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ヒヤマ、絡まれる




「スッゴーイ!」

「人が、こんなにたくさん・・・」

「都会は凄いなあ」

「ヒヤマ、ちょっと寄り道していい?」

「いいぞ。時間はたっぷりある」

「こっちよ。有名なアクセサリーショップがあるの」


 タリエがシティーに来た事のない3人を導く。

 アクセサリーなら全員にプレゼントしようかとアイテムボックスの中身を見たが、硬貨はわずか283枚しかなかった。


(ヒヤマ、1万枚をそちらのアイテムボックスに入れました。これだけあれば、全員分を買えるでしょう)

(ありがてえ。どうしようかと思ってたんだ)

(まあ、私も買いますけどね)

(好きなのを買え。値段は気にしなくていい)


 個別無線を切って、アイテムボックスを確かめる。

 10283枚。気が大きくなって、誰かれ構わず酒を奢ってしまいそうな金額だ。買い物が終わったら、ウイに返そうと思う。


「ここよ。腕の良い職人がやってるの」

「わあ・・・」

「全員、好きなのを選べ。俺がプレゼントするぞ」

「お兄ちゃん、ニーニャ達も!?」

「当たり前だろう。遠慮せずに、好きなのを選ぶといい」

「やったー! 行こっ、ヒナお姉ちゃん」

「1番高いのから見ようか、ウイ」

「またミツカはそんな。タリエさん、ミイネ達にアドバイスをしてあげてもらえますか?」

「ええ、いいわよ」


 アクセサリー屋の向かいは、ドアのないカウンターとスツールだけの、喫茶店かバーのようだ。

 移動してスツールに腰掛けると、すぐに若い女がメニューを渡してくる。


「ドングリ茶を」


 言いながら右手に硬貨を2枚出し、カウンターに置く。

 煙草に火を点けると、ブリキのカップが俺の前に置かれた。


「なんだ、あの装備は・・・」


 そんな声のした方を見ると、スーツをきっちりと着て髪をテカらせる若い男が、皮の服を着て武装した連中を連れて俺を見ていた。


「おい、そこのガキ。テメエは冒険者か?」


 ドングリ茶を飲む。

 苦いだけではない複雑で淡い味が、舌を包んで喉に下りていった。


「おい、テメエ、ぎゃあっ!」


 男の手がパワードスーツに辿り着く前に、その拳を握って止める。手加減したので破裂はしていないが、骨の砕ける手応えはあった。


「そこの冒険者、悪いが警備を呼んでくれねえか? スリか強盗かはわからんが、犯罪者を捕まえた」

「・・・俺達は冒険者じゃない。その拳を砕かれてわめいている男の護衛さ」

「なら、俺と殺り合うかい?」

「勘弁してくれ。その若さでその装備、どう見たって職業持ちの冒険者だ。それをガキ呼ばわりして勝手に触れようとした雇い主なんて、助けるはずがないさ」

「そうか。痛みで暴れて、俺に攻撃判定が来てる。赤マーカーんなってるから、このまま殺していいか?」

「お待ちください、ヒヤマ様!」


 いつの間にか出来ていた人垣をかき分けてきたのは、ジャスティスマンの美人秘書だった。警備ロボットも3体いる。


「よう、秘書さん。アンタが連れて行くかい?」

「そうさせてください。決して、ご迷惑はかけません」

「ほう。このバカが逆恨みして、俺の身内に迷惑をかける事はねえってのか?」

「誓約スキルがあります。逆恨みから行動を起こすだけでなく犯行を指示をしただけで、その男は死ぬようにしてからシティーを出します。どうかここは、ジャスティスマンの顔を立てると思って」

