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家名




 他に必要な物はないかと考えていると、ゲインと呼ばれていた男が素っ頓狂な声を上げた。


「それは、噂に聞く連射可能な銃ではありませんかっ!?」

「そうだが?」

「そんな銃を、我が警備隊に・・・」


 アサルトライフル程度なら街が買い与えても良さそうだが、それをしない理由でもあるのだろうか。

 そう思ってロージーを見ると、腰に手をやって苦笑していた。


「いいよな?」

「ええ。対価も支払いますわ」

「それはいいさ。どうせ、余ってる銃だ」

「バリケードを越えられるクリーチャーはいないので、警備隊には最低限の装備しか渡してませんの。外から来るのは、シティーの傭兵くらいですし」

「スラムのギャングがどう動くかわかんねえからな。空母を手強いと見て盗賊団にでもなられたら、どこかの街が襲撃される可能性もある。何かありゃ駆け付けるが、時間稼ぎが出来るくらいの装備は必要だ」

「なるほど。そこまで考えてらしたのですね」


 戦争がいつ起こってもおかしくないとは、言わないでおく。

 ブラザーズオブザヘッドは北大陸にかかりっきりだし、アポカリプス教国は侵略の手を周囲に伸ばしていない。だが、いつどこから敵が来てもおかしくないのがこの世界だ。

 警備隊の詰め所を出ると、ロージーは役所ではなく畑に近い一軒家に俺を案内した。

 何の変哲もない一軒家。


「ここは?」

「我が家ですわ。ママが先に帰って、料理を用意していますの」

「そうか。宿でいいんだがなあ、俺は」

「逃がしませんわよ?」

「・・・言葉を選べっての。土産に缶詰や飲み物がある。まずはキッチンに案内してくれ」

「了解ですわ」


 畑仕事で靴を汚すからか、タウタの住居は靴を脱いで上がるようだ。

 建物自体も木造なので、懐かしい気分でロージーに着いて行く。キッチンは、玄関からすぐだ。見た目通り、狭い平屋の家らしい。


「おや、料理ならまだ出来てないよ?」

「土産に、缶詰や飲み物があるんですよ。重いから、保管場所に出そうと思いましてね」

「なら、そこの隅に置いといておくれ」

「了解」


 ダンボールが4箱。

 それを床に出すと、ロージーに腕を引っ張られる。


「おいおい、どした?」

「母親が台所にいる間に、少しでもイチャつきたいんだろ。リビングを汚さない程度に、相手をしてやっておくれ」

「ロージーの部屋でも構いませんわよ?」

「・・・やめとくよ。リビングでいい」

「残念ですわ」


 リビングは、板張りの茶の間といった感じだった。

 座布団まであるので、本当に懐かしい。


「座布団とはな・・・」


 やけにくっついて座るロージーと世間話をしながら、ロザリー町長を待つ。

 ロージーは意外な事にまだ男を知らないらしく、少し怖いが楽しみだと屈託なく笑っている。

 荒れた世界だから男女関係も緩いのだと思っていたが、うちの嫁さん連中もタリエ以外は男を知らなかった。もしかしたら、日本なんかよりずっと厳しい倫理教育が各家庭でされているのかもしれない。


