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ルーデルの相棒




「HTAのパイロット、聞こえているだろうか?」

「HTA?」

「ヒューマン・タイプ・アームズ。私達は、そのパワードスーツをそう呼んでいた。まあ、そのように洗練された機体は見た事もないけどね」

「なるほど。状況は理解しているか?」

「助けてくれたのだろう、こんなに気味の悪い私達を。おかげで犠牲者もなく、犯罪者を捕らえる事が出来た。礼を言うよ」


 自虐が過ぎるが、どうやら悪い人間ではないらしい。

 それでもまだハルトマンは収納せず、静止モードでタバコに火を点けた。


「グールシティーに犯罪者はいねえと聞いたが?」

「新入りだよ。合流したいって言うから受け入れたはいいが、働くって事を忘れてしまった愚か者だったんだ。軍人や警官だった人間はあの大戦でほとんどが死んだんで、戦える人間は少ない。それで情けないが、こうして誘拐を許してしまった」

「どのくらいの人間が暮らしているんだ?」

「500。ほとんど増えも減りもしないが、噂を聞きつけてたまにグールがやって来たりする。生に飽いて死を選ぶ者もいるから、トントンくらいさ」

「なるほどね。グールシティーには、近いうちに顔を出すつもりだったんだ」

「・・・ほう。目的を聞いてもいいかい?」


 女の眉間にシワが寄った。

 やはり、人間との付き合いは避けたいのだろうか。


(・・・もう諦めた。今、ヘリでそちらに向かっている。5分だけ待ってくれとルーデルが言っている。そう伝えてくれ)

(了解。修羅場かあ、頑張れよ?)

(まだ死ねないからな。人前でジュモにキスをしたのは初めてだよ・・・)


 ジュモの説得は終えているらしい。

 どうせならそれも見たかったが、メインはここに到着してからだ。


「仲間から伝言。アンタと同じグールでな。5分だけ待ってくれってよ、ルーデルが」


 女は呆然とハルトマンを見上げ、ふらついた足を踏ん張ってから首を何度も横に振った。

 美しい金髪碧眼のグールだ。

 見えている皮膚もそんなに損傷はなく、少し火傷痕のある普通の人間と言っても通用しそうな気がする。

 何を思ったのか、女は拳で自分の頬をぶん殴った。結構な力の入れ方だったらしく、女が大きくふらつく。


「おいおい・・・」

「悪いね。こうでもしなきゃ、気が狂いそうだった。もしそのルーデルが私の知ってるルーデルなら、殺してもいいかい?」

「大切な友達なんだ。半殺しで勘弁してくれ」

「せめて5分の4、頼むよ・・・」

「仕方ねえな。それでいい」

(良くないだろう・・・)


 咥えタバコでハッチを開け、飛び降りてハルトマンを収納する。

 パワードスーツはハルトマンに乗った時点で装備解除されているので、ジーンズにTシャツという、フル装備の軍人と向き合うには違和感のある格好だ。


「いい男じゃないか。それに若い」

「職業持ちには無条件で好意を持たれる、って妙なスキルを押し付けられてんだ。悪いな」

「いいさ。大休止だ。被害者に水と食料を!」


 女が振り返って叫ぶと、兵達は機敏に動き出した。

 文明が荒廃する前は、職業持ちしか産まれて来なかったらしい。なのでグールシティーの住人は、すべてが職業持ち。誘拐された住人達の職業は何々の料理人だとか、何々家の主婦、ほとんどそんな感じではあるが、兵隊の中にはそれなりに戦えそうな職業も見える。

 紙幣などは流通せず、かさばる硬貨だけで経済が回っていた世界。そこを生きていた500人なら、たとえ戦闘が出来なくても仕事はいくらでもあるだろう。


「よくもまあ、飛行可能なヘリなんて残ってたもんだ。ヤツは、あのヘリかい?」

「そうだよ。頼むから、殺さねえでやってくれ」

「考えておくよ」

(帰りたい。ここではないどこかに帰りたい・・・)

(諦めなっての。昔の女なんだろ?)

(まあ、そんなトコだ・・・)


 ヘリが交差点に着陸すると、まずニーニャとヒナが飛び出した。

 それにミイネが続く。

 ニーニャとヒナが俺に抱きついたので、そのままミイネの頭を撫でる。

 ウイ、ミツカ、タリエもヘリを降りた。

 頷き合う。

 たーくんが出てきて少しすると、ジュモと腕を絡めたルーデルが観念した表情で顔を出した。

 ジュモを振り解こうとしているが、ジュモは意地でも離す気はないらしい。

 女とルーデルの距離が縮まるごとに、ルーデルの歩みは目に見えて遅くなる。


「ひ、久しぶりだな、へーネ・・・」

「初めましてデス。ルーデルの妻のジュモなのデス!」

「う、うわあ・・・」


 思わずと言った感じで呟いたのは、俺に抱きついたままのニーニャだ。

 それほどに、へーネの笑顔には殺気が浮かんでいる。

 ジュモが飛び退く。

 ルーデルもそう出来たはずだが、わずかに足を踏ん張っただけで動きはしなかった。

 アサルトライフルの銃床で殴られたルーデルがよろめく。


「っ。気は済んだか?」

「今までどこで、何をしていたっ!」


 せめて拳で殴ってやれと思うのは、俺だけなのだろうか。


「目が覚めたら、この姿で無人島の砂浜にいた。泳いで海を渡り、3年ほど歩いて同じくグールとなったハンニバル基地の仲間と合流した。レーダースキル持ちの部下にナビをさせて、近辺の機械兵を殲滅するのに200年はかかった」