「そこまで言われちゃな。ほらよ」


 ずっと砕けた拳を握っていたので、折れた骨で皮膚が破れている。血を垂らしながら男は、警備ロボットの足元にうずくまった。


「殺しちゃマズイほどの重要人物かい?」

「父親が、少し離れた街の長です」


 人垣の真ん中で人目も憚らずすすり泣く男は、金持ちのバカ息子というのがピッタリだ。身だしなみ、その言葉以上に髪型にこだわる男は、日本にいた頃から好きにはなれない。


「へえ。街1つなら、その日のうちに灰に出来る。必要ならいつでも言ってくれ」

「ヒヤマ様は、物流の大切さを知っていると聞いております」

「相手がマトモならさ。こんなクズなら、いない方がマシだ」

「そうですね。ですが、弟は出来がいいそうです。今回の件で、長に後継者を変えさせる事は可能でしょう」

「俺は、いい仕事をしたって訳か」

「監視カメラを見ながら、2人で苦笑しましたよ。今回のお礼は、近いうちに必ず」

「気にしないでくれ。街を騒がせて悪かったよ」

「とんでもない。では、失礼いたします」


 すっかり冷めてしまったドングリ茶を飲み干し、硬貨を100枚カウンターに出して席を立つ。


「あ、あの、これは・・・」

「迷惑料だ。血も見せちまったし、怖かっただろう。ゴメンな?」

「い、いえそんな、お金はいいので、あっ・・・」


 やりとりが面倒なので、アクセサリー屋に向かう。

 残っていた野次馬の1人と目が合うと、その男は怯えたように後ずさった。


「失礼な、バケモノじゃねえっての。おーい、決まったか?」

「一般人からすれば、ヒヤマだって立派な人外ですよ。後は会計だけです」

「あいよ。お姉さん、いくらだい?」

「2075枚なんですが・・・」

「硬貨2075枚、取り出し。数えてくれ」


 突然山になって現れた硬貨を見て、従業員の動きが止まる。


「失礼しました。すぐに」

「何にしたんだ?」

「それが、全員指輪ですよ」

「なんとまあ。結婚指輪の資金が浮いたな」

「それはそれ、これはこれです」


 言いながらウイは、左手の薬指に光る指輪を撫でている。

 タリエ以外はお互いの指輪を見せ合ったりしながら、嬉しそうに笑っていた。


「それにしても、フロートヴィレッジのバカ息子に誓約スキルを使えるなんて、ジャスティスマンは喜んでいるでしょうね」

「フロートヴィレッジの人間だったのか。後でジャスティスマンに、空母で魚の養殖を考えてるって言っといてくれ」

「魚はフロートヴィレッジ唯一の輸出品。ジャスティスマンがカードを切ったら、長は震え上がるわね」

「躾もしねえで、ガキを甘やかすからだ」


 会計を終えると、タリエはここでいいからと帰っていった。

 昼メシにも早いのでどうしようかと話し合っていると、ミイネが有名な武器屋を見たいと遠慮がちに言う。ならばと歩き出し、すぐにカチューシャ商店に着いた。


「たっだいまーっ!」

「ええっ、ニーニャちゃんは・・・」

「店主の娘だ。って、思いっきり取り込み中じゃねえかよ」


 店の真ん中で、孤島の爺さんと中年の双子が抱き合って泣いている。

 肉屋のマルタさんの方は、大声を上げて男泣きだ。


「おや、ミイネと双子の武器を見に来たのかい?」

「婆さん。そのつもりだったが、出直そうか?」

「気にするんじゃないよ。ほら、好きなのを見ておくれ。お代はヒヤマから取るから、値段は気にしないでいいよ」

「いやまあ、そのつもりだが、なんで婆さんが言うんだよ。ミイネにウイ、アーサとフーサにミツカが付いて、必要な装備を見繕ってくれ。双眼鏡に水筒、思いつく装備はそれなりにあるだろ」

