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缶詰工場




 缶詰工場跡は、コンクリート製のありふれた建物だった。

 ドアもあるが大きなシャッターの搬入口があり、その一部が破れて暗い建物内が少しだけ見える。


(絶好の隠れ家じゃねえか)

(いかにも、って感じですねえ・・・)

(爆破しちゃう?)

(空母のフォークリフトは3台しかねえからな。ここにフォークリフトがあって修理可能ならニーニャが直すから、いきなり爆破はダメだ)

(そっかー)


 ウイが先頭の逆三角形で、そろりそろりと搬入口に向かう。


(臭いはなし。マーカーもなしか)

(罠もありません。ヘルメットライト、点灯)

(おおっ、便利だねえ)

(ニーニャが上位パワードスーツに変えたら、今のが余るはずだ。ミイネは今、スキルポイント3あるか?)


 ミイネが視線だけを動かす。

 網膜ディスプレイを操作する職業持ちは、ハタから見ると不思議な動きをしているようにしか見えない。アーサとフーサの両親が長男ばかりかわいがるらしいのは、その影響もあるのか。


(1しかない・・・)

(なら今回の探索で、2レベルは上げてしまいましょう)

(じゃあ、ニーニャはスキル取っちゃうね。ミイネお姉ちゃん、パワードスーツは何色がいいのー?

(え。えーっと、目立たない色がいいな)

(なら、砂漠迷彩だねっ)


 闇から影。

 ウイを突き飛ばし、その影をぶん殴った。


「キャウンッ」

「【パラライズマガジン】!」


 サブマシンガンを指切りで撃つ。

 3発では削り切れず、5発目でHPバーが砕けた。


(ヘルハウンド、HPは300、経験値が50か。トロッグ兵よりは楽かな)

(ですが、ついに隠密系のスキルを持つクリーチャーが出ました。【初級隠密看破】、取得しますね)

(ごめんよ、何も出来なかった・・・)


 カーキ色のヘルメットの上から、ミイネの頭を撫でる。

 ミイネが感じている自らの不甲斐なさは、運び屋とルーデルが出る戦闘でいつも俺が感じているものと同じだ。それでも俺は強くなって2人の手助けが出来るようになりたいと思ったし、ミイネもそう思って無茶をせずに努力してくれたら嬉しい。


(所得しました。これでナビは出来ますが、数が多いと不安ですね)

(ないよりはずっとマシだ。ここからはコルトをメインで使う。ミイネ、この銃には、敵を吹っ飛ばす固有効果がある。追撃で、アサルトライフルの扱いに慣れておけ)

(わかったよ、頑張ってみる)


 ヘルハウンドを回収したウイが、改めてシャッターの向こうを覗き込む。

 その左後ろでコルトを構えながら、いつどこからヘルハウンドが飛びかかって来ても撃てる心構えをする。

 これまでのマーカー頼りの索敵ではダメだ。そう思うだけで、肌が粟立つほどに緊張感が高まった。


(クリア。探索をお願いします。私はシャッターと奥のドアを見張りますので)

(了解。ミイネ、ウイの護衛を頼むぞ)

(う、うん)


 まずは思った通りにあったフォークリフトをライトで照らす。

 映像はニーニャも見ているので、修理可能ならそう言うだろう。


(やった。2台もある。どっちも直せそうだよっ)

(なら後で、ウイに回収してもらう)


 ありそうなダンボール箱なんかは見当たらない。

 ニーニャの姉が回収したのかとも思ったが、隅のガイコツの横に32口径のリボルバーが落ちていた。

 それを取って、段差になっているドアのある方に上がり、ドアとは反対側の戸棚に向かう。


(工具に、超エネルギーバッテリーか。全部いただきだな)


 超エネルギーバッテリーは、地味に貴重なアイテムだったりする。それが3つなら、悪くない稼ぎになるだろう。


(ウイ、代わるぞ。フォークリフトを回収してくれ)

(はい。ニーニャちゃん、元がなんだかわからない鉄クズもあるけど使う?)

(もっちろんっ!)

