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旅の始まり




 ブロックタウンの門を南とするなら、進路は北西だ。

 小高い丘の上に立つと、ブロックタウンの全景を見渡せた。思っていたよりずっと広い。北端には草を食む家畜や、麦畑まで見える。


「でけえな、ブロックタウン。なんでこんなに寂れてんだ?」

「南に何もない土地だ。この界隈の、人が住める限界の立地なんだよ。それに、ブロックタウンの町長の家系には、保安官系の職業持ちが生まれやすい。その子が物心つけば、犯罪者は追い出されるしブロックタウンには入れない」

「治安が良すぎて人口が増えねえのか」

「そうだよ。こんな世界じゃ、きれいな人間は少ない」


 ミツカの感傷的なセリフの後に、遠くから爆発音が聞こえた。


「爆発音だ。進路上だな」

「あたしには聞こえなかったぞ」

「私もです。ですが、ヒヤマの感知力は80近く。間違いはないでしょう」

「そんなにあるのか。バケモノじゃないか」

「だから楽しめるんじゃないですか。ミツカも職業持ちだから妊娠は選択可能ですし」

「ああ、あの感覚は癖になるな。夜が待ち遠しいね」


 朝から下ネタはやめなさい。


「とりあえず用心して進むぞ。相手を見て無理そうなら回り道だ」


 言いながら狙撃銃を構えてスコープを覗く。音のした方角は爆撃でもされたような市街地で、瓦礫の他に何も見えない。


「地図にあった目印の鉄塔はあれだな。敵は見えない。行こう」

「了解」


 丘を下りながら、市街地に視線を走らせる。敵は怖いが、無事な建物があれば探索したい。

 この旅の収入は山分けと決めている。実入りが多ければ、ミツカがブロックタウンのために使える硬貨も増えるだろう。

 長年の貯蓄に比べたら微々たるものでも、ないよりはあった方がいいはずだ。


「黄マーカー発見。市街地への入り口、建物の陰。数は1だ。入口近くの瓦礫に隠れて待機。他にマーカーが見えないなら俺が釣る」

「私が行きますよ。ポイントマンの座は譲りません」

「【隠密】を活かして狙撃するんだ。近すぎるようなら任せる」

「あたしは?」

「残る方の護衛だ」

「わかった」


 小声で打ち合わせを済ませると、瓦礫はすぐそこだった。音を立てないように身をかがめてそれを盾にする。


「近くはありませんね。最初の交差点を右に100メートルくらいですか」

「さすが感知力80。よくあの位置から発見できるもんだね」

「ウイ、交差点までに罠はねえか?」

「【罠感知】。・・・大丈夫。交差点までは安全です」

「なら交差点から狙撃する。発見されたら逃げてくるから、フォロー頼む。狙撃銃を猟銃に変えたら援護に来てくれ。狙撃が無理ならハンドサインで呼ぶ。他にあるか?」

「敵のHPが500以上なら迂回しましょう」

「あたしは2人に従うだけだ」

「わかった。行ってくる」


 気をつけてと言う2人に笑顔を向け、低い姿勢で交差点まで移動する。

 壁の向こうに顔を出す前に、全方位にマーカーがないか念入りに確認した。オールグリーン。覗き込む鏡なんてないのだ。

 ゆっくりと顔を出して、鷹の目のスキルに頼るしかない。車の残骸がいくつか見える。

 いた。あれは、ロボットか。近代的なデザインじゃない。あれじゃまるでアシモフの挿絵だ。狙撃銃を構えてHPを見る。350。これなら一撃のはずだ。

 

「待ってな、ガラクタ。【ファーストヒット】」


 準備はできた。ロボットは動かない。慎重に頭部を狙い、トリガーを引いた。

 ロボットが弾かれたように飛んだ。HPバーの上に300と数字が踊る。倒しきれないだと。何故だ!

 ヒュオンッ!

 焦げ臭い。慌てて顔を引っ込める。レーザーだってのか。くそったれ!

