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成長




「くっそ。大人なら大人らしく、ガキを利用して裏で笑ってろっての・・・」

「荒れてるなあ。他の連中は、市場にトラックを出して店開きに行ったぞ」

「来て早々にか。運び屋は行かなくていいのか?」

「客室にいた警備ロボットも連れてった。問題ねえさ」


 音を立てて、テーブルに缶ビールが置かれる。

 また昼間から飲むのもどうかと思ったが、ムシャクシャしてるのでプルタブを引いて喉に流し込んだ。


「・・・それぞれの街の長は、気軽に自分の街を留守に出来ねえ。だから長以外で、なるべく戦争で役に立ちそうな人間を担ぎたいってのは想像がつく。でもよ、俺を使うなら誰かの下に置いて、機動力を活かした戦闘をさせる方が良くねえか?」

「ギルドの関係者は、ここいらで最高の兵士だからな。それが死神を中心にしてまとまっちまったんだ。頭を下げてでも、力を借りてえってのは当然だろう。正面から刃向かうには、ギルドの目的は清廉すぎる。切り崩しにかかれば、その日のうちに情報屋の報告で敵対。まあ、わかってやれや」

「何よりもわかんねえのは、タウタの長ってヤツだ」


 タリエなら知っているのかもしれないが、俺に何も言って来ないという事は、急いで知る必要はないと判断したのだろう。

 今からローザを飛ばせば、夜にはタウタに到着する。

 とっさにそう思ったが、俺のわがままで周りに心配をかけさせたくはない。そんなのは、戦争の時だけで充分だ。


「ったく。たとえばルーデルが300年の平和を約束してくれるなら、喜んでアポカリプス教国だってぶっ潰しに行くのによ・・・」

「ルーデルか。男としても、兵士としても尊敬できる最高の友人だ。だがよ、ルーデルの人生はこの世界が滅びた時で終わってんだ。これ以上、ムリをさせるもんじゃねえよ」


 それを言うなら、運び屋だってヒナを嫁に出した後は余生だと言っていた。

 姐さんが懐妊したのでこれからも稼いで子供を育てなければいけないが、他人の人生を背負わせるようなマネは出来ない。


「・・・なんでえ、俺しかいねえんじゃねえか」

「わかってんならいい。かわいい嫁さん連中に、あまり心配かけんな」

「ん。なら話は変わるけどよ、ルーデルが戦闘機で空からの迎撃だよな。タンゴはヘリで強化外骨格パワードスーツの移送と対地攻撃。なら、戦時は強化外骨格パワードスーツと陸兵をどう編成して運用するかが問題だよな?」

「まったく、お前は・・・」


 運び屋は呆れているようだ。

 何か的外れな事でも言っただろうか。


「ああ、もちろん手伝ってもいいって言ってくれたヤツラだけを編成するぞ。パスするヤツラは、いつも通りパーティー単位で動けばいい。タンゴも、剣聖とペアで動きてえかもしんねえし。最悪、俺がローザで移動してハルトマンで時間を稼げりゃ、パーティー単位で動いたって間に合うだろ」

「なんつーか、切り替えがはええよな、死神はよ」

「そうじゃなきゃ、死んじまうだろ。俺だけじゃなくって、大切な人間も」


 迷えば死。

 アニメやマンガでよく見たセリフだが、陳腐だからこそ誰にでも想像できる、紛れもない真実だったのだろう。


「レベル1でこんな世界に放り出されれば、そうもなるか。平時、警戒態勢、戦時の編成は士官クラス全員で話し合うのがいいだろう。空母に帰ったら、じっくりと考えりゃいいさ」