(では、回収してしまいますね)


 コルトをドアに向けながら、シャッターも視界に入れる。

 ミイネもすぐに気がついて、アサルトライフルをシャッターの方向に向けた。


(ありがとな)

(ううん。役に立てるかわからないけど、やれる事はやるさ)

(ふふっ。まるで運び屋さんとルーデルさんといる時の、ヒヤマみたいですね)

(ミイネくらいかわいげがありゃ、2人も楽しいんだろうけどな)


 回収を終えたのを確認して、言いながらドアに近づく。

 隠密状態のヘルハウンドが待ち受けているかもしれない。ドアを開けるのは、もちろん俺だ。

 蹴り開ける。

 加工場らしき広い部屋に飛び込んだが、予想していたヘルハウンドの攻撃はなかった。


(クリア。油断せずに確認してくれ、ウイ)

(了解。マーカー、なし。罠もありませんね)

(いるとすりゃ外か。ドアを閉めて施錠してくれ、ミイネ。それからドルフィン号は、ハッチも開けるなよ。相手は隠密持ちだ)

(わかってるさ)

(ドア、閉めたよ)

(よし、ウイは根こそぎかっさらえ。俺とミイネは、ウイの護衛だ)


 雨風に晒されていないからか、機械にあまり錆は見当たらない。これならニーニャが、何かに使うだろう。

 30分で加工場には、ネジの1本もなくなった。


(ドアが2つ。倉庫と事務所かな)

(ここの機械類の状態から察するに、どちらも期待できますね)

(そうだな。ミイネは右利きだっけ?)

(左利きだよ。なんで?)

(なら左から行くか)


 相変わらずマーカーはないが、少しだけドアを開けてコルトとサブマシンガンを構えてから蹴る。


(広い事務所だなあ)

(ヘルハウンドはいません。私は電化製品から回収しますね)

(俺は見張りかな。窓は割れてねえが、用心はした方がいい)

(僕は?)

(机の中の物を、出して行って下さい。使えそうなら回収します。ギルドでも、書類仕事はありますからね)


 入ってすぐに小さなキッチンがあり、コーヒーを淹れたり出来るようになっている。

 机は10以上あって、回収にはそれなりの時間がかかりそうだ。


(ミツカ、そっちは?)

(問題ないよ。ニーニャちゃんとヒナはリビングで対物ライフルをイジってるし、アーサとフーサはコックピットで網膜ディスプレイに釘付けだ)

(そうか。アーサ、フーサ、見てて楽しいか?)

(うんっ。初めて見る物ばかりだから)

(アーサはいつか遺跡を探しに行ってみたいって言ってるから、今から勉強しておかないと)


 活発なアーサだから探索に興味があるだろうとは思っていたが、フーサも一緒に行くつもりなのには驚いた。


(2人は冒険者になるのか?)

(まっさかー。ギルドがくれるお休みの日に、遊びで遺跡に行くのっ)

(危ないからやめようって言ってるんですけど、聞いてくれなくて・・・)

(行く前に、運び屋に相談してからにしろよ?)

(うんっ)

(わかりました)


 これでいい。子供に甘い運び屋なら、尾行をしてでも2人を守るだろう。運び屋が、2人だけで空母を出ても安全だと判断するまでだ。


(終わりましたよ)

(了解。3つあるドアを開けよう。まあ、2つは思いっきりトイレって書いてあるけどな。ミイネは窓を見張ってくれ)

(わかった)


 トイレではないドアを開ける。


(更衣室ですね。なぜ1つしかないんでしょう)

(男は違う方のドアの先か、加工場で着替えるんだろ。窓はないから、回収は任せる)

(はい)

(ヘルハウンドだ! 群れでそっちに向かってるよ!)

(よく見ててくれた、ミツカ。加工場で迎え撃つぞ)


 事務所を出てすぐに、ウイがハンキーを出す。

 急いで乗り込もうとすると、ミイネがドアに駈け出した。


(ミイネっ!?)

(爆発物を仕掛けるっ。10秒でやるよ!)

