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到着




 ヘリでの道中はなんの問題もなく、早ければこの明け方にもカナバルを見下ろせる山が見えてくるはずだ。

 闇に目を凝らす。

 変わった形の雪の山が多い。

 瓦礫の上に積もっているからだろうか。


「あれじゃないか、ヒヤマ。今、機首を向ける」


 見えたのは、雪の積もっていない低い山。

 いや、雪はある。

 あるのだが、山頂から中腹にかけて積雪がないので、雪山という感じがしないのだ。


「あの山が見えたって事は、カナバルも」

「ああ。ヒヤマの予想通り、戦前とほとんど変わらない姿だ」

「・・・あちゃー」


 敵対する可能性もある勢力の本拠地が、大戦前の姿を保っている。

 あのビルが普通に使えるのならば、カナバルには俺達の国よりも多くの人間が住んでいるのかもしれない。


「あそこが首都でも良さそうなものだが、やはり寒さが厳しいから地方都市なのかもな。山頂にはクリーチャー、人間、どちらの姿もない。どうする、ヒヤマ?」

「夜が明けたら、カナバルからヘリが発見される可能性は?」

「高いな、もちろん」

「あの山の山頂を見下ろせる山なんて、都合のいいもんはねえか。ギリギリまで近づいて、クリーチャーか兵隊がいればなるべく音を立てずに殺ろうか」

「了解だ。それにしても、なぜ山頂に雪がないんだろうな」

「駐車場や建物の屋根には積雪があるだろ。あの湖みてえの、何かわかるか?」

「ただの池じゃないのか?」

「温泉だよ、たぶん。だから山頂と、溶けた雪が流れ落ちるトコには雪がねえんだろ」

「なるほど。言われてみれば建物は一段高くなっているし、道路以外に運河のようなのがあってそこには雪がないな」


 観光地として整備されているから、温泉の熱で溶けた雪が水になってからの通り道まで用意されているのだろう。

 カナバルが大陸間弾道ミサイルの直撃を受けていたのなら、この山がこの近辺で最大の集落になっていたのかもしれない。


「ルーデル、例の音を出さずに機銃を撃てるスキルは?」

「問題なく使えるぞ」

(タリエ、ウイ、セミーはコックピットに来てくれ。起きてるヤツは見てると思うが、目的地まであと少しだ。ウイとセミーは銃座に。タリエは生体感知を頼む)


 ドアはすぐに開き、3人がコックピットに入ってくる。

 そのままウイとセミーは左右の銃座に座り、タリエは操縦席と副操縦席の間の補助シートに座っているリディーの頭を撫でてからその後ろのテーブルに着いた。


「悪いな、まだ明け方だってのに」

「いえ。射撃準備完了です、ルーデルさん」

「こっちもいつでも撃てるようー」

「了解。山頂に接近する」


 ヘリが高度を落とす。

 見る間に近づいてきた山頂を、舐めるようにして敵を探すらしい。

 しっかりした建物が多い。

 駐車場も積雪が少ない場所があるので、そこにヨハンが作った家かヴォーバンを出して泊まる事になるだろう。交代でする見張りの合間に建物を漁れば、またカレーのルーくらいは手に入れられるかもしれない。


「ペンションに土産物屋。大きいのは温泉宿なんかだろうな。業務用のカレーを手に入れるチャンスだぜ」

「というか、建物の状態が良すぎます。南では滅多にお目にかかれない、極上の遺跡群ですよ」

「北大陸に来てかなり経つけど、こんな状態の良い遺跡があるなんてねー」


 半球状の銃座からは、防弾ガラスの向こうにしっかりと遺跡や駐車場の車が見えている。あの車だって、もしかしたら動くのかもしれない。

 ヘリはゆっくりと地表スレスレを飛んでいる。

 マーカーはまだ発見できない。


「ウイ、山を丸ごとアイテムボックスに収納できねえのか?」

「どうなんでしょう。大型の生命体さえいなければ、山頂を切り取る形での収納は確実に出来ますよ。それではダメなのですか?」

「いや、それでいい。新しい街が1つ作れるぞ、これは」

「持ち帰ったここを街の中心にして、周囲を瓦礫で囲むのですね」

「ああ、瓦礫で国境を囲むための前線基地だ。ありがたい事に敵兵はいねえな。クリーチャーぐれえはいると思うんだが。どうだ、タリエ?」

「反応なし。いるとしたら建物の中に少数ね」

「まさかの安全地帯かよ、この山。降りてヴォーバンに乗り換えたいが、カナバルから見えねえ場所に置いて見張りはパワードスーツでするしかねえな」

「それなら大丈夫よ、ヒヤマ」


 タリエだ。

 銃座は低い位置にあるので顔が見えないが、声には自信が感じられる。


「手があるのか、タリエ?」

「ええ。上がったレベルで、隠蔽系の最上スキルを取得したの。それは私が乗っている機体にも適用されるわ。私が乗っていて、機体が静止している。その状態なら、パーティーメンバー以外から機体は見えない」

「効果時間は?」

「私が機体に乗っている限り、その機体が静止している限り、隠蔽を私が解かない限り有効よ」

「とんでもねえな。前の戦争で俺が殺されたのも、その最上スキルか」

「まさに艦長といった感じだな。頼りになる」

「戦争になりゃ、タリエにも出張ってもらうしかねえかもな。姿を消してアンブッシュとなりゃ、敵は大混乱だ」

「任せて。そのつもりで取得したスキルですもの」


 女を戦わせるなど、本当はしたくない。

 だが、それをしなければならないほどに俺達の国は人手が足りないのだ。

 北大陸に来て、身に沁みた自分の小ささ。

 大きくならなければならない。俺も、俺達の国も。


「着陸するぞ、ヒヤマ」

「頼む。ウイ、降りたらヴォーバンをカナバルから見えない場所に出してくれ。ブリッジにタリエがいる状態で前進、カナバルを見下ろせる位置で停止してタリエのスキルを使う」

