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東部都市同盟




 あまりに予想外で、言葉に詰まった。

 タバコを深く吸い込んでから、灰皿で揉み消す。


(・・・俺みてえなガキを担ぎてえって理由は?)

(それぞれの街の長が、一番納得できるからね。今の所、グールの街は同盟に加わるつもりはないらしいし)

(ルーデルや運び屋に頼めねえのか?)

(フリードとタウタの長は、ヒヤマくんを推してる。特にタウタは、ヒヤマくんが総帥職を受けるのが東部都市同盟加入の条件だよ)

(面識もねえのに、なんでだよ?)

(それはまだ言えないな。口止めされているんでね。気になるなら、タウタを訪ねるといい。きっと歓迎してくれるさ)


 会ってもいない俺を推すとなると、タウタの長は職業持ちで何らかの監視スキルを持っているのだろう。

 俺を推す理由が、タウタの利益に繋がるからという理由ならば問題だ。

 タウタの利益のために俺を推すなら、俺には知られずにタウタだけがうまい汁を吸う術を持っている事になる。だが、それを読めないジャスティスマンではないだろうに。


(ああもう、わっかんねえな。仲間と相談していいかい?)

(もちろんだよ。それに、返事はタウタを訪れた後でもいい)

(了解。北大陸に行く前にこの話を出したのには、理由があるんだよな?)

(東部都市同盟は将来、国に匹敵する存在になる。その総帥が援軍に来たとなれば、封建的な北の連中も無碍には出来ないさ)

(気を使ってくれるのは嬉しいが、俺がそんな大役をなあ・・・)

(君は平和を望み、歩き出した。平和を掴む夢さえ捨てた私達がヒヤマくんに着いて行きたいと思うのは、至極当然の事だよ)

(とりあえず、またこっちから無線を飛ばす)

(納得できるまで話し合ってくれたまえ。では、失礼するよ)


 大きく息を吐いて、強く顔を擦る。

 正直、どうしたらいいのかわからない。

 説明するのも憂鬱だ。


「大丈夫ですか、ヒヤマ?」

「ああ。ちっと予想外の相談事でな。とりあえず、運び屋とルーデルに相談してみる」

「まあ、驚くでしょうね。ウイちゃん達には、私から説明しておくわ」

「さすがは情報屋ってか。はぁ、どうしたもんかなあ・・・」


 運び屋は笑うかもしれないが、ルーデルは真剣に助言をしてくれるだろう。

 祈るような気持ちで無線を繋ぎ、ジャスティスマンとの会話を1から説明した。


(タウタの長ってのが何を考えてるかだな。戦争前に行ったが、門番に書簡を預けてすぐに帰ったんだ)

(ヒヤマを推す辺り、人を見る目はあるんだろうが・・・)

(だいたい、なんで俺だってんだよなあ)

(将来性もあるし、周りはこれでもかってほど優秀な人材が固めてる。妥当だろ)

(そうだな。ジャスティスマンよりも適任だ。もちろん、俺や運び屋よりもな)

(そうは思えねえけどなあ。どうするべきだと思う?)


 運び屋は鼻で笑い、ルーデルは静かな笑い声を出した。


(受けとけ。手助けはしてやる)

(受けるべきだろう。それが、ヒヤマの夢を叶える近道だ)


 2人の声は真剣だ。

 だが、どう考えても俺にそんな役目が務まるとは思わない。


(シティーはジャスティスマンだろ。空母が孤島の爺さん。ブロックタウンがミツカの親父さん。フロートヴィレッジがフリード。タウタは監視系スキルがあると予想される職業持ち。ケイヴタウンの長ってのには会ってねえな)

(あの街で唯一の店をやってる爺さんだ)

(ああ、あの爺さんか。レニーと長い付き合いみてえだったな)

(タウタの長以外は、見事に知り合いなのか。やはりヒヤマしかいないな)

(そう言われてもなあ・・・)


 トラック1台で何かが変わるかもしれないとは思ったが、こうも大きく状況が変わるなんて予想外だ。


(まず、どこかが他勢力に攻められたり、クリーチャーの群れに襲われたら援軍だよな)

(当然だな。同盟なんだからよ)

(んで、トラックの定期便で物流を回す)

(無限アイテムボックスとヘリがあれば、どんなに大きな物も数時間で輸送可能なのは大きいな)

(ああ、そうか。無限アイテムボックスを、俺が独占してる形なのか・・・)

(いまさらかよ、死神・・・)

(ヒヤマらしいな。普通、他者と初めて向かい合う時は、人は無意識に互いの持ち物を比べてしまうものだが・・・)


 無意識で比べているのは戦闘の腕だけだと思ったが、バカっぽいので口に出すのは止めた。

 ウイとヒナに面倒な仕事を押し付ける訳にはいかないし、俺が受けるしかないのだろうか。


(その他に、同盟としてやる事ってえと・・・)

(外交に、いざとなれば戦争だな)

(それと内政。経済政策なんかもだな。ヒヤマは空母でかなりの雇用を生み出しているし、その辺も期待されているのかもしれない)

(面倒臭え・・・)


 ああだこうだと話していると、網膜ディスプレイのウィンドウに湖が見えて来ていた。

 夏の陽射しを照り返す湖面。

 自分が酷く小さく思えて、訳もなく悔しくなった。


(はぁ、3日の滞在中に考えてみる。いきなり相談なんかして悪かったよ)

(気にすんな。死神の人生なんだ。好きに生きていい。俺達は、やるなら手を貸すってだけさ)

