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観光ドライブ




 どこまでも楽しそうで、それでいて熱意を感じさせるリディーの相槌と、ルーデルの俺にでも理解できるほどわかりやすい授業を聞きながらホバーを進める。

 街道を逸れてもクリーチャーには遭遇する事はなく、まるで雪国に来た観光客のドライブだ。


「へえっ、あのちっちゃかったニーニャが、戦闘スキルを取ってクリーチャーを撃つんだー」

「はい。それに狙撃の経験もあるんですよ」

「そりゃ凄いねーっ」

「ボスからもらったスナイパーライフルを宝物にしていて、子供が生まれたら譲るそうです」

「じゃあ、バールとナックル武器はセミーが贈ろうっと」


 あんな物を贈られた俺の息子か娘は、いったいどんな顔でセミーに礼を言うのだろう。面白そうだから、放っておくか。


「セミー達は俺達と南に帰るのか?」

「・・・まだチックに相談してないけど、婆ちゃんが生きてるうちに帰りたいと思ってる。爺ちゃんにも会ってみたいし」

「そうか。ハンターズネストは、俺達も気に入っててな。想い出ってのがある場所だ。跡継ぎが出来たのは嬉しい」


 ニーニャは俺達の視界と音を網膜ディスプレイに出していないらしい。聞いていれば、ここぞとばかりにはしゃいだだろう。

 帰ったら教えてやるか。


「ヒヤマ達は、あの辺の街を国にするんだよね」

「ああ。最初は東部都市同盟って名前でな。国ってほどのモンじゃなかったんだが、成り行きでよ」

「軍隊は、運び屋さんって人とルーデルさん?」

「そうなるな。まあ、軍隊って言えるほどの組織になるには何年かかるか・・・」


 運び屋の体が思い通りに動くうちに大軍を組織できれば、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドは潰せるだろう。アポカリプス教国も上手く敵対してくれれば、どちらも排除する事すら可能なのかもしれない。

 ルーデル達グールに寿命はないので空軍は安泰だが、問題は陸軍だった。

 俺が運び屋くらいの腕になれるのなら2、30年は大丈夫だとは思うが、そうなれる保証などない。


「チックは戦争になればルーデルさんを手伝うでしょ。じゃ、セミーは運び屋さんって人のお手伝いだねー」

「そこまでしてくれんのかよ。国民になるからって、ムリに戦わなくていいんだぞ」

「ムリにじゃないよ。ほら、シティーを出ると瓦礫しかなくってさ。そこにスラムの人達が暮らしてたでしょ」

「酷い暮らしだったらしいな」

「うん。正直、子供が暮らしていい環境じゃなかったよ。でも、今は違うんでしょ?」

「スラムそのものが、もうねえからな。いや、あるっちゃあるんだが街としての体をなしてねえ。残ってるのはギャングとそれに近い商人、それとこれからも人から奪う事でメシを食ってこうって連中だけだ」

「どうするの、その人達?」

「殺す」


 ギャング組織の解体は、俺が帰るまでには終わっているはずだ。

 それでも、真っ当に働く気のない人間はそれなりにいるだろう。それは、俺が殺す。嘘がわかるこの世界でも、それは許されない事なのかもしれない。だが、誰かがソイツに傷つけられる可能性があるのなら、俺は喜んで手を汚すだろう。


「・・・ヒヤマならそうするか。まだ会ったばっかだけど、なんとなくわかる」

「そりゃどうも。理解者が増えて嬉しいね」

「でさ、スラムをどうにかしたいっていうのは、セミーとチックも子供の頃から思ってたんだ。わざわざ言葉にはしなかったけどさ」

「タリエもスラム育ちだもんな」

「うん。あんな場所でも、セミー達の故郷だからね。いつかは帰るつもりだったんだ」

「ニーニャが喜ぶよ。それに爺さんと婆さん、親父さん達もな」

「故郷を良くしてくれた王様には、恩返しをしないとね」

「だから戦争になれば手を貸すってのか。ありがてえが、ムチャはなしだぜ?」

「もっちろん。それにチックと2人でかわいがってあげるから、たまには1人でハンターズネストに来るといいよっ」

「マジかっ!?」


 いかん。

 つい大声を出したが、誰かに見られてねえだろうな。

 無線の声は、リディーとルーデルのものだけ。まだ授業中のようだ。

 ・・・良かった、聞かれてねえな。


「映像は編集しておきますね、ボス」

「・・・撮ってたんかよ、たーくん。帰ったら街の酒場で、最高級のオイルを奢ろう」

「売ってませんよ。どんな街ですか、それ」

「喧しいクラブ。踊る七色の光と半裸のネーチャン。カウンターでは戦いから帰ったアンドロイドと冒険者が、酒とオイルで乾杯するんだよ」

「戦いというのは?」

「宇宙戦争。人類は謎の異星人から突然襲撃されてな、砦代わりの地球より巨大な人工衛星を基地にして敵を食い止めてるんだよ。くうーっ、燃えるねえ」

「兵器はもちろん?」

「巨大人型ロボットだ!」

「はいはい・・・」


 セミーが俺とたーくんの会話を聞いて笑っている。

 俺としては大好きなジャンルなのだが、趣味の合う人間がいなくてつまらない。


(発見しました、師匠。ヒヤマさん達のホバーですっ)

(どうだい、保護色というのは厄介なものだろう?)

(はい。ホバーの塗装が白じゃなければ、もっと早く発見できたはずです)


 ルーデルにかかると、俺とホバーも教材になるらしい。


(そろそろ高度を落とすぞ。敵の街が見えた)

(はいっ)

(どんな街だ、ルーデル?)

(雪原にポツンとあるのは、ダウィンズの街と変わらないな。ただ、ビルはないようだ。代わりに工場のような建物が見えたぞ)

(シティーを思い出すな。高台はなかったか?)

