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2人の少年




「よう、御曹司」

「ちょっとツラ貸してくれねえか、王様?」

「断る」

「んだとっ!」


 一瞬で上気した、ジュードのあどけなさを残す顔を睨みつける。

 言葉だけは威勢が良いが、ジュードは数秒で視線を逸らした。俺が悪者みたいだからやめて欲しい。

 シドとは違うタイプの、優しげな顔の美少年。

 兄2人が立て続けに死に、自分が家を継ぐしかなくなった。それで悩んでいるのかもしれない。

 だが、悩みなど誰にだってあるのだ。

 コイツが悲劇の主人公を気取るのはいいが、それで誰かに迷惑をかけて『こんなに悩んでいるのだから』なんて理由で許されるはずがない。自分の親の主が降伏するとまで言った、隣国の重要人物にツラを貸せとは恐れ入る。

 顔も体格もいいから、誰もが甘やかしてきたのだろう。


「俺が10分の時間をムダにしたとする。その10分で俺が、どれだけの敵やクリーチャーを殺せるかわかるか? 俺が遺跡を探して帰ったら、10分でどれだけ稼いだ計算になるか想像できるか? 俺が10分もの時間、自国の事を考えないなんてあり得ねえんだぞ。テメエはツラを貸せなんて気軽に言うが、それがうちの国民にどれだけ迷惑をかける行為かわかってんのか?」

「俺とそう変わらねえ歳のくせして、偉そうに言うじゃねえか・・・」

「歳はな。それ以外は何から何まで違うさ」


 思い出すのは、キマエラ族と初めて会った日の事だ。あの少年は立ち直ったが、コイツはどうなるかわからない。そう考えると、あまり話さない方がいいような気がする。

 考えの足りない人間が嫌いだ。それは、昔の俺があまり考えずに突っ走って失敗ばかりしたからなのか。このまま立ち話でもしていたら、俺はガマン出来ずにコイツを殴るくらいはするだろう。

 構わずに歩き出す。

 外に出る前に、ヘルメットを装備した。


「待ちやがれ、おいっ!」


 ジュードはマフラーをするのも忘れ、俺を追ったらしい。見ているだけで寒そうだ。


「質問に答えるなら、街の外まで歩く間だけ話を聞いてやる」

「なんだよ、質問ってのは」

「・・・アンを裏切る気はあるか?」


 足を止め、ジュードの目を見て言った。


「ある訳がねえっ! 言っとくが、俺を家臣にしようとしたってムダだぞ!」

(ミツカ?)

(ウソじゃないね)

(そうか。サンキュな)

