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目も開けてないプロローグ




「対象の覚醒確認。網膜ディスプレイ、強制展開。ヘルプ表示開始。想定内の混乱を確認。マスター。コウジ・ヒヤマ、まずはヘルプの精読を推奨します」


 初めて聞く女の人の声だ。ベッドから体を起こそうとしてみると、上手くいかなかった。瞼も開かない。闇の中に、ゲームのメニューの様な日本語が見える。いや、日本語じゃない。なのに僕はその文字が読めて、きちんと理解もしている。


「繰り返します。ヘルプの精読を推奨します。・・・イラッ。メガネっ娘の薄い本を読む熱心さで、ヘルプを精読しやがれです」

「誰ですか、あなた・・・」

「メガネをかけた女性に上目遣いでアレされるのが好きな変態のユーザーインターフェース、名前はまだない。ヘルプ項目の精読を強要します。さっさとしやがれです」


 目も開けられず、体も動かない。この声に従うしかないや。

 ・・・まんまゲームの説明書じゃないか。ステータスの説明から、アイテムボックスの使い方まである。気になるのは、SF系のゲームらしいという事くらい。ステータスの筋力の説明欄に、使用できる銃器(レーザー兵器を含む)に影響とある。


「っ、なんだこれっ!」


 最後の1文を読むと、思わず声が出てしまった。


「ヘルプにある通りです。ゲームのような世界でありながら、ゲームではありません。荒廃した世界、隣人は敵か味方か。跋扈する異形のクリーチャー、ゲームオーバーは死。退屈な日常からの脱却、おめでとうございますマスター」


 誰が脱却させてくれと頼んだのさ。


「あのまま生きる屍のような人生を、死ぬまでダラダラ過ごすのが望みでしたか。ドMですね、マスター」


 誰がマスターですか。せめてミニスカメイド服でも着てから言って欲しい。


「マスターのレベルが足りませんので、実体化はまだ無理です。メガネとメイド服でご奉仕させたいのなら、頑張ってレベルを上げやがれです」

「心の声から性癖まで読むのやめてくんない?」

「無理ですね。それより覚悟が決まったのなら、次に移ります。よろしいですか、よろしいですね?」


 ご丁寧にヘルプが消え、はいといいえの選択肢が瞼に浮かんだ。面倒になったので、さくっとはいを選択しようとする。すると、はいの文字が輝き、いいえの文字が消えた。

 ディスプレイまで思考を読むなー!


「まずは職業から選択していただきます。お望みの職業はおありですか?」

「思いつかないなあ。一覧を表示してくれます?」

「了解しました。転職可能な既存の職業を表示します。どうぞ」


 赤ちゃん、幼児、幼稚園児、小学生、子供の使い、子供使い。職業ですらない文字が視界一杯に並ぶ。スクロールしろと念じると、見事に応えてくれた。中学生、ヤンキー、チャラ男、バンドメン。


「うーん。バンドメン、ってんな訳あるかあっ!」

「おススメはユーザーインターフェイスの奴隷(性的な意味で)ですね」

「それは無理。てか職業あり過ぎでしょ。絞込み検索は?」

「ございます。キーワードをどうぞです」

「・・・生存。探索。戦闘も。寂しくない」

「素敵にヘタレてますねえ。4つのキーワードを満たす職業が5つ。3つから1つ該当する職業が、1048ヒットしました」

「5つを表示。あ、詳細もお願い」


 網膜ディスプレイに職業が映る。

 重装クリーチャー使い。

 自分よりレベルの低いクリーチャーを使役する。使役数はレベル依存。重装で生存率は高い。肉弾戦闘もそこそここなす。

 初期クリーチャー、死肉漁り。死体を見つけるのが得意なので探索向き。これであなたも寂しくない。

 初期装備、『初心者の標識ハンマー』、『初心者のナイフ』、『初心者の重装装備』1式、『サバイバルキット』、水と食料10日分。


「1発目からきっついなあ・・・」

「なにより臭いです」

「却下」


 神速の逃亡者。

 驚異的な索敵技術と逃げ足。探索では並ぶ者はない。ストーキングが得意で寂しくない。戦闘も出来るが推奨はしない。だが、生存率は高い。

 初期装備、『初心者のサイレンサー付き22口径拳銃』、『初心者のナイフ』、『初心者の迷彩装備』1式、『サバイバルキット』、水と食料5日分、拳銃弾30発。


「ストーキングは逆に寂しさが募るよね?」

「なによりキモいです」

「次だ」


 世紀末の戦車乗り。

 操縦手、砲手、装填手のクリーチャーを使役して車長として戦う。3体のクリーチャーは歩兵としても育成可能。探索も戦闘もクリーチャーに任せれば脅威の生存率。なによりにぎやかで寂しくない。

 初期装備、『初心者の32口径拳銃』、『初心者の軍刀』、『初心者の軍服』1式、『サバイバルキット』、水と食料10日分、拳銃弾30発。


「おおっ!」

「戦車を手に入れたなら、臭いを我慢する価値はありますね」

「せ、戦車は自己調達?」

「もちのろんです」

「あと2つ、お願いだからマトモなの来て・・・」


 白い死神。

 猟師であり、狙撃手でもある。レベル1から、観測手としてUIを人型で召喚できる。生存率も高く、1人寝の夜も寂しくない。スコープに捉えた狙いは外さない。鷹の目と気配察知で探索も戦闘もバッチリ。

 初期装備、『初心者の狙撃銃』、『初心者の10ミリサブマシンガン』、『初心者のギリースーツ』1式、『サバイバルキット』、水と食料5日分、狙撃銃弾30発、サブマシンガン銃弾120発。


