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宣戦布告




 人を変態扱いする2人はシカトして、ハゲた絨毯を踏んで食堂へ進む。

 

「ヒナ、今だけでも人型んなっとけ。犬を連れ込むなとか因縁ふっかけられても困る。あ、俺以外の男に裸を見せるんじゃねえぞ? それがたとえ、ルーデルでもだ」

「わんっ」


 ヒナがパワードスーツを装備した状態の人型に変わる。

 ヘルメットをしていないのは、さっき俺が外したからだろうか。

 すぐに、食堂のドアが見えた。


「さて、どんな連中かねえ。臭えのは確定だから、あまり接近したくはねえな」

「そうもいくまい。まあ、最高権力者は留守でも友好的に接してくるだろう」


 ドア。

 引き戸を開けると同時に、悪臭が鼻につく。

 真夏の運動部の部室、それも最高にキツイやつだ。


「キッツ・・・」

「これじゃシドに襲撃されても位置を特定できないぞ。長居は無用だな」

「その前に鼻がおかしくなるっての。・・・俺の事は、セミーとチックに聞いてるな。この基地の責任者に面会を希望する」


 宰相だか大臣の次席。その役職がどんなものかはわからないし興味もないが、一応は礼を尽くさねばならないので、会釈してから食堂に入る。

 広い食堂の隅には缶詰の空き缶が積み上げられ、テーブルの上には飲みかけのビンや洗ってもいない食器が散乱していた。

 中央にはドラム缶があり、その中で薪を燃やしているようだ。

 猿か原始人なのか、この薄汚れた連中は。


「・・・ふむ。老いた使用人のカラダには飽きておったのだ。その2人、こちらに来て服を脱げ」


 やはり猿か。


「ルーデル、5秒だけガマンしてくれ」

「・・・そんなに怒っては、いる。怒ってるから王族シリーズは仕舞え、ジュモ。なんで銃口を俺に向けているんだ」


 数を数えながら、ヒナとジュモに服を脱げと言った男を睨みつける。

 狙撃したブタを、そのまま小さくしたような男だ。まだ、20そこそこなのかもしれない。肉は垂れているが、黒ずんだ肌にはハリがある。


「・・・5」


 マグナムとサブマシンガンを抜く。

 ドォン!

 デブ男の眉間にマグナムを撃ち込み、サブマシンガンを壁際の老人に向けた。


「なっ・・・」

「動くんじゃねえ、動いたら殺す!」


 それでも剣を抜く男がいる。

 心臓を守る位置に鉄板を括り付けているので、これが騎士団なのだろう。

 その眉間に、またマグナムを撃ち込んだ。


「他に死にてえヤツは?」


 返事はない。

 動く人間もいない。壁際の老人は、静かな視線で俺を見ていた。


「は、発言を許可していただきたい、南の王よ!」

「許可するが、挨拶なんぞいらんぞ。テメエらにゃ、もうそんな対応をする義理はねえ」


 壮年の男がたじろぐ。

 他の連中はボサボサの髪だが、その男だけは櫛を入れているのか、まだ見られる髪型だ。


「・・・先程の無礼は愚か者の戯言。謝罪するので、どうか武器を下ろしていただきたい」

「5秒も待ったのは、テメエらの誰かがヤツを止めると思ったからだ。それがなかったんで、俺は王としてテメエらを敵と判断した。もう遅いんだよ」

「う、動けなかったのです。そちらの女性達の美しさに乱心した愚か者の、あまりの暴言に!」


 食堂は広い。

 それに割れた窓を、木の板で塞いでいたりするのだ。

 当然、寒い。

 それでも壮年の男は、顔中に汗の玉を浮かべている。


「・・・ほう、止める気はあったと?」

「もちろん!」

「あれはウチのキレイどころを見たクソヤロウが発狂しただけで、この国の日常ではないと?」

「もちろんでございますっ。我が国は女王陛下の元、文化的な生活を営む、平和を愛する人々が暮らす国。今は暴徒に首都を占領されるという国難に瀕しておりますが、南の賢王たるヒヤマ王のお力添えあらば、すぐにでも首都を取り戻せるでしょう。さすれば、両国の友好は約されたも同然!」


 大げさな身振りを交えながら男が言う。


「バカが・・・」

「仕方ないよ、チック。国と国の話になったら、口出し出来ないし」

(ミツカ?)

