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アクティブモーターズ




「全員の支度が終わりました」

「なら行こうか。車屋の探索は昼までには終わるだろうから、夜は空母で眠れるぞ」

「そういえばミイネお姉ちゃん、パワードスーツは装備できるの?」

「忘れてた。ん、これで良し」

「パワードスーツはこれね。普通に着るのは面倒だから、アイテムボックスに入れた状態からの装備がいいよー」

「なるほど。ありがとう、ニーニャちゃん」


ミイネがパワードスーツを装備するのを待って、詰所を出てハンキーに乗り込んだ。俺とたーくんは、定位置の屋根になる。


(出発するよ?)

(おう。海辺のドライブを楽しむといい)


 ラジオを聞きながら、のんびりとした気分で周囲に気を配る。

 これでギルド職員のスキルは揃う。

 明日からニーニャはまた強化外骨格パワードスーツにかかりっきりだろうし、ミツカとヒナはその護衛だ。


(明日から、ウイは何をするんだ?)

(空母の部屋に家具を揃えて、後はエルビンさんの奥さんのお手伝いですかね)

(なるほど。買い物は俺も護衛として行くとして、その後はどうすっかなあ。ミイネはどうすんだ?)

(グレネードランチャーだっけ。あれの練習かなー)

(狭い場所じゃ使えねえから、今回は出番がねえもんな。俺も試してえから、ローザでサハギンでも探しに行くか。市場での護衛中に、連装グレネードランチャーをぶっ放せる訳もねえし)


 サハギン程度なら、2人だけでも危険はないだろう。

 ハンキーは海沿いの直線道路に入っている。右は崖になっているので、サハギンの奇襲はない。左は荒野で、まばらなガレキが少しだけあった。


(このカーブを越えたら、遺跡はもうすぐだよね)

(ああ。まずは俺とたーくんで策敵する。マーカーがないようなら、全員で降りるといい)

(アーサとフーサもっ!?)

(留守番がいいなら、それでもいいぞ)

(行くに決まってるじゃん!)

(邪魔にならないでしょうか?)

(ミツカの指示に従ってれば大丈夫だ。なあ、ミツカ)

(そうだね、心配いらないよ。お、見えてきた)


 視界をズームして遺跡の周囲を見回すが、黄マーカーは見られない。

 駐車場にハンキーが入ったので、屋根から飛び降りた。

 たーくんも俺に続いている。


「たーくんは右から回ってくれ」

「了解っ」


 サブマシンガンを抜き、建物の左に走る。

 砲台島で運び屋とルーデルが見せた索敵に比べると、亀とハンキーほどの速度の差がある索敵だ。


(玄関前、クリア)

(こちらもネズミすらいません)


 建物の左には、予想していた車両整備の施設はなかった。

 ところどころ崩れた建物の横を、小走りになりながら敵を探す。

 すぐに建物を過ぎたので右に曲がると、中程まで進んでいるたーくんが見えた。


(クリア、か)

(はい。周囲に生命反応はありません)

(ウイ、建物に入る準備をしといてくれ)

(了解です)


