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HTA乗り




 移動手段も武器も欲しいが、なるべく時間はかけたくない。

 放り出していたリボルバーを拾って構えながら、ハンガーの中を覗き込んだ。


(うっはーっ!)

(おおおおおっ。お兄ちゃん、やったねーっ!)


 ハンガーの中には、数台の戦車とそれを整備する機材などが整然と並べられていた。

 骸骨も散乱しているので、まずは手を合わせて祈る。


(戦車で陣形組んで一斉砲撃。ロマンだよな)


 見えているマーカーはない。

 だが生体感知の光点は20ほども浮かんでいる。

 気を抜かずに、ゆっくりとハンガーに踏み込んだ。


 ハンガーには窓がない。

 だが【夜鷹の目】があるので、クリーチャーを探すのに支障はなかった。

 鉄の内壁も、梁も天井も、錆が目立つ。


(ヒヤマ、奥を見ろ)


 天井に向けていた視線を、ルーデルの言う奥に戻す。

 だいぶ薄汚れているが色を問われれば白と答えられるくらいの戦車が6台、砲口を入り口に向けて2列に並べてある。このまま敵を迎え撃つ事も出来そうな配置だ。

 その奥には、平べったい構造の見慣れぬ車両が鎮座している。

 大きい。

 まるで車両なんかではなく、陸上母艦のようにも見える。

 車高は低いが屋根には大口径の砲が1門と、いくつかの機銃や高射砲が据えられていた。


(これは・・・。戦車もだけど、名前も見えねえや。何だこのデケえ車両?)

(指揮車だよ。この戦車小隊にエース、戦車系の職業持ちがいたんだろう。そんな小隊は、特殊任務を与えられたりするからな。それを指揮しながら中で休息を取らせたり、弾薬や整備に必要な機材を運ぶための車両だ。しかもあの大きさなら、随伴歩兵まで乗せていたのかもしれないぞ)

(つまりは花園の兵員輸送車の戦車版か?)

(ああ。射撃や砲撃のスキルは、軍に入って実戦に出れば誰だって取得できる。だが指揮車を用意して同行させるほどの小隊なら、普通では取得できないスキルの持ち主がいたのだろう)


 話しながらも俺は、骸骨を踏みながら時計回りでハンガーの中を歩き回っている。心の中で謝りながらだ。ルーデルも何も言わないが、同じような気持ちで反時計回りにハンガーの中を確認しているだろう。

 小型のクリーチャーなら踏み潰せばいいが、オーガエリートが出たら壁をぶち破ってでも距離を取るつもりだ。


(エクストラスキル・・・)

(ああ。ヒヤマなんて、最初から神に気に入られているからな。たまにでいいから、スキルの取得可能欄に特殊で、驚くほど有用なものが出ていないか確認するといい)

(取得ポイントは?)

(専用エクストラスキルは3だ)

(どういう意味だ、それ?)

(有用だが取得に100ポイントもかかって、スキルツリーもないのがあるだろう。それは誰にでも取れるエクストラスキルだ。それとは別に、取得条件すらはっきりしないエクストラスキルがある。名称は同じだが取れる人間が少ないんで、便宜上は専用エクストラスキルと呼んでるんだよ。俺やチックさんが持つ、ロケット機の操縦スキルなんかがそうだ)


 そういえばこちらに来たばかりの頃、そんな事をウイが言っていたような気がする。

 土と岩だらけの荒野。

 崩れた高速道路に、半ばで折れてしまった高層マンション。ゾンビが群れで出て、素人の俺達はずいぶんと苦労したものだ。


 あの頃は、あまりにも遠い。

 安全な街に拠点を確保し、のんびりとレベルを上げるのが俺とウイの目標だった。

 それが王様だとかなんだとか面倒な仕事を押し付けられ、年の半分以上が過酷な冬の大陸で人類の敵を追っている。

 俺は何をしているんだと思う時もあるが、好きに生きた結果がコレなので仕方がない。日本にいた時には気づきもしなかったが、俺は仲間と肩を並べて戦ったり、仲間と誰かのために努力したりするのが好きなのだろう。


(よし、オールクリア)

(同じく。・・・あれ?)

