宝箱がある。開けますか?
昼食を終え、道路に戻って歩き出す。
それにしても暑い。『冷たいスポーツドリンク』をアイテムボックスに入れておけと言われたが、もう取り出してグビグビやりたいほどの暑さだ。
「あちいな。アスファルトでタマゴ焼けるだろ、これ」
「気温を聞きたいですか?」
「無理。聞いたら遺跡探して、キャンプ張る自信があんぞ」
「こんな真っ昼間からか。うちのご主人様は元気だなあ」
「遺跡なら、ほらそこに」
指差された方を見ると、崩れていない建物が遠くに見えた。
「対岸かよ。水泳でもしようってか」
「群がるサハギンと慌てるヒヤマが目に浮かびますね」
「想像すんな。なんだありゃ。河原の箱」
河原の道路に近い位置に、ブロックタウンのコンテナのような鉄の箱が鎮座している。
「コンテナ。違いますね、キャンピングカーでしょうか。まるで宝箱です」
「発見者数は?」
「遺跡扱いじゃないみたいで不明です」
「ウイもそうだが、ミツカも神に愛されてんな。シティーに行くなら、中の物を使えって感じじゃねえか」
「ありそうで怖いですね。行きましょうか」
「またちっちゃな遺跡。遺跡ってこんなにあるものなのか?」
「神様のプレゼントだと思っておきましょう」
「神様、ミツカのメインアームが欲しいです」
「いいですね。神様、ミツカに精度の良いアサルトライフルが欲しいです!」
「よし、行くか」
「まったく。気持ちは嬉しいが、銃がそう簡単に落ちてるものか」
ギリギリまで道路を進み、キャンピングカーの横で河原に下りる。まるでダンプカーみたいなキャンピングカーだ。どっから河原に下りたんだこれ。
「解錠しますね。周囲をお願いします」
「おう。任された。このバーベキューセットは、使えそうにねえな」
「むっ。ちょっと手強そうなので、周囲警戒しながらタバコでも吸っててください」
「了解。無理はしなくていい。休憩もちゃんと取れよ」
「ウイ、手伝える事があれば言ってくれ」
「ありがとう」
タバコを燻らせながら、マーカーがないか常に周囲を見回す。
会話のないまま、時間だけが過ぎてゆく。ミツカがウイにスポーツドリンクを差し出した。もう30分は経っている。今までのどんな鍵より手強いようだ。
「やった。これですっ!」
パッパラー!
「は?」
「え?」
「経験値100。手強いはずです」
「どんな鍵だよ、ロボの2倍かよ!」
「また何もせずにレベルが上った・・・」
「さあ、開けやがってください、ヒヤマ」
「一応、正面には立つな。軍用車両ではねえみてえだが、ゾンビくらいいても不思議じゃねえ」
ハッチみたいな頑丈なドアを開ける。見る限り、マーカーはない。
「【罠感知】発動。大丈夫みたいですね。フラッシュライトをどうぞ」
「じゃ、お邪魔しますよっと」
「お邪魔しますー」
入ってすぐはリビングだった。木目の美しい家具からして、かなりの高級キャンピングカーなのだろう。ドアが3つあった。車両の前部に2つ、後部に1つだ。
「とりあえず施錠するぞ。経験値100の鍵なら、シェルターみてえなもんだ」
「はい。私はコンソールを調べます」
「あたしは?」
「スキルポイントの使い道でも考えとけ」
「ポイントかあ、もったいなくて使ってないんだよなあ」
「はあっ!? もしかして8ポイントあるんか?」
「あるよ。もしもの時に取ってある」
「次で最上スキルじゃねえか」
呆れたもんだ。もったいないって理由が、ここでの最上スキル取得に繋がるのか。ホントに神様が見てんじゃねえだろうな。けっこうハードなプレイもしてるぞ。
「思った通りです。生活スペースの超エネルギーバッテリーは無傷。クーラーと照明を作動します」
窓のないリビングに、煌々と明かりが灯った。
「すっげ。風も来てるな」
