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ユニークスキル=主人公




 早朝の雪原は、朝の陽射しを受けて輝いている。

 パワードスーツの遮光機能がなければ、サングラスを手放せないだろう。


「お、おっきい・・・」

「今から中に入るんだぜ、リディー。大丈夫だ、すぐに良く、いでっ!」

「アウトだ、変態」

「同意します」


 チックに蹴られたケツをさすっていると、ミツカとニーニャ、それにイグニスが基地車のハッチを開けようと駆け寄っていくのが見えた。


「そうそう、昨日ルーデルには言ったんだがよ。俺達は要塞って呼ばれてるこれじゃない方を、フォートレスって言ってんだよなあ。コイツの呼び名はどうするよ?」

「命名はニーニャちゃんが得意でしょう」

「得意って言うのかあれ」

「なら、ヒヤマが決めればいいじゃないですか」

「それもいいな。基地車。基地、ねえ。・・・スノーベース」

「却下です」

「なんでだよ?」

「そのマグナムも、スノーイーグルとか嬉しそうに言っていたでしょう。ここが北大陸だからって、何でもスノーを付ければいいと思っているんですか」


 なら、アイスベースか?


「アイスベースじゃ変だな。・・・スチールベースはどうだ?」

「鋼製の、という意味になりませんかそれ」

「・・・要塞ねえ。日本に要塞なんて、あ! 五稜郭!」

「さすがにそれは。なら、ヴォーバンはどうです?」

「意味は?」

「五稜郭のような城はヴォーバン式要塞と呼ばれていたはずですよ。本人も戦上手だったそうなんで、それにあやかる意味でもいいかと」

「博学だなあ。じゃ、ヴォーバンで」


 ミツカ達はもうヴォーバンに乗り込んでいる。

 俺達も、それに続いた。


「フォートレスと大差ないな。いや、少し天井が高いか?」

「師匠、なんですかこれ・・・」

「HTAの母艦だ。飛行機だけじゃ、どれだけ地上施設を潰しても占領は出来ないからな。俺達パイロットとHTAは、助け合う事も多い」

「覚えておきます!」


 リディーが楽しそうなのはもちろんだが、師弟を見守るジュモが妬いていないのは意外だ。


「楽しそうだな、ジュモ」

「ルーデルの弟子なら、ジュモの妹なのデス」

「なるほど。ヘーネも喜ぶだろうな。ルーデルの子供を産めねえのを残念がってたし」

「なのでリディーに手を出す不埒者は、ジュモと牛女で去勢手術なのデス!」

「お、俺は大丈夫だからモーニングスターを構えるな。切るんじゃなくて叩き潰すんかよ。切られるのもヤダけどさ・・・」


 食堂なんかは後回しにして、ブリッジを目指す。なぜか先頭を歩くのはウイだ。

 たどり着いたそこでは、すでにミツカがエンジンをかけていた。

 こんな大きさの車両なら機関士がいてエンジンを徐々に暖めながら始動しそうなものだが、フォートレスと同じくヴォーバンにもセルスイッチがあるらしい。


「ミツカ、ニーニャとイグニスは?」

「掃除ロボットの充電。雪を集めながら試運転をするよ」

「任せた。俺とウイは、甲板に出る。振り落とされるようなスピードを出すんじゃねえぞ?」

「限定解除持ちに言う言葉じゃないって。いってらっしゃい」

「・・・なんかムカつくな」

「ふふっ。行きましょうか。こっちから甲板に出る事が出来るみたいですよ」


 ウイがブリッジの奥の階段に向かう。


「なんでわかるんだ?」

「書いてあるじゃないですか。連絡通路、甲板、ハンガーと」

「北大陸の文字、いつの間に覚えたんだよ・・・」

「ネーヴ文字ですね。アンちゃんに手ほどきを受けました」

「仲良くなったようで何よりだ」

「周囲の大人が悪いんですよ。お姫様として暮らしていた時はもちろん、フェイレイさん、セミーさん、チックさん。子育てに向いているとは、お世辞にも言えませんし」

「なるほどね」


 階段の先は、狭い通路だった。

 ドアもいくつかあるが、ウイは見向きもしない。

 少し歩いたところにまた階段があり、ウイは迷わずそれを上った。


「ハッチですね。お願いします、ヒヤマ」

「おう、任せろ」


 潜水艦の出入口は、きっとこんな感じなのだろう。

 大きなハンドルを手応えがなくなるまで回し、押し上げた。


「おお、外だ」

「まずは4機のHTAを収納しますね」

「頼む」


 ハッチを閉めると、かすかな駆動音を集音マイクが拾った。。どうやらオートロックのようだ。開ける時はハンドルを回す必要があるのに、オートロック。相変わらず、不思議な設計だ。

