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始動




 戦争。

 そうなった時、俺がここにいるならいい。戦うだけだ。

 だが、生まれてくる子供達が戦わなければいけない時、俺はどこにいるのだろう。

 死んで地獄に落ちた後なら、助けになんか来られやしない。


「おい、聞いてんのか死神?」

「あ?」

「あ、じゃねえよ。基本方針だけでも決めとかねえと、ジャスティスマンも法律の作りようがねえだろうが」

「・・・んー。つか、皆は新しい国をどんな感じにしてえんだ?」

「王の望むままに。と言いたいところだが、あまり規則で縛るのは歓迎しないね。犯罪者のいないブロックタウンという存在は、ずっと存続するのだろうし」

「なるほど・・・」


 ジャスティスマンが言うのは、犯罪者と同じ街で暮らしたくないのならブロックタウンに住めばいい。そういう事だろう。

 現状、フロートヴィレッジやタウタにも犯罪者はほとんどいないが、まったく居なくなるなんて事はあり得ない。犯罪者のいない国など、地球でもなかったのだから当たり前だろう。


「なら刑罰を決めて、犯罪者の取り締まりは警備ロボットに。裁判は【嘘看破】のある職業持ちにやらせりゃいい。犯罪者のいねえ楽園はブロックタウンのみでいいってなら、俺は反対しねえよ?」

「それは助かるね。なら、ギャング組織の解体は私に任せてもらおうか」

「いいのか? 結構めんどくせえだろうに」

「大丈夫さ。我らが王は、どこまで譲歩してくれるのかな?」

「犯罪者の要求を飲んだという前例を作らなきゃ、それでいい」

「・・・了解した。草案が出来たら無線するよ」

「頼む」


 これから、どれだけの決め事が待っているのだろう。

 国なんてもんが容易く出来るはずはないのだ。北大陸から帰ったら、かかりっきりになるのかもしれない。


「そんで死神、侵略戦争は放棄するのか?」

「あー・・・」


 日本で育った俺からすれば、侵略戦争なんてしませんと法律に明記しておきたい。

 だが、また世界が終わるような戦争が起こるのを、その時の王が察知したならどうだ。その根拠をルーデル達に示すのは簡単でも、民衆がそれに納得しないかもしれない。侵略戦争はしない、そう明記した法を盾にしてだ。


「ルーデルが侵略戦争をする人間を王に推すとは思えねえ。が、やらにゃあならん戦争もあるかもしんねえよなあ。そもそも、賢人政治をやらかそうってんだから法治国家じゃねえし」

「人治国家にしたって、やり方はいくらでもあるさ。始まりの王の意思だとでも言って、ルーデルに語り聞かせてもらってもいい」

「まるで古代ギリシャだわな。哲人王、だっけ?」

「高校生だったのに良く知ってんな。地球じゃ夢物語だが、ここでなら出来るはずだ」

「ルーデルにそこまでは頼めねえって。ま、王になる人間に手紙でも書いて読ませりゃいいだけだ。きちんと書くよ。国民のために生きる、それは自分を殺すって事かもしんねえ。それでも王になるのなら、国民が恥ずかしいと思うような王にはなるな、ってさ。そんでも、好きに生きろとも書くけどよ」


