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30番へ




 シティーの道は細い。

 T字路の鉄骨に寄りかかって、のんびりとニーニャ達を待った。


「金持ちが多いからか、服まで空母の住民とは違うな・・・」


 太っている人間も多い。それに空母の子供達と比べると、シティーの子供達は少し背が高いようにも見えた。


「・・・やっぱ畑を広げてえな。いつまでもガキが飢えてる国なら、最初からねえ方がマシだ」

「お兄ちゃーん!」


 駆け寄ってきたニーニャを抱き止める。

 後から歩いてくるのはウイにミツカ、ミイネだけだ。


「ヒヤマ。会議、お疲れ様でした」

「おう。今日は4人だけか?」

「ええ、そうなんです。それぞれ仕事がありますからね」

「俺だけだもんなあ、仕事がねえの。ハンキーで30番までだ。尾行を警戒しながら行くから、陽が落ちてからの到着にしたい」

「了解です。ミイネは初めてですから、楽しみですね」

「ミイネお姉ちゃんに、たくてぃちゃんを紹介するのっ!」

「だな。買ってく物は?」

「特にないと思いますよ。超エネルギーバッテリーは、この間のでしばらく保つそうですし」

「ほんじゃ、行くか」


 ニーニャと手を繋いで3番出口まで歩く。

 ウイ達は並んでお喋りしながら付いて来るが、ずっと視線を背中に感じる。たぶん、ミイネだろう。


「おっちゃーん、開門お願い」

「あいよ。頼むから気をつけて歩いてくんなよ、希望の星」

「おだてたってなんも出ねえよ。あ、これ人数分のタバコとジュースな」

「出るんじゃねえかよ。ってそうじゃなく、マジメな話さ。やっと動き出すんだろ?」


 おっちゃんは嬉しそうだ。

 昔は冒険者をしていたらしいが、膝を悪くして門番をやっているらしい。

 腕も悪くはなさそうだが、何よりも屈託のない笑顔と、そこから覗く人柄の良さが目を引く。ジョン達と似たタイプの、面倒見の良い冒険者だったのかもしれない。


「何でそう思ったんだい?」


 言いながら、自分のタバコを出して2人で咥える。

 ライターの火に顔を寄せるおっちゃんは、額に汗を光らせていた。


「頼むから怪しまねえでくれって。俺は命のやりとりなんぞ、10年以上もしちゃいねえんだ。殺気で小便をチビリそうだって」

「殺気なんか出してねえけどさ、何でそう思ったんだか聞きてえんだよ」

「ウチにも未成年のガキがいるんだよ。学校を作るって回覧板が来て、説明会とやらにも顔を出したのさ」


 マイケルはもうそこまで動いているのか。

 義務教育。これが上手くいくかどうかで、新しい国の将来は決まる。


「で、感想は?」

「ありがてえ話さ。今は息子を私塾に通わせてるが、それだって簡単な読み書きしか教えちゃくんねえ。それが学校じゃ、読み書きどころか計算までタダで教えてくれるって言うじゃねえか。計算は商人の家の子が親からやり方を受け継ぐから、私塾の先生も教えられねえってのによ」


 もしかすると算数レベルの計算さえ、商人の家の家伝だったのか。それを利用して儲けていた商人も、それなりにいたのかもしれない。

 だが、ジャスティスマンが法を整備するならば、そんな儲け方を許しはしないだろう。

 客を騙していた商人を放っておくのは癪だが、ここは我慢するしかない。

 過去は、変えられやしないのだ。これからをどうするか。今は、それだけを考えよう。


「そっか。なら、シティーの学校は何とかなりそうだな」

「感謝してるよ。まず、スラムがなくなった。そして無料の学校が出来る。それ以外にも、変わっていくんだろうなあ」

「良い変わり方なら歓迎して欲しい。じゃ、俺達は行くよ」

「おう、良い宝を」


 おっちゃんに礼を言ってスラムに足を踏み入れると、ウイがすぐにハンキーを出した。


「ミツカ、ブロックタウンには寄るか?」

「特に用事はないよ。ニーニャちゃんは?」

「んっとね、帰りに寄ってくれたら嬉しいの」

「了解。そんじゃミツカ、いつも通りクリーチャーを探しながら、たくてぃちゃんのトコまで行ってくれ」

「あいよ。ヒヤマは屋根かい?」

「だな。最近はレベルアップもご無沙汰だ。毎日ランニングと筋トレはしてるが、腕が鈍りそうでよ」


 ないなら自分達でギルドを作ろう。

 思いついたのはたったそれだけの事だったが事態は予期せぬ方向に動き、その日暮らしの冒険者が国王なんて呼ばれようとしている。

 これでいいのだろうか。

 思わない夜はない。

 だが、俺が王になる事で女子供の生活が少しでも良くなるなら、やらないという選択肢はないのだ。


「贅沢をさせてえんじゃねえ。せめてメシくれえちゃんと食えて、理不尽に殴られたり犯されたりしなけりゃそれでいいんだ。そのくれえの環境を整えるだけなら俺にも出来る、はずだ」


 全員がハンキーに乗り込んだのを確認し、屋根に上って無線を繋ぐ。


(いいぞ、ミツカ)

(あいよ。それじゃ、しゅっぱーつ!)