(護衛は任せろ。ウイはガトリングガンの準備)


 銃を構えて、ドアの前で待つ。

 ミイネは熟練の職人のような動きで、すぐに爆発物をセットし終えた。

 ドォン。

 トアが音を立てる。

 隠密系スキルを持っていても、獣は獣。隠密が解けるのもお構いなしに、ヘルハウンドはドアに体当たりをしているようだ。


(終わったよ!)

(ハンキーに乗り込め)

(了解っ!)


 ハンキーに走り、ミイネから乗り込む。


(ヒヤマ?)

(ドアが頑丈なんでな。ノブを狙撃する。ミイネ、運転席で爆破タイミングを計れ)

(ここだね。よく見えるよ)

(起爆装置の準備は?)

(僕の職業を、なんだと思ってるんだい。いつでも思うだけで、好きなように爆破できるさ)

(おっかねえ職業だ。3秒後に狙撃)

(了解っ!)


 すでにスナイパーライフルは出して構えている。

 3、2、1、心の中で数え、トリガーを引いた。

 すぐにハッチに潜り込む。

 施錠してミイネのいる運転席を見ると、轟音が響いてハンキーが揺れた。

 パッパラー。


(派手に仕掛けたなあ。生き残りは?)

(いないようです。経験値から逆算すると13匹、爆破だけで倒してしまったようですね)

(おっそろしいな。ミイネ、頼むから敵には回ってくれるなよ?)

(当たり前さ。ふう、やっぱり爆破は気持ちいいなあ・・・)


 うっとりしたミイネの声を聞きながらハンキーを降りる。

 加工場には火薬の臭いが満ちているが、火災が発生してはいないようだ。それもミイネのスキルの効果なら、ボマーとはやはり恐るべき職業だという事になる。


(ヒ、ヒヤマさん。レベル12になっちゃったけど、いいのかな・・・)

(たった数時間でこんな・・・)

(おめでとう。スキルポイントは、【嘘看破】と【犯罪者察知】をどちらかが取得して、残りは運び屋とルーデルにアドバイスを聞いてから使うといい。あんなでも、俺なんかよりずっと強いからな)

(そんなに凄い冒険者さんだったんですね)

(顔は怖いけど、優しいおっちゃんなのにね)


 ウイがハンキーを収納したので、事務所に戻る。

 女子トイレからお構いなしに開けると、個室が1つとその手前に洗面所があるだけのトイレだった。


(水は流れねえな)

(ドルフィン号にトイレがあるんですから、使えなくても構いませんよ。更衣室のアイテムを回収しますね)

(頼む。男子トイレも個室って、こりゃ何だ。注射器?)


 男子トイレの洗面所に、3つの注射器が置いてある。フィルムは剥がされていないようで、食料品と同じなら問題なく使えそうだ。


(あー。お兄ちゃん、それ『モルフェリン』だよ。興奮剤。中毒になるから、使わないでね)

(職業持ちしかいなかった世界に、麻薬があったのかよ)

(中毒にはなるけど死ぬ訳じゃないし、病気の人なんかが使ってたんだって)

(なら回収しとくか。うちには年寄りも多いし)

(縁起でもない事を言わないで下さい。更衣室は終わりました。あちらのドアに期待ですね)

(十中八九は倉庫だ。行こうぜ)


 加工場にあるもう1つのドアは、思った通り倉庫だった。

 窓はないので、気楽に回収する。

 俺は1人で男子更衣室と大きな男子トイレの探索だ。


(こ、これが全部、缶詰だって・・・)

(ええ。オイルサーディンにカニ缶。エビや牡蠣もありますね。料理が楽しみです)

(男子トイレはなんもなし。更衣室は、タバコやらエロ本やらだな。おうおう、変態さんもいらっしゃったようで)


 エロ本はずいぶんと過激で嗜好が偏った物が多い。


(ヒヤマ、ニーニャちゃんにアーサとフーサも見てるんですよ!)


 マズイ!

 これはどう考えても、子供に見せていい物ではない。


(口に、あんな・・・)

(男の人って・・・)

(お兄ちゃんに、縛られる・・・)



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