「頼まれたっていらねえよ、御曹司」

「なんだとっ!」


 歩き出す俺をジュードが追う。

 そして何か話しかけようとして、ジュードは黙り込んだ。

 かなりの時間、ジュードは何も言わず俺の隣を歩いている。時折チラチラと向けられる視線がウザい。

 だが歩きながら、どこかで感じた事のある申し訳なさのような物を俺は感じ始めていた。


「ああ、野良犬に懐かれた帰り道かコレ・・・」

「なんか言ったか、王様?」

「あんでもねえよ。それより、もうすぐ門が見えるぞ」

「・・・あ、あのよ」


 ジュードが言いかけると、パワードスーツを着たイグニスが積雪を蹴り飛ばしながら駆けて来た。


「おいおい。1人か、イグニス?」

「はいっ。送ってくれるって言われたんですけど、すぐそこですからっ」

「転ばねえようにな。それといつまでここにいるのかはわからんが滞在が長くなるようなら、たまにはニーニャとリディーに顔を見せてやってくれ」

「はいっ。では失礼しますっ」


 イグニスがまた走り出す。

 俺も歩き出したが、ジュードは口を開こうとはしない。

 ちょっとタイミングを外されたくらいで、だらしないモンだ。ヒナとは違って駄犬だなコイツは。


「ジュードはいくつになる?」

「歳か? 18だ。同じくれえだろ」

「まったく同じだな」

「やっぱりか。・・・あのよ。チラッと聞いただけだが、フェイレイってのとアンタは伝説の稀人なんだよな?」

「伝説は知らねえが、そうだな」

「だったらこの世界の生まれじゃねえんだろ。それがなんで、王様なんかになってんだよ?」

「成り行きだな。そうとしか言えねえ」

「・・・成り行きって」


 それ以外に言い方はない。


「惚れた女と2人で、雨も降らねえ荒野に放り出された」

「雨が降らない場所なんてあるのか・・・」

「ある。俺達の国には、雨は降らねえ。もちろん、雪もな。そんで、女を守りたくて戦った。そっからは、雪だるまだな」

「雪だるま?」

「ガキの頃やんなかったか。雪球を転がして、でっかくしてよ。大きいのに小さいのを載せて、雪の人形の完成だ」

「・・・ああ、ファルクス・ドランクスか。やったやった」

「雪を転がすと大きくなる。そんな風に、仲間が増えた。そりゃ、守りてえモンが増えたって事だろ。俺が王様なんて笑っちまうがよ、守りてえモンがあるからその役目を受けたんだ。これで満足か?」


 ジュードは何も言わない。

 門はもう目の前だ。

 ジュードの足音が止まる。

 戦国時代の始まりに、思わぬ形で父の後継者になった。兄の死を悼みながらも、それ以上に不安だったのだろう。もう少しマシなアドバイスをしてやりたいが、俺だってまだ18のコゾウでしかない。悩める若者にアドバイスするには、決定的に人生経験が足りないのだ。

 振り返る。


「お互い、まだガキだ。でも努力を続けてりゃ、いつかなれるはずだ」

「何にだよ?」

「親父や兄貴みてえにだよ。うちの親父と兄貴は、頭のネジが何本かぶっ飛んでるがな」

「・・・なれんのかな」

「俺はそう信じてるぜ。またな、御曹司」

「あっ、おい」


 門はハンドルを回してチェーンで巻き上げる仕組みのようだ。

 門番に礼を言い、屈んで隙間を抜けて門の外に出る。

 少し離れた場所にあるヴォーバンの甲板で、ミツカが手を振っているのが見えた。


(おい、まさかトラックなんかの修理、屋外でやってんじゃねえだろうな?)

(まっさかー。カタパルトを付けに来ただけっ。おかえりなさい、お兄ちゃん)

(なら良かった。ただいま。終わったらすぐ中に入れよ?)

(はーいっ)


 ヴォーバンは、陸上空母と言えるほどに大きい。

 近づくとすぐに、小さな昇降機が下りて来た。資材の搬入や歩兵の出撃などは後部ハッチからやるらしいが、数人がヴォーバンに乗るだけならここが早くて便利らしい。


(ありがてえ。タリエか?)

(そうよ。ウイはルーデルさんの航空学校のお手伝い)

(リディーなら良い生徒になるさ)

(オレへの嫌味か、変態)

(・・・チック? そうか、飛行機の操縦スキルなかったんだったな)

(もう取ったけどな。ルーデルさんの教えなら、スキルで得た知識よりも役に立つ)

(おだてても複座に改造した軽戦闘機しか出ないぞ、チックちゃん)

(上がるならついでに遺跡がねえか見といてくれよ、ルーデル)

(任せておけ。ヒヤマはどうするんだ?)

(まだ昼前だからなあ。ホバーで戦車を出した街の偵察にでも行くかな)


 本当はヘリで遺跡を探してそのついでに偵察のつもりだったが、カタパルトが使えるようになったなら、チックとリディーはすぐにでも飛行機を操縦してみたいだろう。ヤボな事を言うつもりはない。


(ヒヤマ、まさか1人で行く気ですか?)

(みんなそれぞれ、仕事があるだろ)

(僕は大丈夫ですよ、ボス)

(セミーもっ!)


 どんどん言動が幼くなってくな、セミー。地が出てきたんだろうか。


(そんじゃ、降りてきてくれ。せっかく昇降機を下ろしてくれたのに悪いな、タリエ)

(気にしないで。それよりバカ正直に街道を進んだりしないでよ?)