 どこの誰が王様になるにしても、人生のすべてを国に捧げろなんて言いたくはない。


「軍はどうするんですか、ヒヤマさん?」

「しばらくは冒険者と警備ロボットを使うしかねえ。義務教育が上手く浸透してくれたら、税もそれなりに集まるだろ。軍を組織するのは、それからだな」

「賛成だね。安定的な税収がなければ、軍備なんて出来やしない」

「そういえば東部都市同盟が国家になったら、ここにいるメンバーは収入が減るんだよな。いいのかよ?」

「シティーとタウタは問題ないよ。私とロザリーの給料なんて、その辺の屋台の主くらいだしね」

「ブロックタウンもそうですな。贅沢なんかより、もっと望む暮らしがあるのです」

「フロートヴィレッジも、今は税を街の運営にしか使っていません。もちろん、将来の補修用に貯蓄はしていますが」

「ケイヴタウンもじゃ。まあ、元から税収なんぞ雀の涙だったからのう。若い者を見張りに立たせる日当で吹っ飛んでおった」

「欲のねえ人間が、よくも集まったもんだな」


 普通なら、他人より自分を優先する。

 フリードの親父と兄はフロートヴィレッジでのみ使える独自通貨まで作り、硬貨を掻き集めて贅沢な暮らしをしていたという。儲けられるだけ儲ける、そんな人間は多い。


「まさか・・・」

「どうしたんだね、ヒヤマ君?」

「俺達が来る前から、街と街で人の行き来はあった。でもそりゃ、少数の冒険者の仕事だったんだよな。それなのに、各街の責任者はこうもお人好しが揃ってる。ジャスティスマンが誘導したんか?」


 呟くと、ジャスティスマンはキョトンとした表情で俺を見ていた。

 その表情が歪み、大声で笑い出す。


「お、おい。平気か?」

「・・・い、いや、失礼。あまりに意外な言葉だったので、大笑いしてしまったよ。答えは、ノーだね。私は誘導などしていない。ロザリーの町長就任も、彼女の母である前町長の意向だ」

「そうなんか。えーっと、後はなんか話し合うべき事ってあるか?」

「国づくりを始めるなら、まずここにいる人間を日本で言う各省の大臣に任命しちまうと良い。そんで各々に仕事を任せて、死神の許可が出たらそれに取り掛かる。じゃねえと忙しくて、北大陸になんて行ってらんねえぞ」


 なるほど。

 俺が北大陸でそれなりの時間を過ごすにしても、【衛星無線】なら届く。

 ここにいるメンバーはこの辺りで特別有能な人間だろうから、連絡さえ取れればきっちり成果を上げるだろう。


「それがいいか。ジャスティスマンは法律と財政だろ。商業はロザリー町長。教育がフリードで、福祉を含む行政は親父さんか」

「私とフリード君は擬似職業持ちになったから、無線も使えますからね。タウタの長老には、レニーさんが付いていれば大丈夫でしょう」

「おお、もうミツカから職業を貰ったんですか。なら、レニーの爺様には外交の計画をお願いすっか。レニー、タリエに聞けば他国の情勢もある程度はわかる。しっかり爺様に伝えるんだぞ?」

