表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/239

雪国レース




 ヘリは、木々のまばらな場所を選んで着陸した。


「ウイ、指揮車と基地車を出してくれ」

「指揮車なら平気でしょうが、広さが足りないので基地車はムリですよ」

「マジか。そんじゃ指揮車だけでいい。ニーニャ、指揮車には随伴歩兵用にスノーモービルくれえは積んであるよな?」

「きっとあるよっ。偵察用のロボットちゃんもいるかも!」

「楽しみだなあ」

「では降りてヘリを収納しないと。指揮車が出せません」


 ゾロゾロとハッチから出て、ヘリの代わりに指揮車が出されるのを待つ。

 雪が深いので、歩くだけでも大変だ。


「指揮車の大きさは、トラックを4台ずつ2列にくっつけて駐車したくらい。たぶんこれですね」


 大口径の砲身を屋根に載せた車両が出現する。

 どうやら、俺達が見ているのは車両の後部のようだ。


「後部ハッチがあるねっ。ここから車両が出入りするんだと思うよ」

「これの運転手はあたしでいいのかい、ヒヤマ?」

「ミツカなら安心だが、どこまで【第一種軍事車両免許】のツリーを伸ばしゃ、こんなデケえ車両を運転できるようになるんだろうな」

「とりあえず【第二種軍事車両免許】まで伸ばしてみるよ」

「頼む」

「・・・ダメ。まだ名称不明。HTAと同じで、最上スキルが必要みたいだ」

「どんな車両だってんだよ。ムリして伸ばさなくてもいいぞ? どうせ森ん中じゃ走れねえんだ」

「ハンドルは譲りたくないね。【軍事車両限定解除】まで取得」


 すっかりクルマ好きになってしまったミツカが、網膜ディスプレイを操作する。そのまま指揮車の上に視線を移すと、大口を開けて笑い出した。


「いきなりどした、おい?」

「だってHPが50000もあるんだぞ。もう笑うしかないって」

「とんでもねえな。・・・あれ、俺にもHPが見えたぞ? それにクローラートランスポーター改・混成機甲旅団用指揮車ってのは名前か?」

「ああ。ツリーの途中のパッシブスキルに、自身の見えている乗り物の情報をパーティーで共有するってのがあったよ。それのせいじゃないかな」

「おおっ、ハッチの開け方もわかるようになってんじゃねえか。行こうぜ、ニーニャ!」

「うんっ!」

「待ちなって、パスワードまではわからないだろう。外から開けるには、パスワードが必要なんだってば!」


 後部ハッチに走り出した俺とニーニャを、慌ててミツカが追ってくる。

 チラリと見ただけだが、ほとんどの連中は呆れ顔だ。

 しかし、チックだけは羨ましそうにしている。


「チック、来い!」

「いや、オレは・・・」

「スノーモービルいらねえのかよっ!?」


 眉を寄せたチックの背を、ルーデルが押す。


「・・・ええい。オレにも中を見せやがれっ!」


 駈け出したチックが到着する前に、俺とニーニャはパスワードを打ち込むための端末に取り付いた。


「ここを開けると端末があるみてえだな」

「楽しみだねえっ」


 身長が足りないニーニャを抱き上げ、フタを開けさせる。

 中には数字の書いてあるキーボードの付いた小さな端末があった。

 追いついたミツカが、それを操作する。

 プシュッと音がしたと思ったら、後部ハッチはゆっくりとお辞儀をするようにして開いていく。


「おお・・・」

「スノーモービル用のエレベーターが付いてない。なら・・・」

「エレベーターなんて必要なのかい、ニーニャちゃん?」

「だって鉄の上を走ったらソリ部分が傷んじゃう。あ、チッタ姉ちゃん」

「ま、間に合った・・・」

「そろそろハッチが雪を噛むぞ。アイテムボックスに入ってたんだから、クリーチャーはいねえ。お宝とご対面だ」


 ハッチが停止するのを待ち、ニーニャを先頭にして乗り込む。

 ハンガーのような場所に並んでいるのは、アニメで見たような鋭角的なデザインの白い機体と、運転席が剥き出しでその後部に機銃席のある鉄色の機体だった。


「わあっ、やっぱりスノーモービルじゃなくてホバーだっ!」

「音がうるせえのか・・・」

「どうなんだろうねえ」

「いや、あのキャノピー付きの3人乗りは、フェイレイが乗ってたのと同型だ。あれなら音はほとんどねえぞ」

「航続距離は?」

「毎日使っても、超エネルギーバッテリー1つで1年は保つらしい」

「バイク代わりになるって事か。キャノピーなしが2人乗り。どっちも5台ずつあっから、チックも1台乗機設定してアイテムボックスに入れとけ」

「・・・いいのかよ?」


 チックが迷いながら言う。


「当然だ。心配すんなって。戦闘になりゃ手を貸してもらうし、普段はニーニャの手伝いも頼みてえ。お互いに損はなしだ」

「もらい過ぎだとは思うが、四駆は軍事用じゃねえんだ。正直ありがてえな」

「まったく、凄いはしゃぎっぷりですね」

「お、来たか。見ろウイ。スノーモービルじゃなくてホバー機だとよ」

「全員が乗れる台数があったのは幸運ですね」

「・・・まさか、全員で街に行くつもりか?」


 厳しい冬に、よそ者が街を訪れる。

 バカな事を考えるヤツもいるだろう。何より自分で言うのは哀しいが、このメンバーの中で目立たない容姿をしているのは俺だけだ。全員で街に入れば、高確率で揉め事が起こる。