(風の具合で丘のように積もった雪は見えたな)

(なるほど。ありがとう)


 偵察に来た俺達が、街に発見されたら意味がない。

 多少距離があってもホバーを停め、捜索部隊が出ないか見張るつもりだ。


「ヒマだろう、セミー。もう少しで街を見張れる場所だからな」

「いいよ。ヒヤマともたーくんとも、こんなに話したのは初めてだし楽しい」

「そうか? けっこう話してる気がするけどなあ」


 たーくんの計算通り15時には遠く街を望む雪溜まりに到着し、ホバーを接地させて街の門を見張れる態勢が出来た。


(やはりそこか。周囲に敵影はなし。俺達は戻ろう、リディーちゃん)

(はいっ)

(次はチックの番か、ルーデル?)

(ああ。スキルを取得したから単独飛行も可能だが、最初くらいは後席でフォローしようかと思ってな)

(ルーデルが後席なのかよ。いい経験になるだろうな)

(そんな事はないさ)

(またまた。あるよな、チック?)

(・・・んな)

(は?)

(話しかけんなって言ってんだよ、変態野郎。今からオレは後ろに空の英雄を乗せて飛ぶんだぞ? イメージトレーニングの成果が消えたらどうすんだ、ボケ)


 相変わらず俺への扱いが酷い。

 こんなんでハンターズネストに泊まった時、大丈夫なんだろうか。


「捜索部隊はまだ出ねえか」

「本当に来るのー、ヒヤマ?」

「あちらさん、戦車まで出してっからなあ。ダウィンズを手強いと見て戦力のすべてを出したんなら、あの街にはトラックすら残ってねえ事んなる。それなら、捜索部隊すら出せねえさ」

「なるほどー」


 今のシティーや空母の暮らしを話しながら、遠くに見える街の門を見張る。

 冒険者とギルドの説明をすると、セミーは瞳を輝かせていた。ハンターズネストの営業を放ったらかして、冒険者として遺跡でも探しに行きそうで怖い。


「でもハンターズネストみてえな場所が、各地に必要なんだよなあ」

「なんで?」

「国をまるごと瓦礫で囲んで、中のクリーチャーを殲滅するんだぞ。そうなれば、冒険者の狩場は国境の向こうだ。どう考えても国境の近場に酒場と売春宿、クリーチャーの肉を冷凍する場所は必要だろう」

「そっかー。人を雇ってハンターズネストの支店を出してもいいけど、そうなると忙しくて嫌になっちゃいそうだねえ」

「まあ、婆さんの商業ギルドに建物を売って経営してもらってもいいし、街って扱いにするなら国が作らなくちゃならねえ。それにまだ先の話だから、ゆっくり考えるさ」

「国内のクリーチャーを根絶やしにするなんて、それだけでも大仕事だもんねえ」

「だな」


 街の門が開く気配はない。

 元々、ヒマだから出向いただけだ。空振りでも構わなかった。


「ハンターズネストかあ。シティーの店を継ぐよりはいいけど、気軽に探索なんかには出られなくなっちゃうなあ・・・」

「たまになら店番くれえするぞ?」

「あははっ。王様に店番させられる訳ないでしょ」

「気にしたら負けさ。そういや、ハンターズネストって2人がメシ食ってけるほどの儲けがあんのか?」

「・・・あ。今は大丈夫だけど、あの辺にクリーチャーが出なくなったらアウトかも」

「それも考えねえとなあ。パッと思いつくのは、運河を増やして水路を整備しつつハンターズネストを移転。でも運河を掘ったら水が足りなくて水深が浅くなった、なんて事になれば取り返しがつかねえ」

「それはヤバイねえ・・・」


 国をまるごと瓦礫で囲み、クリーチャーを根絶やしにするまで10年は必要だと思っている。今ここで考える事ではないかと、ファンを回してタバコを咥えた。

 防弾樹脂の透明なキャノピーがあるのでファンの位置は俺の腰の高さだが、動かさないよりはいいだろう。


「セミーも吸うけど、いいよね?」

「いいけど吸ってるトコなんて初めて見るな」

「普段はチックのを奪うだけ」

「・・・なるほど。事後のベッドでか」

「そゆことー」


 2人でタバコを吸い終えても、街には何の動きもない。

 だが、ダウィンズの街より低い城壁の向こうに、家から転がり出る人影が見えた。


「なんだなんだ。家から子供が飛び出したぞ・・・」

「ホントだ。って、あんな寒いのに裸じゃないのっ!」


 たしかに子供は服を着ていない。

 正確には、破られた服を引きずりながら何かから逃げているようだ。

 うちのメンバーで一番若い、リディーよりも幼い少女。

 かわいそうに。涙がこぼれては頬で凍り、手足の先もすでに真っ赤だ。あのままではすぐに凍傷になってしまうだろう。


「まさか、シドか・・・」


 そうならハルトマンで狙撃。


「見てっ!」


 少女が転がり出た家から、まだ若い男が飛び出す。

 10代の後半か。


「要するに、ロリコンのクズが獲物に逃げられたって事か」


 助けに行きたいが、2人がいるのは敵の街の奥深く。

 それでも、ハルトマンで助けに行こう。そう思うと同時に、何かを殴る音がした。


「・・・ホバーを出して」

「待て、俺がハルトマンで城壁を」

「動かないなら走って助けに行くよ。いいからホバーを出してっ!」

「落ち着け、だから俺が!」

「わかんないでしょ。犯されそうになって逃げ出す女の子の気持ちなんて。これが最後だよ、ホバーを出して!」


 過去の自分に重ねちまってんのか。


(・・・こちらヒヤマ。これより、敵の街に突入する)



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