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黒猫と軍人




 歩きながら、婆さんに無線を繋ぐ。部隊図に出ている婆さんの光点はシティーの中なので、ダヅさんも一緒にいるはずだ。

 長い廊下にあの幼い兄妹の姿はない。警備ロボットがついていなければ探しに行くところだが、つきっきりのようだったので心配はないだろう。


(婆さん、ダヅさんいるかい?)

(耳が早いね。いるよ)

(ジョン達は今日から空母で暮らす。ちなみに、今日は休みにするそうだ)

(なるほど、たしかに伝えるよ)

(ありがとう。そんじゃまたな)


 階段を上って1層に行く。

 それなりに通い慣れた格納庫に入ると、たーくんの流すラジオが聞こえてきた。

 パワードスーツからだいぶ離れたサンテーブルに座る、だらけた格好のミツカのところまで歩く。


「お、どうしたんだい?」

「暇になったんで、強化外骨格パワードスーツの見学にな」

「今やってるのが、花園の最後の機体らしいよ」

「白に藤色のライン。カリーネのか。ずいぶんとシャープな造形だな」


 頭部もある強化外骨格パワードスーツは、ハルトマンよりも細身だ。

 胸には、稲穂の紋章もきちんとある。


「アサルトライフルとハンドガンしか使わないそうだからだろうね。レニーさんのはガトリングガンを使うから、手足ももっと太いよ」

「お披露目が楽しみだな。さて、食堂に顔を出して、何もなきゃ見張りでもすっかな」

「ちゃんと体を休めなよ?」

「もちろんだ。ニーニャを頼むな」

「かわいい妹だからね。任せてくれていいよ」


 強化外骨格パワードスーツの足元で作業をしているニーニャとヒナの邪魔はせず、そのまま格納庫を出て階段を上がる。

 甲板に出た途端、子供達の騒がしい声が聞こえてきた。

 腕組みをして子供達を見守る運び屋に近づく。


「なんでドッジボールなんだ?」

「小学生ってのは、ドッジボールをするんじゃねえのか?」

「俺の頃は、サッカーが人気だったけどな」

「まだフェンスを張ってねえし、サッカーはまだまだ先だな」

「フェンスを設置すんのかよ。離着陸の邪魔じゃねえ?」

「ルーデルはそのままでもいいって言ってたが、他のパイロットが現れねえとは限らん。フェンスは鍵で開けられるようにするさ」

「なるほど。運び屋、俺に出来る仕事は?」

「今んトコねえな。黙って昼寝でもしてろ」

「へいへい。ほんじゃ、またな」


 運び屋はそのまま子供達を見守るらしい。

 1人で食堂に入ると、ウイ達や花園が茶飲み話に花を咲かせていた。


「あら、おかえりなさい。部屋はどうでした?」

「いい部屋だったよ。ジョン達も、今日は休みにするそうだ。それより、俺に出来る仕事は?」

「特にありませんね」

「やっぱりか。暇だから、見張りに行ってくらあ」

「ジュースとお菓子を、アイテムボックスに入れておきますね」


 礼を言って、エレベーターで最上階まで上がる。艦橋のさらに上だ。

 そこからハシゴでまた上る。ハンキーの車内程度の狭い見張り台には、ロッジ家の双子が双眼鏡を持って座っていた。


「ご苦労さん、グース、グリン」

「裏切り者のヒヤマ兄ちゃんじゃんか。何しに来たんだよー!」

「裏切り者?」

「アーサとフーサのレベルが凄い上がったから、グースは拗ねてるんだよ」

「グース、女の子が少しでも安全になったんだから、それを喜ばなきゃ男じゃねえぞ。それに、俺はこないだまでレベル1だったんだ。レベルなんてのは、その気になりゃすぐに上がるのさ」