(わかってるよ)


 ホバーを出して乗り込みエンジンをかけて待っていると、近接戦闘用パワードスーツ装備のセミーと、しっかりカメラを構えているたーくんが降りてきた。

 呆れながらキャノピーを開け、2人を乗せる。


「仕事熱心だなあ、たーくん」

「最近、撮るのが楽しくなって来たんです」

(セミーの護衛も頼むな、たーくん)

(任せて下さいチックさん。この身を盾にしてでも、セミーさんには怪我をさせません)

(いや、守るのはそこの変態の魔の手からだ)

(バカ言ってんじゃねえよ。カメラを持ったたーくんがいるのに襲ったら、・・・一粒で二度美味しいってヤツか?)

(ブチ殺すぞ、変態!)

(・・・冗談だ。そんじゃ出発する)

(ルーデルさんがリディーちゃんとチックさんの訓練がてらホバーを見ててくれるそうなんで止めませんが、本当に気をつけて下さいね)

(セミーに怪我でもさせたら、チックに殺される。ヤバそうならすぐに逃げるさ)


 そう言われてウイは納得したらしい。

 ホバーを発進させる。機首を雪の壁に向けて、ジャンプボタンを押した。


「あれ。街道を進むなって言われたけど、雪の壁の上にジャンプじゃ届かねえぞ・・・」


 圧倒的に高さが足りない。


(今、ダウィンズに街の兵の仕事を説明してもらってる。週に一度、隣町への街道を半分まで除雪車で雪かきするらしいぞ。それが反乱が始まるまでの約束事だったらしい)

(除雪車があんのか。向こうの街にもか?)

(あっちにゃねえらしい。だから隣の領地を預かるナントカって貴族は、ダウィンズを嫌ってるんだとさ)

(妬み嫉みで戦争すんなってんだよなあ、ったく。ありがとよ、フェイレイ)

(ダウィンズの話はつまんねえんだよ。だから【映像無線】はいい暇潰しだ、気にすんな)


 フェイレイの言う通り2時間ほどホバーを走らせると、眼前に雪の壁が立ちはだかっているのが見えた。

 いや、違う。

 雪の壁ではなく、坂道だ。

 どうやらここまでは、トラックではなく戦車を先に立たせて進んでいたらしい。


「って事は、こっからさらに2時間もかかるのか・・・」

「クリーチャーも出ないし、ヒマだねえ」

「というか、今は13時です。15時に街の偵察を開始すると帰りは夜ですよ、ボス?」

「暗視スキルがあるから夜道は怖くねえ。あ、セミー。夜になるとクリーチャーが増えたりすんのか?」

「増えるっていうか、夜行性のクリーチャーは動き出すよね」

「・・・それでも、再度の攻撃がありそうかどうかだけでも確認したい。付き合ってくれるか?」

「とーぜんっ」

「もちろんです、ボス」


 ホバーは雪の急坂を難なく登った。

 このまま戦車の轍を進んで、帰らない部隊を捜索に来た新たな部隊と鉢合わせになっても面倒だ。街道を逸れて、捜索部隊がいれば発見できるほどの距離を保って進む。


「街を見下ろせる高台があるといいなあ」

「狙撃ですか、ボス?」

「都合よく敵の親玉が外に出るとは思えねえけどな。チャンスが転がってれば、キッチリ殺るさ」

「そんなまだるっこしい事するより、ホバーで街の軍隊を潰しちゃおうよ、ヒヤマ!」

「アホか。セミーを危険な目に遭わせたっつって、チックに殺されるっての」


 無線から、リディーの興奮した声が聞こえる。

 ポルとは段違いのパワーと言っているので、ルーデルの後席で空に上ったのだろう。


「楽しそうだな、リディー」

「次はチックかぁ。もうソワソワしちゃってるんだろうなあ」

「ヘリと戦闘機じゃ、かなり違うんだろうからな。ムリもねえ」

「ヒヤマは飛行機には乗らないの?」

「憧れた事はある。でも今から操縦スキルを揃える事を考えるとな。ちょっと手が出ねえよ」

「普通はそうだよねえ」



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