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ギャング




 もうこれ以上の面倒事はないだろうと思いながらシティーを出ると、見た事のある強化外骨格パワードスーツが数十人のチンピラを蹴散らしていた。


「なにやってんだ、あのバカ」

「ホプちゃん、圧倒的だねっ!」

「ホプちゃん?」

「強化外骨格パワードスーツ・ホプリテス。だからホプちゃん!」

「なるほど。それにしても、動きが早いね。あれじゃ、吸着爆弾でも仕掛けるのは難しそう」

「ヒヤマ、連装グレネードランチャーは仕舞ってください。直すのはニーニャちゃんなんですよ?」

「チッ・・・」


 連装グレネードランチャーをアイテムボックスに入れる。狙撃で援護しようかとも思ったが、剣聖のために弾を消費するのは癪なのでやめた。

 ホプリテスはチンピラを踏み潰し、剣で突き、盾で押し潰して、外部スピーカーから高笑いを上げている。


「あれじゃ臭いが酷いな。ウイ、ハンキーを出して乗り込め。俺は屋根で、剣聖と少し話す」

「了解。さあ、乗って戦闘が終わるのを待ちましょう」


 俺が最後に屋根に乗ったと同時に、ホプリテスは暴れるのをやめてこちらを見た。

 右手を上げると、ホプリテスが手を振る。


(終わったようだね。進むよ?)

(頼む)


 ハンキーとホプリテス、どちらも進んだので、死体のだいぶ手前で話せるのがありがたい。


「よう。派手に暴れてたな」

「空母に移ろうって商人達を、拉致しようとしてたんだよ。ちょうど通りがかったから良かったが・・・」

「運び屋とルーデル、孤島の爺さんとエルビンさん、後はレニーか。全員で話してみよう」

「助かる。出来れば、市場に用心棒を置きてえんだ」

(剣聖の声は聞こえてたよな、俺は話しながらの狙撃になる。まずは運河でドルフィン号に乗り換えて、ミツカの操縦で缶詰工場跡へ。ウイ、ナビは頼むな)

(任せといて)

(ゆっくり話し合ってください。ギャングに隙を見せる訳にはいきませんので)


 たしかにそうだ。

 スラムから1000を空母に移したら、ギャングの利権は激減する。

 空母の街への入居がはじまれば、ギャングとの全面抗争もあり得るだろう。

 ハンキーが動き出すと、ホプリテスが並んで歩き出した。このまま空母に行くつもりなのだろうか。

 全員に無線を繋いだ。


(こちらヒヤマ。今、忙しくて話せない人間は返事をくれ)


 スナイパーライフルを出して、周囲を警戒しながら無線を飛ばす。

 スラムは崩れかけの建物が多い。どの屋根からでも、狙撃される可能性はある。


(いないか。今さっき、剣聖がギャングに拉致されようとしている商人を助けた。剣聖、詳細を頼む)


 ホプリテスが手を振り、大通りを右に折れる。


(剣聖だ。皆、お久しぶり。さっき探索帰りに馴染みのメシ屋に行こうとしたら、ギャングのチンピラが30ほど市場にいた。がなり立ててるんで話を聞くと、空母に引っ越すなら殺してやるって言っててな。見せしめだっつって商人を拉致しようとしたんで、皆殺しにしといた)

(レニーだ。ったく、ギャングってゴミは。広場の護衛をするしかねえだろ。剣聖は、今から市場だよな)

(そのつもりだ。明日は頼めるか、レニー?)

(当然だよ)

(こちらルーデル。花園の次は、俺とジュモが出るよ)

(運び屋だ。その次は任せてくれ)

(いやいや、2人ほどの冒険者が市場の護衛なんて! みんな貧乏で、金なんか出せねえから・・・)


 焦ったように剣聖は言うが、最後は哀しそうな声だった。商人に顔が利くらしいし、その苦しい暮らしを知っていて、空母に引っ越して少しでも暮らしが楽になればいいと思っているのかもしれない。


(気にすんじゃねえよ。ギルドってのは、そんなヤツラのためにこそ動く組織だ。なあ、死神)

(そうだな。それで夜はどうするんだ、剣聖?)


