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探していた場所




 クリーチャーが食っていた、鹿か何かの死体がその熱を失ってゆく。

 容量が無限のアイテムボックスを持っているヒナでも、これを収納する気にはなれなかったらしい。


「どんなクリーチャーがいるかもわかんねえ。臭いはあるか? ねえならすぐに移動する」

(・・・かすかに。でもにおいは、そらからする)

「飛んでても臭うのか。ザマアミロ、駆け出し。そんじゃ、森をがっつりアイテムボックスに入れちまえ。土壌ごとだ。それから、ヘリに着陸してもらう」

(わかった)


 目の前の木々が消える。

 見通しがずいぶんと良く、・・・なんだこれ?


 ザーッ。


 大量の米粒を撒いたような音。

 俺の人より高い感知力は肉を落とすような音も拾ったが、それどころではない。


(わふ!? ままっ、ままーっ!)

(落ち着け、ヒナ。申し訳ねえがルーデル、ロープで上がらせてくれ)

(アイテムボックスに生物は入りませんからねえ・・・)

(さすがにこれはヒナちゃんがかわいそうだ。掴まれ、ヒヤマ)

(ほら来い、ヒナ。だっこだ)


 ボルゾイを抱え、片手でロープを掴む。

 ヘリはすぐに上昇してくれたが、もしも落ちたら危ないからか、あまり高度は上げなかった。

 なので眼下には、冬眠中だった虫や蛇、いきなり住処を奪われた小動物などが、剥き出しになった土の上にいるのが見える。


(こうなるとは思ってなかったな・・・)

(アイテムボックスには生物は入りませんからね)

(それってバクテリアとかもか? この森をあっちに出して散水機まで設置したのに枯れました、なんて考えただけで泣けるぜ)

(やってみなくてはわかりません。まあ、ヨハンさんなら土と木を見ればわかるのかもしれませんが。それより右を見てください、ヒヤマ)


 ウイの言う通りにすると、土の海に浮かぶ小島のように、小さな林が出来ているのが見えた。


(なんだありゃ?)

(クリーチャーのいた場所です。アイテムボックスの指定が弾かれたのでしょう。人間やクリーチャーほどの生物がいる場所は、アイテムボックスの収納を受け付けないんですよ)

(すべての収納キャンセルじゃなく、部分的になのか。さすが、神様に愛されてると違うなあ。てかルーデル、もうちっと上昇して降りやすそうな場所を見てくんねえか? 出来れば北東方向で)

(わかった。腕がキツくなったら言うんだぞ。虫がいたって、死ぬよりはいい)

(あいよ。ヒナ、もうちっとガマンしてくれな?)

(もうおちついた、はず・・・)


 自信がなさそうなので強く抱きながら、数メートルの土ごと森が消えてしまった荒れ地を眺める。

 まるでクレーターだ。

 それも、かなりの範囲。


(ヒヤマ。不運の後にこそ幸運がある、だ。北東を見ろ)


 こっちの諺かなんかだろうかと思いながら、北東を見る。網膜ディスプレイのマーカーが表示される部分には方位も出ているので、それはすぐに見つかった。


(かなり森に侵食されてっけど、デケえ施設だな)

(あのレーダーと通信塔は、どう見ても軍事用だ。ハンガーの並びやその間隔からすると空軍基地じゃなさそうだが、今の俺達にはその方が都合がいいだろう)

(ハンキーは狭いからな。戦車の1つでもありゃ、これからが楽になる。追跡の途中でも寄り道するべきか・・・)

(ハンキーちゃん、いらない子になっちゃうの?)


 ニーニャの声は哀しげだ。

 そういえばと、ニーニャがハンキーを発見した時の喜びようを思い出す。

 最近ではすっかり女の子ではなく少女になってしまったが、それが成長ってやつなんだろう。


(いらない子になんかならねえぞ、ニーニャ)

(・・・ホント?)

(ああ。室内戦も出来る軽車両なんて他にはねえ。それに、ハンキーの屋根でたーくんとラジオを聴きながらダベリつつ、たまに見えるクリーチャーを狙撃したりすんのが俺は好きだ)

(ニーニャも、ハンキーちゃんの中でお姉ちゃん達とお喋りするの好きっ!)

(おう。だからハンキーはずっと必要だ。だからもしも新しい車両があっても安心して、それをカッコ良くしてやってくれ)

(うんっ!)


 話しているうちに、基地らしき施設の上空までヘリは進んでいる。

 ハンガーから少し離れた場所に、草の生えたコンクリートの広場があった。

 振り返って観察すると、森の中にも木の少ない場所がある。それは所々途切れてはいるが、細く長く伸びているので、当時の道路だったのだろう。

 広場の中央に俺とヒナは降り立った。


「・・・クリア。臭いはどうだ、ヒナ?」

(さっきよりうすい)

「進む方向がズレたって訳か。こりゃ姫様と稀人を拾って、シドの生まれ故郷で仕掛けるしかねえかもな・・・」

(ですがもし、シド少年が途中でレベルアップを繰り返していたら)

(そこなんだよなあ。親族を殺すのを優先すんのか、レベリングを優先すんのか。・・・親族への復讐かなんかを優先すると読んで俺達が動くとする。ほんでその賭けに負けりゃ、シドはさらにバケモノじみた能力を手に入れて、俺達と向かい合う事になるかもしんねえ)

(レベリングをしながら移動していると仮定して動いた方が、こちらのデメリットは少なそうですね)