(どうした、ヒヤマ)

(オーガエリートを倒した時点で、ウイかヒナにハンガーを収納してもらえば良かったんじゃね?)

(・・・次はそうしよう)


 苦笑しながら頷き合い、ハンガーを出る。

 ハンキーの左右に並ぶと、ウイが出て来てハンガーを土台ごと収納した。


(次もヤバイのがいるんかねえ)

(オーガエリートほどのクリーチャーがゴロゴロいるんなら、北大陸に人なんて住めないと思うぞ)

(まあなあ。・・・おし、考えたってしゃあねえ。行こうぜ)


 歩き出しながら、次のハンガーをどうするか考える。

 位置的には、南側の端と端だ。

 さっきのハンガーが腕利きを集めた小隊のものだったのなら、次のハンガーも危険なクリーチャーがいるかもしれない。

 だがそれがまた指揮車まで配置されるような小隊のハンガーなら、普通の部隊より質の良い戦車が期待できる。


(また入り口が開かないなら、今度は爆破しちまうか)

(ハッチだけ壊せるくらいの爆発物の量がわかるスキルがあるのならな)


 今回、爆発物のスペシャリストであるミイネは空母に残っている。

 そんなスキルを取ってあるはずもない俺は、思わずため息を吐いた。


(そう心配するな。今度は慎重にやればいいだけだ)

(・・・でもよ。オーガエリート、HPを削る条件が妙だったぜ。今までのクリーチャーなら、殴っても撃ってもダメージは通った。なのにオーガエリートには、ほとんどダメージが通んなかった。そんで首をチェーンソーで斬って、やっと倒したんだ)

(銃弾耐性でもあったのかもな。次はサブマシンガンを構えておいて、デカブツが出たら1マガジンぶち込んでやればいい。連続で銃弾耐性持ちのクリーチャーなんて出ないだろう)


 ハンガーのほとんどは収納されているので、土が剥き出しになって周囲より少し低くなった道は、見通しが良く歩きやすい。

 すぐ次のハンガーに到着した俺はサブマシンガンを抜き、ルーデルはチェーンソーを駆動させた。


(いくぞ)

(オーライ。ハンキーはもうちょっと下がってな。・・・そう、そんくれえでいい)


 ルーデルのHTAがシャッターにチェーンソーを入れる。

 さっきのように縦、次に横ではなく、縦に2つの切込みを入れてから上を横に切るようだ。

 作業を終えたルーデルが飛び退く。

 そのままチェーンソーをアサルトライフルに変えたので、俺がシャッターに近づく事にした。


(大丈夫か? 撃って開けるつもりだったんだが)

(HTAの弾は貴重だからなあ。蹴って俺も飛び退くから、2方向からいつでも撃てる構えで少し様子を見ようぜ)

(了解。気を抜くなよ?)

(当然)


 シャッターは完全に切断されているのではなく、わざと少しだけ切り残してあるようだ。

 ハルトマンの体がハンガーの中からなるべく見えないような位置で、シャッターを蹴り飛ばす。

 すぐ後ろにジャンプ。

 サブマシンガンを構えながら、覚悟を決めて待った。


(音がする)

(だな。かなりの音だぞ。これはまるで・・・)


