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悲劇の名機




 パワードスーツを装備したフェイレイとアンと俺達が一緒にハンガーに行くと、ピカピカになったフェイレイのホバーを見ながら、ニーニャとイグニスが満足気な笑みを浮かべていた。

 ニーニャなど腕組みまでして、自分の作品を眺めている。


「遅いと思ったら、もうイジってたんかよ」

「お兄ちゃん。単装砲を2連装砲にして、後部機銃を追加しただけだけどねっ」

「あっ、マスター! 凄いんですよ。武装を追加したのに操縦性には影響がないどころか、機体性能が上がってるんです。それに後ろを狙える機銃は、砲手席に追加したディスプレイで敵を見ながら撃てるんですっ!」

「ずいぶんと借りが出来たなあ・・・」

「えっと、ダメでした?」

「いいや。イグニスの好きにしていい。ヒヤマにはベッドと戦場で借りを返すさ」

「イグニスも頑張りますっ!」


 何を頑張るつもりなのだろう。俺はロリコンじゃないんだが・・・

 でも、フェイレイがその気なのはラッキーか?


「・・・いてっ。なんで蹴った、チック」

「なんとなくだ」

「いい加減にしねえと襲うぞ、コラ」

「犯されたって言うぞ、ウイ達に。合意の上ならいいと言ってたが、ムリヤリとなれば怒るだろうなあ?」

「くっ・・・」


 ウイがイグニスにパワードスーツを装備させると、ニーニャが嬉しそうに色をどうするか訊ねている。

 楽しそうに話し合う2人を見ながらフォートレスを降り、ヘリが出されるのを待った。


「ウイ、ハルトマンのスナイパーライフルも出しておいてくれな」

「はい。ルーデルさんと一緒なので大丈夫だとは思いますが、気をつけて下さいね」

「もちろんだ」


 ハルトマンを装備と念じる。

 寒さすら感じずに、俺はコンバットスーツ姿でコックピットにいた。

 システム、オールグリーン。

 視覚は網膜ディスプレイに映るカメラの映像に自動で切り替わっている。スツーカに乗っているルーデルと、ウイが出したヘリが見えた。

 以前は引きずるようにして持ち歩いたスナイパーライフルを、苦もなく手に取って肩に担ぐ。


「2機にフックをかけるなんて難しそうだけど、ジュモってそんなに操縦の腕がいいのか?」

「ヒヤマは知らなかったのか。まあ見てるといい」


 オートマタだから、繊細な動きも可能なのだろうか。

 そう思って見ていると、全員が乗り込んだヘリの下から何かが生えてきた。


「なんだありゃ!?」

「引き込み脚だよ。4脚で強度もかなりのものだ。ヘリが大きいからな。機体を持ち上げながら引き込み脚を出せば、HTAを搭載して離陸も着陸も出来る」

「はあ・・・」

「行くぞ。引き込み脚を途中で止めて、HTAをフックに引っかけるんだ」


 ジュモのナビに従ってフックを背中にかける。

 少しすると引き込み脚がすべて出たのか、ハルトマンはヘリにぶら下げられた。


(これは、なんか落ち着かねえな・・・)

(同感だぞ。フックの強度とかそんな事じゃなく、なんとなく不安な感じだ)

(親猫に運ばれる子猫のような格好ですから、安心して集落を探して下さい)

(・・・安心できねえな、まったく)

(離陸するのデス)


 雪の積もった大地が離れていく。

 不安を感じながらも視線を上げると、地平線の手前に人の手で作られたと思われる構造物らしき物が見えた。


(なんかあるな。ズームっと)

(おお。便利なモンだなあ、HTAってのは)

(フェイレイか。シャワー浴びたらビールでも飲んでな。パッと見た限りじゃ、少しの瓦礫と地平線しか見えねえ。今日中に集落を発見すんのはムリそうだ)

(それはありがたいねえ。お礼にアタシの視界もヒヤマにだけ回そうか? イグニスと姫様は、もうすっぽんぽんだぜ)

(生身でもこのメインカメラと同じズームが出来るスキルを持っちゃいるが、覗きの趣味はねえな)


 見えたのはただの瓦礫の山だ。

 舐めるようにカメラを動かすが、瓦礫とそれに積もった雪しか見当たらない。

 クリーチャーの1匹くらいはいても良さそうなものだが。


(ウイ、石鹸を使ってもいいかい?)