 たーくんがいないのでラジオはない。

 午後の陽射しを浴びながら、瓦礫の街をハンキーは進む。


「瓦礫はどれだけあっても足りねえ。ここも今年中には更地にして、最低でもじゃがいも畑。出来るなら麦畑にしてえな」

「畑はニーニャちゃんに考えがあるらしいよ」


 声は、ミイネのものだ。

 砲塔に預けていた背中をずらすと、何も言わずミイネは俺の隣りに座った。


「暑くねえか?」

「平気さ。暑さには慣れてるからね」

「そうか」

「うん」


 空母の横を過ぎ、ハンキーは橋を渡る。

 俺達は何も言わずに、流れてゆく景色を見ていた。

 ミイネが次に声を出したのは、ハンターズネストへの道を半分ほど走った頃だ。


「僕は、こっちに残ろうと思う」

「北大陸、興味ねえのか?」

「そうでもないよ。ただ、空母に残って仕事をするロージーの護衛は必要かなって。それに何かあれば運び屋さんが動くけど、剣聖さんは銃を使えなくてタンゴさんはヘリがない。そうなると、花園の兵員輸送車にだって出番はあるでしょ。その時、身重のレニーさんに無茶をさせるのはね」

「そこまで考えてるのか・・・」


 思わず呟くと、ミイネの小さな笑い声が聞こえた。

 相変わらずかわいらしい声だ。


「ミイネはかわいいな」

「なっ、何を言うんだいきなりっ!?」

「戦う事しか出来ない。そんな風に自分を決めつけて、悔しく思った事はねえか?」

「・・・いつも、思ってる」


 ミイネがパワードスーツの拳を握り締めた。

 鉄が鉄を噛む音。


「俺もだ」

「えっ・・・」


 パワードスーツを収納し、ジーンズとTシャツ姿になる。


「ふう、風が気持ち良いな」

「ちょっとヒヤマ。いくら赤マーカーがないからって!?」

「ミイネ」


 名を呼びながら、胸にミイネの頭を抱き寄せる。


「ちょ、ちょっと・・・」


 真っ赤になった頬を撫でた。

 このままキスをしたら楽しい反応を見せてくれるだろうと思ったが、マジメな話の途中だからと何とか思い留まる。


「戦う事しか出来ねえ。でも、俺より強いヤツなんていくらでもいる。ならどうすりゃいいんだって考えても、答えを出せるほど賢くもねえ。俺は、そんな感じだ」

「ぼ、僕もだ・・・」

「やっぱりか。だから出来るだけ考える事にしたのか?」


 ミイネは出会った時から、あまり物事を深く考える方ではなかった。

 それがここに来て俺達の留守中に考えられる不安要素を自分なりに読んで、自分は空母に残るべきだと答えを出した。


「大層な事じゃないんだけどね。わからないなら、考えるしかないのかなって・・・」


 小さなミイネを抱き締める。

 掻き抱く、とでも言った方が良い程にだ。


「俺もそうさ。わかんねえから、出来る事をしようと思う。王様だなんて笑っちまうけどよ」

「・・・ヒヤマなら、出来るよ」

「こんなに怖がってんのにか?」

「大丈夫」

「言い切りやがるか」


 頬にミイネの手が添えられた。

 いつの間にか、パワードスーツは収納したらしい。


「カチューシャ商店で、お婆ちゃんに銃を渡されたよ」

「お、おう。・・・あれだ、ミイネの子供ならきっとかわいいんだろうなあ」

「いつか子供が僕みたいに悩むんなら、産まない方がいいのかなって思ってた」

「悩むのは悪い事じゃねえさ」

「ヒヤマでも悩むなら、そうなのかもね」

「誰だって悩むくらいはするだろ」

「かもね。それで、僕は残ってもいいのかな?」


 心配じゃないとは言えない。

 だがミイネが決めたなら、俺がどうこう言っても仕方ないだろう。


「ロージーは空母から出ねえ。だからまだ安心だけどなあ」

「ムリはしないよ。約束する」

「ああ。ミイネだって好きに生きていい。産まれて来る子供もな」

「そう言ってくれると思っていたよ」

「俺の行動まで読むなっての。・・・婆さんは、シティーのカチューシャ商店か。ハンターズネストには寄らなくていいって、ミツカに言っといてくれ」

「了解。でも僕の心配をしてくれるのなら、暑いから中に入ってろって言ってくれればいいのに」

「そんなんじゃねえさ。ミイネがかわいいから、ここにいられたら襲っちまいそうでよ。せっかくだから、青空の下でどうだ?」

「バ、バカな事を言ってるんじゃないっ!」


 ミイネが車内に消えたので、パワードスーツを装備してからタバコに火を点ける。


「360度、見渡す限りの景色は荒野。なれど赤マーカー、なし。平和だねえ・・・」



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