「じきに涼しくなるでしょう」
「とりあえず休憩しないか。涼しくなるなら、汗を拭きたいよ」
「2人は座っとけ。俺は3つのドアを見てくる」
自動拳銃を抜く。2つのドアから。左、洗濯機がある。脱衣所か。半透明のドアを開けると、ユニットバスだ。トイレを流してみると、きれいな水も出た。
「左はユニットバスだ。水も出るし、洗濯機もあるぞ」
「おおっ。入れるなら入りたいぞっ」
「はいはい。ちゃんと点検したらね」
右はキッチンだ。シンクに冷蔵庫。キャンプに入ってすぐ何かがあったのか、ダンボールに食料品や飲み物がたくさん入っている。
「こっちはキッチン。それなりに食いもんと飲みもんがあんぞ」
「なら残るは寝室ですね。いるならそこでしょう」
2人も拳銃を抜いた。ミツカがドアを開け、ウイが敵を探す。
「【罠感知】。大丈夫ですね。骸骨もありません。しかし、なんですかこの部屋は」
「変なセンスだな」
「どれどれ」
覗き込んだ部屋の壁には、スプレーで書き殴ったようなラクガキがたくさんあった。
「体制を撃て、ね。富裕層がこんなん書いてもなあ。アナーキスト気取りのインテリか」
「後で根こそぎいただきましょう」
「もちろんだ。が、そのトランクケース気になるな」
キングサイズベッドの真ん中に、ジュラルミン色のトランクケースが置いてある。
「施錠されてますね。休憩しながら解錠します」
「いつもありがとな。経験値こいやー!」
「小さいから100は来ませんよ。あまり期待はしないでください」
そのままベッドに寝転び、ウイが解錠する場所を空ける。
「ホコリ臭くもねえし、今日はここに泊まるか。いや、鍵を探して別荘にしようぜ。シティーにはまた行くだろうし」
「別荘はいいですが、ミツカは早くシティーに行きたいんじゃないですか?」
「いや、あたしも泊まりたいね。車の中に泊まるなんてはじめてだ」
「決まりだな。ウイ、ゆっくりでいいからな?」
「ええ。のんびり解錠しますよ」
「わあ、フカフカだな」
ベッドに乗ったミツカが驚いている。ウイが解錠してるから、遠慮してずいぶんとゆっくりした動きだ。手を伸ばしてお胸を触ると、どうしていいかわからないのか硬直した。身を任せても振り払っても、ベッドが揺れてウイの邪魔になる。相変わらず、やわらけえな。圧倒的ボリューム!
「何をしてるんですか」
「いや、動いたらウイの邪魔になる状況で、ねちねちミツカをいじめようかと。ミツカ、声も出すなよ。ウイが集中できねえ」
「バカを言うな。ウイ、止めてくれ!」
「面白そうなんで放置です」
「ちょ・・・」
ウイが顔を上げたのは、15分は経ってからだ。ミツカはされるがままで、今は荒い息を吐いてぐったりしている。
「お疲れ。ご開帳といくか」
「そちらのご開帳は済んだみたいですね」
「脱がしてねえからノーカンだろ」
「お、お疲れ、ウイ。あたしはとりあえず着替えたい・・・」
「ここで着替えなさい。汚れた下着を見られながら」
言われたミツカが、ブルリと震えた。
「それ以上言うと、変態スイッチ入るぞ。中はなんだろな。硬貨ギッシリなら、シティーで豪遊だ」
「では、開けますね」
「ウイにこんな状態を見られるなんて、ああっ」
「帰ってこーい、ミツカ。お宝とご対面だぞ」
「ほっときましょう。では、はいっ!」
中に入っていたのは、大小様々の機械部品。この世界に来てから見慣れたものだ。
「ビンゴッ!」
「呆れましたね。本当に神様が何かしてるんでしょうか」
「セレクターを見ろ。フルオートか?」
「えーっと、3点バーストですね。それとサイズ的に、私のより一回りは小さいです」
「それでいいんだよ。取り回しが良いし、バーストはアサルトライフルスキルがないミツカに最適だ。まあ、射程は落ちるだろうけどな」