(もちろん。たっぷり使って大丈夫ですよ)

(ありがてえ)

(どうやら北大陸では、シャワーさえ贅沢のようだな)

(特に冬はな。水は雪を溶かせばいいだけだが、薪には限りがある)

(なるほど。緑が多くても、雪で苦労させられるんじゃなあ。暮らすのは大変そうだ)


 思った通り夜になっても、人が住んでいるような集落は見つけられなかった。

 食事と睡眠はどうにでもなるが、トイレだけはよほどの事がない限りコックピットでは済ませたくないので、着陸してもらってヘリに戻る。

 ハルトマンとスツーカは収納した。とてもじゃないがこんな寒空に放置しておく気にはなれない。

 睡眠を取る必要がないジュモが、夜のうちに集落を発見しておきたいというので、俺も銃座で見張りをする事にした。


「ルーデルもリビングで飲んでりゃいいのに」

「やめておくよ。女の子達だけで親睦を深める時間も必要だ」

「変な意味で仲良くなり過ぎなきゃいいがな」

「それはないだろ」


 窓際ではタバコも吸わない。

 闇の向こうを、雑談しながらとにかく見張る。

 それを見つけたのは、そろそろ日付が変わろうかという時間だった。


「あったぜ、10時方向。結構な規模だ。集落でも村でもなく、街と呼べるな」

「どれどれ。・・・やはり防壁で街を囲んでいるんだな。門には篝火、銃座もあるか。反乱軍の拠点で間違いはなさそうだ」

「問題は、街の責任者がクズかどうかだよなあ」

「たぶん貴族なんだろうな。元反乱軍でも、今は良き領主かもしれないぞ」

「こんな夜中だから、外に出てる人間はいねえ。どうする?」

「ヒヤマの判断でいいさ。兵士じゃない人間も普通に暮らしているなら、殺したくないんだろうしな」

「兵士を殺したらクリーチャーが来て住民が全滅しました、なんて事にもなりかねねえ。俺なら、そうだなあ。・・・夜が明けたらフォートレスか基地車で街を訪ねるな」

「ほう、理由は?」


 戦車があったのがあの街なのかはわからないが、フォートレスでさえ50000ものHPがある。それを数台の戦車で削り切るなど不可能だろう。


「言ったろ。兵士が住民を守ってるかもしれねえ。その兵士が住民に何をしていようが、あの街にいる人間は死ぬよりはマシだからそこで暮らしてるんだ。まあ、他の理由もあるがよ」

「それを聞かせろという意味で言ったんだぞ?」

「誓約スキル。ジャスティスマンが、フリードの親父と兄貴を殺したっていうスキルなんだろ」

「お姫様は持っていると言っていたな。・・・フォートレスの威容で戦意を喪失させ、話し合いの場に引き出した所で、住民を虐げぬと誓約させるのか。悪くないな」

「だろ。姫さんとフェイレイを呼んでいいか?」

「もちろんだ。・・・ジュモ、反転して最大戦速!」

「ヤー!」


 機体が大きく傾く。

 銃座のシートから転げ落ちた体を戻し、ベルトを装着しながら無線を繋いだ。


(リビング、怪我人はっ!?)

(いません。グラスが倒れたりしただけです。何事ですか?)

(知らん)

(ジュモ、発光信号用意。悪いな、皆さん。どうも尾けられていたようだ)

(はあ? ヘリを尾行してたってのか?)

