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女の浪漫と初顔合わせ




 ウイが考えたのは、俺と同じ事だろう。

 盾の安全装置がかかっているのを確認して床に置く。

 腰の剣を抜いた。


「やっぱりか。抜いたらわかったが、この剣はチェーンソーみてえなモンだ。高速で振動する刃で、敵を斬るらしい。盾と同じく思念操作で起動だな」

「お兄ちゃん、剣系のスキルなんてあったっけ?」

「ねえよ。ただ【熱き血の拳】は銃で戦う人間のスキルじゃねえ。だからかもな」

「なるほどー」

「それより問題は、銃が効かない敵が普通に存在するのかもしれないという事です。タリエさん、セミーさん達から何か聞いていませんか?」

「特には何も。ただあの2人だと、前衛のセミーがクリーチャーを叩き潰すか削り殺すかだから、銃弾無効なんて気にもしないのかもしれないわね」

「削り殺すって・・・」

「こう、壁や床に叩きつけて死ななかったら、そのままゴリゴリっと」

「・・・うへえ」


 運転しながら、ミツカが嫌そうな声を出す。想像しちまったんだろうなあ。

 それにしても、銃弾無効か。ゲームなんだかそうじゃねえんだか、いい加減はっきりしてもらいてえもんだ。


「剣聖がいてくれりゃ良かったが、いねえんだから仕方ねえ。この先の探索なんかは、俺がこのパワードスーツで出るぞ」

「いぬならかてる」

「だからヒナは護衛だ。マジで頼りにしてるぞ」

「うん」

「私達のパーティーで銃弾無効のクリーチャーですか。相性が悪いなんて話じゃありませんね」

「ああ。王族シリーズがありゃ、身を守るくれえは余裕だと思ってたんだがなあ。北大陸ってのはどうなってやがんだか」

「だからこそ、ホテルの兵は剣や槍を持っていたんですね」

「こっちじゃ常識だから、誰も俺達にわざわざ指摘しなかったのかもな」


 正直、銃がないから剣を使っているのだとしか思っていなかった。地球の常識で考えれば、たしかにそうなのだろう。だがこの世界は、地球とは違う。


「気を引き締めねえとな。戦闘だけじゃなく、観察や考察でも」

「そうですね。剣を携行している理由に気がつかなかったのは迂闊でした」

「到着っと」

「もう試運転は終わりか、ミツカ?」

「水も確保できたしね。これでお風呂にも入れるらしいよ」

「そりゃ楽しみだ。じゃ、食堂でのんびり酒でも飲むか」


 食堂に着くなり、ニーニャがヒナを誘ってどこかに行った。

 ウイとタリエは食事の準備。調理器具を洗ってから使うので、少し時間がかかるらしい。

 たーくんが流す音楽を聴きながら、ミツカも入れた3人でどうでもいい事を話して時間を潰す。たーくんが流せるのはまだ数曲のみなので、北大陸にいるうちにすっかり覚えてしまいそうだ。


「たっだいまー」


 ニーニャとヒナが戻ったのは、食事の準備が出来たので2人を無線で呼び戻そうかと話している時だった。


「何してきたんだ、ニーニャ?」

「お掃除ロボットちゃん達の充電。ブリッジからは出来ないんだよねえ。お風呂とベッドルームのお掃除を最優先で頼んだから、ゴハン食べたら入れると思うよっ」

「ありがとう、ニーニャちゃん。助かるわ」


 酒、風呂とくればやる事は決まっている。

 たっぷり楽しんだ翌朝。ルーデル達とセミー達が出発前にフォートレスを見に来たのだが、どいつもこいつも満足気な笑顔を浮かべていた。チックでさえ、雰囲気が柔らかくなっている。


