表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/239

川辺にて




「ウイ!」


 ミツカの叫びが、遠く聞こえた。

 目の前の光景が信じられない。コメカミを撃ったウイの体が吹っ飛んだ。壁に当って、HPが更に減る。HPバーが半分を切った。次に撃ったら、死んでしまう。


 病院の談話スペースで、入院している子供に絵本を読んでいた。ニット帽。メガネ。淡いピンクの入院着。かわいらしい声をしていた。顔も美しかった。あるはずの黒髪がなくても、彼女は美しかった。いっぺんで好きになってた。


 走馬灯のような思い出を振り切って走る。

 コルトを取り上げて捨てた。

 残る1丁を抜こうとする手を押さえながら、『ドクターX』を取り出してウイの腕に刺す。

 見る間に顔色が良くなる。顔に散った血を拭こうとしたら、強い力で手を払われた。心が、痛い。


「余計な事を。何度だって、死んでやる!」

「なんでだ。なんでそんな事をする」

「この世界にあなたが来たのは私のせいだ。気が紛れるなら、震える手でタバコをどれだけ吸ってもいい。忘れたい事があるなら、記憶をなくすまで酔っ払ってもいい。朝が来て怖さが薄れるなら、私とミツカを好きに抱いていい。あなたが大人になるのはいい。犯罪者を殺すのもいい。でも何もしていない人間を殺すなら、私は私を殺す。許せない。あんな風に笑うあなたを、こんな世界に連れてきた自分が憎い。生き返る? それがなに? すぐに頭を撃ち抜いてやる。何度だって、死んでやる!」


 ウイの唇から、血が垂れた。HPバーが減る。まさか。


「やめろ!」


 左手で顎を挟み、右手の指を口にねじ込む。噛みたいなら噛め。そうだ。死にたいなら、僕の指を噛み千切れ。そうしなければ、舌は噛めない

 左手で『ドクターX』を打つ。


「よく聞け。僕は何も出来ない人間だ。君がいないと、1日だって生きていけない。だから君が君を撃つなら、僕も僕を撃とう。それでいいなら、好きにするといい」


 手を離して、コルトを抜いてコメカミに当てる。


「一緒に死ぬ? 残されたミツカはどうすればいいの?」

「決まってるさ。あたしもここで死ぬ」


 ミツカもコルトを抜く。


「ごめん、ミツカ。君の命は僕がもらう」


 はっきりとミツカが頷いた。


「ずるい。卑怯だ」

「僕はミツカも愛してる。だから命はもらう。ミツカも迷いなく死ぬ」

「出来るわけない」

「そう思うなら撃てばいい」

「出来る、はずがないじゃない! 2人に死んでほしくない!」

「なら、君が死んではいけない。簡単な話じゃないか」

「だって、私のせいでコウジ君はこんな世界に!」

「来れたからミツカに会えた。ねえ、ウイ。罪のない人を殺してほしくないなら、そう言えばいいじゃないか。ウイが言うなら、僕は素直に言う事を聞くよ?」

「ほ、本当に?」

「もちろん」

「じゃあ、殺さないで。なんでもするから、お願い」

「わかった。ミツカ、銃を下ろそう」

「ああ。それと、提案があるんだ」


 黙って言葉を待つ。ウイのコルトを探すと、どこにも見当たらなかった。手を離れたから収納されたらしい。視界の端に、なぜか号泣する変態がいた。見なかった事にして、ミツカに視線を戻す。


「あたし達は、生まれた場所も時間も違う。なのに、こんなにもお互いを大事に思っている。だから、死ぬ場所と時間は同じにしないか?」

「・・・ええ。それがいいですね。1人でも欠けたら、パーティーじゃないもの」

「簡単には死なせねえけどな。【挑発】を取得っと」

「何を取得してんですか」

「惚れた女は、自分で守る。今日から、俺は狙撃手でタンカーだ。パーティーの壁だな」

「モヤシが豆の木になったつもりですか」

「やってみせるさ。おい、剣聖。悪かった、謝る。こっち来いよ」


 なぜか泣いている剣聖が歩いてくる。いや、泣く場面じゃねえから。自殺を止めるべき場面だから。


「気にすんな、死神。ぐすっ」

「なんで泣いてんだか。ほら、お前さんも吸え」


 タバコに火を点けて、箱を剣聖にも差し出す。


「いや、いい。ぐすっ。タバコはやらねえんだ。キスの相手に悪い。ぐすっ」

「は?」

「さっき、切らしてるって・・・」

「婆さんに、売っちまったから。ぐすっ」

「そんな。切らしてるって言ったから、ヒヤマはあなたを殺そうとしたのに。死ねっ!」

「え。なんで俺は怒られてんだ、死神?」

「あー。さっきタバコあるかって聞いた時に俺は吸わねえって言ってたら、ミツカに確認したはずだからこんな事にはなってないって話だ」

「ええっ。俺のせいかよ?」

「そうじゃねえ。でも、これだけは言わせてくれ。死ね」

「じゃあ、あたしも。死ね」


 タバコのフィルターに、べったり血が付いている。

 くわえタバコで、ウイの頬の血を拭った。振り払われはしない。当たり前だ。


「何をやってんだい、あんたら。それにしても剣聖、まともに留守番の1つも出来やしないのかい?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

