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トラックが運ぶ夢




「ミツカ、早く乗れって! お、ニーニャとヒナも来るのか?」

「もし動かなきゃ、修理してもらわにゃならんだろうが」

「それもそうか。おい、なんで降りるんだよ、ヒヤマ?」

「強化外骨格パワードスーツを下ろすんだよ・・・」

「面倒臭えなあ、早くしろよ?」


 空母に戻った途端、レニーはこの騒ぎっぷりだ。


「ニーニャ、離れてろ。ロープを解いたら、落ちてくるかもしんねえ」

「ほーい。2機目の予備機だねっ。どう改造しとこっかなあー」

「ヒナ。ロープを解いたら、アイテムボックスに入れといてくれ」

「わかった」

「レニーさん、運転はあたしがしていいかな?」

「任せるよ。好きにしたらいいさ」


 ニーニャとヒナと一緒に兵員輸送車に乗り込むと、すでにミツカは運転席に収まっていた。

 仕方がないので、3人で後部座席に座る。


「では、しゅっぱーつ!」

「あいさー」


 やけにくっついて座るニーニャとヒナに悪いので、パワードスーツを脱いでおく。

 外に出る時は、また装備すればいいだけだ。


「楽しみだねー、トラちゃん」

「トラックだからトラちゃんか。なんかかわいいな」

「なににつかう?」

「まだわからんなあ。ニーニャ、可動品のトラックに値をつけるとしたらどのくらいになる?」

「んー。程度にもよるよお。ヨボヨボのお婆ちゃんなら、修理してから売らないとだし。その工賃と部品代があってないようなものだから、好きに設定すればいいんじゃないかなあ」

「おいおい、ヒヤマ。まさかトラックを売る気じゃねえだろうな?」

「売らねえっての。ギャングの手に渡って、女を攫うのにでも使われたらどうするってんだ」


 後ろ向きに座るレニーが、安心したのか笑顔で頷く。


「でも報酬は山分けだからな。金額を出して、半額を渡すよ」

「いや、トラックはギルドで使おうぜ。金はいらねえ」

「そうはいかんさ」

「いいから。たまに3人で話すんだ。兵員輸送車を、ギルドに寄付しようかってよ。でもこれがあると便利だから、ついな」


 そんな事を考えていたとは驚きだ。


「なんだってそんな事を・・・」

「陸でも人員や物資の輸送が出来れば、きっとギルドは繁栄するってカリーネが言ってた。それにルーデルのヘリだって、ギルドの備品みてえな扱いんなってタンゴが使ったりもするんだろ。だからさ」

「余計な気を使いやがって、まったく」

「これでも感謝してるからな。それに、ギルドが目指すのは俺達が夢見ていた世界だ。指を咥えて、見てるだけの夢。それに手が届くなら、なんだってするさ」

「・・・なら、借りておくかな」

「使い道なんか、ヒヤマならいくらでも思いつくだろ?」


 そんなに都合よくアイディアを持っている訳ではないが、商人ギルドと組んでいい商売が出来るかもしれない。

 今までダヅさんが回っていたルートだけでも、それなりに儲かるはずだ。


「商人ギルドの行商人と旅人を乗せて、各街を回るか。護衛に安定した収入を望む冒険者を使えば、良い事ずくめだ」

「フロートヴィレッジの新鮮な魚と、ブロックタウンの肉を運べるのか。夢みたいだな・・・」

「少し前に、缶詰工場を探索したんだ。ニーニャ、製氷機とかなかったか?」

「3台あるよー。ジシャセンパクデケーヒサクゲンって、ウイお姉ちゃんが言ってたのっ!」

「フロートヴィレッジ、ブロックタウン、空母に1台ずつ設置できるか。ツイてるなあ」


 日替わりでルートを変えれば、各街に肉や魚を売り歩ける。

 食事が美味くなる事で、人々の心の持ちようが少しでも良くなれば嬉しい。


「待てよ。ニーニャ、缶詰工場の機械って、もしかして直せるか?」

「ヨハンさんが手伝ってくれたら、何とか直せるんじゃないかなあ、多分」

(ウイ、俺だ。缶詰工場に、加工前の缶ってあったか?)

(それなりにありましたよ)

(どんくらいだ?)

(正確にはわかりませんが、1000よりは多いでしょうね)

(そんなに少ねえのか・・・)

(缶詰で商売をするのなら、30番シェルターの工場から缶を回してもらえばいいんですよ。シェルターの缶詰は味もいいしプリントまで完璧な新品なので流通は控えていますが、空母で加工した缶詰なら売りに出しても問題はないでしょう)


 これでいくらかは、空母の住民の仕事が確保できる。


(シェルターの缶詰は、ジャスティスマン経由でシティーに流してもいいかもな)

(そうですね。そして空母で加工した物はトラックで売りに行く、ですか?)

(街を渡りたい人間と、商人ギルドの行商人を乗せてな。製氷機をフロートヴィレッジとブロックタウンに設置して、肉と魚も売り歩く。砲台島の漁船も魚を運んでくれりゃ、なんとか缶詰も作れるだろ)

(・・・おぼろげにですが、見えてきましたね)

(何がだ?)

