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ヒヤマ王国(笑)




「んう、何時だ。・・・げ、もう昼じゃねえか。起きろフェイレイ。さすがに俺達だけこんなんじゃマズイ」

「・・・もうムリだって、ヒヤマ。お願いだからもう許せ。何が何だかわからねえぞ」

「寝ボケてんじゃねえよ。起きろ。もう昼だぞ」


 温泉には浸かれそうにないが、このまま服を着るのも気持ちが悪いのでシャワーを浴びに行く。

 体をしっかりと拭いてから、客室に戻った。

 そこでようやく、フェイレイがバスルームに向かう。

 普段着でテーブルの上のゴミを手当たり次第にアイテムボックスに入れていると、パワードスーツと武器まで装備したフェイレイが出て来た。


「急いでんだろ、行こうぜ。ヒヤマ」

「片付けてからだ。なんなら先に行ってろ。【映像無線】を繋いでな」

「そんじゃ、先に行ってっか。おお、イグニスとニーニャとリディーが雪遊びしてらあ」


 カーテンを開けて窓の外を見たフェイレイは楽しそうに言って、あっさりと客室を出てゆく。もうちょっとこう、熱い夜が明けたら甘い朝とかって展開はねえのか。

 黙々と部屋の片付けをしながら、心の中で愚痴が出た。


(フェイレイさんがペンションを出て雪だるま作りに参加しましたけど、ヒヤマは何をしてるんですか?)

(おはよう、ウイ。悪いな、寝過ごしたわ。今、スイートルームの片付けをしてる)

(そんなのは私がしますよ)

(さすがにそれはな。フェイレイは片付けなんかしねえみてえだし、俺がやってからブリッジに行くよ)

(ルーエイちゃんも雪だるまを作りたそうなので、私達も降りますよ)

(ブリッジには誰が?)

(俺だよ。おはよう、ヒヤマ)

(ルーデル。昨日は悪かったな、話の途中で)

(ただの雑談だからいいさ。ニーニャちゃんが、ハルトマンをハンガーに出しておいて欲しいと言っていたぞ)

(了解。そんじゃハンガーに寄ってからブリッジに上がるよ)


 片付けを終えてペンションを出ると、ニーニャ達に混ざって雪だるまを作るフェイレイが見えた。

 それを見守るボルゾイ姿のヒナに、ウイとルーエイが歩み寄る。いつの間にか、大所帯になったもんだ。

 ルーエイはニーニャ達の元に駆け寄り、ウイは1人で俺の方に歩いてきた。


「楽しそうだな」

「ええ。今までは遊びどころじゃありませんでしたからね。やっと腰を据えられたのが敵の目的地と目と鼻の先というのは怖いですが、雪遊びくらいならいいでしょう。ヒナも見ててくれますし」

「まあな。それでも単独行動はなしだぞ?」

「もちろん。ハンガーに行くんですよね」

「付き合ってくれんのか。悪いな」

「ニーニャちゃん達が雪遊びに満足するまで、仕事はありませんから」


 昇降機でヴォーバンに上がり、ハンガーまで歩く。

 後部は1階と2階が吹き抜けになったハンガーで、トラックやHTAの整備くらいは可能な広さがある。整備台にハルトマンを横たえるように置き、俺達はハンガーを出た。


「アイテムボックスにハルトマンがねえと思うと、なんとなく落ち着かねえな」

「ヒヤマの手持ちの中では、一番の武器ですからね」

「武器だと思った事はねえなあ」

「じゃあ、防具なんですか?」

「それとも違うさ。ウイもHTAをニーニャにイジってもらえ。南に帰ったら、無限アイテムボックスで賽の河原に石を積むみてえな、どんだけ時間がかかるかもわかんねえ仕事が始まるんだ。HTAは必要だぞ」

