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改修案




 ニーニャと2人で悩んでいると、ヘリが離陸したらしい。

 ドアの開く音がしたので振り返る。

 チックだ。


「ニーニャに妙な事してねえだろうな」

「してねえっての。どした?」

「手伝いに来たんだよ。ニーニャ、これの取り付けをするんだよな?」

「うんっ」

「それじゃ俺が押すよ」


 力仕事なら男の出番だろうと思って歩み寄ると、チックに鬼のような表情で睨まれた。

 仕方がないので、壁際に下がってタバコを咥える。


「バカヤロウ、整備室は火気厳禁だっ!」

「・・・すんません」

「ジャマだから出てけ」

「いや、でも改修案を・・・」

「リビングかコックピットで考えろ」

「わあったよ。そんじゃ、ハルトマンを頼むな」

「はぁい」


 チックは返事をしない。

 リビングでは、タリエとセミーがパワードスーツを試着していた。


「ヒヤマ、どうしたんです?」

「追い出された」

「あらあら」

「ルーデルと話してくらあ。ヒナ、少し進んだら臭いが辿れるか試してくれな」

「わかった」


 コックピットには、ルーデルとジュモだけがいた。

 銃座に付いて、タバコを咥える。


「難しい顔をしてるな、ヒヤマ」

「ハルトマンを改修できるってニーニャが言うんだがよ。肩に大砲もスナイパーライフルを持ち歩くのもムリなんだとさ」

「なら、空でも飛ぶか?」

「近いな。ジェット噴射を利用して回避行動を取れるようにしてえんだ。が、そんな挙動をさせて中の俺は大丈夫なのかってニーニャは心配してる」

「対Gスキルを取得すればいいだけだが、そもそもジェット噴射をする仕組みはどうやって作る気なんだ。ジェットエンジンやそれに類する機構は、ジェット対応の製作スキルがなきゃ作れないぞ?」

「まさかそれって・・・」

「当然、専用エクストラスキルだ」

「あちゃー・・・」


 念の為に取得可能なスキルを表示させてみる。

 当たり前のように、ジェットエンジン製作スキルなんてものはなかった。


「ねえや」

「あったら驚きだ。言っておくが誰かがエクストラスキルの取得条件を満たす幸運を待つよりも、ヨハンに頼んで1からジェットエンジンを開発してもらう方が早いと思うぞ。まあ、その場合ヨハンには他の仕事をさせず、数十年はかかりっきりで開発してもらう事になるとは思うがな」

「諦めろって事か」

「そうでもないさ。大戦時には、数人のジェットエンジン製作スキル持ちがいたんだ。そしてジェット機だって実戦投入された。その機体がどこかにあれば、まあ可能かもしれん」

「そんなんを都合よく・・・」

(おい、エロヤマ)


 誰がエロヤマやねん!


(・・・どした、チック?)

(ニーニャから話は聞いた。北東に向かうならちょうどいい)

(何がだ?)

(スラスターだよ。オレとセミーが乗って来た宇宙機のプロトタイプはスクラップになっちまったが、スラスターなら生きてるのがいくつかあったはずだ。タリエに場所を教えとくから、好きに使うといい)

(ありがてえが、いいのか?)

(飛行機にパワードスーツを譲られて、HTAに防弾板まで張ってもらうんだ。スクラップくらい好きにしてくれ)

(ありがとな、チック)

(これね。地図を表示します、ルーデルさん)

(了解。・・・ちょうど進行ルート上の近くじゃないか。楽しみだな)


 実物の宇宙船なんて、日本でも見た事がない。俺も楽しみだ。

 ルーデルとスツーカにもスラスターを取り付けようなどど話していると、ボルゾイ姿のヒナが来てハッチを開けてくれと無線で言われた。


「なんでハッチを開けるんだ?」

(におうかどうかたしかめる。においをおえそうなら、おりればいい)

「そんなに嗅覚がいいのかよ・・・」

(いぬがたでのしんたいのうりょくをあげる、すきるがある)

「マジか」

(だからことば、へたになった)

