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沿岸警備隊詰所




 冷や汗をかきながらエロ本を回収していると、眦を吊り上げたウイと苦笑しているミイネが更衣室に入って来た。

 俺のアイテムボックスがウイに干渉され、エロ本が音を立てて落ちる。

 それを見ないように顔を天井に向けている間に、ウイは回収を終えたようだ。


(すまんかった)

(今回は許しましょう。さあ、行きますよ)

(ははっ。3人にはちょっと刺激が強かったね)


 工場を出て、船着場まで歩く。

 ロープを引き寄せてウイとミイネを乗り込ませると、たーくんが出て来て補助腕で俺を屋根に引き上げてくれた。


「ありがとう、たーくん」

「また屋根でしょうから、ラジオを流しに来ました」

(それは助かる。ミツカ、動いていいぞ)

(はいよ。エンジン始動)


 ピアノソロが海風に乗る。

 ハンターズネストで読んだ当時の軍事本には、沿岸警備隊用の小型潜水艦やガンシップが載っていた。ニーニャの姉がそんな物を見過ごすとは思えないが、あれほどの缶詰が放置されていたのだから可能性はゼロではないだろう。

 タバコを1本灰にしただけで、船着場のある平屋の建物が見えて来た。


(見えたぞ。残念ながら、潜水艦もガンシップもなし。サハギンがいるんで、まずは掃除する)

(そういえばセミー姉ちゃん、ガンシップを持ってるって言ってた)

(へえ。ここでめっけたのかもな。じゃあ、ここはスルーするか?)

(うーん、おはよう。ちょうど沿岸警備隊詰所のようね)


 その声はタリエのものだった。

 網膜ディスプレイの時計は、午前11時を半分ほど過ぎている。


(おはよう。昼寝してたんかよ、タリエ)

(昨日、遅くまでセミーと話してたのよ。ずいぶんニーニャちゃんを心配してたわ)

(こっちが落ち着いたら、ルーデルに頼んでニーニャを姉に会わせに行く。援軍ついでにな。そんときゃ、タリエも来るといい)

(楽しみね。缶詰工場には行ったの?)

(ああ。なぜか、缶詰が大量にあったぞ)

(あの2人はまだレベルが低かったから、ヘルハウンドの根城は避けたのよ)

(なるほどな。沿岸警備隊詰所は漁った後のようだから、スルーしようかって話してたんだよ)


 タリエの笑い声を聞きながら、5匹のサハギンを狙撃する。


(ごめんなさい。思い出して笑っちゃった。セミーったらガンシップを見つけたのが嬉しくて、詰所は探索してないのよ。その後すぐにロケットで飛んで行ったから、中は手付かずのはず)

(いい情報だ。ありがとな)

(気にしないで。これから仕事だから無線は聞くだけになるけど、そこから車両を売ってた店の遺跡辺りは、弱いクリーチャーしかいないそうよ。当時の話だけどね)

(了解。店を従業員に任せる準備か。手伝いが必要なら言えよ? 掃除は得意なんだ)


 売上をちょろまかす程度ならいいが、積み重ねてきた信用を台無しにされたらタリエだって怒るだろう。人を殺すなら任せろという意味を込めて言うと、タリエは小さく笑った。


(ありがとう。でも、大丈夫よ。オイタをすれば、店中に仕掛けられてる隠しタレットを遠隔操作で、ね)

(多才なんだな。俺達は、今日は泊まりになる)

(わかってるわ。みんな、気をつけてね)


 女達が挨拶をしている間に、ドルフィン号は慣性で船着場に接近する。

 たーくんがロープを持ってジャンプして、ドルフィン号を引き寄せてくれた。


(ありがとな、たーくん。全員降りてくれ、ここからはハンキーの中だ。ウイとミイネは、俺と詰所に入る)


 船着場から詰所までは、雑草とひしゃげたドラム缶くらいしかない。

 これなら隠密からの奇襲はないだろう。ただし、クリーチャーが相手ならばだ。

 油断せずに周囲を見回す。


(ドルフィン号の収納完了。私とミイネ以外は、ハンキーに乗り込みました)

(ここを終わらせたら昼メシだ。手早く済ませよう)

(シーフード料理ですね)

(居残りの連中に、いい土産が出来たな。そういや、空母のガキのメシはどうしてるんだ?)

(花園と剣聖さんの伝手で食材を仕入れて、エルビンさんの奥さんが作ってますよ)

(あの人なら安心か。ドア付近にマーカーはなし、と)

(そんなに大きな建物ではありません。隠密持ちのクリーチャーがいないなら、中は安全でしょうね)


 ノブを回して押しても引いても、ドアはビクともしない。

 壊してもいいが、今回の目的はレベル上げと小遣い稼ぎだ。


(ミイネ、解錠スキルは?)

(ないよ。遺跡なんて、ほとんど探索した事ないもの)

(では、私の出番ですね)

(頼んだ。ミイネは俺と、周囲の警戒)

(頑張るよ)


 ハンキーを視界に入れながら、サブマシンガンを手に周囲を見回す。

 運転席のミツカも、油断なくクリーチャーがいないか見ているようだ。


(開きます)


 経験値は50。なかなかの鍵だったようだ。

 しゃがんだままのウイに頷いて見せると、素早くドアを開けて飛び退いた。


(クリア。事務所って感じだな)

(隠密状態の敵もいません。安全な建物でしょうか)

(ざっと見て敵がいないなら、ここで昼メシにすっか。アーサとフーサの初探索ついでに)

(やった。遺跡に入れるっ!)