(首都を占領されてるっての以外は全部ウソ。名前こそ赤表示になってないけど、ここにいる全員がそれなりに悪い事してるよ。スラムの住民の方が100倍マシなくらい)

(反吐が出るな。ありがとよ)


 いっそ、皆殺しにしてからシドを追うか。

 悲鳴。結構な数だ。腰を抜かしている中年の女もいる。指差しているのは、俺の背後。

 壁際の老人から目を離さず、そちらを見る。

 ルーデルだ。ヘルメットを取ってレーザーライフルを片手で構えたまま、タバコを差し出している。 


「落ち着けって?」


 サブマシンガンだけにしてタバコを1本抜く。

 銃口は、老人に向けたままだ。


「まあ、さすがにこれだけの人間を殺させるのもな」


 ライターは俺が出した。

 2人で顔を寄せる。


「・・・よく皆殺しにしようと思ったのがわかったな」

「長い付き合いだ。顔を見ればわかるさ」

「おい、ステファン」


 会話を聞いていた壮年の男が、人形のような動きで何度も頷く。


「職業持ちには、ウソを見破るスキルがあるって知ってっか?」

「なっ・・・」


 それすらも知らなかったのか。


「き、騎士団長!?」

「死んでおりますので、返事は出来ませんな」


 言ったのは大柄な男だ。コイツなら、剣だけでもクリーチャーを倒せるのかもしれない。

 ドッセル。家名はない。平民というやつか。

 ヘリでセミーとチックが話していた肚が座っている男とは、このドッセルという男の事だろう。

 にしても、さっき殺したバカが騎士団長とは。


「なら貴様でいい。ウソを見破るとは本当かっ!?」

「本当です」

「なぜ黙っていた!」

「女王陛下の命です。それに財政長官殿は常々、平民は命令されなければ口も開くなとおっしゃられておりましたが?」

「だ、黙れっ!」


 黙って聞いていれば時間がムダになる。

 タバコを棄てて踏み消す。


「動いたら殺すぞ、財政長官殿?」

「うっ・・・」

「セミーは姫様に、チックは稀人に無線を。状況説明だ。すまんがチックは、会話を声に出しながら無線してくれ。声を出してるのは、稀人に伝えてもいい」

「ほーい」

「面倒なんだがなあ、王サマ?」

「褒美を取らせる。よきにはからえ」

「はあっ、援軍に国を潰されてどうすんだか。オレとセミーが、あんだけ説明したってのに・・・」


 チックの声を聞きながら、壁際に座る老人を見る。

 壁にもたれかかってピクリともしないが、俺の視線から目を逸そうとはしない。それなりのレベルだろう。HPバーを見る限り、この国の連中の中では一番の高レベルだ。


「だーかーら、自分は頭が良いと勘違いしてる財政長官がウソをついたのが問題なんだよっ。はあっ!? ここの連中が皆殺しにされたら、海も見張れねえじゃねえか」


 稀人はここを見殺しにするか。

 だが、そうなるとブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドが来て上陸を許す。

 剣しか持ってないこの国の連中なら遺跡を漁れないだろうが、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドが上陸すれば、すぐにでも軍事基地を捜索して戦力を増大させるだろう。


「わっかんねえ女だなっ! 相手はヘリやHTAを持って来てる職業持ち、どいつもこいつもオレより高レベルだ。それが8人だぞ。姫様がどうなってもいいってのかよ、どんな犯され方をするかわかったもんじゃねえぞ!?」