(経済の結びつきから発展した、未来の形ですよ)


 たしかに、これまではどうなっても構わないと思っていた隣町が1台のトラックによって、なくてはならない存在になるのかもしれない。

 そこから住民が世界は広いのだと知る事になれば、人材も育ち生産品も増えてその質も上がるかもしれない。


(今が、踏ん張り時か。お、そろそろトラックの隠し場所が近い。切るぞ)

(はい。頑張りましょう、ヒヤマなら、私達なら出来ます)

(だな。じゃあ、また後で)

「ミツカ、あの大岩を過ぎたら、まっすぐ西に向かってくれ」

「了解!」


 岩の裏から見えるハゲ山。

 その麓に、トラックは隠してあるらしい。

 カモフラージュを自画自賛する言葉が手帳には書いてあったが、ミツカもいるのですぐに発見できるだろう。


「えっと、あれじゃないかな?」

「バレバレじゃねえか・・・」


 土が剥き出しの山の窪みに、コンクリートの瓦礫が書かれたシートがある。

 見事な長方形なので、あれがトラックで間違いないだろう。


「とんでもねえバカを斥候に出す、敵の気がしれねえな・・・」

「なんでもいいさ。お宝がここにあればよ、行こうぜ!」


 レニーに続き、全員が兵員輸送車を降りる。

 このメンツなら、索敵は俺の仕事だろう。兵員輸送車を奪われでもしたら洒落にならないので、油断なく周囲を見回しながらトラックに近づいた。


「レニーさん、早く早くっ!」

「おう。ヒヤマ、シートを取るぞ?」

「やってくれ」

「ご開帳だっ!」


 シートが勢い良く引かれる。

 姿を現したのは、間違いなくトラックだ。


「よ、よく動いてたね、トラちゃん・・・」

「ボッロボロだねえ」

「無事なのは、窓とタイヤだけじゃねえか。ヒヤマ、どうすんだこれ」

「ニーニャに直してもらうしかねえだろ。頼む、ニーニャ」

「はぁい。【プリーズメカニック】!」


 相変わらずの光から視線を逸し、マーカーがないか確認する。

 隠密系のスキルと運転系のスキル持ちでもなければ兵員輸送車に近づく事すら出来ないだろうが、どちらもある俺のような人間もいるだろう。


「おおっ、さすがニーニャちゃん!」

「サビと穴だらけだったのに、一瞬で新品同様か。凄いもんだなあ」

「10トン車か。これなら昇降機にも乗るし、積載量も多い。運転手の育成が面倒だが、いい拾い物だ」

「お兄ちゃん、銃座とか付けるよね?」

「ああ。それに冷凍庫なんかを置く荷台と、人間を乗せる席もな」

「その通路に、トイレも作れるね」

「そりゃいいな。ミツカ、これはまだ防弾ガラスじゃねえ。運転は俺がするぞ?」

「了解。じゃあ、空母に帰りますか」


 ステップに足を乗せ、ドアを開けて運転席に座る。

 助手席には汚い毛布と、数種類の雑誌があった。

 一番上の雑誌には見覚えがある。

 ギアがニュートラルになっているのを確認してエンジンをかけながら、空母に着くまで黙っておこうと決めた。


(ヒヤマ、こっちが先を行くよ?)

(頼む。水分補給は忘れずにな)

(はいよ。どうだい、トラちゃんは?)

(クーラーもあって、街を行き来するのに問題はなさそうだな。クラッチやハンドルも、思ってたより重くねえし)

(それは良かった。では、しゅっぱーつ)


 ここは運河の手前側なので、きちんとした道はない。

 運転手の育成をする時には、使う道路の掃除をしなければならないだろう。

 クルマの残骸や瓦礫を、ハルトマンでどかさなければならない。

 兵員輸送車を追走しながら、婆さんに無線を繋いだ。


(ヒヤマだ。今、大丈夫か?)

(大丈夫だよ。世間話を挟みながら、ダヅと商人ギルドの話をしていただけさね)

(その商人ギルドと冒険者ギルド、双方が儲けられそうな話がある。近いうち、顔を出すよ)

(それは楽しみだねえ。ちょうど、ダヅに空母を見せてやりたかったんだ。こっちが出向くよ)

(了解。俺達はまだ空母には遠いが、あっちにゃウイやミイネがいる。ゆっくり見学でもしててくれ)

(なら、これから向かうとするかねえ)

(迎え、いるか?)

(ホワイトボールに敵うチンピラなんているもんか。気にしないでいいさね)

(了解、気をつけてな)


 行商人をトラックで運ぶと言えば、間違いなく婆さんはこの話に乗るだろう。

 商人ギルドがどうやって財源を作る気かは知らないが、格安でトラックに乗れるなら加入希望者は増えるはずだ。

 問題は、運ぶ肉や魚をどちらが街に売るか。

 商売は商人ギルドの領分だと言われれば、冒険者ギルドの利益は減る。

 運転手と護衛への報酬で赤字になるくらいなら、トラックはただのバスにして高い料金で商人ギルドの行商人を乗せるしかない。


「Win-Winってのが理想なんだよなあ・・・」


 たーくんを連れて来ていれば、この呟きにも返事をしてくれたかもしれない。

 だが、運転席にいるのは俺だけだ。

 大きなハンドルでトラちゃんを操りながら、どうするべきか考える。


「どっちも利益を求めれば、住民の手に渡る頃には高値になっちまう。じゃあ、冒険者ギルドが引くか?」

(その必要はないわ)

「おわあっ!」


 この声は・・・


(タ、タリエか?)

(ええ。驚かせたようね、ごめんなさい)

(いいけどよ。独り言に返事が来たから、驚いただけだ)


 抑えた笑い声。

 わかっててやりやがったな、コイツ。


(肉や魚、缶詰を売り歩くのは、冒険者ギルドの移動販売部がやるの。もちろん商人ギルドの商人に缶詰なんかを売るのは、販売本部ね)

(それじゃ、商人達に旨味がねえだろ?)

(元々、街を渡る行商人は生鮮食品なんて運んでないのよ。せいぜいが、干した肉や魚ね。だから、問題はないわ)

(なるほど・・・)


 それなら、冒険者ギルドはそれなりに儲けられる。

 いつか運河の水を散水機で荒野に撒き、牧草と麦を育てようと思っているので、資金は貯めておきたいのだ。



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