(ありがとうございます、ヒヤマさん)


 事務所の物には手を付けず、奥のドアを開ける。短い廊下だ。

 その廊下にはトイレと、部屋へのドアが3つ。


(マーカーはねえな。俺はトイレからだ。ウイとミイネは、好きなドアから見てくれ)

(了解)


 トイレは1つ。個室まで確認してから、廊下に戻って開いていないドアを開ける。

 黒光りする自動拳銃とアサルトライフルが整然と棚に並べられている。それに、銃弾もたっぷりあるようだ。


(最後は武器庫だったぞ)

(こっちは食堂と仮眠室でした。では、迎えに行きましょうか)


 外に出ると、ハッチからたーくんが飛び出した。

 続いてヒナとニーニャ。それからアーサとフーサだ。


(昼ごはんが楽しみだねえ)


 最後に出て伸びをしながらミツカが言う。


「普通に喋ろうぜ。ウイ、メシは食堂で食うんか?」

「そうですね。散らかってはいませんでしたので、それがいいでしょう」

「クーラー修理して、超エネルギーバッテリー直付けしてくるっ!」


 走るニーニャをヒナが追う。

 はしゃいで走る子供を心配して追いかける飼い犬のようで微笑ましい。


「アーサとフーサも行って見学するといい。武器に触るなら、誰かがいるときにな?」

「はーいっ」

「ドキドキするね」


 2人も手を繋いで詰所に向かう。

 初めての遺跡に、ガイコツもクリーチャーの死体もないのは運がいい。

 俺に続いて最後にたーくんが詰所に入ったので、しっかりと施錠した。


「では、食事の準備をしますね」

「僕も手伝うよ」

「じゃ、俺はアーサとフーサの護衛かな」


 アーサとフーサは、事務所のような室内のあれこれを楽しそうに見て回っている。


「それはコーヒーメーカー。コーヒーは飲んだ事あるだろ?」

「あのにっがーい飲み物ね」

「ミルクと砂糖が入ってるのしか、飲めませんでした」


 移動するらしいアーサとフーサに着いて行くと、薄暗い仮眠室だった。

 壁には水着の美女のポスターがあるが、このくらいなら問題ないだろう。


「ベッドが積み重なってるね」

「カーテンもあって、ちっちゃな個室みたい」

「海の保安官達がいた場所だ。長期任務じゃ、ここだけがプライベートな空間だったんだろ」

「次行こっ」


 食堂は後回しにするらしい。

 武器庫を見た2人が、小さな歓声を上げた。


「武器がたくさん。夢みたいな光景だね・・・」

「うん。シティーの武器屋さんみたいだね」

「そういや、2人はまだ武器を試してねえんじゃねえか?」

「うん」

「なら、昼メシの後で銃の使い方を教えよう」

「撃っていいのっ!?」


 アーサは目を輝かせて言うが、フーサは不安そうだ。


「ちゃんと説明を聞いて、マジメに練習できるならな」

「やったー!」

「ちょっと怖いです・・・」

「アーサは戦闘系のスキルはあるのか?」

「うんっ。【狩人の1撃】ってのがあるよ」

「フーサは?」

「ないです」


 そうなると、フーサは銃の基礎知識すらないのかもしれない。


「メシが出来るまで、食堂で話すか。行こう」

「はい」


 食堂に入ると、すでに冷えた空気が俺達を迎えた。

 ニーニャはクーラーの修理を終え、対物ライフルをイジっているようだ。


「ミツカ、相談がある」

「お、なんだいなんだい」


 ミツカの向かいに座り、アーサとフーサにも椅子を勧める。


「スキルだ。アーサは銃でも使えそうな戦闘スキルがあるが、フーサは戦闘系スキルがない。銃の知識を得るために、1つだけでも戦闘系スキルが欲しいんだよ。オススメはねえか?」

「そうだなあ。フーサは戦闘が好きにはならないだろうから、護身用でいいと思うよ。【クイックドロー】なんてどうだい?」

「検索するか。アーサとフーサもだ」

「了解っ」

「はい」


 【クイックドロー】・アクティブ。目にも留まらぬ早撃ち。装備している拳銃で、危険度の高い敵を自動的に撃つ。


「凄えな。最上スキルはパッシブの【自動迎撃】か。いいスキルツリーだな」

「あたしが取ろうかと思ってたスキルだからね。どうだい、フーサ?」

「はい。これを取れば、銃の事がわかるんですよね?」

「ああ、そうなるね」

「なら取ります。えっと、こうかなっ」


 フーサが網膜ディスプレイを操作するのを、アーサが嬉しそうに見守っている。


「嬉しそうじゃんか、アーサ」

「うん。【自動迎撃】って、ぼんやりしてるフーサにはちょうどいいかなーって」

「失礼な。ぼんやりなんてしてません。えっと、取りました」

「この銃を見てみるといい。撃ち方とか、わかるか?」


 コルトをテーブルに置く。

 水拭きされた後のようで、ホコリが手に付いたりはしなかった。


「あっ、わかります。安全装置とかも」

「なら安心だ。これからは、この間の拳銃を常に装備しとくといい。レベルと一緒に筋力も上ってるから、それくらいは大丈夫だろう」

「ホルスターを装備してあげるよ。銃を出して」

「ミツカ姉ちゃん、アーサもっ!」

「はいはい」


 カチューシャ商店で買った戦闘服の上に、ミツカがホルスターを装備させる。

 どちらも右の腰だ。

 中学生がコスプレしているようで微笑ましいが、これでいつでも2人は銃を抜ける。

 ギルドが動き出せば荒っぽい冒険者を相手に仕事をする事もあるので、少しは安心できるだろう。


「ゴハン出来たよー」



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