「面倒だが、仕方ないかねえ」

「ヒヤマ、工業はどうするんだい? 空母ですべてを生産する気なら、それは10年で破綻するよ」

「それはアンタの娘さんに頼むさ。ロザリーなら上手くやるはずだ」

「なるほど。そして、諜報機関ってのはタリエ嬢だね」

「良くそんな言葉を知ってんな。まあ、そうなる。ほんで軍の代わりの冒険者は、運び屋に任せるしかねえな」

「焚き付けたのは俺だ。任せとけ」


 これならなんとかなるだろう。


「ヒヤマ、俺の仕事が無いぞ?」


 タバコを揉み消しながらルーデルが言う。


「普通に暮らしてりゃいい。心配しなくても、先々ぜってー迷惑をかけっからさ」

「断言するのか・・・」

「どう考えても、そうなるわなあ。ま、心配しなくても俺は遠慮なくこき使ってやるぞ?」

「それはそれで、面倒な事になりそうだ・・・」

「そんじゃ、今日は解散にすっか。なんかあれば時間なんか気にせず、いつでも無線を飛ばしてくれ」


 皆が挨拶を交わし、次々に部屋を出て行く。

 残ったのは俺と運び屋とルーデル、それにジャスティスマンだけだ。


「で、北大陸にはいつ行くんだ?」

「ミツカの親父さんのトコは行く必要がなくなったんで、東で野暮用を1つ済ませてからだな。北大陸に行くメンバーの準備が終われば、いつでも行けるさ」

「季節は冬、か。あっちは雪が降ってんだったな。職業からすっと心配はなさそうだが、くれぐれも無茶すんじゃねえぞ?」

「わかってるって。そっちこそ、留守は頼むぜ。内政関係はジャスティスマンがやってくれるだろうけど、冒険者は運び屋に頼むしかねえんだからよ」

「心配ねえさ。ほんじゃ、俺は行くぜ」

「ああ。またな」


 運び屋が部屋を出て行く。

 次に口を開いたのは、ジャスティスマンだ。


「では私も失礼しよう。この部屋は、シティーでの執務室だと思ってくれて良い。好きに使ってくれたまえ」

「ありがてえ。お言葉に甘えるよ」


 タバコを咥える。

 そのままルーデルに箱を差し出すと、何も言わずに1本抜き取った。


「わりいな、面倒な事を押し付けてよ」

「・・・いいさ。ヒヤマが王になるのを肯んじたように、俺がやるしかない事だ。どんなに教育レベルを上げても、王を選ぶ役目なんかを代々受け継がせれば必ず失敗する」


 ルーデルが吐いた煙が、広い室内に流れる。

 それは俺の煙と途中で混ざり、すぐにどちらのものかわからなくなった。


「俺は、この煙みてえなもんか・・・」

「違うさ。未来に生きる人間は、ヒヤマの作った国で生きていくんだ。幸せに、な」

「だといいな・・・」


 ブロックタウン、シティー、タウタは高い防壁で街を守っている。

 それの範囲を広げれば人々の暮らしは楽になる。誰もがわかってはいても、それが出来なかったのだろう。

 なら、出来る俺がやればいい。

 簡単な話だ。


「さて、俺は格納庫に戻ってヘリの準備をするかな。ニーニャちゃんは北大陸で使う装備の準備を終えているのに、俺はまだなんだ」

「ハルトマンの寒冷地仕様化も終わったらしいな、そういや」

「パワードスーツもな。ヒヤマのアイテムボックスにある銃は、ヘリの中で作業するらしいぞ」

「なら俺はニーニャを連れて、野暮用を済ませて来るかな」

「シェルターか?」

「ああ。ニーニャが用事あるんだってよ。それに、北大陸の軍に缶詰ぐれえはくれてやらねえと」

「恩を売る、か。王様らしい判断じゃないか」

「いやいや。ヘリで行くんだから、遺跡を見つけるのは簡単だろ。あっちの責任者は、ウイとヒナのアイテムボックスが容量無限だなんて知らねえからよ。発見した物は持ち帰ってもいいって言質を取らねえとな」


 ルーデルが呆れたとでも言うように首を振って立ち上がる。


「俺も行くから共犯者か。発見した基地を丸ごと持ち帰る未来が見えるようだ」

「当然。空港があるといいな」

「期待しておくよ。じゃあ、また夜にでも」

「ああ、またな」


 ルーデルも部屋を出たので、すっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干して立ち上がった。

 歩きながらニーニャに無線を繋ぐ。

 コール表示は出るが、返ってくる声はない。


「秘書さん、おじゃましました。それとコーヒー、ごちそうさんです」

「お疲れ様でした。シティーでするべき雑用などがあれば、いつでも無線で指示を下さい」

「ありがとう。そん時はお願いします。じゃ」


 カチューシャ商店には北大陸に行く前日にでも顔を出せばいい。

 雑踏を歩いていると不意に、元気なニーニャの声が聞こえた。


(ごめんなさいっ、お兄ちゃん。トイレに入ってたのっ!)

(いいさ。ロボットの爺さんに用事があるって言ってただろ。今から行くか?)

(行くっ! お兄ちゃん今どこ!?)

(シティーだよ。右に曲がればカチューシャ商店)

(わわっ。ならそこで待ってて! 今、お姉ちゃん達とお店に来てるのっ!)

(ゆっくりでいいぞー)

「・・って、もう聞いてねえのか」



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