 たーくんと並んで、正面入口まで戻る。

 ハンキーはすでに収納され、全員が俺達を見ていた。

 アーサはワクワクしているのを隠そうともせず、フーサは緊張し過ぎて体に力が入っているようだ。


「待たせた。ニーニャ、おいで」

「はーい!」


 たーくんの背中の箱を開け、抱き上げたニーニャをそこに下ろす。


「お、ちょっと背が伸びたんじゃねえか?」

「ほんとっ!?」

「空母に帰ったら、部屋の壁に身長を刻むか」

「柱がありませんものね。フーサちゃん、大丈夫だからそんなに緊張しないの」

「は、はいっ」

「ふーさ、まもる。だからへいき」

「おお、ヒナが見ててくれるなら安心だ。戦場だって突っ切れるぞ、フーサ」


 アーサとフーサが、驚いたようにヒナを見る。

 ヒナは相変わらずの無表情だが、ほんの少し胸を張っているようだ。


「こんなかわいいのに、強いの?」

「運び屋さんと同じレベルで、所持スキルは運び屋さんより多いはずです。正直、ヒヤマよりずっと強いでしょうね」

「それを言うなって。考えねえようにしてんだからよ。でもまあ、ヒナがいるから女連中だけで動いても安心してられるのはありがてえよな」

「ん。かぞくまもる。あーさとふーさも、かぞくなる?」

「ならんならん。いいから行くぞ。ミツカ、【危険物探査】は好きに使ってくれ」

「了解。それと、【車両探査】も取るよ? 調べてみたら、自転車からジャンボジェットまで探査可能ってなってるんだ。自転車は人力バイク、ジャンボジェットってなんだろね」


 正直ありがたいが、そんなに使い所はないスキルだ。


「報われねえスキルだと思うぞ?」

「いいよ。ハンキーはずっと大好きだけど、いつか普通の車も運転してみたいんだ」

「なるほどね。なら、好きにするといい」

「ありがとう。取得、OK」

「使うのは後でだな。まずは、宝探しだ」


 割れたガラスを踏み鳴らして、正面の大きな入口から中に入る。


「受付か。ウイ、かっさらえ」

「了解。30秒でやります」


 ニーニャはもちろん、ミツカもだいぶ車好きになったようなので、当時のパンフレットでもあれば喜んで読むだろう。


「ニーニャ、ガラス張りのはずの店なのに、この入口以外はシャッターが下りてただろ。これなら中の車は、無事なんじゃねえか?」

「もしそうなら、シティーから空母、空母からブロックタウンって、人や物を運べるねっ!」

「定期便か。ギルドがウハウハじゃねえか。ルーデル国王誕生か、マジで」

「またそんな夢のような話を。終わりましたよ。ペンとメモ帳くらいしか、使えるものはありませんね」

「よし、お宝とご対面だ。左手の大きなドアから開けるぞ」


 マーカーはない。ノブを捻って、少しだけ開けたドアを蹴り開ける。

 サブマシンガンの銃口の先にあったのは、ひしゃげた店内展示の車と、それを押し潰している大きな爆弾だった。


「・・・不発弾かよ」

「ギリギリスクラップ判定・・・」


 ため息を吐きながらたーくんの背中にいるニーニャの頭を撫でると、ミイネが俺を押しのけるようにして前に出た。


「やっぱり・・・」

「どした、ミイネ?」

「大きな声を出さないで。この爆弾、まだ生きてるよ・・・」

(パーティー無線を使え。ミツカとヒナは、アーサとフーサを連れて建物を出ろ。ゆっくりでいい。今まで爆発してねえんだ。すぐには爆発しねえから、慌てずにな)

(了解。行こう)


 ガラスを踏むのすら嫌うように、4人が店を出てゆく。


(ニーニャを連れて、ウイとミイネ。最後尾が俺だ)


 コントのような足運びのウイとミイネを見ながら、店を出て道路まで歩く。

 50メートルも離れると、ウイがハンキーを出した。


「ふう、もう安心か・・・」

「まだ爆風で死ねる距離だって。早く離れよう」

「カーブの向こうまで安心できないね。行こう」

「ヒヤマも中に入ってくださいね」

「了解。しかし、不発弾とはなあ・・・」


 ハンキーに乗り込んでハッチの真下で胡座をかくと、ぐったりしているアーサとフーサが見えた。

 ハンキーが、ゆっくりと進み出す。


「怖かったろう。もう大丈夫だぞ、アーサ、フーサ」

「遺跡って、怖い・・・」

「うん・・・」

「何より怖いのは、知識がないのに欲はある人間って生き物だ。考えてみろ。爆発物の専門家であるミイネがいなけりゃ、あのまま探索して全員が吹っ飛んでたかもしんねえぞ」

「ニーニャちゃんがいるのに、それはないさ。ね、ニーニャちゃん?」

「う、その、車に夢中で爆弾なんて気にしてなかったよう・・・」


 ミイネの顔色が青ざめる。

 もし、あのまま車の残骸を回収していれば、寄りかかっていた爆弾は・・・


「なあ、ミイネ。今回の稼ぎがどのくらいになるかはわからんが、ソロより稼げるようならこれからもパーティーにいてくれねえか? ミイネがいなけりゃ、みんな死んじまってたかもしんねえ」

