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新しい街




 マンホールから出て来る人間が、太陽の眩しさに目を細めては歩き出す。

 夏の陽射しに照らされた、その表情はどれも明るい。

 俺の視界をミツカもウィンドウで見ているが、犯罪者はほとんどいないそうだ。それどころか、かなりの善行値を持つ人間もいるらしい。

 善行値の高い人間が空母内での就職を望めば、まとめ役として優先的に雇用する事になっている。

 下水道での暮らしを惨めなものだと思っていた住民も多いだろうが、そこでも腐らずに誰かに親切にしていた人間が報われるのを見て、少しでもそれを見習ってくれればと思う。


(下水道出口、ヒヤマ。未だ敵影なし)


 30分に1度の無線を飛ばす。

 無線も映像も、全員が繋ぎっぱなしだ。


(スラム大通り、剣聖。こっちも平和なもんだ)

(防衛ライン、ウイ。こちらもギャングは来ていません)

(スラム上空、タンゴ。ギャングの溜まり場に目立つ人の出入りはない。これはヒヤマの作戦勝ちかな)

(入居受付、運び屋だ。ここが最前線かよ!)

(やっぱ忙しいのか?)

(あったりまえだろうがよ! 1000もの人間に宣誓さして、家族毎に部屋に振り分けて案内してんだぞ!)

(甲板上のルーデルだ。子供達が大活躍だよ。エコー老の教育の賜物だな)

(そいつは嬉しいな)


 先に空母に入れた子供達は、孤島の爺さんとエルビンさんに人間の生活、それも集団生活や集団行動について1から仕込まれていたはずだ。

 それが目に見えて効果的なら、学校の授業にも応用できるだろう。

 孤島の爺さんは街をまとめる仕事、エルビンさんはギルドマスターの仕事があるのですぐに学校は作れないが、教師役さえ見つかれば学校はすぐに出来るかもしれない。


(お、警備ロボットが出て来た。これで入居希望者は終わりなんだよな、レニー?)

(そうだよ。しかし、ギャングもだらしないねえ。来るならとっとと来いってんだ)

(住民のいねえ時に殺す方が気が楽でいいさ。警備ロボットの後について戻る。俺が戻ったら交代すっから、ウイ達は甲板の手伝いを頼む)

(了解です。日除けのテントは足りていますか、ルーデルさん?)

(今の所は足りてるが、30分もすればどうかな。僅かにだが、部屋に案内する人数より甲板に上がってくる人数の方が多いんだ)


 甲板のテントでは、街の説明を書いたパンフレットを精読させ、それを守ると誓約させてから部屋に案内する手はずだ。

 ミツカはヒナに護衛されながら、空母の下での元犯罪者相手の受付をしている。


(なんとかなりそうだな)

(まだ気は抜けねえさ。行こう、剣聖はレニーと交代だ)


 ホプリテスとハイタッチして、警備ロボットの後方を歩く。

 ハルトマンは足音をあまり立てないが、ホプリテスは歩く度に大きな音を出すので、入居希望者の最後尾が振り向いてこっちを見ていた。


(俺も甲板かよ、ヒヤマ?)

(ああ。まだいねえみてえだが、甲板での宣誓でウソを言うバカがいるかもしんねえ。いたらぶちのめしてやれ、レニー)

(なるほどね。任せときな)

(では、ハルトマンとホプリテスが到着したら、兵員輸送車も私のアイテムボックスに収納しますね)

(頼むよ、ウイ)

(タンゴは悪いが、もう少しスラムを見ててくれ)

(もちろんだ。全員が甲板に上がるまで、降りる気はないさ)

(ありがてえ。よろしく頼むよ)


 空母の下には、色とりどりの人だかりが出来ていた。この世界には、なぜか黒髪が少ない。

 それを守るようにハンキーと兵員輸送車、それにアリシアとカリーネの強化外骨格パワードスーツが配置されている。

 この調子なら、何事もなく終わってくれるのかもしれない。


(ウイ、いいぞ)

(では後をお願いします)


 ウイがハンキーを降りて、兵員輸送車へと走る。

 ハンキーが停まっていた場所に立ちながら、左手に握るサブマシンガンの装填を確認した。


(タンゴだ。シティー寄りの店から、30ほどの武装した集団が出て来た。監視する)

(この地図を見てくれ。なんて店から出た?)