「待たせたね。って、蕩けきった顔をしてるんじゃないよ。まだ料理の皿があるから持ってきな」

「えへへっ。はーい」


 テーブルに置かれた大皿には、予想通りのジャガイモがある。

 だが、色と香りは予想外だ。


「こりゃ、煮っころがしじゃねえかっ!」

「おや、よく知ってるねえ。どこで食べたんだい?」

「・・・故郷だよ。醤油が、あるのか?」

「ああ。タウタの定番調味料さ。ミソってのもあるよ」

「日本人がいた。そして、醤油と味噌を作ったのか。いや、和食は缶詰でもあるんだから、そうとも限らんか・・・」

「おやおや。やっぱりご先祖と同郷だったのかい、ヒヤマは」


 事もなげにロザリー町長が言う。

 ロザリー・クレイ。


「・・・暮井か呉井かよ、わかりづれえっ!」

「こっちにゃ黒髪は少ないんだから、わかりそうなモンなのにねえ・・・」

「まったく頭になかった。が、これも縁だなあ。よろしく頼むよ、ロザリー町長」

「ミョウガのミソシル、ここに置きますわね。テンプラはこちらに」

「ああ、たまんねえなあ」

「酒はこれだ。クセはあるけど、これもご先祖が伝えたモンだよ」

「焼酎かな。和食に合うんだろうなあ」

「さあ、好きに飲み食いしておくれ」

「いただきますっ!」


 味噌汁が美味い。

 野菜の天麩羅もジャガイモの煮っころがしも、懐かしさで涙が出そうだ。


「たまんねえや」

「気に入ってもらえて何より。明日も作って、第一夫人のご機嫌取りだね」

「無条件でロージーを受け入れるべきだと言ったのが、そのウイだよ。荒野の緑化にご執心なんだ」

「いい嫁さんのようだね。平和な世界はヒヤマが創る。そう信じているから、自分は緑の大地を取り戻す事を考えてるんだろうよ」

「ありがてえ話だ」

「ロージーも空母に住むなら、自分に出来る事を考えてヒヤマに尽くすんだよ?」

「もちろんですわ。保安官がお仲間にいらっしゃるけど、戦闘もこなす方のようですからね。ロージーは、タリエさんの補佐をしますわ。パパと同じスキルも多いし」


 ジャスティスマンと同じ存在が空母に来る。

 それは大きい。

 特にこれからは日用品等を空母で生産して各街に流したいので、不正を見逃さないというのは大切だ。作業部署が増えれば、それだけ責任者も増えて善行値が高い住人だけでは足りなくなるかもしれない。


