スーパーロボット・タクティカル2000
装備を確認しながら、3人の会話に耳を傾ける。
ハンカチにオヤツにお弁当。まるで遠足だ。足が遅いらしいので、たーくんは留守番になる。
「レーザーライフルは持ったか、ニーニャちゃん」
「うん。いつでも撃てるよ!」
「よし。頑張って敵を蜂の巣にしような」
「うん。ニーニャ、ヒャッハーかロボット蜂の巣にしたい。そしてロボットちゃん修理したい!」
「こんな遠足は嫌だ」
「はいはい。準備も終わったので行きますよ」
ブロックタウンを出て、東へ。
炭化した木立がチラホラ残って、遠くに過去の巨大な広告看板が見える。
ミツカの話では、東と南から人が来た事はないという。オーガではなくとも、人類の敵がいる可能性は高い。それでも様子見がてら、狙撃のみの戦闘なので、どいつもこいつも散歩気分だ。
「瓦礫に上る。ニーニャを頼む」
「了解。ウイもか?」
「【観測手】ですからね。拓けた場所での索敵なら、ヒヤマにだって負けません」
俺は膝撃ち姿勢でスコープを、ウイは伏せて双眼鏡を覗く。
「6時から12時、グリーン」
「いました。2時方向にクリーチャー。キラービーですね」
「実入りは少なそうだな。あれか、補足した。残りを頼む」
岩の転がる花の1輪もない荒野を、1匹の蜂がダラダラ飛んでいる。ニーニャより少し小さいだけの体躯。槍の穂先のような針が、ハッキリ見える。
「2時から6時、グリーン。単独と判断します。狙撃、どうぞ」
「蜂なのに群れねえのか?」
「群れない種もいます。それに、地球の蜂とは違うのでしょう」
「なら殺るか。HPは100。余裕だろ」
揺れながら飛ぶキラービー。時折高度を上げると、羽を休めて少しだけ沈む。狙うなら、そこだろう。今だ。ドォンッ。
「キラービーの死亡を確認。肉は食用です。回収に向かいましょう」
「マジか。経験値は20。美味しくねえな」
「こんなものでしょう。群れでないなら」
「ニーニャ連れて、群れに囲まれるなんてゴメンだ」
「ええ。まったくです。次の索敵ポイントは、キラービーの死体に近い瓦礫の山ですね」
「了解。しかし、あれを食うのか」
狙撃銃のマガジンに1発補充して、キラービーの死体を回収に向かう。
「焚き火跡か。古いな」
「骸骨はありませんが、鍋やコップはありますね。キラービー、回収完了」
「硬貨発見。ウイ、これな。お、これは手帳か。ヒヤマ、見ていいか?」
「ああ。好きにしろ。ウイ、ニーニャの水分補給はこまめにな。座ってもいいぞ」
「はい、ニーニャちゃん。この石に座って、これをお飲みなさい」
「ありがとう。冷たいっ。んっんっ。ぷはあ。おいしーい。お姉ちゃん、これなあに?」
「スポーツドリンクよ。暑い時はこれがいいの」
「こ、これはっ!」
手帳を開いたミツカが、口を開いてそれを見ている。宝の地図とかではなさそうだ。整った眉を、これでもかと寄せている。
「どした、ミツカ?」
「ブロックタウンを追い出された犯罪者の日記だ。恨み事が大半だけど、最後のページに恐ろしい事が書いてある」
「読んでくれ」
「私は連れてきた家畜を餌に、オークの群れを誘導する事に成功した。あと少し、あと少しでオークの群れはブロックタウンを発見するだろう。これで私の愛を受け取らなかった尻軽保安官や、彼女を誑かした冒険者崩れはもうおしまいだ。私に詫びながら、オークに骨まで喰われるがいい」
「で、書いた本人の骨がないと。ブロックタウンに冒険者崩れなんていたのか?」
「曽祖父がそうだったはずだ。曽祖母に惚れられて、ブロックタウンに住む事になったと聞いた気がする」
「オーガ、ゴブリンと来てオークか。ファンタジーだな。ウイ、オークの強さは?」
「たしか、オーガよりはだいぶ下です。ですが、恐ろしいのはその繁殖力。群れなら数は相当なものでしょう。危険と判断したら、ブロックタウンに戻るべきですね」
「エロゲームみてえな感じか?」
「遺伝子の半分が人間なのに、オークになるはずないじゃないですか。夢を見過ぎです」
夢じゃねえっての。陵辱モノじゃ息子は反応しません。
「どうだか」
「心を読むな。可能なら群れを偵察したい。昼まで索敵して、ブロックタウンに戻るぞ」
「お兄ちゃん、オークはカチューシャ肉店が高値で買い取るよ!」
「お、おう。倒せたらな」
「ふふっ。ニーニャちゃんも商人ね」
「もっちろん。今夜はオークの焼き肉だねっ」
勘弁してくれ。缶詰があるのに、なんでクリーチャー食わなきゃなんねんだ。
「さあ、行くぞ。索敵は念入りにやるから、休憩はその時だ」
瓦礫の山があれば上って敵影を探す。それを昼まで繰り返して進んだ。
生物は最初のキラービー以外に見ていない。それをウイと訝しみながら索敵すると、その光景が目に飛び込んできた。
二足歩行の豚。腰蓑だけのそれが、武器を振り上げて走る。
消火栓ハンマーのパイプを握ったオークに、赤いレーザーが吸い込まれた。オークはピクリとも動かない。石器時代のような石斧を振り上げたオークも、何かを叫ぶと同時に撃たれて死んだ。
5匹のオークが倒れるのに、1分もかかっていない。