「ヒヤマ、ホントに好きなのもらってもいいのっ!?」

「おう。でも戦える人間には、近接戦闘用パワードスーツと武器を配るんだからな。独り占めはダメだぞ」

「あったりまえでしょーが。わあっ、どれにしようかなあ」

「空を飛んでるロボットやブリッジの操作系にも驚かされたが、こんな装備まで眠ってたなんてな。銃が効かねえ忌々しいクリーチャーも、これがあれば楽に倒せそうだぜ」

「銃弾無効のクリーチャーは多いのか、チック?」

「そんなでもねえ。代表的なのは雪男だな」

「雪男だあ?」


 それもうクリーチャーじゃなくてユーマじゃねえか。あれ、ウーマだったっけ? まあどうでもいいか。


「ルーデルさんより背の高い、白い毛むくじゃらの類人猿っぽいクリーチャーだ。群れてるから面倒な相手だよ」

「そんじゃ俺よりかなりデケえな」

「頭2つくれえはな」

「ナイフもあるな。おい、ヒヤマ。これは刀身が高熱を発して鉄まで溶かすらしいぞ」

「ルーデルはナイフ系のスキル持ってるからラッキーじゃんか。普段から持っておくといい。しかし高熱で鉄を溶かすって、どんな技術力してたんだよ。ほんでもって、それで戦争に負けるか普通」

「ミサイルなんかも飛んできたが、末期は国民がクリーチャーになって国力が落ちて世界の崩壊だった訳だからな。優れた武器を作れる人間が少しくらいいたって、影響はなかったんだろう」


 なるほど。

 ここにある武器はフォートレスのように、最上スキルかなんかで作られたって事か。

 ルーデルはナイフと片手で振り回せるくらいの剣。チックは同じような剣と槍を選んだ。ジュモはモーニングスターを2つだ。

 セミーはまだ決まらないらしく、壁際に並ぶ武器だけではなくロッカーの中まで漁り始めている。


「あったー!」


 満面の笑みでセミーが掲げたのは、バールだ。


「・・・それ、武器じゃなくね?」

「趣味の良い人がいたんだよー。ナックル武器に、なんとシャベルまであるっ!」


 まんまセミーの白兵戦装備じゃねえか。

 大戦時のこの国から転生でもしたのかこの娘は・・・


「それでどうやって雪男を倒すんだよ?」

「ぶん殴るっ!」

「剣で殴った方が早いな」

「ふふん。聞いて驚けヒヤマちゃん。なんとバールはカーブした先っちょが肉に食い込むと、思念操作でパカっと開いたり閉じたり出来るのだっ!」

「エグいな・・・」

「ナックルは殴った衝撃を感知してトゲから電流が流れるし、シャベルは耐久力上昇の永久エンチャントがしてあるっ。いやー、これ使ってた兵隊さんわかってるねえ。兵士の中の兵士だねえ」

「・・・はいはい、良かったな。そんじゃまたヘリで移動だ。とっとと行くぞ」


 ヘリを使う移動では、俺に仕事なんてない。

 空母にいる時のような居心地の悪さに耐えかね、セミーに剣と盾の使い方を教えてくれと頼んでみたりもしたが、剣も盾もスキルがないから知らないと言われて諦めた。

 つまり俺は、丸一日なにもしていない事になる。

 対Gスキルに、剣と盾のスキル。すべてを取得すれば、それだけで9ポイントも消費してしまう。12しかないスキルポイントなので、保留にしておく事にした。


「ヒヤマー。フェイレイ達が荒野に入ったって」

「ずいぶんと早えな・・・」

「荒野の終わりはもう見えているのデス」

「ならヘリが視認されてる可能性もあんのか。合流前にもう1日、休んでもらうつもりだったんだがなあ」

「一昨日の休暇で、体は休めたさ。見えたぞ。約2時間後に合流だな」


 姫様と稀人、それにUIもいるらしい。

 敵になるか、味方になるか。

 敵対するようなら、その3人は俺が殺ろう。そんな事を考えながら、2時間を銃座で過ごした。


「着陸するぞ」

「ああ。無限アイテムボックスの事は隠しておきたかったんだが、こうもあっさり目論見が崩れるとはな。ウイ、降りたらフォートレスを出してくれ。ミツカは後部ハッチを開けろ。セミー、そのフェイレイってのに、後部ハッチからハンガーに入ってホバーを降りろと伝えてくれ。さみいからフォートレスの中が暖まるまで、ホバーに乗ってろってよ」

