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糸口




 着陸したヘリから全員が降りる。

 ウイはヘリを収納するとすぐにハンキーを出し、ニーニャから乗せた。

 どうやら、安全を確保してから暖房を直してやればいいとニーニャを説得してくれたようだ。ありがたい。


「ウイ達は外で待つみてえだな」

「その方がいいと思う。食堂には、貴族もいるからね」

「貴族はやっぱクソヤロウなのか、セミー?」

「かなりの確率でね・・・」

「今までよく我慢できたなあ、主にチックが」

「ほう、このトリガーを引かずにいられる寛大なオレに何か言ったか?」


 ライフルの銃口で小突かれる。

 まあ、撃たれちゃいねえから許してくれたって事か。


「ああもう、悪かったよ。女友達とかこっちじゃ出来なかったからよ。まだ慣れてねえんだ、許せ」

「寂しい野郎だ」

「なにオマエ、男友達とかいんの!?」

「・・・ルーデルさんが来たぞ、変態野郎」

「うわー、露骨に話を逸しやがったよ。お疲れ、ルーデル」

「屋内運動場の兵は大丈夫そうだな。ウイちゃん達は、ハンキーで牛のクリーチャーを回収するそうだ」

「怪我したばかりだからシドは来ねえと思うが。ジュモ、ハンキーの連中を頼めねえか?」

「ヒナがいれば大丈夫なのデス。ジュモは、ルーデルの護衛なのデス」

「・・・仕方ねえか、行こう。って何してんだ、たーくん?」


 たーくんが補助腕に持っているのは、8ミリのようなビデオカメラだ。


「ティコさんに頼まれました。撮れる限り撮って来てくれと。撮影を中止しますか、ボス?」

「うあー・・・」

「ヒヤマ、ティコちゃんはまさか、ニュース映像をテレビ放送しようってんじゃないだろうな」

「ニュースの話もしたなあ、そういえば。まあ、倫理コードも教えたから戦場をそのまま放送したりはしねえと思うけど・・・」

「たーくん、撮るのはヒヤマ中心か?」

「あ、はい。なんでも戦うボスを民衆に見せればそれだけで求心力が上がると、ヨハンさんから言われたそうです」

「あの兄妹・・・」

「ふっふっふっ。行きましょうか、英雄王。隣国の重臣達がお待ちですぞ」

「自分より目立ちそうな呼び方をしないでいただきたい、空の英雄殿」


 肩にポンと置かれた手をどかそうと力を込めるが、ルーデルの手は1ミリも動かない。

 ボーナスタイムでレベルが上がっても、歴然とした力の差があるのは同じか。


「いいから行くデス。セミーとチックが寒そうなのデス!」

「そうだったな。はぁ、撮るのはいいけど自分の身を守るのが優先だぞ、たーくん?」

「了解です、ボス。次の訪問までにはラジオに使っている音源をダビングしてくれるそうなので、そしたら僕は歩くジュークボックス兼カメラマンですね」


 30番シェルターの名前は出さず、たーくんが嬉しそうに言った。

 この子は何を目指しているのだろう・・・


「セミー、チック。あんま先行すんなよ。食堂でも、常に俺達のそばにいろ。にしても、歩くジュークボックスって・・・」

「ニーニャの体が大きくなったので、もう背中の箱では狭いんですよ」

「子供の成長ってはええからなあ。俺もいつの間にか、18になってるし」

「ヒヤマ、騎士団と事を構えるの?」


 振り返って首を傾げるセミーの仕草は、妹であるニーニャそっくりだ。

 その頭を撫でようと俺の手が動くと、チックの銃口も上がった。目は、本気だ。手を下ろして、肩を竦めて誤魔化す。


