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陸軍基地




 ルーデルのHTAは、ハルトマンによく似ていた。

 だが当然パイルバンカーはないので、その分シュッとした印象を受ける。

 武装はハルトマンと同じハンドガンと、背中に負ったアサルトライフル。そして左の腰には、チェーンソーがぶら下げられていた。


「チェーンソーって、HTAにも効果的なのか?」

「それはないんじゃないか。徐々にしか刃が進まないんだから」

「なのにそれを選んだのか・・・」

「HTAで隊列を組んでの戦闘なんて、そうそうある事じゃない。HTAを戦線に出すにしても、歩兵やロボットの弾除けや援護がメインになるだろう。花園の工兵、カリーネさんがいない時のためにな」

「いろいろ考えてんだなあ」


 俺はハルトマンを出し、ルーデルのHTAを視界に入れながらハンキーと四駆の盾になれる位置に移動する。

 俺達の国ではオーガロードほどのクリーチャーでなければHTAの相手にもならないが、ここは初めて訪れる国の軍事遺跡だ。どんなクリーチャーがいても不思議ではない。

 火花を散らしながらチェーンソーはけたたましい音を撒き散らし、数分後には屈めばHTAでハンガーの中に入れるほどの大穴が空いた。


「中を見るぞ、ヒヤマ?」

「頼む」


 ルーデルのHTAの額の上には鶏冠のようなパーツがあり、そこにフラッシュライトが搭載されているようだ。

 ハルトマンと同じ白い迷彩の機体が、やけに人間臭い仕草でハンガーを覗き込む。


(もぬけの殻、だな)

(生体反応が30もあるのにか?)

(天井の梁なんかに巣を作っている鳥や、冬眠している蛇なんかの反応なのかもしれん)

(・・・ウイ。ハンキーから顔を出して、ハンガーを土台のコンクリートごと収納してくれねえか?)

(そうですね。その方が時間の節約になると思います。ではルーデルさん、ヒヤマの右か左まで下がっていただけますか)

(了解)


 ルーデルのHTAが隣に並んだので、ハルトマンのサブマシンガンを渡してみる。

 それを構えたルーデルのHTAは、トリガーに指がかかるのを確認してからサブマシンガンを返してきた。

 そのまま、今度はルーデルのアサルトライフルを渡される。


「・・・こっちも問題はなさそうだ」

「ニーニャちゃんの仕事だ。指パーツの規格の統一くらいは当然してあるだろう。お、ハンガーがアイテムボックスに収納されたぞ」

「そしてまた、土の上に虫と小動物か。ウイ、次も頼む。出来りゃあの兵舎や司令部みてえなのも持ち帰りてえ」

(たまたまこのハンガーはクリーチャーがいませんでしたが、他の建物はわかりませんよ)

(まあな。とりあえず、先にクリーチャーのいねえハンガーをすべて収納しちまおう。中に良さそうなブツはあったか?)

(超エネルギーバッテリーがそれなりに。それとスキルがなければ使えない機械類は、名称不明になっています。それが10ほど)

(その中に1台の車両でもあれば、クリーチャーのいる建物はシカトしてシドを追ってもいいかもな)


 北大陸での問題は、ローザが使えない事だ。

 俺と犬型のヒナでシドの臭いを追うにしても、ずっと徒歩やスキーでは空を飛べる相手にスピードで分が悪すぎる。北大陸は、俺とウイがこの世界に来て埋めた地図の面積より広いのだ。


(では、次のハンガーに行きましょう)

(よろしく頼む。正直、時間は惜しいからな)


 結局、9つあるハンガーのうち7つは何事もなくウイに収納された。


(・・・まいったね、こりゃ)

(どうしたんだ、ヒヤマ?)

(残る2つのハンガーには、人間かクリーチャーか大型動物がいる。まあ人間がいりゃチェーンソーの音で外に出て来るだろうし、大型動物が出入りできる穴も見当たらねえ。だからクリーチャーがいるんだろうけどよ。それが元人間のクリーチャーなら、基地が壊滅した日にハンガーで作業でもしてたんだろ)

(お宝はクリーチャーのいるハンガーにこそある、か・・・)

(まあとりあえず、ヘリを停めた広場に戻って名称不明の機械類を確認すっか。雪上移動可能な車両が2つもあればそれでいい。武装は、ニーニャがなんとかしてくれるさ)

(・・・稀人のホバー対策か)


 それもある。あちらの不手際をここぞとばかりに責め、姫様に降伏とまで言わせたのだから、ホバーを操るという稀人とUIが敵に回る可能性は否定できない。

 無意識で頷いたら、カメラの映像も動いたのに気がついた。考えてみれば俺の動きをトレースするのだから当たり前だが、なるほど。ここまでトレースするのか。

 ハルトマンやルーデルのHTAは、ボディーランゲージにも対応するらしい。

 HTA2機で外部スピーカーを使って話し込んでいたら、いつの間にか巨大ロボットが身振り手振りを交えて言い争っている。そんな場面を想像すると、こんな時だというのに少しだけ笑えた。


(俺が先行して広場に戻る。ハンキー、四駆と続いてくれ)

(殿は俺だな)

(頼む)


 広場に戻るとウイだけがハンキーを降りて、次々と巨大な機械をアイテムボックスから出して並べていく。

 この調子だとかなり森に近い場所まで、機械で埋め尽くされるかもしれない。ルーデルに周囲警戒を頼み、ハルトマンの装備を解除してウイの隣まで走った。


「あら。護衛ですか」

「まあな。かなりあるんだろ?」

「ええ。ですが今のところ、車両は1台もありませんね」

(お兄ちゃん。ヒナお姉ちゃんと外に出て、スクラップ判定の機械だけ収納してもらってもいい?)

