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エンカウント




 セミーは港の連中を助けたいと思っている。

 そして、チックはそんなセミーを哀しませたくない。

 相手は姿を消せて、こちらの攻撃が効かないバケモノ。どう考えても状況は厳しい。とても嫁さん連中をヘリから出そうなんて思えないほどだ。

 あのガキ、シドはどれほどの時間、姿を消しながら攻撃を無効化出来るのか。それがスキルの効果だったとして、リキャストタイムはどのくらいなのか。


「ミツカ、スキル一覧から不可視化スキルを探してくれ。攻撃がすり抜ける奴だ」

「さっきから探してるんだけどね。まあ、リストの隅々まで探してみるよ」

「タリエ、港にどれだけ近づけば生体感知スキルを使える?」

「滞在歴がない場所では、半径500メートルしか探れないのよ」

「となると、港の直上まで行かねえとキツイか。チック、あの港に対空兵器は?」

「残骸はあるけど使用可能なのはない。ただ、シドは修理スキルを持ってるはずだ。それこそ、水車の修理が出来るくらいのだがね」


 一般修理スキルか。

 ウイと同じものなのかもしれない。それなら、対空機銃を直したりは出来ないはずだ。


「騎士団は対空ロケットぐれえ持ってんじゃねえのか?」

「それはねえな。銃ですら平時は貴族が管理してるんだ。あったとしても、対空ロケットなんてとっくに売っ払われてるだろうさ。反乱軍の武器は遺跡から発掘したもんじゃなく、貴族共が数百年かけて横流しした物だって噂だ」

「ったく、ろくでもねえなあ。ルーデル、撃たれるとすりゃ飛行艇の機銃からだとさ。港に近づけるか?」

「それは問題ないが、ヒヤマ1人を降下させるのはなあ・・・」

「迷ってりゃそれだけ人が死ぬ。ここは、思い切るべきだ」


 俺なら一度は死ねる。

 逃げ出すのは、それからでいい。


「運び屋を連れて来なかったのが痛いな。だが敵が1人なら、ヘリかヒヤマのどちらかは自由に動けるか・・・」


 シドはこちらを見て頭を下げた。

 狙撃が海からだと理解はしている。が、それが船か航空機のどちらかから行われたかまではわからない。そんな状況で、撃たれて爆発すれば自分も死ぬ可能性の高い飛行艇の銃座を使うだろうか。俺なら、そんな真似はしない。シドが強い恨みで港の連中を殺しているにせよ、生き残ればまだ殺せるのに玉砕する事はないだろう。引き際は見定めているはずだ。


「ホテルには踏み込むけど、ヤバイと思ったら窓から飛び下りてハルトマンを装備する。そしたらすぐそのまま回収してくれりゃいい」

「・・・それしかないか。このまま見殺しに出来ないなら」

「ありがてえ。セミー、チック、騎士団の連中にパワードスーツの男は味方だと伝えてくれ。それと、一時的に俺達のパーティーに入れ」


 ニーニャがいる限り、この2人は無条件で味方になってくれるはずだ。少なくとも、敵に回る事は絶対にない。

 こちらと戦わないなら、経験値は出来るだけ渡してやるべきだろう。

 まあ、チックの性格を考えたらそれを言うと面倒な事になりそうなので、ここは適当な理由をでっち上げておけばいい。


「無線の都合か?」

「いや、敵がヤバ過ぎるからだ。弱気になってる訳じゃねえが、逃げ出す事もあるかもしんねえし、その時に散り散りになる可能性だってあるだろ。もしもの時にゃ、近くにいるメンバーと助け合ってくれ」

