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オーガロードとブロックタウン




 地が揺れ、耳障りな金属音が鳴る。

 オーガロード。オーガ兵の3倍はある体躯に、手製の鎧を着込んでいた。レンチやスパナ、様々な金属製品を細いロープに結びつけた物を、荒く編んであるらしい。歩くたびに、威圧感を垂れ流す。武器は電柱か。こちらの超科学が恨めしい。


「クソッタレ。俺が囮になるしかねえのか・・・」

「へえ。俺達のためにかよ、剣聖?」

「ガキは守るって決めてるんだよ」

「救国の剣聖って名は伊達じゃねえってか」

「けっ。救う国すらねえ荒野だ。だから、ガキぐれえは救ってみせらあ」


 性癖以外は悪くねえか。これならいいかな。


(ミツカ、【ワンミニッツタレット】は最後まで使うなよ。俺はスキルを使い切る)

(わかった。気をつけてくれよ、ヒヤマ)

(ヒヤマなら殺れますよ。信じています)

(サンキュ)

「おい、剣聖」

「なんだ。もうすぐ電柱メイスの間合いだ。俺が引きつける、逃げろ!」

「最上スキルがあるんだがよ、ちっと手助けが欲しい。乗るか?」

「アレを殺れるなら、悪魔とだって寝るぜ」

「銃を警戒して、電柱メイスで顔面を庇ってんだろ。あれどかせ」

「そんなんでいいのかよ?」

「ああ。充分だ」

「なら準備しろ。カマ掘るより簡単だぜ」

「『狙撃手殺しの対物ライフル』取り出し。銃弾はOK。いいぞ、剣聖」

「なんだその大砲みてえな銃。弾も俺の親指より太いぞ」

「とっておきでな。弾も硬貨じゃ買えねえ。そんな事より、頼んだぞ?」

「任せな。こっちだウスノロ。挑発!」


 【チェインヒット】。呟いた。マガジンの銃弾は6発。これで殺れなきゃ、バケモノとガチンコだ。


「ザゴガイギガルッ!」


 叫んだオーガロードが、電柱メイスを振りかぶった。今だ。


「【ワンマガジンタイムストップ】ッ!」


 世界が俺のものになる。ただし、モノクロの世界だ。こんなトコからは、さっさとオサラバしよう。

 立射。しっかりと肩にストックを当てる。反動がハンパじゃねえはずだぞ、押さえ込め。

 外すはずのない距離。1人は嫌だ。早く帰ろう。トリガーを引いた。

 ドッオゥーン!

 衝撃。しっかり踏ん張っていたのに、50センチは体を押し戻された。

 モノクロの世界に、銃声がまだ尾を引いている。時間がない。前に出ながら排莢、装填。ダメージは100。

 125。156。195。243。ダメージを与えるたびに、強すぎる反動で俺のHPも減っていく。HPなんてどうでもいい。次射に耐えれば、それでいい。


「終わりだ、クソオーガ!」


 ドッオゥーン!

 オーガロードのHPバーの上に303というダメージが跳ねると同時に、世界は色を取り戻した。

 痛え。俺のHP、残ってんのか?


「ヒヤマッ!」

「『ドクターX』注入! 死なないでコウジ君!」


 ビクンッ。俺の体が痙攣した。ああ、気持ちいいなあ。


「ヒヤマッ、ヒヤマッ!?」

「いやああああっ!」

「死神、すまねえ。許してくれ、すまねえ・・・」


 あれ、なんか俺、死んだ事にされてねえ?


「死んでねえよ?」

「えっ。だって痙攣・・・」

「瀕死で『ドクターX』打たれると、すっげえ気持ちいいんだって」

「び、びっくりさせるななのです!」

「良かったあ。良かったよう!」

「嫁を2人も泣かせるんじゃねえよ、死神」

「なんでてめえも泣いてんだよ」

「泣いてねえ!」

「泣いてるっての」

「こ、これはガマン汁だっ!」


 ウイとミツカが硬直した。凄えな。これが剣聖の最上スキルか?

 【カウパードロップタイムストップ】。うん。死ね、変態。


「ヒヤマ、コレと話してはいけません。変態が伝染ります」

「さあ、早くブロックタウンに帰ろう。変態になったら困る」

「だな。おい、変態。オーガロードとオーガ兵の半分は貰うぞ。またな。いや。さよなら」

「俺は探索帰りだから、アイテムボックスに空きがねえよ」

「ハンターズネストで売って、戻ってこい。ついでに、ここにオーガが出たって言っとけ」

「その手があったか。そうするよ。ありがとう、死神。おかげで生き残れた」

「気にすんな」

「回収完了。時間がありません。行きましょう」

「わかった。伝言頼んだぜ、剣聖」

「任せてくれ。この借りはいつか返すぞ、死神」


 顔も見ずに手を振って、ブロックタウンに急ぐ。貴重な時間を無駄にしたんだ。急がないと今日中に到着できない。日が落ちても、今日は歩き続けるつもりだ。


「どのくれえあった?」

「オーガ兵は15。経験値から逆算すると、25はうちが倒しました」

「あそこで囮になると言った褒美だ。くれてやれ」

「ええ。私達はレベル19になりましたね。ミツカは?」

「レベル17。信じられないな」

「やったな。そういや、【2丁拳銃】って片方サブマシンガンでも大丈夫か?」

「待ってくださいね」


 瓦礫の街を早足で抜ける。ここは行きにロボットがいた辺りか。あのロボットのバッテリーが船賃の大部分になったし、本体も1200で売れた。リポップすればいいのに、残念ながらマーカーの反応はない。