「わかった」


 また雪にヘリが埋まるかもと思ったが、少し沈んだだけで着陸には問題なさそうだ。

 もしかしたらこの何もない地域は爆弾か何かで更地にされた痕で、宇宙機があった辺りはここよりも地面が抉れていたのかもしれない。


「俺は後部ハッチから徒歩で入る。他の全員は前から乗れ」

「付き合うぞ、ヒヤマ」

「後味の良くねえ出会いと別れになるかもしんねえんだぞ、ルーデル?」

「だからさ。着陸完了、行こう」


 ヘリを降りる。

 ホバー。

 一番前に座っている女と目が合った。

 燃え盛る炎のように赤く長い髪。頬に傷痕があるが、美しいと表現するしかないほどの顔だ。

 そのフェイレイがニヤリと笑う。


「やっほー。姫様ー、フェイレイー、アグニスー!」


 そう言ってホバーに駆け寄ったのは、セミーだ。


「え。こっちの緊張感とかガン無視?」

「セミーが空気なんて読めたら、オレはこんなに苦労してねえよ」

「・・・頑張れチック。愚痴ならいつでも聞くぞ」

「ありがたくて涙が出るな。あの様子じゃ、セミーも後部ハッチから乗り込むつもりだろう。行こうぜ」

「ああ。セミー、大人なのになあ・・・」


 セミーはたーくんと遊ぶニーニャのようなはしゃぎっぷりで、キャノピーの上に乗ろうとして外部スピーカーで怒鳴られている。

 声まできれいなのか、フェイレイって女は。


「悪い癖を出すんじゃないぞ、ヒヤマ?」

「こんなマジメな男を、遊び人みたいに言わねえでくれ」

「年のせいか耳が・・・」

「遊び人じゃなくて変態だもんな」


 ミツカはもうブリッジに着いたらしい。後部ハッチが開く。

 ホバーと並んで歩くセミーに着いていく形で、ハンガーに入った。


(閉めていいぞ、ミツカ)

(了解。気をつけてくれよ。犯罪者ではないけど、善行値はそれほど高くない3人だ)

(あいよ。話は食堂でするから、準備も頼む)


 ハッチが閉まると、すぐにホバーが接地してキャノピーが上がる。

 フェイレイは平気そうだが、後ろの2人は寒そうだ。


「おいおい、見てるだけで寒そうなんだが」

「気にすんな。慣れてるさ。アンタがヒヤマだな?」

「そうだけどよ。・・・ああもう。俺のコンバットスーツの上着だ。こんなんでも着ねえよりはマシだろう。ピンク色の髪が姫様か、フェイレイ?」

「はい。南ではうちの国の者が、無礼を働いたそうで・・・」


 姫様はフェイレイに返事をさせず、ホバーを降りて頭を深々と下げた。手袋はしているので怪我はしなかったようだが、ガタガタ震えているので見ていられない。


「いいからこれを羽織れ。すぐに食堂に案内すっから。唇が紫んなってんぞ」

「あっ・・・」


 ヤバイ。

 自分の隠しスキルを忘れてた。

 寒くて震えてるのに、瞳が潤んだぞ姫様。


「おい、変態野郎・・・」

「待てチック、わざとじゃねえんだ! 申し訳ない。職業持ちに無条件で好かれる。それと、・・・その、快感を与えやすい隠しスキルを押し付けられてるもんでね」

「か、快感ですか・・・」

「肩にちょっと手が触れただけだろう。そんでも濡れたのかい、姫様?」

「ちょっと。って、何を言わせる気ですか、フェイレイ!」

「・・・ああもう。いいからそっちのかわい子ちゃんもこれを羽織れ。行くぞ、食堂ならもう暖まってるはずだ」

「セミー、チック。男の味はどうだった? アタシより良かったかい?」

「してないからわかんない。でも、ヒヤマに触られた夜のチックの下着はねー」


 チックがかわいそうなので、会話を聞いてないフリをして1人で先に立つ。

 ・・・ふむ。そうかそうなのか。チックが夜はそんな風に。・・・ほう。それは楽しそうだ。是非とも参加させていただきたい。


「顔が緩んでるぞ、ヒヤマ」

「逃げてきたのかよ、ルーデル」

「具体的な話を堂々とされると、さすがに居心地がな」

「まあ、悪気はねえんだろ。ここが食堂だ。猥談なら夜にベッドルームでやってくれ」

「混ざるか?」

「男もいけるクチなのかよ、フェイレイ?」

「わかんねえから試すのさ」



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