 ハンキーが河原で停車したので、屋根から飛び降りながら訊く。


(それなんだが、希望者だけでも空母で寝られねえかな?)

(エルビンです。今、ヨハン君がここにいましてね)

(なら、無線を繋ぎますよ)


 無線にヨハンを追加して、運河に浮かんだドルフィン号の屋根にジャンプで跳び乗る。

 少し揺れたが、すぐにドルフィン号は動き出した。


(ヨハンだ。話は聞いた。大浴場と共同トイレは問題なく使える。個室にはまだ手を付けていなかったけど、優先したいならこれからそっちをやるよ)


 いちいち名前を名乗って話すのも面倒だなと思っていると、無線のスキルツリーに【ブリーフィング無線】とかいうのがあったのを思い出した。

 検索してみると、無線をブリーフィングモードにすると参加者の顔が小さく網膜ディスプレイに映され、発言者の名前が光るとなっている。ついでに、参加者なら誰でも地図を全員に見せたりも出来るようだ。

 最上スキルは【司令部無線】・アクティブ。網膜ディスプレイに展開した部隊図を任意の大きさで表示しながら無線可能。無線に参加した部隊すべての攻撃力防御力大幅アップ。時間制限なし。

 迷わず伸ばす事に決め、まずは2ポイント使って【ブリーフィング無線】を取る。

 ブリーフィングモードに切り替えると、網膜ディスプレイの上下に小さく、全員の顔が表示された。


(黙ってると思ったら、まーた妙なスキルを・・・)

(最上スキルが凄いんだって)

(あれか。他人よりまずは、自分が死なねえようにしろっての)

(う、気をつけるよ)

(それで、希望者は空母に泊めるでいいんだな?)

(もちろん。つーか、もう引っ越ししてもいいと思うぞ。商人は街に人が揃うまで、スラムに通うしかねえんだし)

(じゃあ剣聖は、その線で商人達と話しておいてくれ。夕方には俺達が行って、引っ越しなり宿泊準備なりの護衛をする)


 ドルフィン号はまだ運河だ。戻ろうと思えば戻れる。

 初探索を楽しみにしてるアーサとフーサには悪いが、戻った方がいいかもしれない。


(俺達も戻ろうか?)

(いらねえよ。双子の嬢ちゃん達のレベリングも、立派なギルドの仕事だ。気にしねえで、しっかりやって来い)

(そっか。なら、そっちは頼む。戻り次第、市場の護衛に参加するからさ)

(それぞれの生活もあるが、ギャング風情から住民を守れなくて何が冒険者だ。今日から市場に、ギャングの1匹も入らせるんじゃねえぞ。解散)


 レニーの叫ぶような声を最後に無線が切れたので、ブリーフィングモードを解除しておく。


(サハギン発見。狙撃する)


 遠くにポツンと1匹だけで立っているサハギンを撃った。


(うぎゃあっ!)

(きゃっ)

(どうしたっ!?)


 今の声は、アーサとフーサだ。

 パーティーを組むのは今日が初めてらしいので、不測の事態でも起こったのだろうか。


(もしかして、レベルアップしたの?)

(そ、そうみたい。ビックリしたー)

(心臓が止まるかと思っちゃいました)

(レベル1だったのかよ。おめでとう)


 2人は明るくありがとうと言っているが、家畜を潰す稼業の家の職業持ちがレベル1は異常だ。

 タール爺さんと牧畜業を営むのではなく、ギルドの職員になるのを選んだのは、実家でずっと肩身の狭い思いをしてきたからか。


(おめでとう、アーサちゃん、フーサちゃん。今回は3ヶ所の遺跡を回るから、たくさんレベルアップしましょうね)

(うんっ)

(ありがとうございます)


 ウイも、考えた事は同じだったようだ。

 3レベルなんてケチな事は言わず、できるだけレベルアップしてもらう事にしよう。

 そう思いながら、都合よく2匹いる対岸のサハギンを連射で片付ける。


(わあっ、またレベルアップー!)