(そうだな。思うままに生きて、より多くの人を助ける。ヒヤマなら、どう生きたってそうなるさ)

(なんかこそばゆいって。ありがとう。通信、終わり)


 話しているうちに灰皿を抱え込むようにして、床に胡座を掻いていたらしい。

 手を上げて伸びをすると、盛大に関節が鳴った。


「結論は出たんですか?」

「いや、3日で答えを出す。正直、自信がねえんだよ」

「ウイちゃん。私達は今のうちに、東部都市同盟が発足したらまず何をすべきかを考えておきましょう。ヒヤマが総帥職を受けても受けなくても、その案は無駄にはならないわ」

「そうですね。まずは、犯罪率の低下でしょうか。各街が犯罪者を街に入れるかどうかは各々の判断でしょうが、冒険者だけでもギルドに所属する者には公的な身分証を発行した方がいいかもしれません」

「いいわね。狩りもするけど旅人も襲う、それが大多数の冒険者だもの」


 トラックは、前に来た時はなかった小さな建物を目指して進んでいる。

 バス停のような建物に、小さな桟橋。

 その向こうには、クワか何かを地面に振り下ろす人々の姿が見えた。湖面には、桟橋を目指しているらしい漁船がいる。

 トラックは、バス停のような建物の前で停まった。


「お兄ちゃん、降りていいっ?」

「たーくんと一緒にな。行こうか」


 陽射しがキツイ。

 日本のように湿気はないが、ハンパではない暑さだ。

 全員がハシゴで下りたのを確認し、屋根から飛び降りる。

 運び屋達も降りていたので、すぐにウイがトラックをアイテムボックスに入れた。


「ようこそ、ヒヤマさん。わざわざ恐縮です」


 フリード。

 握手を交わし、無線の許可を飛ばす。微笑みながら受けてくれた。


「これでいつでも、無線で話せるな。何かあれば、すぐに言ってくれ」

「ありがとうございます。さあ、皆さん。船へどうぞ」


 フリードの案内で漁船に乗る。

 見た目もボロボロで、まだどうにか動くといった感じだ。


「うーん。修理しないと、そろそろ危ないねー。後でやろっと」

「ニーニャちゃんは優しいなあ。ヒヤマ、30に行く前にブロックタウンに寄るよね?」

「もちろんだ。用事でも出来たなら、いつでもローザで送るぞ」

「いや、ついででいいんだ。保安官代理の席が浮いてるから、父上を保安官代理にして無線を使えるようにしたい」

「なるほど。東部都市同盟となれば必要か・・・」


 漁船は、湖面を進み出している。

 甲板で立ち話をしている格好だが、見ればフリードが運び屋に丁寧な挨拶をしていた。


「宿屋じゃなく空き家を2つ貸してくれるってよ、死神」

「いいのか、フリード?」

「ええ。父と兄が使っていた家なので、気分は良くないかもしれませんが」

「人の死んでねえ場所なんかねえさ。特にこの辺りじゃな。ありがたく泊めてもらうよ」

「村外れの一等地で、静かに過ごせると思います」

「ありがてえな。考え事が捗りそうだ」

「例の件ですか。無理を言って申し訳ないです・・・」


 フリードは、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいさ。それより、敬語はもういいだろ。2回会ったら、知り合いだ」

「癖になっているので、お気になさらず。着きますね。フロートヴィレッジへようこそ、歓迎しますよ」


 フロートヴィレッジの桟橋は金網で出来ているようだ。

 降りると少し軋んだが、歩くのに問題はない。

 鉄板の道を歩きながら、サビの目立つ街並みを観察する。店のような建物がないのは、どこかに市場があるからだろうか。


「ヨハン、やれそうか?」

「問題なさそうだよ。空母の個室で配管にも慣れたし、すべての鉄に防錆塗料も塗るから、今よりいい街にしてみせる。ついでに計画的な区割りをしたいが、それを住民が許してくれるかだね」

「なるほど。フリード、施行までに住民とよく話し合ってくれ」

「ありがとうございます。これで、フロートヴィレッジは生き残れる・・・」


 涙ぐむフリードを見ながら、パーティー無線を繋ぐ。


(見物人が多いが、犯罪者は?)

(まだ見てないね。でも、それなりの善行値を持つ人間が多いよ)

(狭い街だから、父親や兄と組んでた犯罪者ははっきりしていたのよ。フリードが実権を握ると同時に処分したから、犯罪者はいないはず)

(インテリ坊っちゃんだと思ってたが、思い切りがいいな)

(ジャスティスマンの教え子ですもの。下手に追放なんかで終わらせたら、別の街に迷惑をかけるって理解してるわ)


 桟橋から歩き続けて5分もすると、もう湖が見えて来た。

 どうやら、思っていたよりも狭い街らしい。

 周りの建物より状態のいい家の前で、フリードが足を止める。


「ここです。中の物は、ご自由にお使い下さい」

「ありがとう。ヨハン達は左。残りは全員で右だな」

「気を使わないでくれって」

「せっかくの新婚旅行だ。のんびり体を休めな。じゃ、またな」


 有無を言わさず、3人を残して家に入る。

 年少組は、明らかにウキウキしているようだ。女を知っても、そんなところは変わらないらしい。

 2階のベランダからは、穏やかな湖面が見えた。

 そこの椅子に腰掛けてタバコを吸いながら、どうするべきなのか考え始める。

 今までのように、ウイ達の安全を優先するのには変わらない。

 だが東部都市同盟の旗頭になるのなら、俺が皆といられる時間はどうしたって減るだろう。



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