 パワードスーツのヘルメットだけをアイテムボックスに入れる。ヒナはニーニャとイグニスに付き合っているのだろう。臭いに敏感な俺が、シドの襲撃を察知するしかない。


(ヒヤマ、甲板へのハッチを開けても大丈夫か?)

(もう離れてるから問題ねえよ)


 ルーデルだ。

 もうスツーカで待機するつもりなのだろうか。

 そう考えていると、ニーニャとイグニスとリディー。ボルゾイ姿のヒナがハッチから飛び出した。その後にルーデルが出て、ハッチを閉める。


「収納完了。あら、どうしたんでしょうね」

「さあな。遊びに来たんじゃねえとは思うが」

「お兄ちゃん、寒そうっ」

「まあな。そんで、どうしたんだ?」

「スキルで、ハルちゃんのスナイパーライフルを入れておく場所を作るのっ!」

「それは助かる」


 スナイパーライフルを置いて飛び降りたり、逆にスナイパーライフルで狙撃をしに甲板に戻ったり出来るなら戦闘の幅が広がる。

 フォートレスよりも速度が出ないという事がないのなら、ヴォーバンの方をメインで使うのがいいのかもしれない。


「それとルーデルさん、思ってたより甲板がフラット。これなら中央に、カタパルトレールを設置出来るよう」

「ほ、本当かニーニャちゃん!?」

「レールの先っちょに角度が必要だから、甲板で戦闘するHTAのジャマになっちゃうかもだけど」

「それは。むう・・・」


 ルーデルが腕組みをして唸る。

 リディーもカタパルトが何であるのかは知っていたのだろう。パッと輝いた表情が、見る間に曇っていた。


「戦闘で破損する事も多そうだけど、それでいいなら設置すりゃいいじゃんか」

「いいのか、ヒヤマ?」

「当然。でもこれって、HTAの整備室からのエレベーターとかあんのか? あったとしても航空機母艦として設計されてねえから、場所が悪そうなんだが」

「なあに。乗機設定した航空機をアイテムボックスから、カタパルトに接続状態になるように出せばいいだけだ」

「着陸はどうすんだよ?」

「ヴォーバンの轍に着陸して、アイテムボックスに回収だな」

「それじゃ戦闘中の着陸は出来ねえ。平時でもリディー1人でヴォーバンまで歩かせて、もしもクリーチャーが出たらなあ・・・」

「戦闘に出るのは俺だけ。リディーは訓練目的、後席がほとんどだ。少し慣れてからの単独飛行でも、俺が迎えに行くから大丈夫さ」


 リディーにあのポルとかいう小型機以外の航空機を、少しでも操縦させたいのか。

 本人も期待しているようだ。ヘルメットのバイザーの向こうのリディーの目が輝いているように見えるのは、雪の照り返しだけが理由ではないだろう。


「ならニーニャ、時間が出来たらカタパルトを付けてやってくれ。シティーの屋上で敵の戦闘機を待ってた時は、ニーニャがカタパルト作れるなんて思ってもみなかったなあ」

「今は【整備担当機チューニング・不可能を可能にする技師】があるもんっ」

「な、なんか凄いスキルっぽいな・・・」

「・・・ニーニャちゃん、それってどんなスキルなんだ?」

「えっとねー。ニーニャがメインで整備してる機体にのみ、網膜ディスプレイ上で設計した改造が可能なのっ」

「思ったより普通だな」

「でも車両でも船舶でも航空機でも、HTAだって自由に改造できるんだよう。カタパルトの設計は航空機関連製造スキルがなきゃ出来ないはずなのに、担当機に載せようと思えば知識を得られるし。それに、エンチャントも1つだけだけど付加できるんだっ」