(その方が効率的なのはわかるけどな・・・)

(セミー姉ちゃんとチッタ姉ちゃんのHTAにも、少しでも早く防弾板を貼りたいの。でも姉ちゃん達は、鉄を持ってないからって遠慮して。この探索の遺跡品はいつもみたいに山分けでしょ、お願いっ!)

(・・・あー、そういう事か。ヒナ、頼めるか?)

(うん)


 機械を出しては移動するウイに着いて行くので、ニーニャとヒナの様子は見えない。

 だが、巨大な機械も多いがHTAの全高なら問題なく広場を見渡せるので、ルーデルに任せておけば問題はないだろう。


(これで全部です。車両はありませんでしたね)

(まあいいさ。ニーニャ、最初に出した機械からウイに収納してもらえばいいのか?)

(うんっ。陸軍で使われてた機械さん達だから頑丈で、まだ生きてる子がたっくさんいるのっ!)

(そりゃ良かったな。ウイ、行こうぜ)

(はい。残る2つのハンガー、探索するのですか?)

(わかんね。休憩して、ルーデルの意見を聞いてからだな)


 広場を1周してヘリの前に戻り、それからヒナが収納しなかった機械を回収する。

 休憩はヘリでするようで、回収を終えた広場にはハンキーと四駆は見えない。

 ヘリに乗り込むと、先に戻っていたニーニャの笑い声がリビングから聞こえた。


「お疲れ。ゴキゲンだな、ニーニャ」

「もっちろん! 2機分のカメラも、ヒナお姉ちゃんのアイテムボックスにあったのを安く譲ってもらったのっ!」

「そんじゃ、すぐにでも作業が出来るな。良かったじゃんか、セミー、チック」

「でも、何もしてないのに分け前をもらうのはねえ・・・」

「だな」

「義理堅いねえ。ルーデルを四駆に乗っけてくれたじゃねえか。・・・ああ、何ならチックはニーニャの作業を手伝って、セミーは俺とルーデルと探索に行くか? それなら、キッチリ仕事した事になんだろ」


 セミーとチックは顔を見合わせている。

 いつもコンビで仕事をしてきたそうなので、離れて仕事をするのが不安なのかもしれない。

 俺もウイと2人だけの時にどちらかだけ探索に行こうと誘われたら、反射的に断ってしまっただろう。


「・・・行きたいかも。チック、いい?」

「ニーニャの手伝い、他に出来るヤツっていねえのか?」

「いねえな。俺も手伝った事があっけど、工具を手渡したりするくれえしか出来んかった」

「1人であれだけの装甲車やHTAを組み上げたのかよ。さすがはニーニャだな。じゃ、助手は任せてもらおうか。セミー、ルーデルさんから離れるんじゃねえぞ? じゃねえと暗がりで変態野郎に何をされるか・・・」

「酷え言われようだが、ありがてえ。ロクに手伝えねえのを悪いと思いながら、なんも出来なくってよ」


 コーヒーのカップと、ハンバーガーとフライドポテトの載った皿が俺の前に置かれる。

 軽食を摂ってから探索という段取りらしい。

 女達のおしゃべりを聞きながら、フライドポテトが多目の朝食を平らげた。


「ルーデル、ハンガーの中はHTAで探索できそうだったか?」

「俺が見たハンガーは、入って正面に棚で仕切られた作業場が並んでいた。その奥にもありそうだったな。軍事車両かHTAのメンテナンスをするハンガーだろうから、移動は問題ない。だが、作業場にある機械の陰なんかは生身で確認するしかないな」

「・・・俺かルーデル、どっちかがHTAで警戒。セミーともう片方が探索か。クリーチャーを皆殺しにすりゃ、ハンガーごと収納しちまえばいいよな」

「ヒナちゃんにも出てもらった方がいいんじゃないか?」

「ハンキーの護衛も必要だって。シドが襲撃してくるとなりゃ、ハンガーの入り口でヒナの嗅覚に感知してもらうしかねえし。同じ理由で、ヘリにはジュモに残ってもらうしかねえな」

「なるほどな」


 食休みもそこそこに、ニーニャが立ち上がる。

 リビングを作ってしまったのでだいぶ狭くなったが、奥にはHTAを2台は並べられる作業場があるので、そこで改造の準備でもしようというのだろう。


「ニーニャ、待ってくれ。ニーニャのパワードスーツ、セミーに貸してやってくんねえか?」

「そっか。セミー姉ちゃんはパワードスーツないんだった。ほいっ。サイズは自動調節だから、アイテムボックスに入れてから装備してねーっ」

「それじゃ、ちょっとだけ借りるね。こんなの使った事ないけど大丈夫かなあ」

「着てる感覚はほとんどねえのに、寒さを感じねえし防御力もかなりある。いつも通りに動けるさ。行こうぜ」



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