「ケイヴタウンをどうするかだな。問題は・・・」

「レニーの祖父もいい歳だ。もう20年とは生きられないだろうからねえ」

「知り合いじゃなくて孫だったのか。ロクに挨拶できなかったな」

「住民が望むなら、タウタで受け入れてもいいがねえ」

「土地、余ってんのかい?」

「かなりね。人が増えりゃ、畑も広げられる」


 だが、そう簡単に人は故郷を捨てやしないだろう。

 タウタの収穫が増えるのは歓迎するが、住民が減ってケイヴタウンは大丈夫なのだろうか。


「デリケートな問題だな。ちょっと」

「だねえ。ま、不満が出ないようにするしかないさ」


 各街の情勢を話しながら杯を重ね、ロージーの部屋で眠った。

 寝ているロージーを起こさぬようにベッドを出て、洗面所で顔を洗う。

 リビングではすでに起きていたらしいロザリー町長が、優雅に土産のコーヒーを飲んでいた。


「おはようさん。ずいぶんと頑張ったようだねえ」

「スキルで音も声も漏れねえって聞いたが?」

「何となくわかるさ。あたしもご無沙汰だから、たまにはシティーを訪ねるかねえ」

「ジャスティスマンに言っとくよ。どっちかを街まで運ぶのは簡単だ」

「うちの二号さんも混ぜて楽しむか。ヒヤマもどうだい?」

「やめとくよ。乱交は趣味じゃねえ」

「あたしらだってそうさ。コーヒーでいいかい?」

「いただくよ」


 2杯目のコーヒーに手を伸ばした所で、ロージーが身支度を済ませてリビングに入ってくる。


「おはよう、ロージー。体は平気か?」

「ええ。優しくしてもらったので、大丈夫ですわ」

「親の前で、なんて会話をしてんだか。ゲインにでも言って、午後には移動販売車が店を出すと触れを出しな。それからマイケルに、種芋や野菜の種なんかを集めさせるんだ」

「OK。じゃあ、いってきます」


 ロザリー町長とタバコを吸いながら、網膜ディスプレイに映るウイの視界を眺める。


「もう砲台島だ。大型冷凍庫2台分の魚介類だから、各家庭に行き渡るかな」

「タウタは小さな街だから、貧乏人もいない。今日はお祭り騒ぎだろうね」

「なんで小さな街だと、貧乏人がいないんだ?」

「親が死んじまった子なんかは、街で雇うからさ。昨日、入り口から役所まで案内したマイケルって男とかね」

「なるほど。牧草は作れると言い切ったし、有能そうな男だったな」

「数年前まで、ジャスティスマンに預けてたんだ。ヒヤマが現れなきゃ、タウタとロージーを任せた男だね」

「そうやって、俺は他人の人生を歪めてんだよな」


 まだ若い男だった。

 もしかしたら、ロージーとタウタを奪われたと感じているかもしれない。


「ああ、あれには誓約スキルを使ってある。裏切る心配はいらないよ」

「街で雇う人間にはスキルを?」

「違う違う。あの子の親は、犯罪者でね。殺人の予告を聞かされていたのに通報しなかったから、追放って形でシティーに預けたのさ。それでも誓約スキルを受けてまで戻ってきた。親が殺した相手の子に、毎月給料のほとんどを渡すためにね」

「・・・働きどころはいくらでもあるって、伝えといてくれ」

「そうだね。あの子が背負うべき荷物じゃないんだ」


 数年も給料を渡していたなら、相手はそれなりに蓄えも出来ているだろう。

 ロージーの顔が見たくなければ、フロートヴィレッジやケイヴタウンで働いてもいい。


「ヘリが離陸した。着陸は農地の横でいいんだよな?」

「そうだね。レニーも一緒かい?」

「いや、違うな。用事があるなら、無線を繋ぐよ」

「お願いしようかねえ」

「わかった。少し待ってくれ」


 ブリーフィングモードでレニーに呼びかける。


(どうしたんだいヒヤマ。って、オニババと一緒か)

(相変わらず、口の悪い娘だねえ)

(ふん。で、用件は?)

(アンタ、子供を産みなよ)

(はあっ!?)


 これは驚いた。

 レニーに子供を産ませて、ケイヴタウンの後継者にでもしようというのだろうか。


(ロザリー町長、目的は?)

(爺様も婆様も曾孫をあの街で育てるよりは、タウタで育てる事を選ぶだろうからさ。それに、上から産んでいかなきゃ、下の子達がいつまでも子供を産めやしないよ)

(このオニババは、ケイヴタウンを取り込もうってのか・・・)

(この先、各街の産業が明確化される。ヒヤマはそっちでも頭が回るからね。だが、ケイヴタウンだけは発展の余地がない。このままじゃ、故郷が寂れて消えちまうよ?)

(・・・ちょうどケイヴタウンにいるんだ。爺さん婆さんに話しはしてみるが、期待はしねえでくれ)

(ああ。タウタに移住するなら、元の住民と同じ扱いを約束するよ)


 悪くはない案だが、住民がそれで納得するかが問題だ。

 今までは冒険者を雇わなければ他の街には行けなかった。だが今なら、引っ越しは兵員輸送車やヘリで簡単に出来る。安全な地上の街で子供を育てたいという親も多いだろう。

 そんな考えで街を出る連中と、生まれ育った街に残る連中でモメなきゃいいが。


(レニー、ハゲ山の向こうには何がある?)

(ただの荒れ地だね。でも水場はそれなりにあるから、いい狩り場なんだよ。砂ネズミや大王ミミズは食えるし)

(ミミズは食いたくねえが、ケイヴタウンは冒険者を受け入れると思うか?)

(タウタに移住する人間は多いはずだ。受け入れて空母に肉を運ぶ中継地点にでもしなきゃ、街が滅びるんじゃねえか?)

(それも爺様と話し合ってくれ)

(曾孫の件もね)

(わあったよ。でも、子供か。戦争前に産めるなら、それもいいかもねえ)


 意外とレニーは乗り気なようで、男の子と女の子のどちらがいいか訊かれたりもした。

 ちゃんと産まれてくれればそれでいいと言うと、近親相姦はマズイから男の子がいいとか言い出している。



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