルを取るから、許しちゃくれねえか?」
「仕方ありませんね。お好きにどうぞ」
「ありがてえ」
スキルポイントを振り終えると、ニーニャが船を漕いでいた。ウイがテントの中に連れて行く。これ以上飲んだら酔うからと、俺もミツカにテントへ連行された。4人並んで眠るらしい。疲れていたのか、すぐに瞼が重くなった。
「たくてぃちゃん、寂しいだろうけどお願いね。ちゃんと会いに来るからね」
音声認識機能はついてねえんじゃ、とは誰も言わない。それくらいに、ニーニャは真剣にたくてぃちゃんを心配していた。
「もういいのか?」
「うん。また会いに来るから大丈夫」
「では、行きましょう。たくてぃちゃん、またね」
「お土産持って会いに来るからなー」
3人が手を振ってるのを見ていたら、ウイに足を踏まれた。慌てて手を振ると、ウイのブーツがのけられる。
「どうすっか。オーク、俺達だけで狩るか?」
「他にやり方があるのか?」
「レイドとか、冒険者にオークの情報を流すとか」
「情報を流すのはわかる。レイドって?」
「冒険者のパーティーを集めて、仲良く戦いましょうってやつさ」
「なるほど。情報を流すのはいいが、肉専門の冒険者は2流がいいとこなんだ。ブロックタウンを拠点にされるのは、ちょっとなあ」
「レイドは?」
「モメると思う。あたし達みたいに、銃だけで武装するパーティーなんて花園くらいだ。誰だってうちのパーティーの隣にいたい」
「難しいなあ。集落か、群れのキャンプを見つけてから考えるか」
「そうしましょう。オークの数がわからなければ、作戦の立てようがありません」