「なるほど。どんな機体にするか、考えておきます」


 HTAに乗ったまま、アイテムボックスの中の物を出し入れできるのかはわからない。パワードスーツでは可能なのだから、おそらく出来るはずだ。

 出来るなら作業はHTAでやるのがいいだろう。

 アイテムボックスから出した瓦礫が崩れても、HTAに乗っていれば怪我をする確率は下がる。

 そんな事を考えているうちに、ブリッジに到着した。


「おはよう、タリエ。温泉をガマンさせて悪いな」

「大丈夫よ。終わったら、ヒヤマと一緒にめいいっぱい愉しむから。いいわよね?」

「もちろん。楽しみにしてるよ。モニターってのはこれか、ルーデル」

「ああ。平和なもんだろう、カナバルは」

「だなあ。広場で雪だるま作ってる子供もいるじゃんか。ニーニャ達もやってたぜ」

「昨日、街の子供達を見て真似したくなったんだろう。カナバルの道路やなんかは雪を溶かすが、公園はわざと溶かさないようにしてあるらしいな」

「いい街じゃねえか」

「ヒヤマ王国の首都にしたいくらいにな」

「ぶはっ」


 ヒヤマ王国。

 その単語を聞いて、思わず吹き出した。

 国の名前はまだ決まっていないが、ヒヤマ王国だけはない。

 ・・・ルーデルって、ネーミングセンスがこれっぽっちもねえんだな。


「タリエ艦長。イーのカメラで確認したんですが、ニーニャ達は今ヴォーバンに戻りました。なので現在、乗組員全員がヴォーバンの中です」

「ありがとう、たーくん。偵察に出したサンは?」

「まだカナバル以外の場所に生命体は確認できません」

「ムリはさせないでね。とりあえず近辺にクリーチャーやカナバル軍の基地がないのを確認できれば、それでいいわ」

「はい」

「すっかり艦長とロボット部隊の隊長が板に付いてるな。この2人にシティーの警備ロボットを預けたら、それだけでカナバル軍は押さえ込めそうだ」

「昨日からの様子じゃ、カナバルの人口は約10000。正規の軍人は200から300と予想されるわ。北の果てという立地が、侵攻を遅らせるとは思う。でも王国軍と反乱軍、どちらにも手を貸さなかったというのだから、奥の手はあると思った方がいいわね」


 200か、多くても300の手勢で国を裏切ってのうのうと暮らしている。


「戦車かロボットか?」

「もしくはシド」

「・・・生体兵器かよ。あれが300もいたんじゃ、アン達を俺達の国に逃すくれえしか手はねえぞ」

「その可能性は低いと思うわ。シドがバケモノになったトリガーは、あの夜の狙撃だと思うし」

「どっちにしても、カナバルまで敵に回したくはねえな」

「そうね。殺しても死なないバケモノだけでも厄介なのに。多くても300の軍で、攻めるならいつでも来いと反乱軍を待ち受けている街まで敵となるとね。切実に戦力が欲しいわ」

