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商人ギルド設立




 なんだか酷い言われようだが、聞き流してギルドの全員に無線を繋ぐ。


(こちらヒヤマ。相談があって無線を飛ばしてる)

(おう、ヒマで仕方ねえんだ。なんでもいいから話せ)


 網膜ディスプレイに映った運び屋が、アクビをしてから言う。


(婆さんとダヅさんが、冒険者ギルドと同じように商人ギルドを作りたいらしい。商人になりたい人間への初期費用の貸付や、商人になってからの横の繋がりを広げるのが主な目的のようだ)

(ああ、それで【嘘看破】が必要なのか。職員の決を採ってみればいいじゃねえか)

(そんじゃ、そうすっか。日々の業務に、艦橋の2階か1階の商人ギルドで【嘘看破】が必要になれば行って商人の宣誓を聞く、ってのが増える。行ってもいいよって人間は教えてくれ)

(エルビンです。妻も私も賛成ですよ)

(アーサとフーサもっ!)

(ティコも賛成だよー)

(グース、グリン、どっちも賛成)

(臨月まではそのくらい出来るね。賛成だよ)


 どうやら、反対する人間はいないらしい。


(婆さんとダヅさんには伝えておくよ。ありがとう)


 無線を終えて、タバコを灰皿で揉み消す。

 いつの間にか婆さんも吸っているが、まあいつもの事だ。体に悪いので家族はやめさせたいらしいが、本人は目の前にタバコがあれば吸ってしまう。

 孤島の爺さんとのロマンスがあった頃は外海にも出ていたようだし、タバコくらいなければやっていられないくらい厳しい人生を生き抜いてきたのだろう。


「OKだとよ。反対意見はなし」

「はぁ、どいつもこいつも・・・」

「ここは甘えておきましょう。いつか、冒険者ギルドに恩返しが出来る日も来るでしょうから」

「ギルドには、ダヅさんが常駐ですか?」

「そうだよ。ヒヤマを出し抜いて口説き落としたんだが、まさかそのヒヤマに借りが出来るとはね」

「回収が楽しみだ。引っ越しはいつでもいいんで、婆さんを通じて連絡を下さい。迎えに来ますよ」

「ありがとうございます。商人ギルドの詳細を詰めるので、引っ越しはまだ先になりますね」

「そんじゃ、俺は行くかな。邪魔したな、婆さん」

「ふん。借りはいつか返すよ。婆がくたばってなけりゃね」


 背を向けながら手を振って、階段を降りる。

 イワンさんにしっかり挨拶してから、カチューシャ商店を出た。

 3番出口に向かう途中の喫茶店のカウンターには、渋い中年の男が立っている。あの少女の勤務時間は終わったらしい。

 スラムに出てローザに跨がり、走り出す。

 思いついて十字路を右に折れ、市場の入口でローザを収納した。


「活きの良いネズミだよー!」

「濾過した水が1杯3枚。さあさ、暑いんだから飲んでっとくれー!」


 市場は人も多く、なかなかの活気に満ちている。

 見張り台から見た屋台を探すと、それはすぐに見つかった。

 パラソル付きのテーブルに、運び屋が1人で座って何かを飲んでいる。


「よう、暇そうだな」

「死神か。ソロなんで見回りなしでここで待機だからよ。ヒマなんてもんじゃねえぜ」


 空いている椅子に座るとニーニャくらいの年頃の男の子が、木の板に焼きゴテを押し付けて書いたようなメニューを持って注文を取りに来た。

 ドングリ茶が2杯で硬貨10枚。

 12枚の硬貨を渡すと男の子は不思議そうな顔をしたが、小遣いだと言うと嬉しそうに礼を言って屋台に向かった。


「シティーの涼しい喫茶店で硬貨2枚のドングリ茶が、この炎天下で硬貨5枚か・・・」

「シティーは水道があるからな。ここじゃ河の水を煮沸消毒して飲んでんだ。割高にもなるさ」

「貧乏だからシティーに入れず、物価の高いスラムで暮らす。抜け出せねえ訳だ」

「それも、あと数ヶ月だ。犯罪さえしなけりゃ、安全な空母で暮らせる。元のままの価格で商売するバカも居るだろうが、商売敵が同じ物を安く売れば考えを改めるだろ」

「生きられる程度の金がありゃいい、なんて小金持ちの戯言だよな」


 ここの人間達からすれば、俺だって金持ちの1人だろう。

 ドングリ茶が、俺と運び屋の前に置かれた。


「そうだろうな。生きるのに精一杯でも、人はささやかな夢を持つ。腹一杯メシが食いてえとか、潰れるまで酒を飲んでみてえとかな」

「きゃあーっ!」


 席を立ち、走る。

 運び屋も反応しているようだ。すぐに、隣に並んだ。


「ったく、疫病神が来た途端にこれかよっ!」

「疫病神じゃなくて死神だっての!」

「どっちにしても、ロクなもんじゃねえなっ!」


 悲鳴は運河側の屋台から上がったようだ。

 人垣。

 運び屋が跳ぶ。

 俺も行けるか不安になったが、それでも全力でジャンプした。


「空気を読めよ、魚人!」


 運び屋が素手でサハギンを殴り殺す。

 着地。

 パワードスーツの足裏で地面を削りながら、残る3匹のサハギンを拳のレーザーで蜂の巣にした。


「ほう、内蔵兵器か」

「あんまり使ってねえけどな。後はいねえみてえだ」

「お嬢ちゃん、怪我人は?」

「い、いません。ありがとうございます」

「気にすんな。死神、サハギンは貰っていいか?」

「もちろん。好きにしてくれ」


 運び屋の事だ。市場で焼いて、子供や老人に腹一杯食わせてやるのだろう。

 余ったら、大人達にも分け前はあるはずだ。


「ありがてえ。この暑さで焚き火はキツイが、まあやるしかねえな」


 ローザを出して跨る。


「俺は運河のこっち側を橋まで行ってみる。獲物があれば、後で届けるよ」

「おう。頼んだぜ」


 エンジンをかけると、人垣から歓声が上がった。

 バイクが珍しいのだろう。

 派手にケツを振りながら、ローザを発進させる。


(ヒヤマ。見張りのアーサちゃん達から内線が来たのですが、サハギンが出たんですね?)

