大商い
「ここが息子夫婦の店さ。イワン、マルタは来てるんだろうね?」
「おう。呼んでくる。お客人は商品でも見ててくれ」
お言葉に甘えて、広い店内を見回す。工場内を鉄板で仕切って店舗や住居に当てているらしく、街中でクーラーの恩恵を受けているらしい。
壁1面に銃。通路は狭く、商品棚が幅を利かせている。
「凄い品揃えだね・・・」
「シティーに武器屋はここだけさ。そりゃこんな品揃えにもなるさね」
「欲しい物を伝えて出してもらわないと、時間の無駄ですね」
「早く花園を探しに行かねえといけねえからな。ニーニャの親父さんが来たら、そうさせてもらおう」
武器屋でタバコが吸えるはずがない。適当に商品を見ながら親父さんを待つ。お、地雷にプラスチック爆薬。廃墟のボマーとか職業にありそうで怖いな。
「待たせちまったな。これが弟のマルタだ。隣で肉屋をやってる」
「は、はじめましてなんだな。ぼ、僕は肉屋のマルタなんだな」
「俺はヒヤマ。こっちがウイとミツカ。婆さんとの取引で、シティーではアンタ達にしか物を売らない。よろしく頼む。まずは肉を卸す。ウイ」
「ええ。オーガ2。ゴブリン29。サハギン8。どこに出しますか?」
「れ、冷凍室が隣にあるんだな。着いて来て欲しいんだな」
面倒でも仕方ない。全員で冷凍室に向かう。俺達も婆さん達も、団体行動が身に染み付いている。すべてを冷凍室に入れ、戻ってからが商談らしい。
(あんまりふっかけんなよ、ウイ)
(ええ。今後もありますから)
(ゴブリンはまだわかるが、オーガなんていつ倒したんだ)
(今夜にでも話してやるよ。楽しみながらな)
(ひ、人前で何を言うんだヒヤマ)
(聞こえてねえって。今夜の分のおねだりをここでするか、ミツカ)
(バカを言うな。人前であんな、人の前で、恥ずかしいお願いなんて・・・)
(変態スイッチ入れて遊ぶんじゃありません)
(へーい)
(ご、ごめん、ウイ)
「ど、どれもいい状態だったんだな。オーガは800で2匹。ゴブリンとサハギンは1匹100なんだな」
「オーガの相場は500なのでは? それにサハギンは1匹から少し肉を取りましたよ?」
「オ、オーガは専門で狩りをしてた冒険者パーティーが全滅したから、800まで上がってるんだな。サハギンはサービスなんだな。よ、良かったらこれからもクリーチャーはうちに売って欲しいんだな」
「わかりました。ありがとうございます。ではそれでお願いします」
「か、母ちゃん」
「わかってるよ。ここに出すから取っとくれ。硬貨5300取り出し」
「確かに。ありがとうございます」
マルタさんが明らかにほっとしている。交渉事が苦手な商人一家の次男か。大変だろうな。
「お婆ちゃん、お菓子やジュースはどうします?」
「イワンが買い取るよ。遺跡品は高いからね。量が多い時はうちみたいな商人が買い取って、商店なんかに少しずつ売るのさ」
「ではまた倉庫ですね。案内をお願いします」
「そんなにあるのか。わかった。そのドアだ」
またぞろぞろ移動する。
広い倉庫にウイが大量の菓子やジュース、冷蔵庫を出した。
「冷蔵庫までか、しかも2つ。ニーニャ、直りそうか?」
「んー。これ、このまま使えるよ。やるならホコリ取りくらい」
「完品の冷蔵庫か。姉さん、1つ2000でどうだ?」
「ではそれで。超エネルギーバッテリーを抜いたロボットもありますが、買い取りますか?」
「なんだと。見せてくれ」
俺達が倒したロボットが倉庫に横たわる。
「こりゃレア物じゃねえか。バッテリーなしでも1000、いや、1200だな。ぜひ売ってくれ!」
「喜んで。お菓子とジュースはどうしますか」
「もちろん全部だ。これだけあれば、そうだな。5000でどうだ?」
「商談成立です」
「ありがてえ。お袋」
「はいよ。硬貨15500取り出しっと。それにしても、稼いだねえ」
「今から武器屋さんで買い物ですよ。硬貨6934取り出し。ミツカ、収納を」
「あ、ああ。なんか現実感がないな。ここまであると・・・」
「慣れなさい。ヒヤマのは私が預かります」
「頼む。さて、買い物か。親父さん、5丁以上在庫のある自動拳銃から見せてくれ。強力な物からだ」
「わかった。案内する」
狭い通路を歩き、拳銃コーナーに案内された。
「1番はこれだな。状態の良いのが8丁ある。ただ、高えんだ」
「45口径か。弾は?」
親父さんが手に取ったのは、コルトのような自動拳銃だ。『軍用45口径自動拳銃』。丈夫そうだし、サブアームとしては悪くない。
「300はある」
「機関拳銃は?」
「ろくなもんがねえな。数も揃わん」
「ならこいつを6丁と弾を150」
「値段を聞いてからにしてくれ。1丁100枚。弾は1発5枚だぞ?」
「それでいい」
「なんてお客人だ。わかった。ホルスターはサービスするぜ」
「いいのか?」
「まだ買うんだろ。このくらいはなんともねえ」
「対物ライフルの良い物が欲しい。筋力は72だ」
「若いのに大したもんだ。待ってな」
ニーニャがホルスターを持って歩いてきた。すぐにウイが受け取って配る。
ホルスターを左右の脇に締め終わってすぐ、冗談みたいに大きなライフルが出てきた。でかいなんてもんじゃない。まるで大砲だ。
「こいつはどうだ。戦車だって撃ち抜くって話だ。『狙撃手殺しの対物ライフル』要求筋力70。銃は300枚。弾は30しかねえからおまけして1発5枚でいい」
「全部くれ。それでいくらだ?」
「1800だな」
(ヒヤマのアイテムボックスに硬貨を2000追加しました。サブマシンガンも、値段を気にして妥協しないでください)
(わかった。サンキュ)
「次はサブマシンガンを」
「ま、まだ買うのか。こっちだ」
サブマシンガンのコーナーはすぐ後ろだった。説明されながら見るが、なんとなくピンと来ない。地球の銃に似ているのが少ないからだろうか。
「1番威力があるのは?」
「これだ。『新兵のサブマシンガン』硬貨150枚。弾は3枚」
「じゃ、それを。弾は300。ウイ、防弾チョッキは?」
「欲しいですね。3着ください」
「若い女の子なら、インナー型のいいのがある。1着200だな」
「硬貨3450取り出し。装備したら行くぞ」
「もう行っちゃうの?」
ニーニャが泣きそうな顔で言う。ウイ、出番だ。なんとかしろ!