「ふーん」

「ニ、ニーニャちゃん、今なんと言った!?」

「ほえっ?」


 ルーデルの剣幕は普通じゃない。

 今にもニーニャに掴みかかりそうだ。


「怖えよ、ルーデル」

「す、すまん。だが改造時にエンチャントなど・・・」

「変なのか?」

「エンチャントそのものがエクストラスキルだ」

「・・・わあを」

「そのエクストラスキルが含まれたスキルなど、専用エクストラスキルとしか思えない」

「エクストラスキルっつーかユニークスキルだよな、それ」

「ユニークスキル?」

「たまに話すアニメやゲームなんかでよ、なんつーか主人公とかにしか使えねえ感じの、唯一無二のスキルだ」

「まさにそれだな。ヒヤマならいつか手に入れるかもしれないと思っていたんだが・・・」


 そんな期待をされてもなあ。

 女に好かれやすいとか快感がどうのとか、挙句の果てには産めよ増やせよ地に満ちよのための精力上昇スキルなんかをまた押し付けられても困る。


「そんじゃ俺とルーデルは甲板でハルトマンとスツーカに乗るから、みんなはブリッジで準備しといてくれ」

「うんっ」

「気をつけて下さいね、ヒヤマ」

「師匠、頑張って下さい!」

「おう、また後でな」

「ニーニャちゃん、イグニスちゃん、リディーを頼むよ」

「はぁい」

「もちろんです。行きましょう、リディーちゃん」


 これからハッチに入るのに、3人は笑顔で手を繋いで嬉しそうに歩き出す。同じ年頃の3人は、仲良くやっていけそうだ。

 ただ、別れが辛くなりそうだな。


 ハッチが閉まったのを確認し、一番前の右と左に分かれてハルトマンとスツーカを装備する。俺が右だ。パイルバンカーがあるので、ルーデルも気を使ってくれたのだろう。

 思った通り甲板には片膝立ちにちょうどいい足裏と膝の置き場と、HTAを固定するためのバーが両手分あった。

 バーの横に、スナイパーライフルの収納口らしき蓋がある。


(ここにスナイパーライフルを入れとくのか)

(強く押せばパコッて開くのっ!)

(なるほど。もう入ってらあ。ありがとな、ウイ)

(街にいる軍と戦闘になるにしてもスナイパーライフルがあれば、接近されるまでに数を減らせるでしょうから)

(ヒヤマ、本当にヴォーバンで街に行くのかい?)

(ミツカは反対か?)

(機銃や対戦車砲じゃヴォーバンには傷もつかないけど、ハルトマンとスツーカは違うだろう。対戦車砲でコックピットを撃たれたら、さすがにヤバイって)

(まあな。そこでたーくんの出番な訳だよ)

(え?)

(やってくれ、たーくん)

(了解です、ボス。・・・イー、アル、サン、起動。これより先行偵察を開始します)


 雪の上に転がっていた3体が急上昇して、街のある方向に飛んで行く。


(はやっ・・・)

(あの3体がヤバそうな固定兵器を探してくれる。それが終わったら、上空から戦車なんかの出撃がねえか見張りだ)

(とんでもないねえ、北大陸で手に入れた装備は・・・)

(これでも反乱軍のすべてにゃ勝てねえさ)

(戦争は数だって、運び屋さんも言ってたよ)

(真実だと思うよ。しっかし、ヴォーバンで走りやすい地形だなあ)

(だね。木もあるけどまばらだし、あの森のより背が低い。遠くに見えるあの街が、もうすぐ戦場になるかもしれないのか)

(そうでもなさそうですよ、ミツカさん。見張りの兵と街の住民が3体を発見。銃を撃つ様子はありません。住民も怯えた風ではなく、兵に気軽に話しかけていますね)


 いい貴族が治める街か。

 リディーの先祖が交易しようとしたのは、ここではないのかもしれない。


(そういや姫さん、地図は見えてんだからどの貴族が治める街かわかったりするのかい?)

(・・・元々はダウィンズ侯爵の領地です。反乱軍にも参加していたはずなので、そのまま彼が治めている可能性は高いかと)

(どんな野郎なんだ?)

(我が国、・・・もう我が国ではありませんね。旧ネーヴ王国最高の武人です。彼が参加しなければ、彼があのまま味方でいてくれれば、まだ反乱軍にも対抗できたでしょう・・・)

(恨んでんのかい?)

(いいえ・・・)



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