 狙撃銃を猟銃に変える。赤いレーザーの間隙を縫って、マーカーの位置を頼りに発砲。すぐにレーザーが放たれた。壁に背をつけてボルトを操作。次弾装填完了。次は外さない。


「ヒヤマ!」

「敵はブリキの玩具みてえなロボット。残HPは60!」

「了解。車の陰に飛び込みます。援護を。3、2、1、ゴー!」


 身をはっきり晒して猟銃を撃つ。命中を確かめる前に戻る。命中。残HPは53だ。


「攻撃開始しますっ!」


 ウイが車の陰からアサルトライフルを撃つ。レーザーがウイに向く。そこを俺が猟銃で撃つ。

 一連の動きを見て、ミツカが低い位置からそれに加わった。みるみるロボットのHPは減っていき、鈍く小さな爆発音を残して倒れた。


「【ファーストヒット】が効かなかったかもしれねえ。300ダメしか通らんかった」

「ロボットは全身に防具を着てるようなものです。【ファーストヒット】込みの300ダメージでしょう」

「なるほどな。経験値は50か。オーガより良いな。ミツカ、レベルは?」

「うん。何もしてないのに6になった。なんかごめん」

「何を言いますか。ちゃんと戦ってくれたでしょう」

「あたってないんだ。あたしの弾」

「最初はそんなもんさ。スキルのねえ武器だ。慣れれば外さねえさ」

「・・・頑張る」


 周囲を見渡しながら歩く。2メートル超のロボットは、もう煙も上げていなかった。


「ロボットはアイテムボックスに入るんか?」

「ええ。いろんな部品が取れますので、高く売れますよ」

「超エネルギーバッテリー1つで、どんな電化製品も動くからな」

「経験値もうまいし、見かけたら積極的に狩るか」

「ですね。シティーに対物ライフルがあれば、買いましょう。ロボットにはあれが一番です」


 ロボットを収納して、鉄塔の見える左に曲がる。車の残骸や瓦礫が残るひび割れたアスファルト。ミツカにとっては俺達との初戦闘だった訳だし、そろそろ休憩を取ってもいいかもしれない。