「そうね。でも用事が終わったら、またお婆ちゃんの船に乗せてもらうのよ」
「そっか。ならすぐ会えるね」
「ええ。それにシティーにはこれからも来るの。そしたら、お話を聞かせてね」
「うんっ。いってらっしゃい」
「いってきます」
「またね、ニーニャちゃん」
「おっきくなったら遺跡に連れてってやるからな」
「うんっ。おっきくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになって、たくさん遺跡に行くっ」
わお、いい笑顔。じゃあ、美人にならないとな。
「いいねえ。アンタにならニーニャを任せられる」
「お、お客人、うちのニーニャに何をするって・・・?」
「なんもしねえって。世話になった。俺達は行くよ。帰りにまた寄らせてもらう」
「ああ。花園ならスラムの宿屋にいるはずだ。3番出口を出てすぐの宿さ。気をつけてな」
婆さんに礼を言ってから、武器屋を出て3番出口を探す。そこかしこにペンキで書いた注意書きと矢印があるので、俺達だけでもなんとかなるはずだ。
「ニーニャちゃんも守備範囲か。ヒヤマは節操が無いねえ」
「まあ、職業持ちは無条件でヒヤマに惹かれます。仕方ないでしょう」
(ああ、あの日に言ってた隠しスキルか)
(そうだよ。はじめてのくせに、もっともっとってミツカがせがんだ日に話したあれだ)
「なっ・・・」
(あれは凄かったですねえ。なんでもしゅりゅからああああっ! とか私には言えません)
(ウイまでいじめる。ご褒美か、ご褒美なのか?)
(やめなさい。こんな所で)
「これが3番出口らしいな。兵隊さん、通っていいかい?」
出口には、完全武装の男が2人立っていた。どちらもいい年だ。リタイアした冒険者だろうか。
「見ない顔だな。スラムははじめてか?」
「ああ。花園の連中に会いに行くんだ」
「金があるなら、花園の交渉役をシティーに呼べるぞ? なにも自分から危険地帯に行く事はない」
「頼みがあるんでね。こちらから出向くんだ。忠告感謝する」
「悪いやつじゃなさそうだ。そんな別嬪さんを連れてたら目立つから、ちゃんと守ってやれよ」
「もちろんさ。ありがとうな」
「俺が現役なら護衛してやるんだが。昔、膝に銃弾を食らってな。いいか、気をつけるんだぞ」
「ありがとよ。帰りもよろしくな」
金属製のドアが開く。
1歩足を踏み込むと、廃墟にしか見えない街並みがあった。
「ここに人が住んでんのか?」
「まるで道中の廃墟ですね」
「そこに宿屋の看板が出てる。黄金の稲穂亭、これがそうじゃないか?」
「なにが黄金っ、戦闘準備!」
買ったばかりのサブマシンガンを抜く。赤マーカーが3。シティーを出た途端に襲われるのか。
「おとなしく武器と女を置いてけば、命だけは助けてや」
「【ワンマガジンタイムストップ】ッ!」
視界がモノクロに染まった。これが【ワンマガジンタイムストップ】。チートスキルか。
助けてや、で時間が止まった男の口を狙ってセミオートで撃つ。57のHPが20減った。悪くないダメージだ。続けて2回、トリガーを引く。同じようにして、残りの2人も片を付ける。
慣れると、クリーチャーより倒しやすいのが人間だ。
効果切れまでミツカにいたずらでもするかな。そう思いながらマガジンを交換したら、世界が色を取り戻した。ウイとミツカがアサルトライフルを構えて辺りを見回す。
「終わったよ。小銭も持ってねえが、ナイフは3本ある」
「見るからに汚いのでいらないでしょう。【ワンマガジンタイムストップ】ですか?」
「ああ。1分経過かマガジンを撃ち切るか、マガジンを交換で解除されるらしい。おかげでミツカにいたずら出来なかったぜ」
「なにするつもりだったんだ!」
「聞きたいのか?」
「そんなわけないだろう。行くぞ」
ミツカを先頭にして黄金の稲穂亭へ向かう。どうでもいいが、頬が赤くなってんぞ。なにされる所だったか想像したな。
今にも崩れそうな建物に不似合いな鉄のドア。
ミツカが手をかけて俺を見る。黙って頷いた。なにが待っていても、行くしかない場所だ。