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雪原会談




 食堂の空気はすでに暖まっていた。

 それにウイが出したミルクティーを飲んだので、姫様とUIの震えは止まっている。


(おいおい、見ろよウイ。姫様がちらちらヒヤマを見ては顔を赤らめてるぞ)

(ハンガーで、ヒヤマの指先が肩に触れたようですからね。もうヒヤマに逆らえはしないでしょう。さすがは淫乱ピンク)

(なんだい、淫乱ピンクって?)

(日本ではピンクの髪・・・)

「私は淫乱ではありません!」

「あ・・・」

「なんで自分のスキルをバラしちゃうかねえ、ウチの姫様は・・・」


 無線傍受スキルか。

 ビクニも他人の無線を聞けたが、盗聴した訳ではないと言っていた。聞こえてしまった内容が内容だけに、思わず叫んでしまったのだろう。

 にしても、ウイは姫様を嫌ってんのか。同性をあからさまに嫌ってんのは初めて見るな。


「なるほど。友好的な態度で無線を盗聴するスキルの範囲内に入り込み、こちらの相談を聞いて優位に交渉を進めるつもりだったと」

「ち、違います!」

「落ち着きなって、姫様。ヒヤマ達だって【嘘看破】は持ってるはずだ。否定するなら、声を荒げる必要はないよ」

「まあな。ミツカってのが保安官って職業だ。保安官は、犯罪者を取り締まる役人な」

「へえ。いいおっぱいだな、ミツカ。よろしく」

「はあ、ありがとう?」

「その隣がウイ。俺が元いた世界で惚れて、命が助かるならとこの世界にUIとして来た」

「頭の良さそうな子だ。それにとてもかわいらしい。うちのイグニスとチックを足して割った感じだな。よろしく」

「こちらこそ」


 言いながらメガネをくいっ。俺の好きな仕草だ。


「そんでイグニスって子と同じぐれえのがニーニャ。腕の良い修理屋だ。ホバーを見てもらうといい」

「ニーニャ・カチューシャ。ジャンクヤードの修理屋でっす!」

「よろしく頼むよ。イグニスには同じ年代の友達がいない。仲良くしてやってくれると嬉しい」

「ほーい、よろしくっ。イグニスちゃん」

「よ、よろしくお願いします。に、ニーニャちゃん」


 どっちもかわいらしいのう。


「その隣がタリエ。セミーとチックの幼なじみだ」

「いい女だねえ。匂い立つような色気だ。よろしく」

「はい、よろしくね。いつもセミーとチックが面倒をかけてたでしょう。ごめんなさいね」


 タリエの色気はなあ。

 慣れてるはずの俺でも、ニーニャがいたってついふらふらとケツを撫でに行きそうになる。


「その隣がルーデル。大戦時の英雄でな。俺達は感謝を言葉じゃ言い表せねえほど世話になってる」

「根っからの軍人だねえ。目の光が良い。よろしくお願いします」

「こちらこそだ。敬語もいらないよ、ヒヤマと同じでいい」

「ルーデルの妻のジュモなのデス」

「おい・・・」

「なんだろう。美しい人だと思う。でも失礼だけど、ベッドルームにお邪魔したいとは思わない。なぜだ」

「人間ではないからデス」

「・・・なるほど。凄いな」


 凄いのは抱きたいか抱きたくないか、そのスケベ心でジュモが人間でない事を見破ったフェイレイだと思うんだが・・・


「その隣がたーくん。ニーニャの護衛で、俺達の家族だ。今は数曲の音楽を流せるだけだが、いい気晴らしになるぜ」

「どうも、はじめまして」

「言葉を話せるのか。よろしく頼むよ、たーくん」

「こちらこそです」

「そんじゃこっちも自己紹介だな。アタシはフェイレイ。大人から子供までが戦争をしてる世界から来た。あっちじゃ歩兵だったが、こっちで騎士なんて職業になったんでね。ホバーでの戦闘ばかりだよ」


 フェイレイが胸を張る。圧倒的ボリューム。

 ・・・ケツもデカかったな。そしてエロかった。


「えっと、イグニスです。マスターのUIです。よ、よろしくお願いしますっ」


 おどおどしながらもきちんと挨拶してくれたので拍手する。

 冗談のつもりだったのに、拍手は増えた。見れば全員が、手を叩いているようだ。

 顔を赤くしたイグニスが何度も頭を下げ、もういいだろうとフェイレイに止められてようやく椅子に座り直す。


「アン・バファローベ・ネーヴです。【嘘看破】は幼少の折に破棄しましたが、近くに無線スキルを持つ者がいなかったので【無線傍受】は破棄していませんでした。敵に職業持ちがいた時のために、破棄する気はありません。申し訳ないですが私が近くにいるときは、聞かれてもいい事だけ話すようお願いします。・・・それと、私は淫乱ではありません!」