「不発弾なんてそんなにあるものじゃないけど、僕も少し心配になってきたよ・・・」


 何より恐ろしいのは、アーサとフーサまで殺していたかもしれないという事実だ。

 死ぬ覚悟で冒険者なんて稼業をしている俺達とは違い、2人は一般人でしかもまだ成人したばかり。こんな場所で死んでいい人間ではない。


「カーブを抜けた。沿岸警備隊詰所からドルフィン号でいいのかい?」

「ああ。それで頼む」

「ニーニャちゃん。詰所にあった銃をギルドの武器屋さんで売るとしたら、いくらになりますか?」

「アサルトライフルが500。自動拳銃は200かなあ。アサルトライフルのマガジンは150。弾は3。自動拳銃はマガジン75の弾は2」

「マガジン、結構するんですね」

「じゃないと、買った弾を入れられるだけマガジンを買われちゃうから」

「なるほど。電化製品なんかの買取価格も教えてね」

「はーいっ」


 今回の精算のために計算する声を聞きながら、空母に無線を飛ばす。

 運び屋、ルーデル、ジュモ、花園に剣聖。タリエは寝ているだろうから後だ。


(手が空いてる人間は、俺の地図を見てくれ)


 次々に返事が帰ってくる。

 網膜ディスプレイを見られない状態の者はいないようだ。


(アクティブモーターズ跡、か。これがどうしたんだ?)

(中にハンキーくらいの不発弾があった。車に寄りかかってる状態だから、いつ爆発するかわかんねえ。花園も剣聖も、あっちに行くなら覚えといてくれ)

(助かるぜ、死神)

(ギャングが来なくて暇してたんだ。ありがとうよ)

(今日は花園が、市場の護衛か)

(暇なもんさ。1時間ごとの見回りの他は、屋台でくっちゃべってるだけだからね)

(頑張ってな。俺達は、これから戻る)


 ハンキーをドルフィン号に乗り換え、操縦席の後ろでのんびりと波に揺られる。

 ビールでも飲もうかと思っていると、ウイが立ち上がって大きな鍋を出した。


「ヒヤマ、計算が終わりました。ミイネとアーサちゃんとフーサちゃんには、ここで渡してしまいますね」

「おう。空母に帰るまでが探索だが、もう運河に入ったみてえだから大丈夫だろ。みんな、お疲れさん」

「頭割りで3720が取り分になります。鍋に出しますから、すぐにアイテムボックスに入れてくださいね。まずはミイネ、硬貨3720取り出し」


 ミイネは動かない。


「ミイネ?」

「パイナップル124個分・・・」

「どんな計算やねん」

「やる気のないツッコミですねえ。早く仕舞いなさい。後がつかえてるんですよ?」

「ご、ごめん」


 ミイネが硬貨をアイテムボックスに収納する。戦闘でもないのに、なぜか緊張しているようだ。


「なんで緊張してんだよ?」

「こんな大金、見た事もないもん・・・」

「なるほどね」

「今回はタリエさんの情報のおかげでこの稼ぎですからね。会ったら、お礼を忘れないで下さい」

「もちろんだよ」


 ミイネはしっかり頷く。


「では、次はアーサちゃん。硬貨3720取り出し」

「ええーっ!」

「アーサも私も、何もしてないです。だから」

「いいのよ。ギルドの給料が出るのは1ヶ月後。今回の稼ぎは頭割りで、2人のお小遣いにしようと決めていたんです」

「でも・・・」

「生活費と小遣いにして、余ったら貯金しておくといい。タール爺さんと3人。誰かが怪我でもすれば、収入は減るんだ。そんな時のために金を貯めておくのが、大人ってもんだぞ」


 フーサが黙って頭を下げる。

 頭のいい子だから、爺さんに何かあれば金が必要になると、すぐに気がついたのだろう。

 アーサも慌てて、同じように頭を下げた。



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