(見ろ、正面に小型の偵察機がいる。警告開始)


 目を凝らす。

 本当にいるのかと声を出そうとすると、異常なほど小さな飛行機が目に入った。

 小さい。

 あれでは、乗っているのは人間ではないのかもしれない。見た目はまるで、地球の無人偵察機だ。


(本当にいた。ラジコンじゃねえってのか、あれが)

(ヒヤマのウィンドウでこちらも確認しました。距離、約2000。それにしても小さ過ぎませんか、あれでは人間の乗るスペースなど・・・)

(間違いなく乗っているのは人間だよ。警告を受けて、着陸すると発光信号で返事をした)

(フェイレイ、チック。反乱軍に航空機があったんなら早く言えって)

(バカ言うな。そんなんがあったら、首都から南まで逃げ切れたもんか)

(チックの言う通りだぜ。反乱軍にあるのは少しの戦闘車両と、それなりの輸送車両だけだ)

(なら、あれはドコの機体だってんだ・・・)

(パイロットに訊けばいいさ。もう着陸態勢に入ってる。パイロットを迎えに行くのは俺とヒヤマ。コックピットで話を訊く、ジュモ以外はリビングで待機。それでいいか?)

(ああ。俺達がいいって言うまで、リビングから出るんじゃねえぞ。フェイレイもだ)

(・・・アタシじゃ情報を引き出す前に殺しちまうか。わかったよ)


 ヘリが着陸した小型機の近くに着陸する。

 ルーデルと頷き合い、ヘリを降りた。

 小型機は本当に小さい。

 その背面が開き、寝そべる状態で乗っていた人間が立ち上がった。


「パワードスーツまであるのかよ。妙な気を起こせば死ぬ。それは理解してるな?」

「・・・わかってる。なぜ気づいた?」

「このルーデルってのは、並みのパイロットじゃねえのさ」

「ルーデル。空の英雄と同じ名前」


 男の声はわずかに高い。

 背も低いし、もしかしたら成人前か成人したばかりなのかもしれない。

 声を聞いてまず思い浮かべたのは、グースとグリンだった。


「知ってんなら話は早え、本人だ。陸戦の腕もハンパじゃねえからな。気をつけろよ」

「空の英雄が生きてる訳ないだろう。ハッタリならもっと本当っぽいウソを言え」

「少年。乗機設定をしてあるなら、ポルを収納してヘリのコックピットに行こう。尾行していた理由を聞きたい」

「この偵察機の愛称をなぜ・・・」

「追われていたポルを助けた事があってな。パイロットとは仲良くなって、北まで送ったんだ」

「ポルってのか、この小型機。俺ですら乗るのは、体格的にムリそうだな」

「大戦末期の悲劇の機体さ。このポルは、少年少女が乗り込むために設計されたんだ」


 戦争、それも世界の命運をかけた戦いなら、そんな機体も開発されるか。


「キツイ歴史だな」

「あの戦争で文明が崩壊しなければ、以降の飛行機乗りは初の単独飛行をこのポルで経験したはずだ。俺も1人の飛行機乗りとして、そんな未来が見たかったよ」

「なんでそんなに詳しい・・・」

「空の英雄だから。いいからコックピットに行くぞ。こんな機体じゃ飲み食いもロクに出来ねえだろうし、便所にだって行きてえだろ」

「そんなのはスキルで自由に出来る」


 そんなスキルがあんのか。

 そういえばずっとコックピットにいるルーデルが、リビングとベッドルームの間にあるトイレに行く所を見た事がない。ジュモはオートマタなので、初めからトイレに行く必要はないのだろう。

 トイレ用スキルだけでも欲しいな。

 少年を連れてコックピットに戻ると、操縦席後方のテーブルには湯気の上がるポットやハンバーガーが置かれていた。ウイとタリエが準備してくれたのか。


「パワードスーツ、装備解除していいぞ。武装は念の為にしねえでくれ。ま、メシでも食いながら自己紹介といこうぜ」

「・・・拘束はしないのか?」

「そこまでする理由がねえな。俺はヒヤマ。隣りに座ったのはルーデル。いいからオマエさんも座れよ」

「オマエじゃない。リディーだ」



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