「・・・生き残りを探そうとは思わなかったのか?」

「人間に会うと、問答無用で撃たれるか逃げ出されるかだった。俺達と同じようにグールになった人々もいるかもしれないとは思ったが、戦後200年は経っていた。探し出せるとは、思わなかったな」


 へーネがルーデルと睨み合う。

 が、ジュモが戻ってきてまた腕を絡めると、頬をひきつらせている。


「まあいい。200年もブラブラしてたんだ。これからはグールシティーの役に立ってもらおうか。兵を率いるヤツが、ずっと欲しかったんだ」

「それは出来ない」


 言い方を考えろよ、少しは。

 ここでへーネって女を怒らせても、良い事はなにもない。

 東部都市同盟がどうとかではなく、ルーデルの将来と身の安全のためにだ。


「・・・ああもう、殺してやりたいねえ。一応聞くが、なんでだい?」

「シティーの隣に空母を浮かべ、元犯罪者でも悪さをしなければ安全に暮らせる街にした。そしてこの辺りの街が同盟を結び、東部都市同盟として動き出そうとしている。それがかつての国家のようになるのか、それとも別の存在になるのかは知らない。だが、このヒヤマという友は、誰もが安心して暮らせる場所を作るつもりなんだ。友としてそれを手伝う。誰に何を言われてもだ」


 へーネの瞳が俺を向く。

 まるで品定めをするように見られているので、少しばかり居心地が悪い。


「ロリコン仲間にしか見えないがねえ・・・」

「ロリちゃうわ」

「ふん。ヒヤマ、だったね。アンタはどうするのがいいと思うんだい。ルーデルが顔を隠して人間に紛れ込んで暮らすのと、グールシティーで500もの人々を護りながら暮らすのと?」

「どっちでも暮らせばいいじゃんか。顔も隠してねえし、空母にいたってグールシティーは護れる」

「はあっ!?」


 へーネが目を剥いて大口を開けている。

 美人が台無しだと思っていると、同じ事を思ったのかルーデルも苦笑していた。


「まあ、パワードスーツのヘルメットを装備しないのは本当だ。それにヘリだけじゃなく戦闘機もあるから、グールシティーが危なければすぐに飛んで行けるぞ」

「空母ってのは、残骸とかじゃなく動く空母だってのかい!?」

「この間の戦争の動きを、グールシティーじゃ掴んでいなかったのか?」

「グールシティーに諜報機関はない。人が足りないんだよ。500がなんとか食べていくだけで精一杯なんだ・・・」

「へーネ。ああ、俺もへーネと呼ばせてもらうぞ。俺はヒヤマでいい。ジャスティスマンから、なんか話が来なかったか?」

「・・・経済的な協力だけでも、もう少し強化しないかと無線が来た」

「断ったのか?」


 へーネが頷く。

 人間として天敵のいない進んだ文明を築き上げた時代に生き、この荒れ果てた世界で人間ではなくなってしまった存在。

 今の人間を見ればその生き方や仕事ぶりに歯痒さを感じるだろうし、自分達の見た目の変化も否応なく自覚してしまう。とても一言では表現できない感情を、グール達は人間に持っているのかもしれない。


「ならここで再度、東部都市同盟との交流を要請しよう。答えはよく考えてからでいい。住民への説明と、それからの話し合いも必要だろうしな。使者はルーデル。全権を持ってグールシティーに赴き、その説得に当たる。使者は受け入れてくれるか?」

「お、おい、ヒヤマ!」

「・・・ヒヤマが考えているよりも、ルーデルは伝説的な存在だ。話し合いが終わったからって、黙って帰すと思うのかい?」

「10日が経過してルーデルから連絡がなければ、俺が助けに行く。グールシティーの住人を何人殺しても、ルーデルは助ける」


 本気だ。

 目に力を込めて、睨み合う。


「・・・ふん。まあいいだろう。だが、人々に頼られたルーデルが心変わりをして、東部都市同盟とやらが捨てられる可能性もあるんだよ?」

「ルーデルは、思うままに生きるべきだ。俺は、ルーデルの行く道に反対なんてしねえさ」

「後で泣くのは、ヒヤマだと思うけどね。じゃあ行こうか、ルーデル。人形みたいなお嬢さんは家に帰って、机の角にでも股を擦りつけてな」


 へーネがルーデルの腕を取る。

 だが、ジュモもその腕を離すつもりはないようだ。


「ち、千切れる・・・」

「大岡裁きか。どっちも頑張れー」

「痛いぞ、おい!」

「その手を離すデス、年増!」

「なんだって、クソガキ。そのない胸をさらに抉ってやろうか!」

「やってみやがれデス。牛女」

「んだとっ、この貧乳のクソガキ!」

「ルーデルはロリコンなのでこれでいいのデス!」

「人を勝手に異常性欲者にするな・・・」

「怪しいとは思ってたが・・・」

「へーネもふざけるな。俺はロリコンじゃない!」


 少し時間がかかりそうなので、ニーニャを抱き上げてウイ達のところまで歩く。


「いいんですか?」

「ああ。ルーデルが選んだら、俺は止めない。それよりルーデルはここからグールシティーに行くから、みんなでタウタに1泊してかねえか?」

「そうですね。荒野熊も運ばないといけないですし。では、回収しておきます。ついでにヘリも」


 言いながらウイはヘリとハンキーを入れ替え、ルーデルのバイクも出してから荒野熊とフライモンキーを回収に行った。


「そんじゃルーデル、グールシティーの事はすべて任せたからな」

「お、おい。ヒヤマはグールシティーをどうしたいんだ?」

「ルーデルの思うように。それだけだ」

「信用されてるじゃないか。若いのに、見る目があるねえ」

「ロリコンでさえなければ、ヒヤマはイイヤツなのデス!」



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