「なんてスキルを取ってんだよ・・・」


 そこまでしなくていいだろうに。


「それじゃ、ホバリングでハッチを開放するぞ。ジュモ」

「了解なのデス」


 慌ててパワードスーツを装備する。

 ハッチが開くとヒナは寒そうな素振りも見せずに長い体毛を風に靡かせ、鼻をひくつかせてから首を横に振った。

 臭いは遠いらしい。

 ハッチが閉じてから足元に来たヒナを撫でる。


「故郷を優先したか、シドは」

「単純に進む方向がズレてるのかもな。この広さだ。ホテルから目指す方向が指1本分ズレただけで、ここまで来ればかなりの距離を離されている」

「宇宙船を回収したら、まず姫様達と合流すっか」

「それがいいのかもな。この大陸は、広すぎる。3日もあれば合流は可能だろう」


 ヒナは撫でられて満足したのか、リビングに戻っていく。女同士のお喋りにでも興じるのだろう。テレビはないが、たーくんがいれば音楽も聴ける。

 ならばと銃座のシートに座ってビールを飲みながら男2人でダベっていると、ニーニャとチックがコックピットにやって来た。


「ああっ、また昼間からお酒ー!」

「ルーデルなんか飲酒運転、じゃなくて飲酒操縦だぜ。どした、ニーニャ?」

「おいおい、操縦はジュモがしてるんだ。俺は休息中さ」

「えっとねー。セミー姉ちゃんとチッタ姉ちゃんのHTAを見せてもらったら、旧式の作業用HTAだったの。そんでさっきの基地には、軍事用のHTAが5機もあったでしょ」

「そんな事か。作業用と軍事用を交換すればいいだけだ。2人に合う改造もするんだろ。ニーニャの好きにしていい。なあ、ルーデル?」

「当然だ。セミーちゃんは格闘機だろ。剣聖のホプリテスも見事な機体だったし、楽しみだな」

「ありがとっ。ルーデルさん、お兄ちゃん!」

「作業用でもいいって言ったんだがなあ・・・」


 チックはまだ遠慮しているらしい。

 2人が北大陸に残るのか俺達と南に帰るのかは知らないが、身内なんだから気にしなくてもいいだろうに。

 なくなればウイが追加してくれている缶ビールをアイテムボックスから出してチックに放ると、呆れ顔で投げ返された。


「付き合いがわりいな」

「まだ作業があるんだよ。暇人と一緒にすんな」

「へえへえ。チックのHTAは、どんなコンセプトで改造すんだ?」

「まあ、セミーのサポートが仕事になるだろうしな。じっくり考えるさ」

「チックなら、そうだなあ。・・・カリーネと同じレーダー積んで、探索特化機なんてどうだ?」

「またえらく懐かしい名前だな。てか、戦闘を捨てるってのかよ」

「違う違う。HTAならどんな機体でも戦闘は出来るって。カリーネのレーダーで、乗り物を持ってる危険な人間を警戒。ルーデルのチェーンソーみてえな工作機械で遺跡に押し入る。そして剣聖のランドセルで遺跡のブツを大量に持ち帰るんだ。手練のギャングみてえに完璧な作戦だろ」


 チックが顎に手をやって考えている。

 冷たい感じのする知的美人だし、メガネが似合いそうな気がする。後でウイのをかけさせてみるか。いつだったか遺跡で見つけたタイトな黒いスーツも着せれば、お高く止まった女教師の完成だ。

 ・・・いやあ、妄想が捗るぜ。


「候補には入れておこう。行こうぜ、ニーニャ」

「はぁい」


 2人がコックピットを出ると、苦笑いを浮かべてからルーデルが缶ビールを呷った。

 新しい缶を放る。

 片手でキャッチしたルーデルは、タブを引いてから缶を掲げるようにしてみせた。


「何に乾杯すんだよ?」

「女好きの親友に」

「・・・なんでバレた」

「わかりやすいんだよ。それにしても、北大陸に来てからは退屈してないようだな。目が輝いてるぞ」

「陸軍基地のお次は宇宙船だからな。北大陸に来て2日。まだ、たった2日だぜ? それなのに戦車と指揮車に、HTAとその移動基地まで手に入れたんだ。不謹慎だとは思うが、ワクワクが止まんねえよ」


 本音。

 ルーデルにならそれをたやすく言える。

 正直、シドやまだ北大陸にいるであろうオーガエリートや赤熊のようなクリーチャーは俺達、いや、人類にとっての脅威だとは思う。だが、それでも俺は楽しくて仕方がない。


「やれやれ・・・」

「指揮車のコールサインどうすっかなあ。あ、そうだ。運び屋にいい名前がねえか訊いてくんねえか? 使うのは運び屋になるんだろうし」

「ヒヤマは大陸間通信が可能な【衛星無線】を取ってないんだったな。いいぞ、少しだけ待っててくれ」

「ゆっくりでいいって。話す事はたくさんあるだろ」


 タバコを吸いながら缶ビールを飲み、銃座のシートに置いてあった雑誌を読む。ペラペラで写真の多い本だが、暇潰しにはなるだろう。

 ジュークボックスロボットに性的サービス機能を追加した新型が発表。・・・うん、10円でもいらねえ。

 なんだこりゃ。霧に包まれている都市?

 えーっと。冬期の最北の街は地熱を利用して雪を溶かしているので、湿気が多く道路はいつも濡れている。そして遠く街を望むこの山頂はその景色が抜群だと評判の人気観光スポットで、センスの良いペンションやレストランなども多い。貴方もぜひ、冬のカナバルを訪れてみてはどうだろうか。

 どこかで聞いた言葉だな、カナバル。


「ヒヤマ。フォートレスはどうだと運び屋が言ってるぞ」

「ならそれで。ついでに空母の名前も決めとけって言っといてくれよ。ありゃあ、運び屋が所有者なんだからよ」

「わかった。赤熊の銃も楽しみにしてると言ってるぞ」


 赤熊で思い出したが、北大陸に来て一気に手に入れたスキルポイントをどうしよう。レベルは、82にまで跳ね上がっている。スキルポイントは12もあった。

 対Gスキルを取得しようとも思ったが、スラスターの取り付けが出来るのかどうかすらまだわからない。宇宙船をニーニャが漁ってから考えよう。


「約100キロ先、2時の方向に建造物多数。街があるのデス」

「へえ、さみいんだろうなあ。・・・って、人が住んでんのか!?」

「さあ? ただ森林を伐採していなければああはならない、不自然な広いスペースがあるのデス」

「シドの餌場になってなきゃいいが・・・」

「運び屋との通信終了。寄るか、ヒヤマ?」

「様子は見た方がいいのかもな。まあ、臭いがなけりゃ素通りでいいけど」

「反政府軍の街か基地でないとは言い切れない。発見されないように迂回するか、着陸して陸路を行くかどちらかだな」

「ズームしても住民は見えねえ。遠目には、廃墟を利用したかなり大きな街だな。時間がもったいねえが、仕方ねえか・・・」



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