「よう。遅くなってすまねえ。ブロックタウンへの移民、第1陣を連れてきたよ」


 サーニャ婆さん、ニーニャ、たーくん、花園の3人。その後ろに10人ほどの女達がいた。


「誰が怪我してるの!? ニーニャの『ドクターX』使って!」

「大丈夫よ、ニーニャちゃん。ありがとうね」

「でも血が!」

「そうだ。ニーニャ、土産があるぞ」

「ナイスアイディアだ。ヒヤマ」

「これね。はい、ニーニャちゃん。私達3人からのお土産」


 出されたレーザーライフルを、ニーニャがおずおずと受け取った。


「いいライフルだな。俺達花園には?」

「ねえよ。あってたまるか」

「つれないねえ」

「『サバイバーのレーザーライフル』。こんないい武器、もらえないよ」

「いいんだよ。試してねえが、レーザーライフルなら反動も少ないだろ。貰ってくれ。使わねえなら、店で売ればいい」

「じゃあ、大事にする。ありがとう!」


 いい笑顔だ。小学生がレーザーライフルを構える姿は、違和感ありまくりだけど。


「なあなあ、オーガが出たんだろ?」

「ああ。出たぞ。昨日あのへんで探したが、もういなかった」

「残念だ。ところで、オーガの重火器を持ってないか?」

「6丁ありますよ」

「売ってくれ、頼む!」

「3人で山分けだから、2丁は俺の分だ。それでいいなら、護衛料に持ってってくれ」

「1丁でいい。金も払う」

「だからいいっての。それより、中に入ろうぜ」


 先頭で中に入り、全員が座っても余裕のあるテーブルについた。

 テーブルの上にこぼれた酒と壁で砕けたグラスを見て、婆さんの眼の色が変わる。


「これはどういう事かねえ、剣聖」

「これは死神のアホが・・・」

「高値で遺跡品を買い取って、安くいい酒を売ってやったんだ。その婆に、留守番は任せろと大口を叩いたのは誰だい?」

「俺、かな・・・」

「だったらさっさとグラスを片付けな!」

「はいっ」

「ヒヤマ、ここで暴れたらタレットの餌食だよ。今回は運が良かった。次からは気をつけな」

「悪かった。気をつける。ウイ、そっちでレニーにガトリングガンを出してやってくれ」

「はい。これですが大丈夫ですか?」


 ガトリングガンをレニーがじっくりと見る。使用時に背負う、冷蔵庫のような弾薬箱も開けているようだ。


「そう。『野獣兵のガトリングガン』。状態がいいな。モーターも新品同然だ。弾薬は満タン。10000でどうだ?」

「だから、いらねえっての」

「貰ったら返さねえぞ?」

「大丈夫だ。もう1丁は残す予定だしな」

「ありがたい。後で可愛がってやるぞ」

「間に合ってるよ。にしても、筋力90あるんかよ」

「伊達にレベル30オーバーじゃないさ。オーガを狩るパーティーが全滅してね。婆さんの店でも在庫が切れて困ってたんだ。助かる」


 言いながらレニーは弾薬箱を背負い、ガトリングガンを持ち上げた。その場で反復横跳びをはじめる。どんな筋力と体力してんだか。・・・喧嘩したら負けるじゃねえか。


「剣聖、掃除終わったら来てくれ。話がある」

「ちょうど終わったが、なんだ?」

「座れ。はじめて会った時、なんで隠密状態だった?」

「誰かに見られてる気がして潜んだ。今思えば、オーガのリーコンにでも見られてたのかも知れねえ」

「あの場所には、はじめて行ったのか?」

「いや。前日に通ってる。ブロックタウンが見えたから南に進んで、教会らしき遺跡を探索してその帰り道だった」


 なら、決まりか。どこのどいつか知れねえが、会ったらきっちりケジメをつけてやる。


「タバコを吸う時、フィルターを噛む癖のある知り合いはいるか?」

「うーん。俺は吸わねえから注意して見た事はねえが、思い浮かばねえな」

「そうか。はじめて会った場所とオーガロードとの戦闘場所に、同じ吸い殻が捨てられてた」

「尾行されてるってのか?」

「わからん。ただ、その3日前にははじめて会った場所に吸い殻はなかった。戦闘場所を離れる時もな」

「死体泥棒はソイツか。見つけたらただじゃ置かねえ」

「こっちも気をつけてみる。お互いなんかわかったら、婆さんに伝言を頼むとしよう」

「了解だ。花園も用心したほうがいいかもな」

「わかりました。尾行と噛み跡のあるタバコ。注意します」

「カリーネなら安心だ」

「喧嘩なら買うよ、剣聖?」

「勘弁してくれ、レニー」


 さって、そろそろ寝るかねえ。色々あって疲れた。今夜くらいは、ゆっくり眠ろう。

 そう思っていると、トコトコ歩いてきたニーニャが俺の袖を引いた。


「どした、ニーニャ」

「あのね、ブロックタウンに行ってみたいの」

「婆さんたちは、いいって言ったのか?」

「うん。お兄ちゃんがいいって言ったら、好きなだけ泊まっていいって」

「俺はいいが、ウイとミツカにも聞いてみな」


 俺とウイは面倒だから1階の寝室を使ってるが、2階には客室が3つもある。お泊りくらいは余裕だろう。それよりこれは、ニーニャのレベルを安全に上げるチャンスかもしれない。パーティーに参加して俺が狙撃。レベル1桁なら、面白いようにレベルが上がるはずだ。


「お姉ちゃん達もいいって!」

「良かったなあ。婆さん、いいのか?」

「ああ。なんなら種を仕込んじまっとくれ」

「だから、無理だっての」

「こっちでは合法なんだ。気が向いたらの話さね」

「向かねえっつの。安全なら、レベル上げに連れ出してもいいか?」

「こっちから頼みたいくらいさ。ニーニャ、お礼にブロックタウンでいろいろ修理してやるんだよ?」

「うんっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