 レニーが表示したのは、シティー寄りの詳細地図だ。

 右端に、3番出口と黄金の稲穂亭が小さく描かれている。


(バルクバルク、だな)

(そりゃ冒険者相手の宿屋だな。店主は引っ越しを拒んだんで、まだ営業してるんだ)

(ギャングと犯罪者しか残らんスラムで、宿屋を続ける気かよ・・・)

(商売敵が続々と店を畳んだんで、欲を掻いてるのさ)

(武装した集団は、大通りを進んでいる。10分ほどで、そっちを掠めるぞ)

(ミツカ、集団に犯罪者は?)

(いないね。元犯罪者すら)


 となると、ギャングに雇われて空母を襲撃しに来た訳ではなさそうだ。

 合同で規模のデカイ狩りにでも出るのか。


(こっちに来るようなら、俺が話を聞く。配置変更、大通り寄りはホプリテスか。俺がホプリテスの位置に行くから、そのままズレてく・・・)

(ギャングの溜まり場から集団)

(進行方向が見えたら知らせてくれ!)


 どちらにしても、俺は大通りに近い場所がいいようだ。

 移動して、タンゴの報告を待つ。


(ちっ! 狙いは冒険者らしい。武装したギャングは50。冒険者は30だ。1分後に接触!)

(剣聖、ここは任せた。タンゴ、威嚇射撃を頼む!)

(了解。威嚇射撃開始!)


 走る。

 大通りの1つ向こうの道に、タンゴは機銃を撃っているようだ。

 遠くに冒険者が見える。

 何人かが銃を構えたが、構わずにそのまま接近した。


「こちらは空母のヒヤマ。死神ハーレムって方がわかりやすいか。まとめ役は誰だ?」


 中年の男が、アサルトライフルを肩に戻して前に出る。

 どこかで見たような顔だ。


「冒険者パーティー、熾火を泳ぐ蛇のカスヌだ。覚えてはいないだろうが、この間の戦争にも参加した」

「お、アンタか。ギャングが50ほど、アンタ達を狙ってるとしか思えねえ動きを見せた。仲間が空から足止めしてるが、心当たりはあるか?」

「・・・やはり来たか。俺は真っ当な冒険者を集め、ジョンから聞いたギルドに参加させてもらおうと空母に向かっていた。空母に行く冒険者は殺すと、前々から脅されていたんだよ」

(タンゴ、そいつらは敵だ。好きにしていいぞ)


 元犯罪者ですらない冒険者が30。

 これは大きい。

 ジョンには潰れるまで、酒を奢らせてもらおう。


「冒険者ギルドは、貴君達を歓迎する。殿は俺に任せて、出来るだけ急いで空母に向かえ」

「感謝する。みんな、走れっ!」


 サブマシンガンをいつでも撃てる体勢で歩く。

 タンゴが機銃を撃ち込んでいる道側をだ。

 歩兵と強化外骨格パワードスーツでは歩幅が違う。歩みの遅さに焦れながら、これにも慣れろと自分に言い聞かせた。


(ヒヤマ、すまん。1匹逃した!)

(任せろ!)


 マーカーは見えている。

 大通りに駆け込んできたチンピラを右手で捕まえ、その道の向こうに見える通りに叩きつけた。

 ペイント弾のように、赤が散る。

 小走りで冒険者の最後尾に追い付き、マーカーがないか注意しながら歩く。


(ムリに殺さなくてもいいからな、タンゴ)

(なあに、悪人は殺しておくべきさ。戦争だからと女子供まで殺すのと違って、遠慮なく殺せるからいい。これで、最後の1匹!)