 姫様に何かする気はねえんだが。

 一度、チックとは俺の誠実さについてじっくり話し合う必要があるな。


「姫様の選択に従うって、テメエの好きな戦争が出来なくなるんだぞっ!?」

「稀人は戦争ジャンキーかよ。南に来たら最高の条件で戦争させてやるって言っとけ、チック」

「やめとけ。戦闘の腕だけはいいが変態女、・・・ああ。気が合うだろうなあ」

「会うのが楽しみだ」


 割と本気で、スカウトしてもいいと俺は思っている。

 俺達の国はこれから、長い長い内政を充実させる作業に入るのだ。国境をガレキで囲うのは、ウイとヒナがいればそれでいい。

 俺やこの国の稀人のように建国事業では役に立たない職業持ちで、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドに奇襲をかけるのもいいだろう。


「ヒヤマ、姫様から伝言」

「おう、なんだって?」

「無条件降伏するって。だからここの人間を、それ以上できれば殺さないでって」

「おい、ヒヤマ・・・」


 やってくれるぜ、姫様。


「・・・チック、姫様は政治の天才なのか?」

「そりゃねえな。根っからの箱入りだ」

「天然かよ、ビビって損した。降伏を受け入れよう」


 さっきのルーデルを見た悲鳴から立ち直っていたこの国の連中に、ざわめきが広がっている。

 早いトコ安心させねえと、暴発する人間も出るな。


「姫様が命は差し出すので、国民にだけは手を出さないでくれって。あと、犯すなら自分だけを、だって」

「んな事しねえよ。こっちの要求はたった1つ。遺跡の発掘権だけだ。それも、この国がもう使ってるこのホテルみてえのは除外する」

「・・・優しいねえ」


 元々、遺跡はかっぱらっていいと、この国の稀人に言われている。

 だがどっちが反乱軍かわからない状態にまでこの国は追い詰められているのだから、かっぱらいが合法になるだけで御の字だろう。

 こんな広い国を占領する余裕なんて、俺達にあるはずもない。


「そんじゃ、俺達はシドを追う。セミーには話があるから、夜にでも無線を飛ばすよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。荷物とかまとめないと。5分だけ待って!」

「はあっ?」


 セミーは何を言ってるんだろう。

 2人がいなけりゃ、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドが来たら俺達は背後から襲われる事になる。

 最悪、反乱軍やシドと挟み討ちだ。


「オレとセミーはお前達になんかすればもう二度と手を貸さねえと、このアホ共に言い聞かせたんだよ。それがこんな事態になるんじゃな。セミーはお人好しだが、裏切り者を許しはしねえ。ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドに皆殺しにされて、地獄で悔いればいいのさ」

(とか言ってるけど、何かあればもらえる飛行機で助けに来るよ。そうじゃないと、ヒヤマの国が後で困るでしょ?)

(そりゃそうだが・・・)

(にもつ、はこぶ)

(そうだな。セミー、チック。ヒナを連れてけ。アイテムボックスの話は知ってるんだろ?)

(ありがてえ。置いてかなきゃなんねえはずの遺跡品が、かなりあるからな)

(急いでな。シドは空を飛べっから、かなり引き離されてっと思う)


 セミーとチックが食堂を出て行く。

 それなりに長い付き合いだろうに、騎士団のドッセルに手を振るでもない。


「そんじゃ頑張れや。財政長官殿?」

「は、あ、う・・・」

「言葉すらねえのか。アドバイスを、1つだけしてやろう。最良の選択はそこの壁際の爺さんをここの責任者にして、ドッセルっておっさんを騎士団と屋内運動場の指揮に使う事だ。そうすりゃ、狩りをしながらなんとか見張り番くれえは出来るだろう。財政長官殿がチンケな権力にしがみついたら、次にブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドが来た時にここは全滅だ。よく考えて、結論を出せよ?」



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