 そう思いながら歩いていると、屋根の崩れていない小さな建物があった。何かの商店だったようだ。


「ウイ、鍵を頼む。ミツカは俺と周囲の警戒。ここを漁ったら休憩にする」


 左右に分かれて立ち、ウイを守るようにして周囲を見回す。


「きゃあっ!」

「お、かわいい悲鳴だな。レベルアップか?」

「な、なんでここでレベルアップが・・・」

「解錠も経験値が来るんですよ。これは30でしたね。なかなかの鍵です」

「なるほど。知らなかったよ、あたし」

「ドアに罠はなし。解錠されていないので、手付かずの小さな遺跡ですね」

「入ろうか。ウイのアイテムボックスで根こそぎ掻っさらえ」

「了解!」


 俺がドアを開け、ウイがアサルトライフルを構えて店内を見渡す。【罠感知】のスキルも使っているだろう。


「この部屋には罠もマーカーもなし。リキャストタイム中に探索しましょう」

「ああ。ドアは閉めて施錠もする。明かりの準備を」

「フラッシュライト点灯。もう1つは2人で使ってください。行きますか」


 夥しい数の菓子と冷蔵庫のペットボトル。駄菓子屋みたいなもんかと思えば、ウイが照らしたレジ近くにはエロ雑誌コーナーがあった。


「当たりだな。喜べミツカ。一財産だぞ」

「こ、これみんなお菓子とかジュースなのか・・・」

「しっかりと包装されているものは飲食可能ですからね。食品から収納します」


 機敏に動くウイの邪魔にならないように、奥へのドアの前で入り口を見張る。

 10分もかからずに、ウイは大量の飲食物や雑誌、レジの金まで根こそぎアイテムボックスに収納した。

 うわ。業務用冷蔵庫までいただくのか。


「この奥が事務所か自宅だな。自宅なら、電化製品やらなんやらで儲けは増える。ミツカ、しゃがんで開けてすぐ引っ込め。ウイの邪魔にならねえようにな」

「わかった」


 ウイの右手にはサブマシンガン。左手のフラッシュライトの光が上下した。


「光の上下は開けろって事だ。左右なら待てな」

「ちゃんと覚えた。次からは大丈夫だ。開けるよ」


 照らされる室内。壁際のロッカー。反対に机。床には骸骨。


「罠はなし。残念ながら事務所でしたね」

「いいさ。ここを漁ったら休憩だ。そのドアはトイレだろ。ちょうどいい」


 骸骨に手を合わせてから、ポケットを探る。何もなしか。ロッカーに期待かな。


「・・・これは。ヒヤマ、机の下に金庫が」

「ツイてんなあ。【解錠】頼む。ミツカ、ウイの手元を照らしといてやってくれ。俺はロッカーをやっつけとく」


 着替えに財布、タバコにウイスキーの小瓶。ライターもある。ダンさんの土産にするか。


「机の上に置くぞ。ライターはダンさんの土産にどうだ?」

「必要ない。そんな高価な物」

「何を言ってるんですか。留守を預かってくれる大事な副団長でしょう。それくらいあげなさい」

「だが売れば2人の小遣いになるじゃないか」

「ここでも儲けてますから、硬貨は余ってますよ。はい、開きますよ」


 パッパラー。


「レベル来たな。ミツカは来ねえか」

「さっき来たばかりだからね。2人ともかな。おめでとう」

「ありがとう。そしてぎっしりの硬貨よ。いくらになるか想像もつかない」

「それ収納したら机の引き出しを見てくれ。俺はトイレを一応見てくる」


 個室のトイレは、なんて事のないブロックタウンの自宅と同じようなトイレだ。雑誌の1冊もない。水も流れた。


「なんもねえや」

「引き出しも、ほぼ空です」

「じゃ、休憩にすっか。そこの灰皿くれ」


 骸骨から遠い壁際に座り、置いたフラッシュライトの光でタバコを出して吸う。根が小心者だから、外を歩きながら吸ったりは出来ない。人を殺しても、僕を俺にしても、そう簡単には人は変わらないのだろう。


「飲み物は何にしますか。冷やしたのをたっぷり持ってきてありますよ」

「アイスコーヒー」

「ミツカは?」

「ああ。自分のアイテムボックスに、水筒を入れてある。気にしないでくれ」

「ほう。遠慮なんかするなら仲間とは認めないと、あれほど言ったのにそれですか」

「うえっ。ご、ごめん。ウイと一緒のがいいなあ」

「ならミルクティーです。はい」

「ありがとう」


 仲が良いねえ。ウイにしてみれば、唯一の年が近い友人だ。当たり前か。

 2本目のタバコを吸いながら、地図を出して照らす。鉄塔まではあと少し。その向こうには幹線道路があって、川沿いをシティーまで直進らしい。


「昼には川沿いに出るが、川にクリーチャーはいるのか?」

「高級魚人クリーチャーがいますよ。サハギン。2足歩行で、三叉の銛か、水を吐いて攻撃してくるそうです」

「射程は短そうだな。地図にハンターズネストってのがあるが、こりゃ何だ?」

「聞いた事がある。シティーの冒険者でクリーチャー狩りをする人間は、川沿いをそこまで狩りをしながら移動して、ハンターズネストの船にサハギンを売るそうだ。それを夜に船でシティーに運ぶらしい」

「女連れだから、寄らずに迂回するか。明日の夕方に道を逸れて、それからキャンプにしよう」

「気にしなくてもいいですよ。サハギン狩りなんてしてる冒険者なんて、怖くはありません」


 自分達の容姿を考えてくれ。10人が10人、どっちか抱きたがるんだよ。思っても口には出さない。調子に乗るだけだ。



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