「・・・仕方ねえか。セミー、パーティー解散」

「うん。でも、私だけでも着いて行っちゃダメかな?」

「どうしても着いて来るってなら、港の連中は見殺しにする」

「・・・うっ。わ、わかった」


 姿を消せるだけの敵はいた。それにすら、俺は不意討ちで殺されている。

 姿を消せる上に攻撃が通じない敵がいる場所に、パワードスーツすらないセミーを連れて行くつもりはなかった。


「やはり1人で行くのですか?」

「ハンキーの銃眼や通気口から侵入。ねえとは言い切れねえからな、今回は留守番しててくれ」


 パワードスーツを装備して、サブマシンガンとマグナムの装填を確認する。


「霧に姿を変えるなんて・・・」

「俺は一度なら死ねるし、1分だけなら時間を止められる」

「・・・何でもありの世界ですものね。それで、ヒヤマは1人で相手のリキャストタイムを探りに行くと?」

「そうだよ。パーティーに勧誘したぞ、お2人さん」

「あいよ。申請承認」

「私も入った。ニーニャと同じパーティーになるなんて、なんか不思議な感じ」

「ルーデル、地図にABCのマーカーを設置した。ヘリが危ねえようなら、俺に構わず離脱してくれ。ほんでそこで合流しようぜ」

「これか。了解だ。降下地点はどうする?」


 相手は1人。

 こっちは降下する俺とヘリの2部隊。ヘリに銃座があるのは容易に想像できるだろうから、シドは交戦する気があるのなら室内での戦闘を選ぶだろう。

 騎士団との共闘が可能ならば、ここで簡単にシドを片付けられるかもしれない。


「騎士団はどうだ?」

「銃を使うかどうかで貴族とモメてる。門のそばの建物にいる100の兵隊とは連絡が取れてないって」

「・・・どうしようもねえな。これからシドを狩りに俺が降りる。助け合えそうか?」


 返事もせずにセミーが耳に手を当てる。

 無線をするときの癖なのだろうか。スキルの無線は脳に直接声が聞こえる感じなので、普通に耳から入る音を嫌っているのかもしれない。


「おい、変態野郎。騎士団にドッセルって男がいる」

「それで?」

「団長は貴族に媚びる糞だが、そのおっさんはまだマトモだ。そんなドッセルを慕う団員も多い。地図を見ろ。ホテル内の詳細地図を表示した」


 網膜ディスプレイ。

 正面入口から入るとエントランスホール。正面に受付らしきカウンターがあり、その奥には左右に長い廊下がある。

 右の突き当りが食堂か。


「廊下から食堂へはドアが3つ。封鎖できるってのか?」

「ああ。窓からの侵入は防げねえと思うが、廊下からの入口3つはドッセルの指揮で固めさせる」

「シドが乱戦を望まねえなら、それでなんとかなるか。俺とタイミングを合わせて挟み撃ちに出来ねえか話し合ってくれ」

「わかった。けど、期待はするんじゃねえぞ」


 地図をホテル内から外の物に変える。

 門というのはすぐに見つかった。小さな半島のようになっている場所にホテルは建っているらしい。敷地から外に出るには、たった1つの道路を通るしかないようだ。


「チック、兵がいるのはこの建物か?」

「そうだ。屋内運動場だったらしい」

「ルーデル、この建物に近い場所で降下してえ。いいか?」

「ああ。だが敵が経験値を求めているなら、職業を持つ騎士団のいるホテルよりここの兵隊を狙うだろう。危険すぎる気もするな」

「相手が相手だ。少しでもレベルアップを邪魔しとかねえとヤバイぜ」

「・・・わかった。準備は?」

「出来てる。リビングのハッチから飛び降りるよ」

「了解」


 リビングに向かう。

 敵はシド1人。サブマシンガンではなく、オートマチックのマグナムを抜いた。


「俺も【衛星無線】があれば、これに似た銃の名前を運び屋に訊けるのにな。地球にゃ、これによく似た銃があったんだ」

「私が無線で訊いてみましょうか?」

「いいよ、そこまでしなくて。それよりハッチはすぐ閉めるんだぞ、ウイ」

「わかっています」

「・・・素っ気ねえな。怒ってんのか?」

「怒っていないと思っているなら尊敬しますよ」


 結構お怒りらしい。