「了解です。ガードレールなどを踏み潰して前進になりますけど、いいんですか?」

「あの動きそうな車や、ガラスも割れてねえ建物が無事ならそれでいい」

「わかりました」


 話している間に、ヘリは着陸している。

 まだ明け方だが、全員がリビングのドアから出て来た。パワードスーツに、それぞれの武器もしっかり装備している。

 俺も立ち上がり、パワードスーツを装備した。


「俺とたーくんがまず外に出る。それにヒナが続いて臭いを探ってくれ。他は俺達がいいと言うまでここで待機な」

「アタシも連れてけ、ヒヤマ。待ってるだけなんて性に合わねえ」

「フェイレイならいいか。そんじゃ左を頼む。たーくんは右な」

「任せろ」

「イエッサー、ボス」


 ルーデルが何か言いたそうだが、この3日はルーデルとジュモが夜もヘリを飛ばしてくれていた。しばらくはゆっくりしてもらうつもりだ。

 ルーデルの肩を叩き、ハッチの前に立つ。ルーデルは、諦めたように苦笑いして頷いてくれた。

 サブマシンガンとマグナム。どちらも抜く。念のために、パワードスーツは近接戦闘用だ。もしも雪男がいたら拳から飛び出す仕込み刀と、肘と膝に付いているトゲで仕留めればいい。


「ハッチ、開けるぞ?」

「やってくれ」


 風。

 肌では感じないはずのそれを、なぜか身に受けた気がした。硫黄の臭いまで嗅いだ気がする。

 昔、父さんと母さんによく温泉に連れて行かれたからか。

 雪国の温泉。懐かしい、素直にそう思う。

 感傷的になりかけた自分を叱咤し、外へ飛び出した。

 ガードレールがあるので道路かと思ったが、どうやらここは駐車場のようだ。車は建物に近い場所にしかないので、ヴォーバンで踏み潰してしまう事もなさそうだ。


「クリア」

「こっちもだ」

「ヘリの反対側に回る。ヒナ、臭いを頼むぞ。こんな環境じゃ、シドが潜伏場所に選んでも不思議じゃねえ」

「いおう? いがいのにおいはない。でもすこしさがす」

「頼んだ」


 ヘリの反対側。

 どうやら、源泉が湧いて大きな池のようになっているそこは、入浴するための露天風呂ではないらしい。湯は汚れて濁っているし、脱衣所なども見当たらない。中に入れないように、ガードレールで塞がれてもいる。


(クリア、か。温泉まであるんだから、雪男の繁殖地になっててもおかしくねえだろうにな)

(においひどいから、よりつかないのかも)

(そんなに硫黄くせえのか。もういいぞ、ヒナ。ムリはすんな)

(ヘリは収納しました。ヴォーバンを出すので、建物の方に移動して下さい)

(了解。先行する。行こうぜ、たーくん、フェイレイ)


 3人で溶けかけている雪を蹴って走り、階段を上がって建物にクリーチャーがいないか探す。

 俺が覗き込んだのは、シャッターが半分以上も下りた土産物屋か何かだ。シャッターに奇妙な人形が描かれている。


(なんもいねえな)

(その店以外はシャッターが完全に下りてます。安全なようですね)

(ヒヤマ、向こうの建物はここのより大きいぞ。いるならあっちじゃねえのか?)


 フェイレイが指差すのは、カナバル寄りの建物だ。

 かなり大きな建物が1つ。それなりのが5つ6つ見えている。大きいのが温泉宿で、他がペンションだろう。大きなホテルがないのは、スキー場にするには向かない山だったからだろうか。


(・・・ああ、こっちにもスキーがあるのかわかんねえもんな)

(お兄ちゃんのスキー板? せっかく作ったのに使ってないねー)

(シドをぶっ殺したら、スキーを教えてやるよ。ニーニャ)

(ほえっ。あれって偵察用の装備なんじゃないの?)

(そうだけど娯楽でもあるのよ。坂道を滑り降りたりして遊ぶの。雪国育ちなのに経験がないので、私も楽しみです。ヴォーバンを出しますね)

(頼む。じゃあウイには俺が教えねえとな)


 手取り足取り尻取り。

 ゲレンデが溶けるほど、ってやつだ。


(どしたの、ウイお姉ちゃん?)

(ちょっと悪寒が。はい、出しました。乗り込んでブリッジに行きましょうか)

(ヒヤマ、アタシらはこのままあっちの建物を見に行こうぜ)

(本気かよ。あっちにゃクリーチャーがウジャウジャいるかもしんねえんだぞ?)

(だからだよ。もしヴォーバンに侵入するようなのがいたら、女達が危ねえだろ)

(それはそうだが、・・・ヤバそうなら退いてルーデルとセミーにも出てもらう。だから軽い偵察になるがいいか?)

(いいよいいよ。行こうぜ)


 ルーデルとセミーが最初から一緒に行くと言うと思ったが、それはないらしい。

 ヴォーバンの昇降機に乗り込もうとしているウイの所まで走り、剣と盾を出してもらった。剣は刃の部分が高速振動してチェーンソーのように敵を斬り、盾は前面から3回だけトゲを射出できる。

 いるとしたら高確率で雪男だろうから、これらは持っていくべきだ。

 盾は腰の後ろに引っ掛けて固定し、剣は左腰に装備した。サブマシンガンは右腰、マグナムは右脇だ。


「頑張って下さいね、ヒヤマ」

「危険だからって止められるかと思ったが」

「信用していますので」

「そうか。それは嬉しいな。行ってくる」



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