 ルーデルが言いかけると、それはゆっくりと姿を現した。

 戦車と同じペイント。

 だが、造形が決定的に違う。

 HTA。

 動かしているのは、同じく白いパワードスーツを着た人間だ。

 シャッターに手をかけながらしゃがむようにして出て来るそれをよく見ると、パワードスーツの胸とHTAの肩に、赤色で吼える双頭の熊が描かれている。

 20000というとんでもないHPの上にある、紅き双頭の雄熊という名前の由来か。

 そのHTAが持つゴツい口径の銃口は地に向けられているので、すぐに戦闘になる事はなさそうだ。


「・・・妙な名前だが、同業者か?」

「わからん。だが、人間である可能性は低いぞ」

「マジかよ。おい、アンタ。外部スピーカーはあるんだろ。敵対の意志はねえから、声を聞かせろよ。良かったら一緒にメシでも食おうぜ?」


 HTAが動く。

 銃口が揺れた瞬間に、俺はサブマシンガンのトリガーを引いた。


「ハンキーと四駆は退避っ!」


 俺のサブマシンガンが火を吹く。赤熊のHTA、それもコックピットのパワードスーツを外さない弾道。

 だが銃弾はHTAにも、剥き出しのコックピットにいるパワードスーツにも届かず、見えない壁にでも弾かれたように、機体の寸前で火花を散らした。

 いや、見えている。

 赤い光。

 それが楯状に浮かんで、サブマシンガンの弾を跳ね返しているのだ。

 攻撃などされていないとでもいうように、ゆっくりと銃口が俺に向く。


(伏せろ、ヒヤマッ!)


 無線からルーデルの声。

 迷いなく地に倒れ込んだ。

 銃声が聞こえる。連射がルーデルのアサルトライフルで、大砲のように重い銃声が敵HTAの銃だろう。

 ハンガーの方向にカメラを向けると、ルーデルのスキルで出したコンクリートの塊が銃弾を防いでくれているのが見えた。


(クソッ、とんでもなく頑丈なHTAだ!)

(バリアは!?)

(もう出していない。だが、アサルトライフルのダメージなんて雀の涙のようだぞ!)


 急いでルーデルの視界を小さくウィンドウで表示する。

 ルーデルは俺の隠れる遮蔽物を目指して駈け出しているようだ。

 その足元の土が、砲撃でもされたように爆発する。


「させるかよっ!」


 サブマシンガンだけでなく、リボルバーも抜いて立ち上がる。

 ルーデルのHTAを狙っている赤熊のコックピットには、いつの間にか防弾板が張られていた。

 それでも、撃ちまくる。

 赤熊のHTAのHPは20000ちょっと。

 それが、笑えるくらいに削れない。


(ニーニャ、あのHTAはどうなってんだ!?)


 ルーデルが遮蔽物の陰に飛び込んでくる。

 当然のように銃口が俺に向けられたので、迷わずにしゃがんで遮蔽物に隠れた。

 ハルトマンのHPは15000ほど。ルーデルのHTAは10000しかない。赤熊の半分だ。


(材質はありふれた感じ。だからHPが多いのも銃弾が効かないのも、運び屋さんのバギーちゃんみたいに搭乗者のパッシブスキルで強化されてるからかなあ・・・)

(そういやあのおっさん、バギーでHTAに体当りしてすっ転がしてたりしてたっけなあ。しっかし、この国のクリーチャーはどうなってやがんだか。ボクシングを使う戦車兵の次は、歴戦のHTA乗りかよ)

(この基地の切り札か、他の部隊が全滅してもなお戦い続けていたエースパイロットだったんだろう。全員がクリーチャー化していたら、逃げ切れたかどうかすら怪しいな)


 赤熊だけでなく、他にもクリーチャーになってHTAを使っている元兵士がいるのかもしれない。

 シドを人類の敵だとか言ってる場合ではないのではないのかもしれないと、思わず頭を抱えたくなった。


(どっちにしても時間はねえ。ルーデル、思い付いた手があるんだが乗らねえか?)

(奇遇だな。俺も、ちょっとしたアイディアがあるんだ)

(なら、せーので言おうぜ?)


 頷き合う。


(せーのっ)

(退避しているウイちゃんに爆弾を出しておいてもらって、俺のスキル【急降下爆撃】)

(ウイに森の道にハルトマンのスナイパーライフル出してもらって、誘き寄せて【ワンマガジンタイムストップ】!)



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