「こっちから喧嘩を売る気はねえ。が、カメラもあるし俺達は隣国からの使者って立場を崩せねえんだよ。なんかあれば、その場で戦争が始まるな」

「うっわ、絶対やばいよチック。先に行って説明しよっ!」

「お、おい、だから先行すんなって・・・」

「貴族のほとんどと一部の騎士団は、掛け値なしのバカだからな。セミーの心配もわかる。【パーティー無線】で俺達がいいって言うまで、玄関でタバコでも吸ってろ」

「そこまでかよ。って、行っちまった。大丈夫かねえ・・・」

「ヘリやハンキーは見られている。怖いのは2人を人質に取ってそれを要求される事だが、それでも俺達で対処可能だろう」

「そうかい、ってさっみー! 空気が痛いぞ!」

「こんな寒さでヘルメットを取るなんて。正気か、ヒヤマ」


 呆れ顔で見られても、戦闘後のタバコを我慢するなんてムリだ。

 言われなかったら、忘れてて食堂に行くまで我慢できたかもしれないのに、チックめ!


「寒い! でも旨い。ルーデルもやるか?」

「やめておくよ。俺だって、寒さは感じるんだ」

(ヒヤマ。こちらは回収が終わったら、窓から食堂を狙える位置で待ちます)

(おう、もしもの時は頼む。映像が行ってるから、タイミングも任せるよ。にしても、さっみー!)


 満足するまでタバコを吸い、すぐにヘルメットを装備する。


「こんな寒くても戦争するとか、人間ってどうしようもねえなあ」

(セミー達でも初体験の大寒波らしいわよ。年明け前にこんなのは初めてだって言ってた)

(そういや今日って、・・・やっぱ25日じゃん。12月の)

(ホワイトクリスマスですか。なんというか・・・)

(クリスマスに吸血鬼と戦ってあと一歩で取り逃がす、か)

(たしか、異世界の風習だったか。クリスマスと言うのは)

(よく知ってんな、ルーデル。結構な血を流したが、セミーとチックに何かすりゃまだまだ血が流れるぜ・・・)


 玄関に到着してしばらく待っても、セミーとチックから無線は来ない。

 説明が長引いているのか、説明した相手が危なそうだから俺達を迎え入れないのか。

 ニーニャの姉とその恋人が、俺達を裏切るとも思えないが・・・


「この寒さでも、ハンキーは余裕で動いてんな」

「ニーニャちゃんの仕事だ。問題はないさ」

「ローザで走るのはムリだろうなあ。ヘリ頼みの追撃戦か」

「だが、シドの姿が見えないんじゃ追撃戦にもならないぞ?」

「そこなんだよ。なんとか位置を特定する方法を見つけねえと・・・」

(回収終了です。それとシドが投擲した物を発見したので、ヒナに持って行ってもらいますね)

(了解。それで牛のクリーチャーを誘導したんだよな)

(十中八九そうでしょう。では頼みますね、ヒナ)


 セミーとチックからの無線はまだない。

 こっちから呼びかけて、映像を回してもらうか。無線は口を塞がれても声を出せるし、大怪我でもすれば痛みで叫び声も上がる。まだ無事なのは間違いないだろう。


「お、おい、ヒヤマ!」

「んー?」


 ルーデルが指差す先には、何かを咥えた大型犬がいた。


「ボルゾイ!?」

「ヒナちゃん、なんだよな・・・」

「だろ。よーしよしよし!」


 撫でまくる俺に、ボルゾイが咥えた木の枝を押し付ける。結構な大きさだ。表面には、刃物でたくさんの傷が付けられている。


「マタタビ的なもんなのか、これ」

「わんっ」

「いや、普通に無線で話せよ。ヒナだろ?」

(うん)

「冬用の变化スキル取ったんか。カッコイイなあ、かわいいなあ、美人さんだなあ、おい」

(このまま、する?)