(ああ。今からこっち側を橋まで狩り尽くしてくる。これからは、運河から上がってくるサハギンも見張ってくれと、アーサとフーサに言っといてくれ)

(ええ。それに今、ニーニャちゃんが見張りに使えるようにと、警備ロボットをプログラミングしに行きましたよ)

(そりゃいいな。ギルドが動き出しゃ、人手が足りなくなると思ってたんだ)

(サハギン程度では怪我もしないと思いますが、気をつけてくださいね)

(あいよ。映像は見れるようにしとく。お、いたいた。じゃあ、帰りは少し遅くなる)

(はい。くれぐれも、気をつけて)


 荒れ地の部分にローザを停め、走ってサハギンに接近する。

 水の玉が飛んで来たのを余裕を持って回避し、レーザーで撃ち抜いた。この程度なら、銃を抜く必要もない。

 仲間の断末魔が耳に届いたのか、3匹のサハギンが上がって来る。

 河に流されぬようしっかりと歩を進ませ、それから殺してアイテムボックスに入れた。


「大漁大漁」


 市場には、かなりの人数がいた。

 獲物は多ければ多い程いいだろうと、橋までのサハギンをすべて倒し、アイテムボックスに入れて市場に戻る。

 屋台の裏でローザを収納すると、中年の女がその脇を通してくれた。


「すまん、ちょっと通してくれ」


 人垣を掻き分ける。恰幅のいいおばさま方に焼きサハギンを配られ、嬉しそうにそれにかぶりつく子供達がいた。

 運び屋は、テーブルに座ってそれを見ている。


「すんげえ人数だな・・・」

「おう、死神。首尾はどうだ?」

「20ちょっといた。繁殖が重なったかなんかだろ」

「でかした。それだけありゃ、全員に配れる」

「お姉さん、追加のサハギンはここに出せばいいかい?」

「あらやだ、こんなおばちゃんにお姉さんなんてね。ここに出してくれりゃ、私らが焼いて配るよ」

「そんじゃ、よろしく」


 サハギンを積み上げると、焼き上がるのを待っている人達が沸いた。


「市場にもフェンスが欲しいなあ」

「なあに。空母が街として機能すりゃ、わざわざ犯罪者だらけのスラムで商売する必要はねえ。もう少し俺達が踏ん張りゃいいだけさ」


 温くなったドングリ茶を口に含む。

 1人の女の子が、テーブルで茶を啜る俺達に歩み寄ってきた。


「どうした、嬢ちゃん?」

「あ、ありがとうございました。こんな美味しい物、生まれて初めて食べたんです」

「気にするな。あの空母って大きな船に住めるようになったら、生活はずっと良くなる。もうちょっとだけ、頑張りな」

「はいっ」


 女の子が頭を下げて人垣に紛れる。

 今すぐにでも空母に来いと言いたかったが、グッと堪えた。


「頑張らなきゃなあ・・・」

「死神はいつだって頑張ってるさ。バカなりにな」

「素直に褒めろよ、たまには」

「ゴメンだね。1文の得にもなんねえじゃねえか」

「そういや、空母の内装工事が終わったら、ヨハンにフロートヴィレッジを修理してもらう事になったよ。あんま工賃は取れねえだろうが、ギルドとしての仕事でいいよな?」

「もちろんだ。フロートヴィレッジなあ。戦争前にジャスティスマンの書簡を届けに行ったが、独自通貨を使ってやがったんだぜ」

「呆れて物も言えねえな・・・」


 フロートヴィレッジだけで使える紙幣を割高で発行し、硬貨を独占して私腹を肥やしていたのだろう。

 それなら工賃もそれなりに取れるかもしれない。

 手足が焼き上がる度に、順番待ちの列は進んでゆく。

 すでに子供達の番は終わり、老人達が美味そうにサハギンを食んでいる。


「空母のバラスト水で魚の養殖も考えてたけど、フロートヴィレッジが味方になったからには必要ねえかな」

「いや、空母で消費する分だけでも確保してえな。フロートヴィレッジの魚はシティーに売ればいいんだ。どのみち高すぎちゃ、空母の住民は買えねえだろうしよ」

「なるほど。じゃあ、やっぱりヨハンに相談だな」

「あれもかわいそうに。死神なんかに気に入られて、安く使われるとはな」

「金はちゃんと払うって。エルビンさんは、その辺きっちりしてるはずだぞ」

「ならいいが、人が集まってくる分、それに報いるのを忘れんじゃねえぞ。それを忘れたら、人は離れていくんだ」


 まるで帝王学だが、それはきっと真実だろう。

 実入りもなしに力を貸してくれるなんて、そんな虫のいい話がそうそうあるとは思えない。


「ぜってえに忘れねえよ。霞を食って生きられる人間なんていねえもんな」

「そういうこった。それより、こんなトコで遊んでていいのか?」

「仕事がねえんだよ・・・」



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