「ニーニャはヒナお姉ちゃんを、お母さんに紹介してきていい?」

「おう、行って来い」


 店の隅には灰皿がある。そこに移動すると婆さんも着いて来て、俺の箱から1本取った。

 ライターの火を分け合い、一緒に煙を吐く。


「昨日は空母だったんだよな。楽しんだかい?」

「年寄りをからかうんじゃないよ。クモの巣を取っ払ったんで、少し腰が痛いね」

「ぶはっ。危なく想像しかけたじゃねえか・・・」

「ふふん。うなされて、寝不足になるといいさね」


 それじゃ足りなくて、インポになっちまいそうだ。そう思っていると、婆さんに睨まれた。


「そうだ。連装グレネードランチャー、俺に使えそうなのはねえかな?」

「あるよ。要求筋力100。なかなかの威力さね」

「1つくれ。弾は300。それと、要求値が1番低いのも1つと弾を300」

「1つはミイネにかい?」

「ああ。ボマーなら、グレネードランチャーに補正がかかるかもしんねえ」

「待ってな。すぐに持ってくる」


 短くなったタバコで、次のタバコに火を点ける。

 女達は楽しそうに、店内を見て回っているようだ。女とはいつでもつるみたがるくせに、人より一歩先を歩きたがる生き物だと思っていたが、ウイ達にはそれがない。それは俺にとって、何よりもありがたい事だ。


 婆さんがぶら下げてきたのは、運び屋の使っていた物とは少し違う連装グレネードランチャーだ。

 大きい方から受け取り、構えてみる。


「重いが、走れねえほどじゃねえな」

「600でいいよ。こっちは300」


 小さい方は、片手で楽に振り回せる重さだ。これなら、小柄なミイネでも使いやすいだろう。


「いいね。どっちも買うよ」

「買い物も終わりのようだ。カウンターまで運んでおくれ」

「腰が痛えんだもんな」

「そうじゃなくても、年寄りは労るもんさね」

「夜通し頑張れるほど元気なくせに、痛えって。蹴るなよ」

「黙って運ばないとぼったくるよ?」

「そりゃ勘弁。全員、買い忘れはねえか?」


 全員が返事をすると、ニーニャとヒナが2階から下りてきた。


「ニーニャ、ヒナ、なにか欲しい武器とかねえのか?」

「ない」

「ニーニャもっ」

「了解。いくらだい、婆さん?」

「あー、しめて2129枚。2000でいいよ。大の大人がいつまで抱き合って泣いてるんだい、グレネードの弾を300ずつ持ってきな。要求筋力値100と30のだ!」


 怒鳴られてはじめて俺達に気づいたらしい3人が離れる。

 イワンさんが頭を掻きながら、弾を取りに行った。


「こっちの連装グレネードランチャーは、ミイネのな」

「そんなっ。もう充分・・・」

「いいからアイテムボックスに入れなさい。武器は多いほどいいの。アイテムボックスを圧迫しない程度には、揃えてないとダメよ」

「はあ、わかったよ・・・」


 支払いを済ませて外に出ると、バカ息子の護衛の1人がカチューシャ商店に入ろうとしてるところだった。


「お、さっきは悪かったな。失業する事になってねえか?」

「アンタか。いや、この街の責任者から追加報酬が出て、バカ息子をフロートヴィレッジまで護送する事になった。だから俺達は、得してるんだよ」

「そりゃ良かった。婆さん、婆さんー!」

「なんだい、うるっさいねえ」

「客だ。俺がさっき迷惑かけたんで、値引きしてやってくれ」

「お、おい、いいよそんなの・・・」

「他の連中は女を買いに行ったのに、アンタは武器を買いに来たんだろ?」


 そう言うと、男は苦笑して頷いた。

 無精ヒゲの似合う色男なので、剣聖には出会わなければいいが。


「マジメな男は得をしていいんだ。川に浮かんだ船、見たか?」

「ああ、大きさに驚いたよ」

「あれを街にして、冒険者がもっと死なないで済むようにする組織を置く。犯罪をしないと誓えるなら、いつか顔を出すといい」

「俺も犯罪者は嫌いだ。覚えておくよ」

「そうか、気が合うな。じゃあ、いい宝を」

「そっちこそ、いい宝を抱いてくれ」



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