 1人で行くのが気に喰わないのだろうか。


「ウイ、言ってみりゃこれは戦闘じゃなく情報収集なんだ。ムリをするつもりはねえよ」

「頭では理解しています。それでも、ヒヤマ1人をヘリから降ろすしかない自分が許せないのです」

「ウイはサポート系のスキルばっか取って来たからなあ」

「ええ。せめて、【散桜の如く】を取得して最上スキルまで伸ばしていれば・・・」

「お互い、まだまだ素人に毛の生えたようなレベルだもんな」

「ええ。運び屋さんやルーデルさんを間近で見ているので、自分の力のなさが歯痒いです」


 機体を傾けて動き出していたヘリが、ほんの少しだけ小刻みに姿勢を変えた。

 狙撃地点はホテルまで3.5km。そこからセミー達との合流時にいくらか前進したので、もう北大陸の上空に到達したらしい。


「着いたか」

「ムリだけはしないで下さい。忘れているかもしれませんが、貴方が死ねば私も死にます」

「覚えてるよ。運び屋やジャスティスマンを相手にじゃれ合うのとは違う。安全第一、ってやつさ」


 頷き合う。

 お互いパワードスーツを装備しているので、キスが出来ないのが残念だ。


(ヒヤマ、監視塔に死体を確認した。目立つ外傷は見当たらないな。腰の剣も剥がされていない)


 さっきの動きは死体を見てくれたからか。


(銃を持ってねえのが確認できただけでラッキーだ。ありがとうな)

(いいさ。降下地点に到着。ウイちゃん、ハッチ開放だ)

(はい。気をつけて、ヒヤマ)

(あいよ。行ってくらあ)


 グッドラック。

 ルーデルの声が聞こえた。

 運び屋に英語を使う軍隊のセリフを教えられたのだろう。操縦桿を握りながら渋い声で言っているのを見て、チックは顔を赤くしているかもしれない。


(見惚れてんじゃねえぞ、チック!)

(な、何を言ってやがんだ変態野郎がっ!?)


 雪。

 この世界に来て、どれほどの時間を過ごしたのだろう。雨すら降らない国で暮らしているからか、その白さが酷く眩しく見えた。

 ジャンプ。

 5メートルほどの高さなら音もなく着地できる。

 銃口を向けながら、素早く周囲を見回した。


(・・・クリア。人っ子ひとりいねえや)

(こっちも上昇して索敵を開始)

(おう。生体感知はどうだ、タリエ?)


 言いながら雪を蹴って走り、手近な植え込みの陰にしゃがみ込む。

 銃はいつでも撃てる構えだ。

 なんとかイーグル。不意に想い出す。たしか、地球のテレビで見たこれに似た銃はそんな名前だった。


(生体感知をヒヤマのミニマップにリンク、完了。見えるわよね?)

(・・・これはいいな。ありがとよ)


 視界の右下には、【司令部無線】の効果で半透明のミニマップが見えている。いつもは登録しているメンバーと自分が感知している人間の光点しか表示されていないが、今はたくさんの黄色い光がミニマップに映っていた。


(そんな事できたっけ、タリエ?)

(そういえば言ってなかったわね。タリエ・マライエスは、コウジ・ヒヤマの所有物になったのよ。だから、こんな事も朝飯前ね)

(しょ、所有物っ!?)

(こんのっ、変態野郎がッ・・・)


 幼なじみ3人の声は聞き流し、ミニマップの光点と見えている景色を見比べる。

 死体があったというのは、港の右端にある監視塔だろう。そこには黄色い光がない。


(何人か孤立してるな。門には、3人か・・・)


 光点が集まっているのは屋内運動場とホテル。次に多いのが、道路に繋がる門だ。遠くに見えている監視塔の位置には、まだ黄色い光が残っている。

 周囲に目を配りながら、じっとミニマップを睨む。

 動いている光点は少ない。このどれかが、シドのはずだ。


(ヒヤマ。門の光点が、1つ増えたと同時に1つ消失っ!)


 タリエが叫ぶ。

 バカな。門の光点はたしかに少しだけ移動したが、移動した先にはさっきまで何も映っていなかったのに。

 思いながら、門に向かって走り出した。



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