「では組みますね。グレネードランチャーまで付いてますから、大幅な戦力増強になります」
「頼む。俺達は弾を探す。おいミツカ、早く探すぞ」
「ま、待ってくれ。なんの事だかさっぱりわからない」
「うるせえ。今すぐ動かねえと、ふん縛ってパンツ眺め回してこの変態がと罵ってから放置して、ウイとおっぱじめんぞ」
「そんな嬉しい事をされてたまるかっ!」
「本音が出てますよ、ミツカ。アサルトライフルがあったから、私が組み上げる間に銃弾を探そうとヒヤマは言っています」
ポカンと口を開けて、ミツカは動かない。そりゃそうだ。アサルトライフルが欲しいと神に祈ってそれが手に入るなら、ヒャッハーだって神に祈る。
「その口は何かを待ってんのか?」
「ごめん。あまりの事に固まった。なら、【危険物探査】発動!」
「は?」
「銃や銃弾、爆発物なんかを探すスキルだよ。その机の引き出しを開けてくれ」
「お、おう」
3つある引き出しを順に開けていく。最後の段に、32口径のリボルバーがあった。銃弾も20発。まとめてウイの座るベッドに置く。
「次はここ。ふむ。ナイフだな。ウイ、はい。最後はそのドレッサー。開けてくれ、ヒヤマ」
「わかった。便利なスキルだなあ」
「組み上がりました。『新兵のグレネードランチャー付きアサルトライフル』これはいい銃ですね」
「神様にありがとうだな。ドレッサー、開けるぞ」
ドレッサーの中には、あった。トランクケースだ。
「トランクケースが出てきた。ウイ、また頼む」
「はい。ミツカ、中身は銃弾ですか?」
「わからないんだ。スキルを伸ばしてないから、何かがある事しかわからない。ごめん」
「いえ。開けてのお楽しみでしょ。では、はじめます」
「さっきのトランクケースは経験値30。今度もそうなら、後30でレベル13だな」
「うわ。私なんて30来たらレベルアップだぞ」
「最上スキル取得かよ。何にすっか決めたのか?」
「決めてない。今のままでもブロックタウンの役には立てるし、戦闘スキルを伸ばすかな」
「拳銃のスキルだっけか」
「いや、父上は職業がないから良くわかってないが、正しくは【アンブッシュスタンス】。向かって来る敵に限り、必中射撃を3発だよ」
何それ羨ましい。
「いいスキルだな。ヒャッハーを仕留めたのはそれか」
「・・・緊張して使うの忘れてた」
「アホか」
「いまだに【ワンマガジンタイムストップ】を使ってないヒヤマが言いますか」
「貧乏性でなあ。店に売ってない回復アイテムは使わずに、RPGを全クリする派だ」
「怪我する前に使ってくださいよ? 良し、解錠完了」
「うわあ、レベル10になったよあたし」
「おめ。お祝いに今日は飲むか」
「おめでとう、ミツカ。おつまみはサハギン焼きですね」
「ありがとう。最上スキルは【インビジブルバリケード】か【ワンミニッツタレット】。悩むなあ」
聞いただけで有用そうだな。俺も欲しいぞ、それ。
「予想はつくが、どんなんだ?」
「向かって来る敵を倒すまで見えないバリケードを出すのと、1分間だけ敵をターゲットするタレット召喚」
「そりゃ悩むな。まあ、ゆっくり決めな」
「そうする」
「では、開けますね。はいっ!」
「弾だな。しかも大量の」
「凄い。いくらするんだこれ」
「グレネードが24発。5.56ミリ弾が300発ですね。おめでとう、ミツカ。売ったら怒るわよ?」
「今日からコイツがメインアームだ。大事にしろよ」
「本当に私が使うのか、こんないい銃を・・・」
「遠慮するなら、今から私がヒヤマとイチャコラするので、見てるだけで我慢できるか試してからにしなさい。ちなみに、遠慮したら今後一切ヒヤマも私もミツカには指一本触れません」
「使うに決まってるじゃないかっ!」