 気にしてたんかよ。

 ニーニャが首を傾げちゃってるから、あんまその単語は声に出さないで欲しいもんだ。


「セミーとチックも自己紹介すっか?」

「しねえよ」

「いまさらだよねえ」

「まあ、そうだな。そんでシドの事は無線で聞いてるよな、フェイレイ?」

「それがあるから、合流を急いだんだよ。あの気弱なお子ちゃまが、まるでバケモノじゃないか」

「正真正銘のな。で、狩るのに手を貸すか?」

「是非とも頼みたい。正直、アタシだけじゃキツイ」

「俺達が狩るのに手を貸してくれるかって意味だったんだが、答えは同じになるからいいか。まず、そうだなあ。・・・ニーニャ」

「ほいっ!」


 挙手付きの良い返事だ。


「イグニスとハンガーに行って、フェイレイのホバーを整備してやってくれ。弾の補給も」

「はぁい。改造は?」

「話し合いが決裂しなきゃ、シドの故郷の近くまで移動してヤツの動きを探る。そこでなら時間を取れるだろう。フェイレイと話し合って、じっくりイジってくれ」

「わかったー。行こっ、イグニスちゃん!」

「は、はいっ」


 2人が食堂を出て行く。

 ニーニャがイグニスの手を取ると彼女は驚いたようだが、そのまま手を繋いでいたので嫌ではないのだろう。

 北大陸にどのくらい滞在するかはまだわからないが、ニーニャに友達が出来るのは大歓迎だ。


「悪いな、ヒヤマ。アタシのホバーは最近ヘタって来てたんで、新しいのと交換しに行こうかと思ってたんだよ」

「いいさ。そんでシドを殺す手段に心当たりはねえか? 姿を消せる、空を飛べる、殺しても死なねえときてっから、些細な事でも教えて欲しいんだ」

「話は無線で聞いたが、心当りって言われてもなあ・・・」


 やはりそんなものはないか。


「ゲームなら規定回数まで殺す必要がある。単純にダメージが足りない。特殊アイテムが必要。別の場所に本体がいるか、弱体化させる何かがある。ってトコなんだがなあ」

「何があっても不思議ではない世界ですからねえ」

「ゲームってのは知らない言葉だが、やっぱ死ぬまで殺すしかねえんじゃねえのか?」

「フェイレイもそう思うか・・・」


 戦力は増えた。

 あとはシドを見つけて、また戦ってみるしかないのかもしれない。


「ヒヤマ。話をしてる間に、少しでも進んでおこうか? 雪が降ってきたら、フォートレスが埋まっちゃう可能性もある。それでも問題なく動かせるけどさ」

「そんならもう、ヘリでシドの故郷まで行っちまうか」

「ヘリってのはあの空を飛べる乗り物だよな。ここから北東は、反乱軍の勢力圏内だ。それなりに武器を持ってる反乱貴族が居座ってるんで、アタシ達も攻撃は避けてた。撃たれるぞ?」

「ルーデルなら大丈夫なんだが、フェイレイ達は戦争をしてんだったな。シドにかかりっきりにさせるのも悪いか・・・」

「なら反乱軍とやらを潰しながら移動するのはどうだ、ヒヤマ」

「ルーデルのヘリで?」

「ヘリだけじゃムリだろう。せめてハルトマンとスツーカは出したいな」

「やるなら戦車も使いましょう。せっかく手に入れたんですから」

「なっ。戦車だって、あるのかっ!?」


 フェイレイが興奮して立ち上がりながら言う。


「お、おう。乗った事あんのか?」

「・・・とある森の中で戦車を見つけてな。ホバーより足は遅いが頑丈で攻撃力が段違いに高いってんで【第二種軍事車両免許】まで取った」

「へえっ。なんで使ってねえんだ?」

「スキルを取った瞬間、戦車の上にエハフェⅡ(スクラップ)って表示された・・・」

「うわっ・・・」

「気の毒な話だねえ」

「生産や修理系の職業持ちがパーティーにいないと、そんな悲劇も起こりうるのですね」


 たしかに、手に入れるあてのない車両のために貴重なスキルポイントを消費するなんて、悲劇というしかない。

 少し怖いが、訊いてみるか。


「ちなみにその時のレベルは?」

「・・・10だった」

(フェイレイ達に戦車を、1台でいいから進呈したい。反対する人間は?)

「えっ、ええーっ!」


 叫んだのは姫様、アンだ。


「そういや無線が聞こえてるんだったな」

「なにを驚いてるんだい、姫様」

「フェイレイに戦車をあげたいけど反対の人はいるかって・・・」

「なんでだよっ!?」

「しかも反対の声は上がってないの」

「アタシ達に戦車を渡して敵に回られても、痛くも痒くもないって事か・・・」

「別にフェイレイを侮ってるって訳じゃねえぞ?」

「慰めてんじゃねえよ、ヒヤマ」

「戦車が単機で活躍できるのは、装甲を抜くほどの武器がねえ敵が相手の戦闘だけだ」

「それはそうだけどよ。イグニスは遠隔操作スキルを伸ばしてる。いい勝負は出来ると思うんだがなあ」


 遠隔操作。

 そのキーワードでスキルを検索すると、誰のコントロール下にもないコンピューター制御の兵器を遠隔操作可能、というのがあった。

 事前に兵器を設置しておけば、攻めるも守るも寡兵で戦う不利が軽減されるだろう。

 そうやってこの3人は、反乱軍の大部隊相手にゲリラ戦を続けていたのか。


「おっかねえスキル持ってんなあ。反対ってヤツはいねえ。後でウイに戦車をもらっとけ」

「本当にいいのかよ?」

「レベル10の時にスキルポイントをムダにしちまうなんて、自分に置き換えたら涙が出る。遠慮しねえでもらっとけばいい。シドが故郷でなにをすんのか知らねえが、親族を殺して家の実権を握ったら軍隊が相手になるんだ。戦車に乗ったフェイレイは、いい戦力になるさ。それに、ちょうど3人乗りだしな」

「それでヒヤマ、お姫様の戦争に本腰を入れて助力するのですか?」


 ああ、ウイが姫様を嫌っている理由はこれか。

 反乱軍にはフェイレイとイグニス。ブラザーズオブザヘッドにはセミーとチック。自国の戦力だと言い切れない人間頼りで、勝てる見込みのない戦争を継続している。おそらくは、姫様の願いで。

 そんな国なら滅んでしまえ、くらいは思っているのかもしれない。



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