「ウイ、俺とホバーでロボット工場でも探しに行くか?」

「その間にシドがカナバルで大暴れ。そんな未来しか見えませんね」

「わかっちゃいたが、簡単じゃねえなあ。どうやったとしてもよ・・・」


 ウイが手渡してくれたコーヒーを飲みながら、平和そうなカナバルの街を眺める。

 晴れているから良いが、吹雪にでもなったらこうはいかないだろう。


「吹雪いたらどうする?」

「たーくんとイー達が頼りね」

「・・・待つのも狩り、か」

「そうね。網は張ったのだから、後は待つしかないわ」


 コーヒーを啜りながら、モニターではなく窓からカナバルを見下ろす。

 俺が闇に紛れて潜入するなら、どこから城壁を越えるか。目的地は街の中央にある城ではなく、見知らぬ人間が紛れ込んでも通報されないくらいに『いかがわしい』通りや店だ。


「ルーデル、売春宿は見つけてねえか?」

「夜間でも篝火を絶やさず、男ばかりが出入りしていたのは門から入ってすぐの左の路地裏だ」

「サンキュ」


 コーヒーの入ったカップが取り上げられる。いつの間にか艦長席から立ち上がったタリエだ。

 その向こうのウイは苦笑いだが、タリエは妖艶な笑みを浮かべながら俺のコーヒーに口をつけた。


「悪い我が君ね。こんなにかわいらしい奥さんの前で、売春宿はドコだ? ですって」

「ルーデルもいるんだ。おふざけはなしだぞ」

「それにここはブリッジ。何もする気はないけど、単身での敵地潜入なんかを考えてしまうくらいに元気が有り余ってるなら」

「・・・わかったよ。だが、ハルトマンやホバーで突入って事はあるかもしんねえ。道を覚えさせてくれ」


 ならばよし。

 そんな感じでコーヒーを返される。

 カップを口に運びながら、呼び止められた天秤棒を担ぐまだ若い売り子と、薄く家のドアを開けて何かを渡す女の手をズームした。

 硬貨。

 それは見慣れた、いつも俺達が使っている物だ。


「通貨は同じ。売り物は凍った魚と」

「門の反対側は中世のお城のような建築物の陰になって見えませんが、氷の張った池のようなものが少しだけ見えます。そこで養殖でもしてるんでしょうね」

「ビルの高層階は空き家か? カーテンすらねえな」

「大きいのは10階建。たとえ兵士でも、階段ではツライだろう。毎日の事だからな」


 風呂やトイレの配管や浄水設備が壊れているのなら、ビルの上層階になど暮らしてはいられないだろう。篝火を燃やして明かりにしていたなら、発電設備はイカれていて電気は使えないという事か。


(お兄ちゃん、お願いがあるのっ!)


 ニーニャだ。

 おねだりなんかたまにしかしないが、それは驚くほど自分のためではない事が多い。

 もう少し、子供らしく欲しい物は欲しいと言ってくれたらいいんだが。


(ニーニャが望むなら、カナバルの城だってぶん取って来てやる)

(あはは。あのねー、キャノピーのない2人乗りのホバーあるでしょー。あれ、2台だけ使ってもいい?)


 ニーニャ達は雪遊びを終え、今はハンガーにいるらしい。

 光点の数からすると、フェイレイも一緒だ。

 居住区の辺りにある光点は、ミツカか。その近くが位置的にアンだな。


「ミツカってまだ寝てんのか?」

「ええ」

「寝汚いのが玉にキズ、ってか。まったく」


 コーヒーのカップを窓のフチに置き、灰皿を出してからタバコを咥える。


(フェイレイのHTA、ホバー移動にすんのか?)

(よくわかったねえ。それに狭いけど砲手席と機銃席も追加しようと思ってー)

(独特のシルエットんなりそうだな。好きにしていいぞ。ニーニャは俺達の宝なんだ。そのニーニャがHTAの設計改造の経験値を上げられるなら、ホバーくれえ惜しくねえ)

(もー。またお世辞を言って。でもありがとう、お兄ちゃん。今からハルちゃんの改造を始めるねっ)

(よろしく頼む)


 カナバルの城壁の外は、見渡す限りの雪原だ。

 ハルトマンがそこを走り回り、戦車の砲撃をスラスターを噴かして回避する。

 ルーデルのスツーカがその戦車を撃ち抜くと、ホバー移動のHTAが門に向かって対戦車砲を。


「ヒヤマ、クリスマスプレゼントを夢想する子供のような顔になってますよ?」

「想像してた。ニーニャがイジったフェイレイのHTA。ハルトマンの肩に対戦車砲なんかを積むと、バランスが悪くて走れもしねえんだってよ。でも、ホバー移動なら」

「なるほど。ですが人型のままでは、やはりムリがあるでしょう。腕付きのホバー機のような感じになるのかもしれませんね」

「それはそれで、楽しそうだ」



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