「・・・それだけは勘弁してくれ。この樹液、犬には効果ねえのか?」

(ない。におい、ひやまもかぐ)


 寒いから遠慮したいが、ヒナが言うからには何かあるのだろう。

 ヘルメットを取って鼻を近づけると、ミントのような淡い香りと吐き気がするような臭いがした。


「ミントより刺激の少ねえ匂いはいいが、なんだこの臭えの?」

(たぶん、たいしゅう)

「シドのかっ!?」


 ボルゾイが頷く。


「でかしたぞ、ヒナ。これで至近距離ならシドを捕捉できる!」

(いぬがた、ついせきにべんり)

「・・・これでヤツを追えるな。ボルゾイ連れた白い死神から逃げ切れるか、駆け出しのコゾウ」

「いい表情です、ボス!」

「いや、過激な笑顔だから放送は控えた方がいいんじゃないか?」

(ひやま、かっこいい)

「あばたもえくぼで、死神が天使なのデス?」

「ま、まあ感じ方は人それぞれだしな。ヒヤマ、黄マーカー2。セミーちゃんとチックちゃんだろう」


 玄関の向こうに姿を見せたのは、ルーデルの言う通りセミーとチックだった。


「何してんだよ。入ってりゃ良かったじゃねえか」

「いや、一応はそっちの国の基地だろうからよ。許可なしで建物に入るのはな」

「ったく。こっちの連中に礼儀なんていらねえよ。いいから入れ」

「おう。にしても、セミーもチックもそんな臭わねえな。ちょっといいか?」


 この国の人間の体臭がキツイのでないなら、この木の枝の臭いはクリーチャーか動物の臭いが付着しただけという事になる。

 せっかくシドの位置を特定する糸口を発見したってのに。

 近くにいたチックの首に、まず鼻を寄せた。

 ヘリで抱き止めた時に不快に思わなかったくらいだから、やはり臭わない。それどころか、嫁さん連中に負けないくらいいい香りだ。


「くっそ、全然臭くねえじゃんか。ふわっと花の匂いまでしやがるしよ! セミーもちっと嗅がせてみろ」

「え、え。うええええっ!」

「逃げんじゃねえ。くっそ。こっちもいい匂いじゃねえか。果実系か?」

「お、おい、ヒヤマ。そういうのはちゃんと説明した上で同意を得ないと・・・怪我をするぞ?」

「ぶべえっ!」


 どうやらまたぶっ飛ばされたらしい。

 見上げた先には、銃床で追撃できる構えのチックがいた。


「顔が真っ赤だぞ、チック?」

「へ、へへへ、変態野郎! こんな臭いフェチがニーニャの旦那だってのかっ!」

「ちげーよ。この木の枝、匂い嗅いでみろよ」

「ああん?」

「あー。チックちゃん、ここはヒヤマの言う通りにしてやってくれないか。そうしたら、あの無礼な振る舞いも納得、は出来ないとは思うが。まあ、何をしたかったのかわかる」

「ルーデルさんが言うなら・・・」


 チックが木の枝を受け取る。

 ゆっくりと疑わしそうに鼻を寄せたが、表情は変わらない。


「ただの傷を付けた木じゃねえか」

「どれどれー。ん、ちょっと樹液の匂いがするよ。それに、オス臭い?」

「セミーにはわかるのか。なんでチックにゃわからねえんだろな」

(感知力の差じゃないですか。あれは五感にも影響しますから)

「ああ、たしかに戦闘職の私の方が感知力は高いね」

「そうすっと予想通りなら、セミーも迎撃くれえなら出来るって事か。なあ、セミー。こっちの人間ってのはみんな臭えのか?」

「冬は水浴び出来ないからねえ。一緒にゴハンは遠慮したいくらいには臭いよ」

「よし、これでシドを追えるな」

(それはいいのですが、またセクハラで頬を腫らしますか。これから隣国の重臣との会談だというのに。セミーさん、申し訳ありませんが・・・)

「まーかしてっ。【応急処置】!」


 セミーが言いながら俺を指差すと、殴られた痛みが消えた。

 【応急処置】はMPを使わず治療するスキルだが、数ある治療スキルの中でも群を抜いてリキャストタイムが短いらしい。


「おお、ありがとな。俺も取得すっかなあ、コレ」

「治療スキルのない職業持ちパーティーなんて、ヒヤマ達くらいじゃない?」

「かもなー」

「変態野郎だから、痛みもご褒美なんだろ」

(惜しいです、チックさん。ヒヤマは感知力が高過ぎて、ドクターXでの肉体修復時に快感を覚えるだけですよ)

「ほ、本物だー!」

「変態は死ねばいいのに・・・」



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