「街に入るのは危険でも、街に入った誰かが襲われたら助けに行く準備はしておかないと。これなら小回りも利きそうですね」

「そういう事か。ヒナ、臭え街だとは思うが付き合ってくれるか?」

「いく」

「サンキュ。ミツカのホバーにウイとニーニャだろ。チックのにセミーとタリエ。たーくんはルーデルのホバークラフトに乗せてもらうか」

「了解だ。中も気になるが、まずは先を急ごう」


 ルーデルでも気になるのかと意外に思いながら、人間状態のヒナと鉄色のホバーに跨る。【第一種軍事車両免許】で動かせるようなので、操縦に関係する知識はあった。


「ヒヤマ、なんで風防のない方に乗るんですか?」

「シドの臭いがありゃ、俺とヒナで追う。キャノピー付きじゃ臭いが追えねえからな」

「なるほど」


 バレてない。

 こっちの方が泥臭くてカッコイイから選んだだけなのに。ナイス言い訳だったな。

 セルスイッチ。

 押すと同時に甲高い駆動音。

 それが高まると、機体は宙に浮いていた。


「へえ。浮き上がっちまえば静かなモンなんだな」


 アクセルもバイクの物に近い。

 驚いた事に右ハンドルに前部ブレーキと、右足で踏む後部ブレーキまである。ただ、その原理が荒っぽ過ぎだ。アクセルで噴射しているエアーをカットして、機体の下部を接地させてスピードを落とすらしい。前と後ろのブレーキは、どちらを地面に擦って止まるかの選択をするためにあるようだ。


(ミツカ、ブレーキはなるべく使うなよ?)

(今それを話してたんだ。なるべくアクセルを緩めてスピードを落として、停める時にブレーキを使うよ)

(だな。それと乗ってる間は急ブレーキで舌を噛むから、なるべく無線で話すといい。そんじゃ、初乗りといこうぜ)

(おう!)

(ホバーの操縦は初めてだ。フェイレイに会うまでに慣れとかねえと、笑われるな)

(俺も初めてだ。・・・浮いてるのに飛べないのは不思議な感覚だな)


 ゆっくりとホバーを動かして外に出る。

 ふわふわとして落ち着かないが、体重のかけ方で挙動は安定するらしい。


(悪くねえな)

(ヒヤマ。これふよふよして楽しいなあ)


 最後にミツカが笑いながらホバーで指揮車を降りると、キャノピーが開いてウイが指揮車を収納した。

 ミツカ、ニーニャ、ウイと、串に刺さった団子のように笑顔が縦に並んでいる。楽しそうで何より。


(そんじゃ、行こうか)

(待って下さい。先頭はチックさんかルーデルさんです)

(なんでだよ!?)

(ヒヤマかミツカだと、面白がってスピードを出し過ぎるでしょう)

(・・・クソ。ならどっちかに任せた。ほら、早く行かねえと日が暮れちまうぜ)


 ルーデルとチックの操縦するホバーは迷うように揺れている。

 だがルーデルが頷くと、チックはいつもの仏頂面がウソに思えるような笑みを浮かべて、ホバーの尻を振った。


(しゃあっ、オレの前は走らせねえっ!)


 アクセルターンからのダッシュ。

 興奮を隠そうともしないチックの叫びに、ルーデルとミツカは呆気にとられている。

 今がチャンスだ。


(待ちやがれ。勝負だ、チック!)


 チックが見せたアクセルターンは、左ハンドルの根本にあるジャンプスイッチを利用したらしい。

 障害物などを越えたい時に使うようだが、機体の前部から急激に浮く動きの途中でブレーキを使いつつ体重移動すれば、アクセルターンのような動きも可能なのだろう。

 チックを追う。

 すぐにスピードが上がり、森の木が高速道路の対向車のように迫る。

 体重移動。斜め前に沈み込むような動き。

 切り抜けた。

 どうやらホバーは、思っていたよりも楽しい乗り物であるらしい。


(ズルいぞヒヤマ。あたしだって負けるかっ!)

(やれやれだな。それにしても、ウイちゃんが読みを間違えるとは)

(・・・そうですね。私とした事が、ヘリと合流した時のチックさんの操船を忘れていました)

(完全に同類だな、あの2人)

(ああっ。そう言いながらあっさり並ばないでよ、ルーデルさん!)

(俺達はのんびり行こうじゃないか、ミツカちゃん。あの2人に付き合ってたら、いつか怪我をするぞ)

(さすがにちょっと怖いの、ミツカお姉ちゃん・・・)

(ごめんごめん。このくらいならどうだい、ニーニャちゃん?)

(このくらいなら楽しいっ!)


 ニーニャが怖がるなんて、ウイがミスをするのと同じくらい珍しい。


(つかニーニャが怖がってんのに、タリエは平気なのかよ!?)

(ええ、大丈夫よ。目を閉じて、楽しかった事だけ指折り数えてるの・・・)

(それ大丈夫な人間のする事じゃねえから!)


 それでも前を走るチックはスピードを落とすつもりはないようだ。

 2人しか乗っていない俺のホバーならすぐに追いつくと思ったが、どうやら2人乗りと3人乗りでは機体性能に差があるらしい。

 追いつくどころか、ジリジリと引き離されている。


(クッソ、性能差があり過ぎる。次からは俺も、未来的なデザインの方に乗るぞ。機械が剥き出しでカッコイイと思ったが、そんなん関係ねえ!)

(機体のせいにするんじゃねえよ、鈍亀)

(てんめえ・・・)

(呆れるしかありませんね)

(まったくだ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