「お待たせしました。片手撃ち可能なら大丈夫だと判断します」

「了解。悪いが、【2丁拳銃】を取るぞ」

「オーガ兵に囲まれた時に、【2丁拳銃】を取得したのだと思ってました」

「あれは両手に持って片方ずつ撃ってただけだ。スキルがないと、左、右、とは撃てないらしい。あのスタイルは使える。それに固有効果のある銃をもっと手に入れたら、あのスタイルは更に伸びるぞ」

「あまり接近戦はしてほしくないぞ、ヒヤマ」

「まったくです」

「気をつけるよ。よし、取得した」


 2段階目にも食指が動きかけるが、今は我慢だと自分に言い聞かせる。


「私は【弾薬作成】スキルを取得します。威力はわかりませんが、薬莢があれば対物ライフルの弾を再作成できますよ」

「俺が取るよ」

「いいえ。ヒヤマは戦闘スキルを伸ばしてください。サポートは私の仕事です」

「悪いなあ」

「ウイ、あたしがそれ取ろうか?」

「いいえ。ミツカも【地獄の壁】を取るのが先です。その後で、ブロックタウンの役に立つスキルを取りなさい。私達の事は気にしないで決めるのよ」

「私だって仲間なんだぞ!」

「だからですよ。ミツカは仲間だから体力を上げてダメージに強くなって欲しいし、ブロックタウンを出て遺跡探しに行く時のためにスキルを取って欲しい。わかりますね?」

「・・・わかった。ありがと」

「お勧めは【犯罪者察知】の上から3番目、【保安官助手任命】ですね」


 ミツカが足を止めずに黙り込む。スキルの確認だろう。助手に何が出来るのかはわからないが、もしそれでブロックタウンの平和が守れるなら、ミツカはいつでも外に出てブロックタウンの資金集めが可能となる。


「これは凄いな。保安官助手に任命した者に、【犯罪者察知】を付与。その上は【嘘看破】を足した【保安官代理任命】。最上スキルは、【正義の助っ人】? スキル使用時に確率で保安官の守護者を召喚!?」

「やるもんだなあ、保安官」

「スキルポイントは7ある。【地獄の壁】より先に取ってもいいかな、ウイ」

「好きにしなさい。ただ、いつか生存率を上げるためにもスキルポイントを使うんですよ?」

「約束する。ありがとう、ウイ!」


 怒ったミツカがもう笑う。

 小高い丘を登り切ると、ブロックタウンの全景が見えた。出た時と変わらない眺め。いや、日が暮れたから、街の灯りが優しく見える。


「帰ってきたな」

「そうですね」

「ああ。ブロックタウンよ、あたしは帰ってきた」


 元から急いでいたつもりだが、帰るべき場所をこの目で見ればまだ急げるらしい。最後はミツカにつられてほとんど小走りで、ブロックタウンの門に到着した。


「団長、おかえりなさい!」

「ただいま、ダン。ちょうど良かった。今日からお前、保安官助手な?」

「は?」

「名前が見えるようになってないか?」

「うわっ。なんですかこれ!」

「見えてるか。犯罪者はその名前が赤に見えるから、何がなんでもブロックタウンに入れるなよ? じゃ、またな」


 言うだけ言って、さっさとブロックタウンに入るミツカ。ダンさんもかわいそうに。いや、【保安官助手任命】で、仮とはいえ職業持ちになったんだからチャラか。土産だと言って、ライターを放った。


「まずは町長さんに報告ですね。この時間は自宅ですか?」

「そうだと思う。でも面倒だろうから、あたしが説明も報告もしておくよ。2人は自宅で、ゆっくり休んでくれ」

「請け負った仕事だ。報告までするさ」

「ええ。しっかり報酬を受け取ってしまいましたからね。お土産もありますし、お邪魔しますよ」

「報酬なんて。ああ、あたしか」

「かわいそうに、ミツカ。毎晩あんなに弄ばれて・・・」

「人を鬼畜みてえに言うな。楽しんでんのはお互い様だ。それに娯楽のないこの世界、酒とタバコと女くらい自由にやれねえと、日本人なんかすぐにアタマがおかしくなるぞ」

「ここだ。おーい、母上。ミツカです!」


 ドンドンとドアを叩いて、ミツカが叫ぶ。

 うちの近所の2階建てコンテナハウス。普通の家も空き家なのに、ここに住むとはあの町長らしい。


「ミツカ! おかえりなさい。怪我はない?」

「ああ。かすり傷1つない。このヒヤマとウイのおかげですよ」

「どうも、はじめまして。夜分遅く押しかけてすいません。ヒヤマと言います」

「ウイです。こんばんは」

「あらあらまあまあ。さあ、どうぞお上がりになってください。あなたー、ミツカとあの子のいい人がお帰りになったわよー!」


 叫ぶように言いながら、ミツカの母親は家の奥に走って行ってしまった。


「すまないな。騒がしい人なんだ」

「いい母親じゃねえか。綺麗だし」

「手を出したら、本当に引き千切りますよ?」

「出さねえっての」

「ほら、入ってくれ。早く終わらせよう」


 歩くと靴音が鳴る家を進むと、リビングらしき部屋に導かれた。


「おかえりなさいませ、ヒヤマ様、ウイ様。ミツカ、よくぞ無事で戻った」

「お茶を淹れましたので、お座りください」


 茶を飲みながら、全員がウイの報告を聞く。町長夫妻はしきりに感心し、最後に深く頭を下げて礼を言った。


「さて、土産を置いてお暇するか」

「ええ。町長、これはヒヤマと私からの贈り物です。お好きにお使いください。では、お邪魔しました」


 ウイがテーブルに出したのは、猟銃と9ミリ自動拳銃、32口径拳銃に各種弾薬だった。これがあれば、自警団も少しはマシになるだろう。

 慌てる夫妻をミツカに任せ、久しぶりの我が家へと向かった。



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