ハンドサインで下りるとウイに伝えて、ミツカとニーニャの元に戻った。
「どうだった?」
「オークはいた。いなくていいのもな」
「何がいたんだ?」
「キャタピラのロボットですよ。両手がレーザーライフルです。大きさはオーガくらいでした」
「手強そうだな・・・」
「お姉ちゃん、それってこんなの!?」
アイテムボックスから出したらしい雑誌を、ニーニャがウイに突き出した。へえ、写真付きカタログか。
「そう。これよ。えっと、荒地用迎撃ロボット・タクティカル2000」
「すっごい! レアなんてものじゃないよ、メガレアだよ!」
「しかし、安易に倒すのもなあ」
「なんでだ、ヒヤマ。ニーニャちゃんが欲しいなら、倒せばいいじゃないか」
「ブロックタウンとオークの群れを、ロボットが遮断してくれている形なんですよ。倒してオークが行動範囲を拡げたら、ブロックタウンに雪崩れ込んで来るかもしれません」
「それは・・・」
どうしたもんか。現時点では、ロボットがオークに倒されるまで放置がいいのかもしれない。たまに見に来て、ロボットが倒されてたらオークの群れを殲滅。それで行くか。
「ねえねえ。お兄ちゃんもお姉ちゃん達も、ニーニャの職業を忘れてない?」
「直せるってのか、倒したロボットを」
「本当なの、ニーニャちゃん」
「えへへ。今のままじゃ無理だよ。でも旦那さんになるお兄ちゃんが、スキルポイントを使えって言ってくれたら大丈夫だと思うの」
「スキルポイントなら、ニーニャの自由にすればいいんじゃねえのか?」
「ううん。スキルっていっぱいあるし、選択肢もあるでしょ。だからカチューシャ家では、旦那さんと話し合ってからスキルポイントを使うの。今は7あるから、ロボットの修理の方に上げれば、修理は可能だと思うよ」
「なるほど。ニーニャちゃんは複数の修理スキルがあるのね。私は一般的な修理スキルだから、ロボットなんて無理だわ」
ロボット修理にスキルポイントをつぎ込むのか。ロボのみにはもったいない気もするな。
「何ポイント使えば修理可能なんだ?」
「えーっと。元から言うね。【ロボット修理】→【ロボット小部品製作】→【ロボットの知識】→【ロボット自由塗装】→【ロボット武器改造】→【ロボット大部品製作】。ここまであれば大丈夫かな」
「5ポイントか。悩むなあ」
「これがあれば、ハンターズネストとブロックタウンに警備ロボット配置できるから、お兄ちゃんがいいなら取りたいの」
「なんだ。取りたいなら取るといい。スキルポイントは、ニーニャの好きにしていいんだ」
「ありがとう。お兄ちゃん大好き!」
かわええのう。どーれ、頭を撫でさせれ。ほう、これはなかなか。
「では私達は狙撃準備ですね、ロリヤマ」
「ロリヤマ、ニーニャちゃんの護衛は任せろ」
「ロリちゃうわ。ニーニャ、対物ライフルで撃っていいのか?」
「うん。【ロボットの知識】で必要な部品はわかるから、どう壊しても大丈夫だよ」
「了解。どのくらいの頻度でオークがロボットに挑んでいるかは知らないが、倒したらニーニャが修理するまでロボットとニーニャを守る。迅速に行動するぞ」
返事を背中で聞いて、瓦礫の山に上った。対物ライフルを出して膝撃ちでスコープを覗く。キャタピラなので動きは鈍い。しかも停止しやがった。いい的じゃねえか。
「【ファーストヒット】」
HPは500。2射か3射は必要かもしれない。まあ、撃てばわかるか。トリガーを引いた。
轟音。衝撃で、足場が崩れた。マズイ!
落ちた瓦礫の山を駆け上がる。
「ヒヤマ、大丈夫ですか!」
「俺はいい。残HPは!?」
「撃破です。さすがですね」
「は? オーガロードには100ダメだったんだぞ?」
「支配者クラスは防御力が3倍はあります。発見された後でしたし、そんなものでしょう。今回は隠密ボーナスに対物ボーナスが付きますから。それより早く修理に」
「わかった。ミツカ、ニーニャ、行くぞ」
「レベル9になった」
「おめでとな。倒した甲斐がある」
「良かったなあ。ほら、荷物はあたしが持つぞ」
「おめでとう、ニーニャちゃん」
『ドクターX』を腕に注射して歩きながら、オークの襲撃に備えて上げるべきスキルを見る。
もう午後だ。修理にかかる時間次第では、夜戦になるかもしれない。暗視スコープがないので、【鷹の目】を1つ上げて【夜鷹の目】を取得。
「【夜鷹の目】を取ったぞ、ウイ」
「なるほど。夜の戦闘もありえますか」
「用心のためだ」
「見えました。瓦礫の山に当たって止まったようですね」
「都合がいいな。俺はあの上。ウイとミツカは下で、ニーニャの助手と護衛だ。
まずやったのは、3人がかりでロボットを起こす事だった。
すぐにニーニャは修理に取り掛かり、俺は見張りをはじめる。
アイスコーヒーを飲み、初心者の狙撃銃を構えた。遠く見えていた看板が近い。アニメのような絵で、両手に持ったアイスクリームを食べる少女が描かれていた。アイス、食いてえなあ。
見える範囲に、オークの姿はない。集落でもあるのか、群れで移動しているのかはわからない。出来れば集落があってほしい。移動する群れを追って殲滅なんて、考えただけで面倒だ。