「保留かな。悪くないよね」

「砂塵舞う荒野にギリースーツの少年ですか。萌え・・・ませんね。ただのこじらせたミリオタです」

「くっ」


 不死身の生存者。

 すべてを利用して生き残るサバイバー。UIを不死属性の生物として召喚できるので寂しくない。探索も戦闘も得意で死ににくい。

 初期装備、『初心者の銃剣付き歩兵銃』、『初心者の32口径拳銃』、『初心者の軍服』1式、『サバイバルキット』、水と食料15日分、歩兵銃弾30発、拳銃弾30発。


「最後の2つで悩むなあ・・・」

「生存者は無理だと思われます。死神一択ですね」

「なんでさ?」

「マスターがこの世界に招かれたのは、病院で祈ったからです。抗癌剤の副作用で頭髪の抜け落ちたメガネ少女を見て、心から祈ったでしょう。神がいるなら自分みたいな人間に苦しみを与えて、あんな子には自由な人生を与えろと。そんな願いをこの世界の神にまで届けてしまうマスターが、UIを囮にして自分だけ逃げる事は不可能と判断します」


 おー。あの子は病気が治ったって事か。ならこんな世界に飛ばされたっていいや。


「んー。じゃあ、白い死神でお願い」

「了解です。ステータス白い死神に最適化、・・・完了。残ポイント3を割り振ってください。なお、この後のスキル選択はレベルの上昇により、選択肢が増えていきます。このポイントはスキルの取得に関係ありませんので、お好きにどうぞ」


 筋力、50。

 体力、45。

 感知力、75。

 敏捷力、60。

 知力、50。

 魅力、50。


「これ、最大はどのくらい?」

「限界はありません。ですが、成人男性なら50が平均に近いかと。17歳でその数値は立派ですよ、マスター」

「なら体力に3で」

「さすが平凡マスター。なんの面白みもない振り方ですね」


 ほっといてよ。こっちは命がけなんだ。


「では、スキルの確認をお願いします。初期スキルは5つ。今回は招待ボーナスとして、それプラス1つのスキルを取得可能です」


 【UI召喚】パッシブ。観測手としてUIを人型で召喚できる。UI死亡時の召喚不可ペナルティ時間はレベル依存。

 【鷹の目】パッシブ。視力強化。レベル依存でさらに視力アップ。

 【気配察知】パッシブ。網膜ディスプレイに敵性反応を表示。レベル依存で範囲拡大。

 【隠密】パッシブ。敵に発見されにくい。レベル依存で隠密性アップ。隠密状態からの攻撃は、通常攻撃の3倍のダメージを与える。

 【ファーストヒット】アクティブ。単発の必中射撃。初弾命中時のみダメージ1・1倍。レベル5で1・2倍。以後レベル5刻みで0・1アップ。最大3倍。リキャストタイム3分。


「ん。確認したよ。スキルはツリー状にはなってないの?」

「スキルツリーは存在します。ですが、新規ツリー元スキルの習得に必要なスキルポイントは最低でも3。ボーナスポイントは1ですので、現在は取得不可です。さらに、このボーナスポイントは持ち越しできません」

「あちゃー。なら取得済みスキルのツリーを表示して」

「了解しました。どうぞです」


 【UI召喚】のツリーから見ていく。ツリー元の次からのスキルは、すべて1ポイントで取得可能みたいだ。

 次の2つが【UI体力上昇】と【UI攻撃力上昇】。その上にまたスキルがある。【UI召喚】を1とすれば、一番上は10だ。つまり元になるスキルを含め、19のスキルでスキルツリーが1個だ。

 気になるのは、一番上の【UI2体召喚】かな。その下の【UI装備追加】もいいな。


「君の初期装備は?」

「『UI専用アサルトライフル』、『UI専用サブマシンガン』、『UI専用ナイフ』、『UI専用軍服』一式、『サバイバルキット』です。それに脱着可能な消音器や各種装備。無限弾薬と、水と食料も無限ですね。もちろんUI専用です」

「なんで君だけそんなに豪華なんだっ!」

「当然の権利です。痛い思いをするかもしれないのに実体化させられて、挙句この夏休みに勢いで童貞を卒業しちゃった男子高校生に使役されるんですよ。それも、マスターの理想の外見で。何をさせられるかわかったもんじゃないんですから、このくらいは当たり前です」


 言い返せない。理想の外見っていうのが本当なら、確実にお世話になるだろうから言い返せない。


「くそう。実体化したら覚えててね!」

「ふっ。じゃれつく子犬を軽くあしらってやるです」


 【鷹の目】、【気配察知】、【隠密】は長所を伸ばすか短所を補う感じのスキルツリー。悪くはないけど、今は攻撃力の底上げをしたい。

 【ファーストヒット】の上は、あった。【セカンドヒット】と【スプリットブレット】。

 【セカンドヒット】は、2発目も【ファーストヒット】と同じ効果。

 【スプリットブレット】はワンマガジン、1発の銃弾を0・6倍威力の2発の銃弾にするスキルらしい。上昇はレベル10刻みで0・1威力上昇。最大2倍。リキャストタイム5分。まさしくサブマシンガンにうってつけのスキルだ。迷わず取得する。


「これでキャラクターメイキングを終了します。お疲れ様でした。目覚めたら女神と見まごうメガネ美少女がそばにいますので、這いつくばって足を舐める事を推奨します」

「ゴメンだね。僕はMじゃない」

「吐いた唾は呑まんとけよです。感知力75の感じやすい少年を、あふんあふん言わせてやるですっ!」



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