 グリンの隣に座り、スラムを見下ろしながらグースの頭を撫でる。


「いてっ。ヒヤマ兄ちゃんは力が強えんだから、そんな風に撫でるなよなー!」

「それよりヒヤマ兄ちゃん、レベル1だったって本当かっ!?」

「ああ、本当だぞ。武器としては弱いスナイパーライフルとサブマシンガンを持って、ウイとの旅が始まったんだ。参考になるかはわからんが、聞くか?」

「聞きたいっ!」

「お、俺もっ!」


 ジュースと菓子を出して、それを2人に渡してから話し出す。

 故郷を出て、ブロックタウンの南をレベル1の俺とウイがうろついていたらマンションを発見したと話をぼかしたが、2人は興味深そうに話を聞いている。

 市場らしき場所をズームして見ると、屋台の店が何軒も並んでいるのが見えた。

 中央近くのテーブルで、ルーデルとジュモが何かを飲んでいる。


「そこで押し寄せたのが、ゾンビの群れだ。正直、死んだと思ったぞ」

「うへえっ」

「ヒヤマ兄ちゃん、ゾンビって強いのかっ?」

「強いか弱いかで言えば、弱い。ただ、ゾンビは群れてる事が多い。囲まれたら厄介だからな、ゾンビを見たら他にもいると疑え」

「なるほどー」


 グリンが大人びた仕草で腕組みをすると、エレベーターが動く微かな音がした。


「エレベーターが動いたな」

「なんでわかるんだよっ!?」

「素の感知力が高いからな。だがこれでも、運び屋は聞き耳系のスキルを取れって言ってたぞ」

「やっぱ敵を察知するスキルか・・・」

「本気で冒険者になるつもりか、グリン?」

「うん。ギルドの仕事で、うちは暮らしていける。好きに生きていいんだって、父さんも言ってたし」


 エルビンさんは最高の父親だが、戦士ではない。2人が冒険者になるのなら、面倒を見るのは俺達が適任だろう。


「じゃあ、そのうち探索に行こうな。後ろで見ててやるからよ」

「まだまだ先だよ。知るべき事を知って、それで初めて仕事が出来るんだ」


 エルビンさんの受け売りかもしれないが、グリンは良い事を言う。


「そうだな。しっかり、冒険者ってモンを観察するといい。わからねえ事があれば、運び屋かルーデルに訊けば答えてくれるさ」

「交代の時間だよー、ってヒヤマさん。こんにちは」

「次はリーネとティコが見張りか。ジュースと菓子があるぞ。ほれ」

「うっし、ランニングと筋トレ行こうぜ、グース!」

「またトレーニングかよ、グリン・・・」

「筋トレはほどほどにな。背が伸びなくなったりもするぞ」

「運び屋のおっちゃんが言うメニューしかしないって約束なんだ。だから平気だよ」

「そうか。頑張ってな」


 グースとグリンが出て行くと、ティコが俺の横に密着して座った。

 明らかにリーネより俺に近い。


「近くねえか、ティコ?」

「気のせいだよー。それにしても、みんなが空母を見上げていくねー」

「まあ、こんなもんが町の入口にあればな」


 スラムを出入りする人間はそう多くはないが、明らかに長旅をしてきたような人間も見える。

 その中の1人が、精悍な瞳を空母に向けていた。

 すぐに運び屋とルーデルに無線を繋ぐ。映像付きでだ。


(スラム入り口に職業持ち。肩に黒猫を乗せてる。白人っぽくねえか、運び屋?)

(言われてみりゃ、こっちの人間よりはヨーロッパ系に見えるな)

(あれは軍人の目だぞ。それも、かなりの手練と見た)

(敵に回らなきゃいいがな)

(うっわ。店から出てきた剣聖が、速攻で声かけやがった!)

(おいおい。すぐに無線を繋げ。ナンパなんかで敵に回られちゃ、洒落になんねえぞ)


 剣聖に無線を繋ぐ。

 リストの選択からコールを承認されるまでの、僅かな時間がもどかしい。


(剣聖だ。今ちょっと忙しいんだがな)

(運び屋だ。今、お前さんがナンパしてる男は、俺や死神の同類かもしんねえ。下手な事をして、敵に回さねえでくれ)

(敵になんかならねえさ。ちょっと待ってな)

(おい、何するつもりだよ?)


 剣聖は男の肩を抱いて、スラムの出口に向かって歩き出した。


(ああ、そうみてえだな。同類がいるなら会いてえとさ。今からそっち行くわ)

(ミツカ、【パーティー無線】で話は聞いてるだろ。映像を見てくれ。剣聖と肩を組んで歩いてる男だ)

(犯罪歴なし。善行値はそれなりだね)

(念の為に、ミツカは艦橋に来てくれ)

(了解。すぐに行くよ)

「さて、用事が出来た。見張り、頑張ってな」

「はーい。まったねー」

「ジュースとお菓子、ごちそうさまでした」


 2人に手を振って、グースとグリンが使って戻していてくれたエレベーターに乗り込む。

 エレベーターが1階に着くと、開いたドアの先にはウイとミツカがいた。


「待たせた」

「いえ。運び屋さんは、もう外です」

「了解。気は抜かずに行こう」


 どこから来たかはわからないが、俺達のような人間は離れた地域に送られる可能性が高い。

 それでも男はシティーまで来たのだから、荒野を旅して生き残るだけの腕があるのだろう。悪人ではないようだが、それでも油断は出来ない。


「今、昇降機に乗った」

「犯罪者じゃねえらしいが、どうなる事やら」


 男と剣聖が姿を見せ、甲板に足を踏み入れる。

 男は物珍しそうに、艦橋を見上げた。


「紹介するぜ、コイツはタンゴ。いい男だろ?」

「俺は運び屋。名前は捨てたんでな。間違えて呼ばれたら銃を抜くかもしんねえ。歓迎するぜ、タンゴ」


 全員が簡単な自己紹介を済ませると、情報交換をしようという事になった。

 ウイとミツカを先に歩かせて剣聖と仲の良さそうなタンゴに背を向けると、ジーンズの尻を撫でられる感覚があった。

 首筋から全身に走った怖気を振り払うように、コルトを抜きながら裏拳を放つ。


「選べ。このまま殺されるか、謝罪して2度と俺に触れねえと誓うかだ」


 タンゴは両手を上げ、気まずそうに苦笑いしている。


「すまない。剣聖と仲が良いようだから、男もいける口かと思ったんだ」


 その言葉を聞いて、運び屋が爆笑している。

 運び屋だけでも撃ち殺してやろうかと思ったが、どう考えても殺されるのは俺の方なのでなんとか思い留まった。


「他人の性癖に文句を言うつもりはねえ。ただ、自分が口説かれたりしなけりゃだ」

「約束する。もう気軽に触れたりしない。ただ、君を見てると心が掻き乱されるようで・・・」


 まさかと思ってウイを見ると、苦笑しながら唇に手を当てていた。


「あり得るのではないでしょうか。ヒヤマは職業持ちの男の人とも仲が良い。その男の人が、同性をそういった対象に見ているなら・・・」

「マジかよ・・・」

「良かったなあ、死神。まだまだモテるぞ」

「うっせえよ。とりあえず、早く食堂に行こうぜ。アタマ痛くなってきた・・・」


 食堂に入ってテーブルに着くと、タンゴは自分がどこから来たのかを話し出した。



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