(シドをめっけてジャマ出来るなら、だけどな)


 スルスルとロープが引き上げられ、ヘリが着陸する。

 全員が降りてもウイがヘリをアイテムボックスに入れないのは、誰かが残るからだろうか。


「さみいだろ、ハンキー出して入ってな。チック、車両は持ってんのか?」

「四駆がある。防弾じゃねえ乗用車だけどな」

「羨ましいな。そんじゃ、それ出して乗ってろ。ハンガーまでは、さっきみてえに木をアイテムボックスに収納して道を作る」

(えっ・・・)

「大丈夫よ、ヒナ。私がやるからハンキーに乗ってなさい」

「わんっ!」


 嬉しそうに吠えたボルゾイがハンキーに駆けてゆく。


「いいのか、ウイ?」

「まあ、私も虫は得意じゃありませんけど。ヒナよりは大丈夫なはずです。それより、ヘルメットは装備しないのですか? 見ているだけで寒そうです」

「ヘルメットしてっと、どうしても臭いに気づきにくくなるかんな。お、ルーデルも行くのか?」

「ああ。平和な時代には、軍事メーカーの見本市なんかもあってな。こちらの装備は独特だが、少しは知識があるんだ。ジュモがヘリで待機するから、俺も連れてってくれ」

「そんじゃ、チックの四駆に乗ってくといいさ」

「了解だ」


 気温はとんでもなく低いが、雪は降っていない。

 ウイと2人でハンキーの屋根に乗った。


「ヒヤマ、間違っても金属部分に顔を付けないで下さい。ひっついて大変な事になりますよ」

「そうみてえだな。白い死神の知識にも、素手で銃を持ったり顔に銃身を当てるなってのがある。気をつけるよ」


 少しずつ木々を収納しながら、ハンキーの後ろに四駆が付いて進む。

 割れたコンクリートから伸びている木々だからか、虫は少ないのでウイもほっとしているようだ。

 10分とかからず、最初のハンガーの前にハンキーは停まった。


(見える範囲にマーカーはなし。タリエ、生体感知いけるか?)

(任せて。地図にも表示して、網膜ディスプレイで見られるようにしとくわね)

(ありがてえ。・・・来た来た。って、おいおい!?)


 網膜ディスプレイに映った地図には、おびただしい数の光点が表示されていた。

 小動物も反応するくらいに調節したと言っていたから、すべてが危険なクリーチャーではないと思うが、そうだとしてもこの数はヤバイ。


(地図に地形が表示されているのは、広場からここまでの道とこのハンガーの入口部分だけですが、ほとんどの建物に生物がいるようですね)

(ルーデル、この大陸のクリーチャーってどんな感じだ?)

(わかる訳がないだろう。俺がこの国に来たのは、クリーチャーなんていなかった平和な頃だ)

(・・・そうか。ウイ、中に入ってろ。ハンガーの動力が生きてたら俺が普通に開けるし、ダメならハルトマンでハンキーが入れるくれえの穴を開ける)

(俺も付き合おう。俺のHTAの近接戦装備の出番だ)

(完成してたんかよ!?)


 運び屋のHTAが完成したというのは聞いていたが、ルーデルの乗機まで完成しているとは思っていなかった。

 だが、嬉しい誤算だ。

 これでヒナのHTA、陸姫も入れれば、3機のHTAにヘリ、それとハンキーが俺達の戦力になる。

 姫様にべったりの稀人やシド、そのシドが親族を殺して奪った領地の軍と戦う事になるのなら、戦力は少しでも多い方がいい。


(そんじゃ、行こうか。チック、四駆が耐えられねえほどのクリーチャーがいたらすぐに退避だぞ。そんときゃ、ヘリを上げてもらって銃座に着くといい)

(わかってるよ。素人じゃねえんだ)

(そうかい、プロの姉ちゃん。いつか俺にもサービスしてくれや)

(ルーデルさん、降りたらアレぶっ殺してもらえますかねえ?)

(下品なジョークは、チックちゃんを友人として認めているからだろう。許してやって欲しい)

(・・・自分で殺るか)

(ボソッと殺人宣言すんじゃねえよ!)


 俺がハンキーの屋根から降りると、ウイと入れ違いにたーくんが出て来た。

 またマニピュレーターでカメラを構えている。


「たーくん、戦闘中はさすがによ・・・」

「えーっとですね。ティコさんが言うには、僕は普段から内蔵兵器で戦うので、カメラを持っていても平気だろうと」

「そりゃそうだけどよ・・・」

「諦めろ、ヒヤマ。効果的なプロパガンダであるのは間違いないんだ」

「この世界って、プロパガンダに嫌なイメージとかねえんか?」

「感じ方は人それぞれだと思うぞ」

「そんなもんか」


 3人でハンガーのシャッターの横にある箱の前に立つ。

 ルーデルがそれに手を伸ばしたので、サブマシンガンとマグナムを抜いて銃口をシャッターに向けた。


(・・・ダメだ。バッテリー切れか、どこかがイカレているかだ。これだから陸軍の脳筋共は、まったく)

(空軍みてえに、どこかやられても他で開けられる設計じゃねえのか。まあ、国も違うしなあ。たーくん、ハンキーに戻ってな。俺達はHTAを出すから、足元にいたら危ねえ)

(了解です、ボス。HTAなら、ハンキーちゃんの上からでもいい絵が撮れます)

(気分はすっかり戦場カメラマンかよ・・・)



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