(凄いです・・・)

(見えるのはこれだけだが、遺跡に行けばもっといるだろ。どんどん行くぞ)

(そういえば、遺跡ではアーサちゃんとフーサちゃんはどうするんだい?)

(ドルフィン号で見学だな。缶詰工場跡なら、俺とウイとミイネで探索がいいだろ)

(ニーニャはお留守番かあ・・・)

(もし暇なら、リビングで対物ライフルをイジってくれたら嬉しい)

(うん。まっかせて!)

(ひなは?)


 考えてなかったと素直に言えば、ヒナは哀しそうに拗ねるだろう。


(ニーニャの助手だ。1人じゃニーニャがかわいそうだろ?)

(うん)

(あたしはいつでもドルフィン号を動かせるようにか)

(だな。運転手の辛いトコだ)

(すみません。アーサとフーサが弱いせいで・・・)

(誰だってはじめはそうだよ。ブロックタウンを出た日、あたしもヒヤマとウイにそうやって謝った。それがもう、今じゃレベル68。だから、焦らず行こう)

(はいっ)


 どうやらミツカは、2人のいいお姉さん役のようだ。

 どんな思いで生きてこようが、2人はまだ十代の半ば、俺の少し下でしかない。これから先の人生の方が長いだろう。

 レベルを上げて、職場が安定して、いつか好きな男も出来て嫁に行く。それまではギルドの職員なのだから、俺にとっては妹と同じだ。

 2人を口説く男をどうするべきか考えていると、ドルフィン号は海に出ていたようだ。


(ヒヤマ、もう屋根からは見えてるんじゃないか?)

(そうらしい。全員に映像を送る)


 運河を出て左。キマエラ族が最初に住んだ島の先に、そんなに大きくはない工場らしき建物が見える。海の近くなら、海産物系の缶詰工場だったのだろう。


(へえっ。小さな船着き場があるね。漁船用なら、ドルフィン号にはピッタリだ)

(だが妙だ。サハギンの1匹もいねえぞ)

(今左に見える砂浜は運び屋さんとルーデルさんが狩り尽くしたにしても、そのずっと先にもいないのはたしかに妙ですね)

(気は抜けねえな。ミイネ、いけるか?)

(もちろん。せっかく1時的にパーティーに参加させてもらったんだ。しっかり勉強させてもらわなきゃね)

(もう正式加入でいいのに。まったく)


 ウイは愚痴るが、ミイネは隠密を伸ばしてここまで来たらしい。戦闘スタイルがうちと合わないなら、ソロの方が気は楽だろう。

 工場の周囲をじっくり観察するが、クリーチャーの影すら見当たらない。

 スナイパーライフルをアイテムボックスに入れ、サブマシンガンとコルトの装填を確認。セーフティーを解除してホルスターに戻した。

 コンクリート製の船着場に跳ぶ。


「お願いします」


 ウイが投げたロープを引いてドルフィン号をたぐり寄せると、身軽にウイとミイネが跳び移って来た。


「お兄ちゃん、対物ライフル!」

「忘れてた。じゃあ頼む、ってニーニャ持てるか?」

「ひながはこぶ」


 ニーニャと並んでハッチから体を出したヒナは、片手で軽々と対物ライフルを掴んで引っ込んだ。


「気をつけてねえー!」

「おう。相棒を頼むな」


 ロープをニーニャが回収したので、ドルフィン号はゆっくりと少しだけ離れる。

 アンカーをレッコするのを確認してから、サブマシンガンを抜いた。


「行こう。気は抜くなよ」

「はい。先行します」

「頑張る!」



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