(おいおい、単機で約50を全滅させたんかよ・・・)

(1匹逃したじゃないか。やはり、腕が鈍ってるんだな)

(タンゴも人外なのは理解した、うん)


 冒険者達は、ホプリテスの向こうに駆け込んでいる。

 あそこまで行けば安全だろう。


(とりあえずは安心かな)

(派手に機銃で殺しても、ギャングの増援はなかったからな。あの数でダメなら諦めると、ハナっから決めてたんだと思う)

(タンゴさん、対空ミサイル!)

(緊急回避!)


 タリエの叫びに、タンゴの叫びが重なる。


(にゃー)


 場違いな猫の鳴き声が聞こえると、ヘリのだいぶ上空でミサイルが爆発した。


(ベル、助かったよ)

(にゃっ)

(そうだな。まだ腕の衰えを甘く見ていたようだ。気をつけるよ)

(えーっと、なんで登録してねえ黒猫が無線に参加してんだ?)

(そういえばそうだな。ベル、これは?)

(にゃーっ。にゃにゃ、にゃー。にゃっ、にゃー!)

(なるほど。コパイロット系のスキルを取得したから、機長である俺の無線に割り込めるらしい。それと、タリエさんに礼を言うのが先だと怒られたよ。タリエさん、ありがとうございます。おかげで助かりました)

(いえいえ、お気になさらず)


 猫もかわいいなあ、そう思っていると、ウィンドウが現れてヒナがこっちを睨んでいた。


(どした、ヒナ・・・)

(なんとなく?)

(なんだそりゃ。ミツカを頼むな)

(ん。みつかかぞく、まもる)

(いい子だ。ニーニャは平気か?)

(うんっ。タリエさんと、案内に立ってるー)

(そうか。さっきはありがとうな、タリエ)

(気にしないで)

(地図に、発射地点をくれるか?)


 俺の仲間を殺そうとするなら、俺はソイツを生かしておくつもりはない。

 それをギャングに教えてやる、いい機会だ。


(ここよ。ギャングの溜まり場で、お店じゃないから一般人はいないわ)

(了解。ちょっくら行ってくらあ。剣聖、後は頼むな)

(おう、好きに暴れてこい)


 言われなくとも、そうするつもりだ。

 大通りから左に折れ、タリエが付けたマーカーの建物に着く。

 ビルではない、一軒家くらいの建物だ。

 玄関を蹴る。

 建物が崩れてホコリが舞った。

 それが落ち着くと、中に血を流す男が見える。

 男がいる辺りに、サブマシンガンの弾をバラ撒く。


「対空ミサイルの礼をしに来たぜ。テメエらは俺に喧嘩を売った。つまり、死んだって事だ」


 返事はない。代わりに、小口径の銃弾がハルトマンの装甲を軽く鳴らした。傷さえ付かない、雨にも劣る攻撃だ。

 建物の中の赤マーカーが、慌ただしく動き出す。

 構うものか。

 パイルバンカー。

 思念式カートリッジが爆ぜ、建物を貫いた。


「死ねや、クズ共!」


 伸び切ったままのパイルバンカーを、建物に何度も突き入れる。

 建物が崩れる度に、赤マーカーは数を減らす。

 完全に建物が崩れると、それもなくなった。


(火事は出てねえ。ツイてるな)

(自炊なんてしないでしょ、ギャングは)

(そうかい。そんじゃ、戻って警備を続けるよ)


 それからは、酷くつまらない時間が過ぎた。

 襲撃どころか、住民同士のトラブルさえ起こってはいないらしい。


(こんなに行儀がいいなんて、意外だな)

(俺もそう思ってイカツイおっさんに話を聞いたが、なんかすりゃ追い出されるってレニー嬢ちゃんに散々脅かされてたかららしいぞ。それにさっきのギャングを皆殺しにしたのもすでに噂が広まってっから、なにがあっても敵には回りたくねえらしい)

(報復して正解か。北大陸に行く前に、ギャングは皆殺しがいいかもな)

(とりあえずは出方を見ればいい。明日からは滑走路で青空市場。それに工場やら養豚場なんかの仕事始めだ。外に構ってるヒマはねえぞ?)

(へいへい。仕事があるなら、喜んでやるさ)



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