「なるほど。全員が納得できなきゃ、意味ねえもんな。・・・軍隊とは違うんだ」

「そういうこった。お、ヨハンがバルコニーに出て来たぞ。おーい、1発終わって休憩か?」


 隣同士の家は、同じ場所にバルコニーがある。

 ブロックタウンの自宅よりどちらも広いが、充分に会話は可能だ。


「ヒヤマは沈んでるね。大丈夫かい?」

「ああ。ちょうど、1人で悩んでも意味がねえって思い知らされたトコだ。帰ったら、みんなに相談するさ」

「それがいいよ。ヒヤマは1人じゃない」

「ヨハン、ほれっ!」


 運び屋が投げた缶ビールを見事にキャッチして、ヨハンが缶を掲げる。

 同じ仕草を返すと、美味そうに缶を呷った。

 出会った頃のおどおどした印象はもう感じられない。湖を眺める横顔は、いっぱしの男の顔だ。


「いい男になったなあ、ヨハン」

「いきなり何を言うんだ。よしてくれよ」

「俺もそう思うぞ。自信を持っていい」

「運び屋さんに褒められると、本気にしてしまいそうですよ」

「ウチの娘のアイテムボックスにゃ、呆れるほどの資材が突っ込んである。それを選別してウイ嬢ちゃんに預けときゃいい。そしたらまたここに泊まりながら、工事だな」

「それは助かります。作業は簡単でも、資材がない事にはね」


 こんな街をもう1つ作るのが簡単だとは思えないが、ヨハンが言うならやり遂げるのだろう。

 そろそろ戻った方がいいんじゃないかと言いかけると、あちらの家の中から甘えるような声が聞こえた。


「お、嫁さんが呼んでるぞ。早く行ってやれ」

「あはは。すぐ行くよ、マリー!」

「そんじゃ、後でゆっくり全員でメシでも食おうぜ」

「楽しみにしてるよ。では、運び屋さんもヒヤマもゆっくり休んで下さい」


 ヨハンが家の中に入ると、網膜ディスプレイに選択可能なウィンドウがあるのに気がついた。

 選択して、視界の半分に開く。

 広い場所にトラックが出され、後部ハッチにフロートヴィレッジの住民らしき女達が集まっている。


「移動販売、盛況みてえだ」

「そりゃな。年がら年中、魚ばっか食ってりゃそうなるさ」

「おお、グリンがアピられてら」

「アピ?」

「えーっと、買い物客の若い女に過剰なボディータッチされて、赤くなってんだ」

「おざなりに筆下ろしされた経験しかねえからな。まだまだ、ウブなボウヤさ」

「恋人とか出来るんだろうなあ、いつか」

「寝盗るんじゃねえぞ?」

「俺をなんだと思ってんだよ・・・」


 すでに缶詰は売り切れてしまったようだ。

 残念がる奥様方に、今度は冷凍肉も持ってくるからとグースが頭を下げている。


「2000以上の人間を、狩猟生活で食わせてくのはキツイよな・・・」

「だな。まあ、ブロックタウンを筆頭にして、農耕と牧畜を徐々に発展させるしかねえ。空母が何とかなったら、タール爺さん達をここやケイヴタウンに派遣した方がいいかもな」

「それまでは、グースとグリンに頑張ってもらうしかねえか」

「各街で家畜が飼えるようになる頃にゃ、2人も大人になってる。死神を支えられるほどの冒険者に仕込むさ」


 グースとグリンが、大人になって俺と肩を並べて戦う。

 どうも、上手く想像できない。

 大人になった2人も、老けているであろう俺自身もだ。


「そんな日も、来るのか・・・」

「あっという間さ」

「運び屋と姐さんの子供も産まれるんだもんな」

「なんでえ、人の顔をじっと見やがって?」

「いや、姐さんに似てくれって神様に祈ってた」

「このクソガキは・・・」


 受けると決めたら、それで気持ちが楽になった。

 初日はダラダラ過ごし、2日目はドルフィン号で湖のサハギンを殺し回ってフロートヴィレッジの住民とバーベキュー。3日目はまたダラダラの予定だったがグースとグリンにねだられ、運び屋と一緒に対岸で訓練。

 いい骨休みになったし、楽しい旅行だった。


(こちらは、そろそろ空母に到着です)

(こっちも地図で見る限りじゃ、もうすぐタウタだ)

(重ねて言いますが、くれぐれも気をつけて下さい。ジャスティスマンさんが安全だというならそうなのでしょうが、ヒヤマが暴れたら終わりなんですからね?)

(わかってるよ。これからは、我慢を覚えなくちゃなんねえってな)


 1人でローザに乗り、ハゲ山を走る。

 こちらに来て、初めての単独行動かもしれない。

 タウタ。

 ジャガイモなんかを大量に育てているらしいが、見えてきたのはクルマの残骸やコンクリートの塊を並べている長い壁だ。


(どんだけの土地を、囲ったんだか・・・)

(まるで、万里の長城ですね)

(街の入口が見えた。じゃあ、行ってくる)

(はい。頑張って下さい)


 見張りがボルトアクションライフルを構えている。

 あのくらいでヘルメットまで装備した上級パワードスーツを撃ち抜けるとは思わないが、だいぶ手前でローザを停めて外部スピーカーをオンにした。


「俺は空母の街の冒険者、ヒヤマ。タウタの長に面会したい」


 壁の上に立つ見張りは振り返って下に指示を飛ばし、銃を背負ってから手招きをした。

 ローザで近づき、巧妙に隠された入口の前で収納する。

 見張りが驚いていない所を見ると、職業持ちを見慣れているようだ。


「よう、暑いのにご苦労さん」


 ヘルメットを取って、煙草に火を点ける。

 未開封のタバコの箱を見張りに放ると、若い男は相好を崩して礼を言った。


「ちょうど、長からの伝令が来ました。大切なお客様なので、丁重に案内するようにと」

「そんな大層な客じゃねえけどな。じゃあ、入らせてもらうよ」

「歓迎します。タウタにようこそ」


 迷路のような瓦礫の間を抜けると、窓に鉄板を貼り付けたバスがあった。

 このスクラップのバスが門らしい。

 タウタに踏み込んで感じたのは、土の匂いだ。

 それも荒野の乾ききった土ではなく、それなりに水を含んだ土の匂い。


「門の壁際でも、ハーブを育ててんのか・・・」

「畑じゃない方が、風味が強くなる草もあるのですよ。こちらです」


 見張りとは別の男。

 壁の上にいた見張りは土で汚れている服を着ていたが、こっちの男の服はきれいなものだ。街を運営する役割の、エリートってやつかもしれない。

 建物は粗末な小屋のような木造のものばかりだが、風通しが良さそうなので暮らすには悪くないだろう。

 商店もそれなりにあり、買い物客もいた。

 誰も彼も、表情は明るい。


「いい街だな」

「ありがとうございます。シティーに比べればみすぼらしいでしょうが、私達は土と共に生きておりますので」

「牧畜は?」


 言った途端、男の目にあるかなきかの光がよぎった。


「いやあ、牧草というのですか。育てるのは可能でしょうが、肝心の家畜がおりません」

「農耕機でもあるのかい?」

「とんでもない。人力ですよ、すべて」


 歩いても、瓦礫の壁は見えてこない。やはり、かなり広い街なのだろう。

 大きな2階建の建物の前で、男は足を止めた。


「ここが役所になります」


 頷く。

 タウタの長。

 どんな人物で、何を考えているのかはわからない。

 ならばその考えを聞かせてもらおうと思いながら、役所に足を踏み入れた。



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